ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which drew a blue ribbon.

Mission15

解放

 僕等がミサイルを撃ち落としたことで北部からの進軍は成功した。
 彼等は無事本隊と合流。既にレジスタンス達と連絡が取れる距離まで来ていた。

「いよいよ……だね」
 出撃を前に、もう胸が高鳴っている。
 サンサルバシオン。永世中立を謳った都市。開戦とほぼ同時に占領下に置かれた町。
 平和の象徴と言っても良かった街。そこが戦火にさらされる事への、複雑な思い。
 ここを解放すれば、勢力図は開戦直前に戻る。軍の士気は依然として高い。
 イーグル1が元気なのは相変わらずとして、オメガ13も市街戦と言うことに戸惑いながらも十分やる気。
 レイ4も、レイピア12の指輪を眺めながら、静かに決意を固めている。
 そしてメビウス1はというと……。
『もうそんな時期か』
「?」
『あそこで、ユージア最大のアクロバット大会が開かれてたのは』
 とまあ、士気の高さは凄まじい物があります今回。
 飲まれかけていた僕とは別な意味で、それに馴染めていない人を発見した。
 それは、あまりにも意外な人だった。
「どうしたんですか、ゼロ1?」
「いや、市街戦にゃろくな思い出がなくてよ。俺が黄色に落とされたのもこの近辺だった」
 彼がこの街の上空で、黄色中隊に撃墜されたと言うことは知っている。
 おそらく彼等は来るだろうと言った。
「いいか、市街地に落ちてくれるな。敵さんに馬鹿野郎言われるのは一人でいい」
 そんな話に聞き入っていると……。
「ったく、あの野郎とは俺様直々に決着つけてやりたかったってのに、メビウスに先越されちまったなーはっはっはっは!!」
 何となく無理矢理な笑みではあったが、察することは出来た。
 ああ、自分に馬鹿野郎と言った相手に、この人は最大限の敬意を払っているのだなと。

 夜間飛行。平和だったころ、空に星が、地に街灯が煌めいて綺麗だったと先輩が言っていた。
 だが、戦時ともなれば灯火管制が敷かれ、戦火と戦闘機のエンジンの炎がそれに取って代わる。
 ……そのはずだった。
「たった今、灯火管制がレジスタンスによって解除された。作戦開始」
 街の明かりが一斉に煌めく。
「ひゃー。すげえなオイ。雪明かりも風情があるけど、人工のイルミネーションもまた格別だな」
「女性を口説き落とすには絶好のロケーションだそうよ?」
「口説きたくなるような女がいないのが難点だ……っと、敵さん発見」
 もっとも、それに見とれている場合ではない。
「旧市街、新市街、ならびに空港の敵を掃討せよ」
 僕等が、このイルミネーションを、戦火と入れ替えねばならないのだから。

 イーグルとレイ4は新市街へ、僕等は旧市街へ飛ぶ。
「メビウス!地上に無駄撃ちすんじゃねえぞ」
「トーテム1戦車撃破。地上兵器は任せて!!」
 空に驚異をメビウスに任せれば、僕等の仕事も楽になる。
 必要以上に戦火で機体を照らす必要も無くなる。
 東の方、灯火管制が解かれた中延びる黒い帯に時折爆炎が上がる。地雷原か……地上部隊は、それこそ死にものぐるいだろう。
 さっさと終わらせてしまいたいもんだね。
「オメガ13FOX2!!先輩!黄色中隊です!!」
 バックミラーに、炎と街灯に照らされ、黄色に塗られた翼の先端が映った。
 それが辛うじてミサイルを回避し、上で待ちかまえていたメビウスに落とされるのが見えた。
「黄色7、脱出すル!」
「本部、こちらタンゴ3。国道7号の目標16は航空支援により壊滅!航空支援により壊滅!」
 あまりにあっけなかった。
 劣勢故なのか、こちらが腕を上げたのか、かつて僕等を震え上がらせた姿を見て取ることは出来ない。
 その真新しい、炎を良く反射した機体からは。

「くっそ当たらねぇ!!」
「ちょっと!しっかり狙いなさいよ!!」
 向こうの方はそうも行っていないらしい。いや……何かが変だ。
「メビウス、何があったか見える?」
 答えの代わりに、全速力で空港方面へ進路を取った。
 その時、敵の通信を捉えた。
「リボンの戦闘機だ!!」
 彼の飛来に、狼狽する敵地上軍。半ば悲鳴に近いそれの中、落ち着き払った声が聞こえたような気がした。
「メビウス1、FOX2」
 撃墜の報は無い。
「イーグル1、レイ4、地上部隊の支援に回れ……損失を抑えたけりゃ速攻だ!」
 僅かに震えたスカイアイの声。
 損失を抑える……口が裂けても彼が落とされる前にとは言えないだろう。
 それだけ、かつてのエースに嫌な予感を植え付けただろう相手……黄色のエースか。
「オメガ13、僕等は空港へ向かおう。さっさと終わらせる!!」
「はい!」
 それから少し後のことだ。新市街の制圧が完了したのは。

「通訳、オメガ13!上空は俺達に任せて地上の方を頼む!!」
「メビウスは!?」
「敵さん随分ご執心らしい。たっく失礼しちまうよな」
 すぐ後方に見えた。
 互いが互いにプレッシャーを与え会う制空戦。
 もし、彼が少しでも後れをとれば……落とされるのは僕達だ。
 見ているだけで済ますはずもない。チャンスを見てレーダーロックをかけてみるも、撃てる状態には持ち込ませてくれない。
 黄色が僕等の誰かにレーダーロックをかければ、メビウスが撃ったミサイルへの回避行動を足らざるを得なくなる。
 メビウスもまた、敵航空機へレーダーロックをかける。
 もちろん、その後には回避行動を取らざるをえないのだが。

 実力は拮抗しているのだろうか……それとも、もう数の上ではこっちが押しているだけ?
 敵味方問わず誰もが彼等の戦に手を出すまいと決めて数分、空港の制圧が終わった。
 その遙か東で、二人のエースが鮮やかに飛行機雲を引く。
 夜闇の中、街灯と戦火に照らされ金色に輝いていた。
 その複雑なループが徐々に平淡になっていたのは、互いにここでの戦闘が終結に近づきつつあることを悟ったからか、それとも、激戦の疲労が同時に襲ってきたのかは解らなかった。
「TU−160が多数、北西より侵入した。現在、新市街へ接近中。ただちにこれを撃退せよ」

 考える余裕も無かった。
「ファシストが、焦土作戦だぁ!?」
 爆撃機撃墜に飛ぶ。でもその先、爆撃機がいるであろう方向へ延びる二つの帯。
 レーダーを見る。先端にいるのは……ISAF機。
「メビウス!後ろ!!」
 レーダーロックしようにも追いつけない。レイ4達は更に後方。
 必死に追いすがる僕の目の前で爆発が起こる。
 その数、4機。黄色にレーダーロックがかかる距離まできた所で回避行動を取られてバックにつかれる。
 金色の帯が大きく弧を描くと、更に二つの爆発があった。
 自分もああなるのかと、止めを刺すだろう相手を見ようと振り返ると、そこには僕の追撃コースを外れて延びる飛行機雲があった。
 混戦でも傍受でもなく、開かれた回線から声が聞こえた。
「さすが、だな」
 もしこれが地上だったら、僕はそのままへたりこんでいただろう。
 取り越し苦労だったのだ。彼が黄色に背を向けた事も、黄色がそれに追撃…いや、随伴したことも。
 同じ人間だから……ゼロ1が敬意を払う、その理由を目の当たりにした気がした。
 彼の飛び去っていった空に敬礼をすると、僕等は制圧された空港で給油を済ませ、そのまま基地へ帰還した。

 その尾翼に見た13の数字を、僕は一生忘れないだろう。

 そしてサンサルバシオンが、僕等の駐留場所に決まった。
 レイ4はあの指輪と共にレイピア12のいただろう足跡を探しに出かけ、イーグルはまだ続く歓声に乗じて騒いでいる。
 オメガ13に至っては感極まったのかぼろぼろ泣き出して周囲を唖然とさせている。
 街を散歩していると、病院の上に未だ片づけられていなかったらしい高射部隊の基地に顔を歪めるメビウスの姿があった。
 彼に付いていくと、そのまま見晴らしのいい屋上に出た。
 眺める先は、黄色の13が飛び去っていた空。
 彼はぽつりと言った。
『嫌だな。戦争っていうのは』
 複雑な、寂しげな、そんな笑みを浮かべて。

 敵同士でなければ良き友人になれそうだった二人。
 戦争という悲劇がなければ互いの存在に気付きもしなかっただろう二人。
 その運命の皮肉に涙するのは、一通の手紙を訳する手伝いを頼まれた時だった。

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