ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which
drew a blue ribbon.
Mission11
エスコート
タンゴ線を越えて俄然勢いを増しつつあるISAF。その知らせの中、僕等は訓練を重ねながらも当分の出撃は無いのではと言うほど穏やかに時を過ごしていた。
「待てやごるぁーっ!!」
穏やかに……。
「せ、整備士さんお、落ち、落ち着いて」
穏やかに……。
「てめーら毎日騒いでんじゃねぇっ!」
騒々しい毎日でしたごめんなさい。
更に奥に攻め入るためにはストーンヘンジの破壊が絶対条件。
嫌でも高まる士気をこうして発散……
『た、助……』
発散……。
「あのー……」
発散……。
「それが一種の愛情表現?」
「ちげーわーっ!!」
……出撃前にエースがストレスで死なないか心配です。
やっと事態が沈静化。
「最近整備士さん元気がいいですよね」
「うん……まあそれ自体は悪いことじゃないと思うんだけどね」
レイ4にからかわれている整備士さんを眺めつつ、僕とオメガ13と、メビウス1でお茶。
「しかしここまでエースの立場が低いのも問題じゃないですか?」
「ここで常識なんて通用しないでしょー……」
実際そうなんだよね。メビウス自身元は曲芸飛行士だと言うし、各部隊からの寄せ集めだし……。
『……気が立ってる所に触れてしまったからなあ……』
「え?」
「え、今なんて?」
オメガ13に説明しつつ、整備士さんの気が立っていることを問いただしてみると……。
「スチュワーデスさん……ですか」
『……家族の話になって、そこからね』
なるほど……空に関わる職業で、今のご時世……か。
気も立つだろう。
……それでエース相手に乱取りしていいわけじゃないんだが。
気が付いたのは彼が去った数分後である。
「……てことは、整備士さんはメビウスさんの家族のこととか聞いたんでしょうねえ……」
よくよく考えたら……それはそれで凄い事のような気がする。
彼がうち立てた功績だけでも既に伝説だもんなあ……。
「そう言えば今あの人が乗ってる機体、随分早い時期から乗ってましたよね?」
「オメガ13……それ以上言わないで……」
どうせ僕ぁへっぽこパイロットですよーほんと誰だよ出来高制にしやがったのは……。
あ、イーグルはこないだスリ(と言うか強盗?)にあって撃墜レート表無くして最初からだっけ?
そんな日々。その日もいつものように、そんなやりとりが繰り返されるはずだった……普通なら。
いつもと変わらぬ哨戒飛行。僕とメビウスがペアを組み、ついさっきイーグル達と入れ替わってきたばかりだった。
「お、良いところに!!」
かなり焦った様子のゼロ1。何故か小脇に抱えられているメビウス。
「来い!!」
僕も一緒に抱えられるハメになりました。
「ちょっ……どこ行くんですかゼロ1!?」
「AWACSだよ!!」
「……え?」
さらにすれ違った整備士さんにメビウスを発進させるようにと告げた後押しつけ、僕はそのままAWACSのコックピットに座らされ、半ば脅される形で離陸した……。
「ねえ、ちょ、一体何が!?それに僕これは……」
「操縦はいつもの調子でいい!ブリーフィングは空でやるぞ!メビウス、いるか!?」
「オールグリーン。貴機の前方を飛行中です」
事態の深刻さを知ったのは、その後だった。
「民間機襲撃!?」
「……ああ、ストーンヘンジの開発者と家族乗せた旅客機が襲撃されてる」
ストーンヘンジの開発者……つまり、今ISAFが喉から手が出るほど欲しい情報を握っている人たち。
いや、大事なのはそこじゃない。
遙か前方を飛ぶメビウスから連絡が入る。
「前方に旅客機確認。レーダーに敵機あり」
おそらく、ゼロ1の前の画面にもそれは映っているのだろう。
「エアイクシオンへ。状況を説明してくれ」
「こちら702便、エルジア軍機が高度23000で接近中!急いでくれ!」
「こちら701便。離陸時に機長が負傷、副操縦士のナガセが操縦しています」
「了解。護衛機が行く。進路を維持してくれ」
通信の向こうからは、せっぱ詰まった声が聞こえてくる。
「……護衛を、彼一人にやらせるつもりですか?」
「他の面々にも連絡は入れてあるはずだ。帰還後機器のチェック完了次第応援に来る」
それなら、たとえ僕でも戦闘機に乗って護衛に参加したっていいだろうに……AWACSで後方支援か……。
そんな不安を募らせている間に一気撃墜の報告が入る。
「メビウス1、新たな敵機を捕捉。高度6000で701便に接近中」
「了解」
そう。これも立派な仕事。二人で行って、二人とも増援を見逃したら何にもならない。
「701便、高度は上げられませんか?その方がISAF機が護衛しやすい」
「ネガティブ。客室内の気圧がたもてない。高度は上げられません」
ゼロ1が舌打ちする。幸い702便の方は高度を上げて飛んでいる。
が、実質護衛対象が経るほどとはとても言えない。
「あれが味方の戦闘機?」
「乗客に窓の外をみせるな」
「ターゲットは本当にこの民間機か?」
「考えるな。俺たちはただ仕事をすればいい」
「……本当に、色々聞こえてきますね」
「ああ。昔の物好きの置きみやげらしい。肝心な情報はいつも聞けずじまいだが……と、フォックス2及び敵機二機、撃墜確認」
乗客の不安じみた声、平静を保とうとするパイロット。
戸惑いを見せる敵パイロット。撃ち落とされ通信の途絶える音。脱出レバーを引いて脱出する音。
余程こういった戦場の声に関心があったのだろうと思う。
「メビウス1、高度23000。複数いるぞ。やらせるな!」
「第一目標は旅客機の撃墜だ」
「的はでかい。撃てば当たるぞ」
「敵は1機。エンブレムはリボンのマークだ」
3機……一人で相手にするならともかく、旅客機を守りながらいけるのか?
「フォックス2。一機撃墜」
『相変わらず速い仕事で』
淡々と、こなしていく。プレッシャーとかそう言うものはないのかね……その場に行けない不安か、それとも……。
「メビウス1、二機撃墜」
天才に対する凡人のやっかみか?
「高度6000に機影多数を確認」
『……っ』
通信越しに聞こえた小さな舌打ちが、そんな気持ちをうち消してくれる。
だけど、それは同時に焦りを生む。
「援護はまだなんですか!?」
「今通信入ったよ。数は少ないが哨戒中の連中狙ってきやがってる」
「……確実に、落とす気なんですね」
「何が何でも阻止するぞ。あそこの乗客は死線に立つ必要の無い連中だ」
これ以上の増援が、出ないことを祈るしかないんだろうか……。
「繰り返す。民間人が乗っている。攻撃をやめなさい!」
「701便、まもなく交戦空域を出るのでそのまま高度と速度を維持してくれ。ISAF機がカバーする」
焦りの声。たしなめるように平静を勤めるゼロ1……ことスカイアイ。
「了解。やってみます。もうあとは、信じるしかない」
……ISAF始まって以来の天才なんだ。しっかり、僕も信じてる……。
二機撃墜のしらせ。だが、最後が大物と言うのはいつものことだ。
「7番、下をやれ。同時に撃てば一方は落ちる」
「!?」
「これって……!」
ダメだ。二機同時に撃ち落とすには距離が開きすぎている……いや、撃てたとして……外せば……どっちか、見捨てろと言うのか?
「ヤダ」
「……へ?」
明らかに、敵側の通信。
そして……
「一機撃墜」
同時攻撃は、実行されずに終わった。そして何より……
「……い……命……に……!!」
敵AWACSの音声が混じってきた。その会話に、耳を傾ける。
背後についたメビウスを避けるように、旅客機の射程外に移動する敵機。
「……悪いケド、民間人殺したあげく撃ち落とされるのはごめんダネ」
強い訛りが印象深いそのパイロットは、それだけ言うと反転して……。
「敵機、作戦範囲外へ離脱……」
一機に体中の力が抜けた気がした。
「メビウス1、こちらスカイアイ。2機は無事に離脱した。損失はゼロ。作戦は成功だ」
『今回は、向こうの良心に感謝だな……』
それはメビウスも同じ事だったらしく、その声からは疲労の色が聞き取れた。
「スカイアイへ、こちら701便。全員無事です!あの戦闘機にありがとうと伝えてください」
感謝されるのも悪くない。
そして、この話にはまだ続きがあった。
「うー……疲れたぁ……」
いや、戦闘していたメビウスの方がよっぽど疲れてるんだろうけどさ……。
こっちも神経使う仕事だったような気がするよ……。
「と、更に神経使うイベントが待っているようだな?」
「ん?」
『……え?』
どたどたという豪快な足音。その主は……。
「メビウスーっ!!」
整備士さんだった。既に逃走態勢に入るメビウス1。
がしっ
もちろん無駄なあがきだったが。
「な、なあ、旅客機は、どうなったんだ!?無事か?無事だったのか?なぁ!?」
もっとも……今回彼女がメビウスに問いつめたかったのは、被害状況ではなく……
「損失……0で今軍医がチェック中……」
「ほんと……ほんとに?」
無言で頷くと……良かったと良いながら、それこそきついぐらいにメビウスにしがみつく整備士さん。
「良かった。ありがと……ほんとに……ほんとに……」
その良かったがありがとうに変わり、涙声に変わるのに、さほど時間はかからなかった。
旅客機にいた彼女の家族の無事が報告されるまで、どうすればいい物かという表情のメビウスに彼女は抱きついたままだった。