ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which drew a blue ribbon.

Mission16

ウィスキー回廊の戦車戦

 サンサルバシオンは解放された。しかし、これで戦争が終わった訳ではない。
 次は追撃戦になる。僕等が侵略する側になると言うことだ。
 物憂げにメビウス1が北を眺めているのは、きっとそう言う理由だと思っていた。
『あっちに砂漠があるんだ。あの日……僕のチームが練習飛行していたのは』
 今度戦場になる場所で彼の仲間は、未だに空を彷徨っている。
 そう言えばあそこには……クレーターが一個あるんだっけ。

 で、進軍までの一ヶ月はといいますと……。
「おー。整備の手伝いたどういう風の吹き回しよ?」
 メビウスが自ら整備士さんにこき使われる姿があったりする。
「なんだか最近仲良いですよねあの二人」
「うーん。身内の恩人ってのもあるしなぁー」
 彼女の性格を考えるとメビウス自身の功績は除外した方が良さそうだ。
 いやまて、これらはあくまで整備士さんがメビウスに甘くなる用件であって……。
「……メビウスから寄ってくる理由て……なんだろ?」
「さ、さあ?」
 いつの間にやらって感じだよな。
「それにしても何であの人なんでぐへっ!!」
 余計な事が筒抜けになったのか、オメガ13を直撃したスパナの発射点に恐る恐る振り向くと……。
「……おちついて」
「お〜ま〜え〜ら〜な〜」
 メビウスに羽交い締めで抑えられている整備士さんの姿があった。
 いや本当にあなた達いつの間にそう言う間柄になったんですかい?

 さて、古強者と言うのがいる。ISAFで僕等にもっとも身近なのはリハビリを兼ねて(半ば無理矢理らしいが)AWACSに搭乗。スカイアイとしてナビを担当しているかつてのエースゼロ1。
 そしてもう一人……当時の彼と組んでいたと言ってもいい古強者がいる。
 作戦部の司令官だ。
 何かと士気向上の宣伝が上手い人で、兵士達に実力以上の戦果を上げさせたことも少なくないとか。
 もっとも立案に関しては結構無茶なところもあるらしく副官が結構苦労しているとの噂。
 ゼロ1の功績のおかげか、航空部隊に絶大な信頼を置いてくれるのだけど……そのお陰で結構無茶もさせられてます。
 40%とか、40%とか、40%とか……。
「そりゃあ完全に通訳の私怨じゃねーか」
 イーグル1勝手に心読まんでくらはい。
 余談はさておき、歴戦の強者達が多くいた。
 にもかかわらずエルジア軍とストーンヘンジによってミリタリーバランスは向こう側に傾いていたのだ。
 ひっくり返せたのにはメビウスの実力もある。そしてもう一つ……エルジア軍が戦域の拡大に追いつけなかった事だ。
 防衛網が薄くなるその合間の時期に、エースの一人も育ってしまったのは当然の事だっただろう。
 そして今、そのエルジア軍の戦域が極端に狭くなっている。
 まかりなりとも大国。その抵抗が熾烈なのは用意に想像できるのだけど……。

「奇跡的な成果って、俺ら神様じゃねーぞ……」
『……もう慣れた』
 一度は空の神様に見込まれたとさえ思っていた男も、無理難題には閉口気味らしい。
 実際には大げさに言ってくれているだけらしいが、でもやっぱりなあ。
「戦場に神様なんていやしない。いるのは死にものぐるいで生きようとする人間だけよ」
「クレーター近辺から片づける」
 それだけ言うと、メビウスの機が加速していく。
 作戦範囲は広く、僕等もそれぞれバラバラの方向へ散っていく。
「もう手当たり次第吹き飛ばす勢いで行きますか」
 とは言っても、まだ僕とオメガ13は不安なので、距離こそとりつつ援護できそうな範囲に止めておく。

 だだっ広いとはいえ、それぞれがそれぞれ良くやっていた。
 熱で向こうのコンピュータがやられたらしく、相手側の通信がダダ漏れになっていたことも大きい。
 ……約一名が偉い張り切る原因もそれである。
「あらー。大歓声に迎えてもらっちゃってまあ」
「メビウスさん大人気ですねえ……」
「腕が立つ上に良いとこかっさらってるしね……」
「俺はどうでもいいわけね……と、イーグル1投下っと!」
 とにかく凄かった。
 彼が上にいる。それだけで味方の士気が上がり敵はその逆。
 熾烈な消耗戦にも関わらず、ISAF軍の進軍が止まる気配も無い。
 すぐ下で地雷の炸裂する音、戦車が被弾する音、嫌と言うほど鳴り響いていると言うのにだ。
「タンゴ3炎上!だれか脱出者を見たか?」
『……っ!』
 またどこかに被害が出た。
 彼の舌打ちを聞くのは、これで何度目だろうか。
「先輩、敵の後方支援を叩きましょう!」
「了解!!」
 通常ミサイルでSAMを薙ぎ払いぶら下げていた爆弾を敵陣地に投下する。
「敵の防衛線が崩れ始めている。航空支援を継続せよ」
 問題はなかった。
「うわっ!」
 その瞬間までは。

「どうした、オメガ13!?」
 何かでかい一撃を貰ったらしい。最後の陣地に爆弾を投下して彼の元へ急ぐ。
 こんな時に限って、他の面々は遙か彼方だ。
「あはは……羽やられたっぽ……あー方向転換……ちょっと無理か……」
 遠目に解るほど、翼に大きなダメージを負ったオメガ13がいた。
 そのバックにつけていた敵機に機銃をお見舞いしてやる。
「ノイズが酷い……電気系統もやられてるんじゃないのか!?」
 距離を積めていくに従って少しずつクリアになるノイズ。
 でも、それもどんどん酷くなっていく。
「無茶だ。早く脱出しないと。今なら進軍中の友軍に拾って貰える!」
 そんなことしてる間にも敵機はうようよと……悪いことに進行方向は敵陣のど真ん中。
「すいませ……脱出レ……効か……」
 通信系統にもダメージが入っている。脱出レバーが効かないとなると……。
「おい!お前ら何やってんだ!!」
 後方の敵機はイーグルと落としてくれていた。
 殆ど片づいたらしく、レイ4も急行している。
 でも、肝心のオメガ13を、あの機体から無事に脱出させる妙案が僕には思いつかない。
「エアブレーキ、失速しない程度、速度落とせ!」
 途切れ途切れの公用語……メビウスも来てくれた。
「空……だか……覚……して……けど」
 援護は出来ても、最後は本人が何とかするしかないのかよ……。
「トーテム1!進行方向の敵陣殲滅する!!」
「え……」
「急げ!!」
 全速力で飛ぶメビウス。慌ててそれを追いかける。
『どうすんのさ一体!?』
『この先は砂の山がいくつもある。いざとなったら敵陣のテント、破片、全部クッションにする!!』
……僕のチームが練習飛行していたのは……
「……了解!!」
 墜落しても、死なずに済む可能性、だからアクロバット飛行の練習に。
 彼なら、それを知ってる!
 オメガ13の驚異になるだろう対空砲火、敵戦闘機、敵陣地、殆ど蹴散らしながら進む。
 だが機首もどうにもならなかったのかもしれない。
 速度を上げた彼は、そのまま速度を上げて砂山の一つ……敵陣のすぐ近くに突っ込んだ。
 火の手は……上がらない。
 そのかわりもう通信機能が完全に死んだらしく連絡も取れない。
 あとは……友軍が来るまで……。
「通訳上昇しろ!!」
 イーグルの声。反射的に急上昇する。すぐ横を……ミサイルが横切った。
「何、この当たりのSAMは……!!」
「バカ!スティンガーだ!!」
「げぇっ!?」
 ランチャー担いだ敵兵が数人……いくら何でも僕には分が悪すぎる。
 ここからではオメガ13の様子も確認できない。
『退避……する』
 僕はどうにも出来ない。
 どうにか出来る可能性のあったメビウスさえ苦虫を潰したような声でそう言った。
「大丈夫だ……エルジアも、捕虜虐待するほどバカじゃないはずだ……きっと……」
 脳裏に、あの13の文字が揺らめく。
 彼と同じ13番。胸に下げたガラスの蓋を無意識のうちに握りしめていた。
 彼の好敵手の友人なんです。
 どうか守ってやってくださいと。

 砂地には上手く入ったらしく……爆発とかそう言う報告はいっさい無く、戦闘機がそのまま発見されたと言う。
 空のコックピットには血の跡があったと言うが、幸い失血死にはほど遠い量しか無かったと言う。
 絶えず風にながれる砂は、その後の足跡をすっかり消してしまっていた。

『大丈夫……きっと生きていれば、ファーバンティで会える』
「うん……大丈夫……だよね」

 脳裏を、あの13の文字が過ぎった。

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