ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which drew a blue ribbon.

Mission12

ストーンヘンジ攻撃

 先日亡命してきた技術者達によってもたらされたストーンヘンジの情報。
 上が、作戦会議やら何やらやっているらしい。
 その間が、僕等にとっては大仕事に向けての休息になる。
「ストーンヘンジ攻撃ってことは、黄色中隊も出て来るんですよね……」
 大きな作戦への参加に、不安の色を見せるオメガ13。
「いよいよ来ましたって所だよな。ここでいっちょ名を上げて、オヤジの墓前で自慢してやるさ」
 いつものように、不安など微塵も見せずに息巻くイーグル1。
「黄色が来るってことはぁー……。リターンマッチね。今度こそ撃ち落としてやるわ」
 逆襲に燃えているレイ4。女の執念恐るべし。
 僕の心境はオメガ13と似通っているんだけど、彼がああだから、僕はしっかりしなくっちゃって。

 僕は今、ある意味一番注目されているであろう人物を探している。

……戦争、エルジア、ストーンヘンジ、そのどれかに余程の恨みか思い入れがあるのだろう……

 不謹慎ながら、彼は何を思っているのか、知りたかった。
 そして……それは望み通りかなうことになる。

『かれこれ半年か。早いもんだな』
 人気のないブリーフィングルーム前の廊下で、ゼロ1の声が聞こえた。
 あの言語なら、間違いなく相手はメビウス。
『どうよ。一気にエースまで駆け上がった気分は?』
『複雑です。やってることは人殺しなのに違いはない』
「……!」
 また別な複雑さを、僕はそこで感じ取っていた。
 ……軍人の本領は、やはり人殺しにおいて発揮されてしまうもの……。
 それを聞いたとき、少し寂しくて、そして悲しくなった。
 否定する材料が欲しくて、僕はまだ盗み聞きを続けていた。
『俺に銃向けてまでして踏み込んだ道だ。今更逃げ出す何て言うなよ』
 そこから読みとれる、あまりに穏やかでない内容の会話。
『大丈夫ですよ。アレを壊しただけでは、空は戻ってこないのだから』
 それで話は終わって……足音が近づいてきた。
 盗み聞きを悟られたくない一心で離れようとした僕の耳に一瞬響いた駆け足の音。
『まっ……「待って」
 続いて腕を掴まれる感覚。母国語から、公用語に変わった声。
 あまりの気まずさに漏れる乾いた笑い。
「いたよな……人ご……『エースになった気分は』ってあたりから」
 顔つきは相変わらず。声は、怒っているようには聞こえなかった。
 むしろ……向こうの方が決まり悪そうな……ここで僕が逃げたらベタベタの学園ドラマだな。
 しかも男同士。笑えない冗談になりそうだ。
「ごめん……」
 聞く気は無かった……とは言えなかった。むしろ望んでいたなど口が裂けても言えないが。
「いや……さ、結構過激なことやってたんだなあって……あは、あはははは」
 でも対外の登場人物が誤解承知でつい駆け出してしまう心境も何となく分かってしまう。
 しっかり凝視される。何というか、心の奥まで見透かされるような……。
「なんなら話そうか?」
 否、しっかり見透かされていたらしい。
「え?」
「聞きたそうな顔してる」
 こうして……図らずも僕の好奇心は満たされることになってしまう。
 後に、複雑な思いを残したまま。

 小さなアクロバットチーム。そこが、彼の生まれた場所だった。
 最初の記憶が親の操縦するセスナに乗る所。
 無免許で、親が横につきながら飛ばしたこともあったという。
 彼にとって空とは、文字通りの揺りかごだった。
 これで生まれた場所が飛行機の中だったら完璧だったろうなと、冗談を飛ばしたりもした。

「初めて公式の大会に出た時は、興奮したよ。周りがうんざりするほどはしゃいだものさ」
 その下りを語る彼は、今までに無いほど嬉しそうだった。
「サンサルバシオンでも一度飛んだ。目を輝かせて自分を見ている子供に気付いたときが、一番嬉しかったな……」
 そして、その笑みはすぐに消える。まるで人生の起伏を思わせるかのように。
「でも、ユリシーズが近づくと共に、飛ぶ機会そのものが減っていった」

 そして、ストーンヘンジによって砕かれた星の欠片によって、その場所は無くなってしまった。
 それまでに稼いだ賞金のお陰で、生活にさほど苦労は無かったと言う。
「ISAFにくっついていったのは、何処に行っても同じか……少しは飛ぶ機会があるんじゃないかって言う打算もあったかな」
 そこから、いつもの、感情の表れにくい顔立ちに変わる。
 昔語りなんてレベルではない。
 今僕は、彼がそれまで生きてきた、彼の心まで振り返る旅に付き合っている。
 鋭い眼光も、感情の表れにくい表情も、その雌伏の時の間に生まれたものだったのか……。
 それを余所に、彼の言葉は続く。
 感情を移さない表情。しかし、その目には強い決意のようなものをたたえて。
「パイロットが不足している。それを聞いたとき、チャンスだと思った。親父は傭兵もやったことがあったから。まあ、結局は書類なりなんなり誤魔化しての正規軍扱いになったけど、そんなのどうでも良かった」
 飛びたかった。彼がここに来た理由は、たったそれだけだった。
 正直なところ、そこまでするのかと思った。
 僕だって、あの初陣の時は怖くて仕方がなかったと言うのに。
 そんな僕の考えを察したのか、彼は困ったような顔をして言った。
「死ぬなら空で、飛ぶなら誰かと。地べたで死ぬのだけはごめんだった」

 そして言った。
『あの星の遺したもの全てを葬るまで飛ぶ。何人葬ることになっても』
 その目に、感情の火が灯っているのを見逃さなかった。

 余程の恨みの対象……それは人の手によって生み出された物ですらなかった。
 そう……あの星の影響が空に現れ始めた頃、とても曲芸飛行に飛ぶなど出来なかった。
 あの星……ユリシーズ破壊後も、降り注ぐ破片の犠牲となった人々は数知れない。
「あの星には、積年の恨みがあったわけだ」
「そういった感情は無いかな」

 血の気とは違う何かが、僕の中でさーっと……波のように引いていく気じがした。
 ……スケールが違いすぎる……戦争も、ストーンヘンジも、この人にとっては、ただの障害……。
 頭の固い上層部連中が聞いたら鼻で笑ったかも知れない動機。
 それを実行してしまってるんだから……イーグルには悪いけどもう並のパイロットじゃ追いつかないな。

 そして、僕も飛ぶことになった。対地攻撃力に関しての評価は、思いの外高かったと言う。
 とはいえ、作戦内容はかなり無茶なものだった。
 元々の相手が隕石だから小回りの利く少数の戦闘機で行くということ。
 そして……司令部からは40%の損失を覚悟しているとのお達し……。

「お前らしっかり壊して帰って来いよ。あれさえなけりゃ姉貴だってあんな怖い思いせずにすんだんだから」
 整備班の気合いを彼女が代表して言う。
 気化爆弾なんておっかないもんまでサービスして貰った……失敗したらどのみち死ぬなあこれ。
 メビウスの方にももちろん……あー……念を押されてる押されてる……。

「これまで多くの英雄がストーンヘンジによって散っていった。そろそろ新しい英雄が必要だ。全機、必ず生き残れよ」
 出来れば、僕等全員が残り60%に入ることを祈りたいもんだよ。
「こちらイーグル1。見えてきたぜ……この距離であのサイズかよ」
「さすが、巨人兵器、大陸の先まで届くわけねぇ……と、通訳君対地装備OK」
「当然……て、なんで僕に振るの!?」
「あたし空の落とすから♪」
「……SAMとかよろしく」
 メ、メビウスまで……そりゃあ確かに黄色中隊が来る前に破壊しないと厄介なことになるんだろうけど。
 こないだあんな話したのに自分で破壊することに拘らないあたりがまあなんと言いますか……。
「先輩、僕も援護しますよ」
「助かるよ」
 つっても……レーダーに映ってるSAMとかAA-GUNの数半端じゃ無いんですけどー……。

 ストーンヘンジ襲撃における難題……それ自身が上空の敵を殲滅し、地上スレスレを飛べばSAMが狙い撃つ……無難な作戦だったが、これには……。
「ミサイル!ブレイク!!」
「か、回避回避!」
 動いてなければ当たるって言ったって……こっちがめまぐるしく動かざるをえない状況なんじゃ……。
「レイ4、一機撃墜……連中ギリギリまで来ないつもりかしら!?」
「ストーンヘンジの砲撃を確認!高度下げろ!!」
 そして今回は距離が近いこと、自身が狙われていることもあってその発射ペースも尋常じゃない。
 かといってSAMとAA-GUNの残る場所を飛ぶのは僕には自殺行為。
 そう……少なくとも僕には。
「先輩、あれ!!」
 ストーンヘンジ着弾のカウントダウンの中、僕は確かに見た。
 一機……誰より鋭い軌跡で地上砲火の中をつっきっていく一機を。

「先輩……道が開きます!!」
「解ってる!!」
 彼に向けられた地上の銃口。その虚をつくように、上から気化爆弾をお見舞いしてやった。
「トーテム1、投下!!」
「オメガ13、投下!!」
 未だストーンヘンジ付近の防御は厚いものの、地上兵器の数が、これで……!
「行ける……やれるぞ!!」
「お前ら地上兵器徹底的に潰せ!奴の道を開け!!」
 文字通り……彼の通った後に道ができた。あとは……着弾を待って、ストーンヘンジ直径を、段幕のまっただ中を突っ切っていく
「トーテム1、ジャミング施設を破壊!!メビウス!思いっきり打ち込んでくれ!」
「感謝する!!」
 もうこれで、誰も彼を止められない。
「先輩、後ろ!!」
 そして……。
「!!……っと、これだけ壊せばもう僕の仕事ないかも?」
 被弾……当たり所が悪かったのか僅かな破片が腕に刺さる。
 でも、僕は死なない。死んでたまるか。
 とんでもない英雄の打ち立てるだろう功績全て、この目に納めるって決めたんだから。

 未だ発砲を続けるストーンヘンジ真横のSAM。そのどれもが、自分の役割を果たす前に本来守るべき主砲を破壊されていく。
「一機すごいのがいるぞ……あのリボンを狙え!!」
 ジャミングが晴れて敵の通信が聞こえてきた。彼に狙いを絞っているようだが……。
「オメガ13、SAM一機破壊」
「同じく」
「こっちもだ!」
「イーグル1、投下。ったくいいとこ全部アイツにもってかれちまう」
 舞台なら、僕等が整える。
「黄色が来る前に終わっちゃうわね」
「残り1……前方に機影!トーテム1退避しろ!!」

 ターゲットを、全て破壊したかしないかの時、僕は確かに見た。
 遙か遠くに並ぶ、五つの機影を。
「ただじゃ返して貰えませんってか……」
 さっきの効いてるなあ……出力下手に出したらバラバラなっかも。
 いや、その前に、回避行動取るときGに耐えられるのかね。

「大丈夫だ、こっちのエースはやつらより速い!交戦を許可する!」
 ははー……スカイアイに感謝〜……これで全機退避しろなんて言われたら僕は間違いなく……。
「トーテム1!ミサイルロックされてるぞ!!」
「やば……」
 どのみち逃げられませんか。
 脱出レバーに手が伸びる。

「メビウス1、FOX2」
 声が聞こえた。待ち望んでいた声。
「そのエースが交戦許可前に突撃してるしな」
 撃墜の知らせはない。でも、敵味方入り交じった状況になろうとしているのは解る。
 腕の傷が、思ったより深く、意識がぼやけかける。それでも、周囲の状況を、僕は冷静に把握していた。
 僕の後ろに黄色が一機……その更に後ろに、彼がいる。
 大丈夫、空の神様に祝福されたパイロットがいるんだから。僕の後ろには。
「FOX……」
 メビウスの言葉が、途中で止まって、嫌な予感に僕の意識は冴え、そして振り返った。
 不安が現実になったわけではない。一機、粉砕されていく黄色が見えた。
 ……慣性の法則に従って振ってきた何かが、翼に、さっきの機銃で開いた穴に引っかかったとしるのは、基地に辿り着いてからだった。

 その一機を落とされたことで、黄色中隊は引き上げていった。
 周りを歓声が包む。道を切り開き、ストーンヘンジを破壊、黄色撃墜。
 帰った後もそのまま周りにもみくちゃにされる……はずだった。
 コックピットから見ていた。
 それをさも邪魔だと言わんばかりに振り払い、こっちに駆け寄ってくる彼の姿を。
 その彼の態度に、唖然とする周りの姿を。

 未だに血の流れっぱなしの僕の腕に、何処に持っていたのか包帯を巻いてくれて、その傷を気遣うように僕に肩を貸すと……僕を指さして言った。
「今日のエース」
 そして、多分それまで誰も見たことがなかっただろう……メビウスの満面の笑みがそこにあった。
 一気に沸き上がる基地内。
 もみくちゃにされて周りの声も聞こえなくなる一瞬前に、こう言っていた。
『エンターテイナーですから』
 どうやら……その能力に、空の神様も魅入られていたみたいだ。

 彼の声などかき消されてしまうほどの歓声の中で、やっと僕は気付いた。
 その英雄と同席に、自分も今いると言うことに。
 その高揚の中、彼の満面の笑みに、少し悲しげな色があったことに。

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