ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which drew a blue ribbon.

Mission13

偵察機の帰還

「んー時期にも寄るけど次の任務ははずれておけっていわれた」
「先輩にしては珍しく無茶しましたよね……SAMとAA-GUNの中つっきってジャミング装置破壊だなんて……」
『あれ無かったら僕はもう一周するはめになったんだろうけど……この傷に比べれば安かったな』
 ここは僕の部屋。いるのはルームメイトのメビウス1とオメガ13。
 あの後、軍医に看て貰ったら実は骨もちょっとやばかったという診断結果。
 それを聞いたときにはパイロット生命終わったかも知れないと覚悟したが、幸いにも安静にしていれば十分復帰できるということだった。
「何はともあれ、大事に至らなくて良かったですよ」

 あの時メビウスが守った旅客機の乗客がもたらした情報はストーンヘンジだけに留まらなかった。
「あんなのまで作ってたんだな」
 飛行状態に合わせて翼の角度を変える可変翼機。
 その特徴を最大限にまで極めた機体は飛行に合わせ、変幻自在に青空を舞っている。
 エルジアで密かに開発されていたという最新機。
 まだ実験機らしいのだけど下から見てもその性能の高さがはっきり解るなんて初めての事だった。
 制作を決定した司令官は、ストーンヘンジ攻略に間に合わせたかったと悔しげに言う。
 もっとも、それが遅れたお陰で、それを操るパイロットが即決したわけだが。

 季節は5月を迎え、ノースポイントを遙かに離れた場所にいたお陰で、半袖シャツ一枚で過ごせるのは幸いだった。
 包帯巻き直す度に上をいちいち脱がなくていい。
「お、エース様のご登場だ」
「あはは。イーグル、あんまり茶化さないでよ」
 今の不満と言えば、メビウスがあんなこと言ったお陰でこんな風に茶化されることが多くなったぐらいか。
「謙遜すんなって。あの地上砲火真正面からつっきったお前は間違いなくエースさ」
「……イーグルにしては珍しくない?」
 誰かを……それも前からライバル視していたメビウスならともかく僕だなんて。
「しょうがねーだろー。人が躊躇してる弾幕に突っ込んで生還されたらよー」
「いや……あはははは。あの時はもうねえ……」
 あの時どうしてあんな思い切ったことができたのか、思い出すことはなかった。
 説明できるとしたら、ただ、彼がミサイルに頼りがちな傾向にあるという知識だけ。
 もう一度やれって言われたら多分無理だろうね。ていうかもうヤダ。
 ストーンヘンジももう無いんだから高高度から投下しますともええ。
 あんな機体に穴が開くわ衝撃で中の破片が襲うような……。

「おーい通訳ー」

 この声は、整備士さん。
 自分の機の被害を今一度思い返し……逃げを決めようとした時。
「あの弾幕突っ切った猛者が逃げるな」
 そしてあっさり引き渡され、その場から全力疾走で逃げ出すイーグル……。
「イーグルの裏切り者ーっ!チキーン!」
 そのまま、僕は格納庫まで引きずられる事に……。
 ううう……そうだよね。あんなに(帰って来れたのが不思議なほど)機体穴だらけにしてただで済むわけないよね……。
「おいおい。何怯えてるよ」
『普段が普段じゃ……』
 ああ……メビウスもただじゃすまないこの人が……。
「今なんて言ったかリボン付き?」
「何でもありません……」
「ったく、ストーンヘンジぶっ壊すのに貢献して負傷までしたのしごいたりしねーっての」
 ……へ?じゃあ何で?

 その疑問の答えが、僕の目の前にぶら下げられた。
 直径2pほどの板の下に円錐のくっついた黄色いリボンがくくりつけられたガラス製の何か。
 少し息を吸い込むとほのかに香水の香りがした。
「……何これ?」
「聞きたいのはこっちだよ。なんでこんなもんがあんたの戦闘機の穴に引っかかってたのさ」
「いや、そもそもそれは何……?」
「……なんだろ?」
 しばしガラスのそれを眺めながら時間が過ぎる。
 手がかりは香水の匂いだけ。答えを出したのは、それが相応しい人物だった。
「て言うかそれ、香水の蓋じゃん?」
「あ、レイ4……」
 そう言って、彼女が一つの小瓶を取り出す。確かに同じ形の蓋がついている。
「つっても、通訳君には似合わないわね。どうしたの?」
「……どうしたって……戦闘機の穴にひっかかって……」
『黄色……』
 彼のつぶやきの意味を聞き取れたのは僕一人。
「たぶん、僕が落とした黄色のに……あったんだと思う」
「だとしたら蓋だけでもここにあるのは結構な奇跡ね……大事にした方がいいかも」
 そうして、僕はこれを、名も知らぬパイロットの遺品として受け取ることにした。

「どうしたのメビウス。浮かない顔して。こないだの帰還直後もそうだったんだけどさ」
 包帯を取り替えて貰っている途中。
 おそらくは一生残るだろう傷。名誉の負傷であると同時に戦争の惨禍を伝える証。
 治りかけているのが余計に傷をえぐく見せる。
 それを眺めながら、僕はストーンヘンジ破壊後に彼が表情を曇らせた理由を尋ねた。
 しばらくの沈黙。躊躇いがちに、口を開く。
『あれ……不調機だった。ミサイル撃った直後の、機体のぶれかた見る限りじゃ』
「そう」
 彼の表情が更に落ち込む。
『無念だったろうな』
 先のエースが、しょぼくれた顔をしている。
 時に人間離れした軌道を見せるこの男も……元々ならただの曲芸飛行士だ。
 それが今や士気の柱たる彼がこんなんじゃ困るので……
「仕方ないよ」
 ちょっとばかし、苦言を呈してやろうと思います。
「……ノースポイントに逃げ込む前の僕等だってそんなもんだったんだ」
 解っていると、小さな声が聞こえる。
「君が、変えたんだよ。このミリタリーバランスは。巻き返すっていうのはそう言うことさ。多分、そんな相手とやり合う事は……今後増えていくよ」
 いや、ISAFにとってはそれが好ましいのだけど。
『……辛いな。戦争は』
「自分で飛び込んだんだろ?ゼロ1に銃を突き付けてまで」
『ごもっとも』
 そして彼は続ける。もう沢山だと思うからこそ戦う。いっそ降伏すれば早々と終わったかも知れないと言ったところで反論しようとしたら枕を顔面に貰ってかなわず、更に続ける。
『たった一人が生涯後悔しないために飛んだ結果がこうだ。ひょっとしたら極悪人?』
「向こうにとっては……それこそ悪魔かもね」
 戦争なんてそんなものだ。戦果を上げた英雄は裏を返すと多くの命を奪う悪魔だものね……。

 無口だったはずの彼がここまで喋る……ひょっとしたら、この戦争に、少し参っていたのかもしれない。

 そしてあれから一月。エースは常に最前線を飛ぶ。
 再び舞い込んできた単独任務に彼は飛び立って行った。
 飛竜の名を与えられた、黒のカラーリングが施されたあの新型器に乗って。
 僕は前回の怪我のこともあり今日は飛べずじまい。緊急でも無いためAWACSに乗ることも無し。
 なので整備士さんの手伝いをしつつだべってみたりする。

「あいつの飛び様全部この目で見てやるーって勢いであの時は痛いのこらえて飛んでたんだけどなー……」
「お前それ一歩間違うとストーカーだぞ……しかも野郎同士」
 さしもの整備士さんも怪我人相手に乱取りはしてこないので今日に限って治りかけた傷に包帯を巻いていたりする。
「いいよストーカーで。あれだけやったんだ。おっかけの一人二人いたっていいじゃん」
「うわ。開き直りやがった」
 もう笑えない冗談が基地中の女子の口に上るようになったっていいやぐらいに思っていた。
 ……メビウスに知れたら卒倒しそうだけどまあいいや。
「そう言えば、あの旅客機の一件の前、メビウスに家族の話したんだって?」
「あんにゃろもう話しよったか」
 どうやら帰還後の一悶着のフラグを立ててしまったらしい……許せエース。
 今日は飛べない分の鬱憤がそっちに行きそうだ。
「結構よく喋ってなかった?」
「あー……あいつにしちゃ良く喋ってたなー。しゃーねぇから添削したりなんなりですっかり公用語講座なった」
「あはは。そういやそうだったね」

「その様子だと通訳も聞いたっぽいな」
「まーねぇ。結構色々と」
 お互いの聞いた内容を確認すると、どうやら戦場を飛ぶ経緯までは聞いていなかったらしい。
 いや、話したくても話せなかったんだろう。公用語に訳す術を思いつくとは思えないし……。
「不幸なのてめーだけじゃねーってぐりぐりやってたらレイの奴来ちゃったんだよなー」
 なるほど。その後の光景があれなのか。あの脱出レバーの位置につい手を伸ばしたくなるあれか。
「あら。整備士のお嬢ちゃん。お目当ての情報収集?」
 ……で、その光景の一端を担う人がここに登場。

 出来ることなら逃げ出したかった。
 何もかも振り切ってその場を去りたかった。
 でも、ここは戦場。今目を背ければ、僕は一生後悔する。

「あははは。嫌だねえ、あたしの彼氏は戦闘機だよ。まだ異性に意識出来るほど、”年食って”無いんで」
「あらー目の前の獲物をしっかり捕まえないと”誰に食われても”おかしくない”わよ〜?」
 いつの間に整備しとレイ4仲が悪くなったんだろう……ていうか「誰に食われても」でどうして僕に目を向けるのよねえ……。
「おほほほ」
「あははは」
 こういう状況になってしまえるのも、ストーンヘンジ陥落に代表されるような勝ち続き故だとしたら……。
 八つ当たりと解りつつ今戦場を駆け抜けているだろうエースをちょっと恨んだ。

 て、獲物ってーっと……?あれ?
「通訳……それ以上聞いたらその腕海水に漬け込むぞ……」
「は、はぃぃっ!」
 て、ここは内陸部なんですが……。
 あの反応見る限りメビウスに整備士さんはって……いつの間に。
 最強のパイロットと最強の整備士ならそれこそお似合いか?
 いや、メビウスは地上に降りるといじられ街道まっしぐらだから確実に彼女の方が強いな。

 ちなみに、彼が戻ってきて早々の事まで話を飛ばすと……。

『所でひー坊。お前いつの間に整備士をたらしこんだんだ?』
『い、いきなり何言うんですかっ!?』

「あーあ……耳まで真っ赤」
 そんな光景を、イーグルはじめ男性陣と眺めている僕等。
「アレくっついたら俺達に被害飛ぶこと無くなっかな?」
「八つ当たりされたときが怖いよ……」

 偵察機が持って帰った情報には、ストーンヘンジに代わる新たな兵器として、メガリスと言うものが開発されているとあった。
「……こんな物が世に出る前に、終わらせたいもんだな」
「ごもっとも」
 と言うよりこんなの世に出たら君ブチ切れない?
 そう尋ねたときには……。
「寝る」
「え?」
「……単独は……前もそうだったけどもの凄い疲れる……ストーンヘンジのがまだ……いい……」
 一人で飛ぶ……か。AWACSは横飛んでくれないもんね。

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