ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which drew a blue ribbon.

Mission14

放たれた矢

「うへー……結構深く残ったなあ……」
 鏡を見ながら腕の包帯を外す。そこにあった傷は古強者に刻まれてこそ相応しいようにさえ見えた。
「少なくともおめーの覇気の欠片もない顔には似合わねーわな」
 イーグルの言いうのがもっとも……まあ、本当ならこんな傷、負わない世の中の方がいい。
 軍人も民間人も問わずね。

 ロビーに行くと、レイ4が読んでいる新聞をオメガ13が覗き込んでいた。
 すぐ側でメビウスがそれを眺めている。
 レイ4が読んでいたのはストーンヘンジ沈黙により開始された、大陸北部で行われている上陸作戦絡みの記事。
 ……向こうでは、もっと大勢の人が傷では済まない状況にいる。
「日の出の勢いね」
「今までどれだけストーンヘンジにやられていたかって事ですよね」
 ストーンヘンジ沈黙は、作戦範囲を大きく広げる結果につながった。
 戦域の拡大は、防衛線の脆さを広げる結果につながる。
 逆にこっちの士気は鰻登りで、一番突破すべき最前線に送り出されるだろうエースは必ずやってくれると確信を持って言えることも大きかった。
 そのエースはというと……レイ4の新聞を見ながら時折掲示板に張られている記事に目を向けては複雑な表情をする。
 そこには、ストーンヘンジを破壊したパイロットを称える記事が今尚そこにある。
 あれからもうすぐ二ヶ月。
 北部の上陸作戦が終われば、中立都市、サンサルバシオンへの進撃が始まる。
 永世中立を謳ったその街の奪還の意味は大きい。

 ふと、服の中に吊した香水の蓋の感触に気が付く。
 が、思考の先にいたのはその持ち主ではなく、目の前で新聞を読みあさっているレイ4だった。
 右手に、透き通った緑色の光がはめ込まれたリングが見えた。
 向こうでレジスタンスが活動しているという話もある。
 永世中立都市サンサルバシオン。
 その解放を待ち侘びている者達は多い。

 そして……僕等は彼等を後目にまた飛ぶことになった。

「久々の出撃だなー……よっし!気合い入れて行くぜ!」
「訓練の成果を試すにはいいかもしれませんね」
「ま、戦闘機は私が落とすから、坊やは頑張りなさいな」
 今回の任務は……大陸北部の援護。と言っても、直接出向くわけではない。
 エルジア軍が打ち出した巡航ミサイルを撃ち落とすのが任務だ。
「僕はリハビリかなー……これ以上腕鈍って無いと良いけど」
『大丈夫』
 肩を叩いてきたのは……メビウスだった。
 結構意外だな。こういうのはオメガ13がやりそうだと思ってたんだけど。
『みんなと一緒だから』
 戦場に行くというのに、随分機嫌が良さそうだ。
 ……本当に久々だものね。みんなで飛ぶの。

「うへー……寒い寒い」
 夜間飛行。幸い、綺麗な月明かりが雪に反射しているお陰で思ったほど視界は悪くない。
 機内にいて尚冷たい氷原の上……脱出なんてしようものなら即凍死できそうだ。
「先輩、怪我の方どうですか?」
「おかげさまで、すっかり良くなったよ」
 無茶なGかけても平気かは……ちょっと自信が無いのだけども。
 ミサイルに専念すればその不安も無いか。
「レーダーに巡航ミサイル確認。敵戦闘機もいる」
「そんなに多くないわね。ハエは私がやるわ」
「オメガ13、援護に回ります」
 レイ4が早速と言わんばかりに敵戦闘機に食らいつく。
 そのバックをオメガ13が受け持つ。殆ど護衛はいなかったらしくそれで事足りそうだった。
「イーグル1、ミサイル一機撃墜。あと5機もいやがる。あんなの命中したら焼け野原じゃすまないぜ」
「オメガ13、敵戦闘機一機撃墜しました!!」
「あらー。坊や、やるようなったじゃなーい。あ、丁度いい場所にミサイル。FOX2しといたわ」
 どうやら、訓練の成果はしっかり出ているらしい。僕も負けてられないか。
「トーテム1、一機撃墜」
「メビウス1ミサイル一機撃墜」
 さすがに5機もいると仕事が速く済みそうだ。
「今回は楽に済みそうかな?」
 リハビリには丁度いいね。ほんとに。

「こちらスカイアイ。オメガ13、エルジアもそこまでバカじゃないようだ。第二派確認。数は8機」
 とはいえ、楽に返してくれそうにはないようだ。
「こちらイーグル1。やっぱバカだ。あんなにブチ当たったらエルジア軍もやべえ」
『……背後の都市を狙えば、死ぬのは民間人だ……!』
 腹立たしさを隠そうとしない声を呟いて、メビウス1がミサイルへ急加速する。
「メビウス1一機撃墜……ミサイル、二手に分かれた!」
 レーダーには蛇行するように動くミサイルがしっかり捉えられていた。
「レイ4敵戦闘機撃墜。今日はこれで品切れっぽいわね。西の方落としにかかるわ。坊やついといで!」
「オメガ13、了解しました!」
「おーし。通訳、俺達は東行くぜ」
 よろよろとうねるように進むミサイル。少しでも回避しようとの目論見だが、コースさえ読めてしまえばむしろ仇になる。
「トーテム1二機撃墜!」
「イーグル1機撃墜。西側どうだ!?」
「メビウス1一機撃墜」
「オメガ13一機撃墜しました!」
「レイ4同じく一機撃墜。ゆっくり雪景色眺めたいのにねえ」
 全8機撃墜。メビウス1とすれ違うかそこらのタイミングで、レーダーに機影……。

「今度は1機だけだ。今までと様子が違う。巡航ミサイルは氷原の亀裂に沿って南下中。通常弾頭と思われるが、十分警戒せよ」

「あらなーに、最後っぺってところかしら?」
 ……一機……最後の抵抗ならもっとバカスカ打ち出したって良いはずなのに。
 レーダーにメビウスとレイ4が接近するのを確認する。
「二人とも待って!」
「……?」
「どしたの通訳君?」
「距離を取ろう。嫌な予感がするよ」
 二人が距離を取るべく離脱。メビウスが高高度、背面飛行からミサイル発射。
 そのまま地面に向かってUターン……重力によって加速と反転を同時に行うスプリットS。
 直後に響く轟音。いつぞやのストーンヘンジを思い出させる白い花火。
 直視が出来ないほどのまぶしさの中、4機の機影が氷原に無事影を落とす。
 良かった。全員無事だったみたいだ。
「良くやったメビウス1、大当たりだ。とんでもない爆発だったな」
「うへえ……通訳大手柄じゃんか。ストーンヘンジの前に悪いもんでも食ったか?」
 悪い物……かはともかくとして、そんなのがあるとしたら……首にさげたガラスの蓋かな?
 向こうの人のものなのにISAF側が有利になるよう計らってくれるのかね……。
『……核兵器じゃないよな』
「メビウス君……ちょーっと洒落にならないこと言わないでちょうだいな」
 氷原に大きなクレーターが一つ……氷原の氷が溶けたって言えばそれまでなんだろうけど……。
「阿呆ー。もし核だったらお前ら全員お陀仏しとるわい」
 そんな不安は、スカイアイの一言で一蹴された。
「なあスカイアイ。戦闘機って放射線対策してたっけ?」
「イーグルさん……話聞きましょうよ。いくらエルジアだってそこまでバカじゃありませんよ。そこまでは……」
 オメガ13の言葉……本当の意味を知るのは、もっとずっと……戦争が終わった後の事だ。

『ふぅ〜』
「どうしたよメビウス。嫌に機嫌いいじゃねーの」
 今回の任務は、責任こそ重大だったけれどもどちらかと言えば楽な方だった。
 後々聞いたら上陸作戦の本部でもあの爆発は確認出来たという。
「ここ暫く単独任務が多かったから」
「ん?団体は疲れるか?」
 必死になって首を横に振ってる。
 むしろ逆だと言ったら……あー、なんでヘッドロックかけにかかるかなあの人?

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