ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which
drew a blue ribbon.
Mission10
タンゴ線を越える
今現在ISAFの内部……特に僕等の所属する場所において、整合性というものは著しく欠けている。融通の利く上官のお陰ではない。空の戦力に関して、一度ボロボロになったから、と言う歴史があるのだ。
ストーンヘンジと、黄色中隊。
ISAFの快進撃は続いているが、空を支配しているのは今でもこの二つだろう。
甚大な被害を受けた航空戦力。その中にはレイ4のような中隊唯一の生き残りや、僕やイーグルのように所属する前にその隊が消えてしまった者もいる。メビウスのような……つい最近まで民間人だったメンバーがいるのも、そう言った散り散りになった面々を集めている部分があるからだった。
だから編隊飛行とかそういうのはまずさせられそうにない。僕等の仕事は基本的に遊撃。
僕自身、希望してここに入ったのだけど。
理由は……情けないことに諦めだった。小隊とかに縛られず、自由に飛んで死にたい。とか。
誰かの命令に従って……は、勘弁して欲しい、とか。
「先輩〜っ!」
今慌ててこっちに駆け寄って来るのは先日所属隊が決まってないにも関わらずカムバック戦を希望した若いパイロット。結局ここにいつくことに決まったらしい。
そう言えば……僕等は黄色襲撃の時まで、5機の編成で飛んでたんだっけか……ナンパ師の次は生真面目な新人か……妙な入れ替わりだよね。
「どうしたの?イーグルとメビウスが仲悪い(と、言ってもイーグルからの一方通行だが)のはいつものことじゃん」
「あ、あの、それが……今日は整備士さんとレイさんの……」
「……へ?」
思わぬ組み合わせに、二人がいるであろう場所に駆け込む……。
……ここが空の上なら、間違いなく、躊躇い無く脱出レバーを引いただろう状況がそこにはあった。
笑顔で向き合うレイ4と整備士。
これだけだと普通に女性二人の談笑……で、済むのだけど……。
何か、何かが違う。二人の間には異様な静けさというか冷たさが横たわっているようで……。
現実から目を逸らすべく視線を泳がせると……戦闘機の後ろで怯えるように様子を伺うメビウス。
「なんか……メビウスさん何も話してくれないんですよね……」
「そりゃあこんな女の争いを示す文章なんて教えてないからね……」
よく見るとイーグルも一緒にいた。絡まれていると言うよりは小動物を保護してるような雰囲気。
「おー。通訳良いところに来た。ちょい事情徴収頼むわ」
聞くところによると、案の定整備士さんに護身術の稽古を(強制的に)受けている途中で、レイ4に引っ張られて、そしたらまた整備士さんにひったくられて……。
「おい、どうした通訳?」
「すっげ訳が難しい状態とだけ……」
ついでにイーグルに話したら怒る。絶対怒る。だから僕はあえて伏せておこうと……思ったのだが。
「おい。姪っ子に手ぇ出したら覚悟しとけよひー坊」
ゼロ1まで来ていた……いや、明らかに隠れてただろアンタ。ひー坊というのは本名が氷雨「ヒサメ」だからなんだそうな。そう言えば……ひょっとしてゼロ1とメビウスの言語圏は同じなんだろうか?
軍用語の基本以外は殆どままならなかったのだけど。
「あの、メビウスさんって……何であんなに公用語駄目なんですか?」
そして、オメガ13がその様子をしげしげと見つめている。多国籍軍にいるのにここまで不慣れじゃしょうがない。まあ、いつか本人がボロ出しそうなことだし。
「……ノースポイント到着ちょっと前まで民間人だったんだよ」
「世の中天才っているもんですね……」
理由を聞いたことはない。ただ、ゼロ1が言うには、戦争か、エルジアか、ストーンヘンジ。このどれかに余程の恨みか思い入れでもあるのだろうと。
元々曲芸飛行士……エアショーパイロットとしてユージア飛び回っていたのに不慣れなのは……マネージャーがついてて通訳してくれたんだそうな。こんな事になるならしっかり勉強しておくんだったと、酒の席で語ることが出来たその日に、彼がメンバー最年少だったのを知って大わらわするのは……何年か先の話。
さきほど女性二人の取り合いに四苦八苦し、今は師匠と同僚に間接技を食らっている若きパイロット。……あの頃、ノースポイントに漂っていた諦めムードを吹き飛ばし、未だ不利な状況にも関わらず、ここまで暢気な時間を過ごす余裕を僕等にくれたのは間違いなく彼で……その暢気な時間の真ん中に彼を置くのが、少なからず、感謝の意味もあった。
そして、その長閑な日々から、現実を突き付けられる戦場へと、僕等はまた飛んで行く。
タンゴ線。大陸東部におけるエルジア軍の主要な防衛線。
特にその拠点となるイスタス要塞はその特殊な地形により堅固な防備を誇ってきた。
作戦は前回同様、上陸部隊の支援。
そして、全開の作戦が意味するのは、内陸への上陸……つまりここでは……。
出撃数時間前、気になって、オメガ13の様子を見に行った。
「……大丈夫?」
「あ、はい」
言葉と裏腹に、顔色は決してよろしくない。今だって、ある一点をぼんやりと見ていたのだから。
……無理もない。タンゴ線は、ストーンヘンジの射程に十分収まっている。
「しかしいつの世も上層部も暢気なものですよね。『諸君らの翼に掠りはすまい』だってさ」
全く似ていない声真似に苦笑しつつも、前線に行けないのだから激励しか言えないだろうと嫌味を含むフォローも付け加えてやる。
実際の所一緒に扱き下ろすなんて事は出来なかった。こんな戦争がなかったら、僕もその上層にエスカレーターで入っただろう身だったから。こんな事でも無ければ……。
「先輩?」
「え、ああ。何でもない」
変なことを考え込んでしまった。目を合わせ辛くて、思わずさっきまで彼が見ていた方向に目をやる。
そこには……メビウスがいた。
「彼、どうしたの?」
「いえ、よくは解らないのですけど、何て言うか、数回も出撃に居合わせてない僕が言うのもなんですが……気迫が違うって言うんでしょうか」
黄色とは違う、本当にどうしようもならない驚異。彼でさえそうなるのは、不思議な事じゃ無いはずだった。
「ま、今回基地は山間にあるけど海上を飛ぶことの方が多いだろうから、あの時よりはずっと良いよ」
「……ですよね。ここで逃げたら、何のために空軍に入ったのか解りませんし!」
どうやら、純然たる夢を持って入ったらしい。
僕にしてみれば羨ましい限りだ。
「あらー。新人研修に熱心ね通訳君」
「あ、レイ……4」
先日異様な雰囲気を作り出していたレイ4が、今日はいつもと変わらぬお姉さまな雰囲気でやって来た。僕等にしてみればそれだけで安堵の溜息が漏れる。
「あんた達、今日落ちたら承知しないからね」
が、その雰囲気も何処へやら……まるで刃物のように鋭い一瞥をくれると自分の持ち場へ行ってしまった。
……ストーンヘンジに、彼女も因縁を持つ一人だった。
いや、因縁のない人間など……一人もいないのだろう。
今日もちゃんと帰れる事を祈って、僕等は戦闘機に乗る。
「こちらスカイアイ。このあたりはストーンヘンジの射程内だ。撃ってくるかもしれん。充分注意しろ」
「了解」
「OKOK。今回は海上だ。何とかなるさ」
「発射を見逃したらただじゃすまさないからねおじ様?」
「敵機に追い立てられないようにね」
「解ってます」
それぞれがそれぞれの返事を返し……まずは最初に見えた島を潰しにかかる。
海に浮かぶ山。その中央にぽっかりと空いた口に構えられた基地は戦闘機には辛く、ヘリが圧倒的優位に出来ている。
「地上兵器は忘れてねえよな。中入って一気に潰しちまおうぜ」
「了解」
その広さは千差万別。戦闘機が入り込めるスペースへ一気に二機が滑り込んだ。
「オメガ13……どう?飛べそう?」
「さすがにあんな易々と滑り込めませんよ……」
同感だ。通信に耳を傾ければ攻めあぐねる声は決して少なくない。入り込めた面々もかなり苦労しているようだ。
「だったら、見てないでハエ落としにかかるわよ。貴重な戦力費やすわけにいかないでしょ」
「はい!」
「了解」
もちろん、敵もそれを黙ってみているほど馬鹿じゃない。
「全機へ警告!ストーンヘンジからの砲撃を確認。30秒後に着弾が予想される。高度を2000フィート以下に下げろ!」
……来た。通信にも焦りの色が見える。大丈夫。ここは海、ここは海……。
「おいでなすった!」
「さっさと高度下ろすわよ」
「……山間部基地破壊。低空飛行に移る」
良かった。二人とも着弾前に海に出られたみたいだ。
「弾着10秒前、9、8、7、6、5……各機高度を下げて衝撃に備えろ!」
空に、白い花が咲く。多くの命を飲み込みながら。
「味方が何機かやられたぞ。
「レイピア8がレーダーから消えた。直撃を食らったのか?」
心臓に悪い被害報告を聞きながら、誰かが山肌に激突するのを身ながら、僕は自分の無事を確認する。
「全員無事か!?」
「ったく、何度見ても心臓に悪い花火だこと」
「作戦時間内にあと2発は来ると思います……」
オメガ13が大きく溜息をつく。あれが後2発……心臓に悪い話だ。
『……エルジア軍まで巻き込んで……』
それを、あと2度も見せられるのかと思うと、気も重くなる。
「俺とメビウスは二手別れる」
僕等はフォローに回る。
「聞いてるのかリボン付き!」
「……了解」
「じゃ、私イーグル君のフォローにつくから、通訳君そっちよろしく〜♪」
「あれ?えっと、僕は……先輩のほう行きます〜」
と、分担したのは良いんだけど……。
「さすがにかっ飛ばすねメビウスも……」
「さっさと終わらせるにこしたことありませんからね……あ、縦穴からヘリの発射確認」
「……撃墜する」
縦穴の上にあるアンテナを僕が壊している間に中の戦闘機はメビウスが片づけてしまった。
「助かるよ」
「どういたしまして」
さすがに、狭い山間部にある潜水艇のドッグにまでは入り込めない。
そんな芸当が出来たのは指折って間に合うぐらいの人数だと後で知った。
「こちらイーグル1。山間部にある潜水ドッグを破壊した。あと半分ってとこだぜ」
「……こっちも同程度」
「くー……ハンデつきでこれかー」
ん?ハンデってひょっとして……僕等?……等と僕には山間を飛びながら呟く事もできず。
「……的確な投下で助かってる」
メビウスのこの一言が無ければ後でイーグルどうなって……ぶつぶつ。
「ダメです!上からでは破壊できません!」
崖沿いに作られた潜水ドッグ。戦闘機を始末してくれていたお陰で他の施設は破壊できたんだけど……。
「ストーンヘンジからの砲撃を確認!」
「横から打ち込む。二人は離脱を」
「間に合いませんよ!メビウスさんも……」
「行け!」
気迫に押されて、僕とオメガ13は海の方へ。あそこで僕等の受け持ちは最後だったから、このままイーグル達と合流する手はずだ。
「ま、間に合うんでしょうか。どんなにゆっくり飛んだって……」
超音速飛行が可能な彼の愛機。その最低速度なんて気にしたことも無かった。
破壊して、反転して、崖にぶつからないように飛んだとして、僕等ならストーンヘンジ着弾と同時に射程に入ってしまう。あんな場所を果たして高速で……。
「弾着10秒前、9、8、7、6……」
「お待たせ」
……飛んできちゃったよ。そのまま加速して最後のポイントへ飛んでいく。
僕等を易々追い抜いてどんどん差を広げて……。
「5、4、3、弾着……今!」
空に咲いた白い花は、不発に終わった。実質的被害は0。
3発目もまた不発だった。白い花が咲く頃には、僕等は帰還しはじめていたのだから。
「税金の無駄遣いですよね。アレ」
「取られてるのは占領下の人かもよ。さっさと終わらせてやりたいわね」
所々で安堵の声が聞こえてくる。ストーンヘンジによる被害は今回決して酷くはない。
あの時と比べてはいけないのかもしれないが、それでも肝を冷やすには十分だった。
「メビウスさんもお疲れさまでした」
「……」
相変わらず最高の撃墜数をマークした男は何故か黙りこくっている。
何か言いにくい事でもあるのだろうか……
『どうしたの?』
『ヘリに一発貰った……』
と、言うわけで、下に回り込んでみると……。
『降りたら逃げた方が良さそうだね……』
ちなみに、砲弾の穴以上に、所々で土やらなんやらと言う方が、整備士さんの逆鱗に触れる事など、僕等は知る由もなく……。
終始援護に徹していたレイ4だけがその雷を回避できたのだった……。