ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which drew a blue ribbon.

Mission7

大陸深部の目標

「どうしよう……」
 僕は今、壊れた細工箱と睨めっこ中。
 レイピア12が探していた細工箱を、僕はまだ手渡すことが出来ないで居た。
「踏みつけて壊しただなんて言えないもんなぁ……」
 正直なところ、投げ捨てた衝撃でここまで潰れるとは思えないし……。
 今何とか箱の形には戻った所なのだけど問題は細工の方。
 手の込んだ車輪の細工。箱の裏には運命の車輪と刻まれている。
 恐らくは、武運を願ってのものなのだろうけど……
 レイピア6の強運を考えるとそれになぞらえたようで面白いかなとか思ってみたり。

「さて……どうするか……」
 箱の底に「MADE IN SAN SALVACION」その下に「HAND MADE」と……。
 サンサルバルジオン……開戦と同時に、エルジアに占領された中立都市。
 ちなみにここノースポイントは大陸の端の方に位置している。
 同都市はその反対側……つまり、同じ物は手に入らない。

 ちなみに、細工箱の中身の指輪は無事だった。無事だったんだけど……。
「これって本気で惚れてたって意味だよなぁ……」
 箱のレアリティも考えると、指輪だけじゃ駄目な気がして……。
「うう……サンサル解放までお預けなんてわけいかないもんなぁ……」
 レイピア12は、あれからたまに体操とか色々口実付けてあの河原に行ってる。
 まだ探してるんだ……だけど……さ。

 それが見ていてとっても辛い。
 辛いんだけど……こんなぐしゃぐしゃの箱見せたら余計辛い気がして……。
 今は12月……すっげ寒いのに……寒いのに……必死で川に入って……。

 でも、本人に言うのが、すっごい恐くって……。
『うう……どうしよう……』
『そんなこと言われても……』
 結局メビウス1に泣きつく事になってしまった。
 そして二人で悩む。

『これ……どうしよ……』
『一応……直したら、気付かれないよう部屋に転がすとか……』

 今、僕らはものすごーく悩んでいる。
『どう?パーツ合いそう?』
『工作はちょっと……』
 僕と、メビウス1は、あれからなんとか箱を直そうと四苦八苦している。
 これは、僕らだけの秘密。
 あれから結構たったけど……。

『レイピア12は……?』
『まだ探してるの……』
 予想より往生際が悪いよあの人ぉ……うう……。
 そんな日が何日か続いて……

「久々の出撃命令かぁ……そんなに大きな作戦じゃ無いんだよね」
 今回の作戦は、フェイスパーク地方にある太陽光発電所群への攻撃。
 この発電所群は原子力発電所並の発電施設を持ち、エルジアの軍需工業地帯の電力を約60%供給している。
 また石油やウランなどの原料を必要としないため、輸送路を遮断されても発電が可能。
 この深部攻撃は敵の生産能力を削ぐための作戦であるが、実は近々実行に移される上陸作戦から敵の目をそらす陽動作戦でもある。

 と、言うわけなのだけど、僕らにはもう一つ特別な意味がこの作戦にはあって……。
「少しすればレイピア6も復帰できるそうだ。しっかり戦果あげて来い!」
「了解!」

 今回の作戦は太陽発電所なので……。
「あの輝いてるのが目標の発電所か」
「空から見るときれいなんだがな」
 でも、今回の爆撃目標は他ならぬあの発電所……。

「ちょっともったいない?」
 太陽発電か……そういや前にもそんな任務が……。
「なぁなぁメビウス1。またアレやってくれよアレ」
『アレ?』
「良いですねぇ。私も久々に見たいですよ」
『???』
 メビウス……本気で忘れているのかな?
「ソーラーパネルのソニックブーム割り」

『……やるの?』
「整備士が怖いのか?」
 あ、メビウス1黙りこくった。
「前より良い機体だし大丈夫だと思いますけどねぇ」
『でも……』
「どうせ怒られるの僕らじゃないしぃ」
『……(汗』

 じゃ、全員で……
「行ってこーい!!」
『みんなで責任取ってくれよなーっ!!』
 とか言いながら超音速でパネルの上を飛んでいくメビウス1だったけど……

 ……し〜ん

「あれ?」
「不発?」
「もう一度行きます?」
「……メビウス1エンゲージ」
 ……はい?

 ばっきーん

「おいおい……時差で割っちまったぞあいつ……」
 そんな感じで、楽な任務……そのはずだったのに。

 それから、敵機全滅まではそんなにかからなかった。
 そして、その後に起こる悪夢まで。

「警告!ストーンヘンジからの砲撃だ。全機、南へ撤退せよ。高度は2000フィート以下に保て!」
「2000フィート?地面にはもぐれないぞ!」
「谷だ!谷に逃げ込んで高度を下げろ!」
 迂闊……ではあったか。ここはその射程範囲内。
 そして標高の高い高山地帯。

 もしかすると、仕組まれた罠だったのかもしれない。

「そんな狭いところを!自殺行為だ!」
 そう。飛行機で谷間を抜けるなんてまねは、よほどの事が無ければそうだ。
『行くしかない……!』
 精密さを要する、曲芸飛行士がこういうぐらいなのだから、どれだけ困難か解ると思う。

「みんながアンタみたいなんじゃない……」
 誰かが絶望感に囚われたような言葉を告げる。
「なら死ぬか?俺はご免だね!」
 撃ち落とされて死ぬか谷にぶつかって死ぬか。
 どっちもごめん。それには僕も同意だね。
 全機谷へ飛び込む。飛び込まざるをえない。

「弾数4、弾着まで15秒」
 そう言えば、まだストーンヘンジの驚異がどういう物なのか、具体的には言って無かったと思う。
「5、4、3、2、1、弾着!」
 響く轟音。
 青い空に咲く白い大きな光。
 そして……。

「何機か巻き込まれたぞ!」
「ヘイロー7,通信途絶!

ヴァイパー11とオメガ5もやられた!」
 次々と聞こえて来る訃報。
 これが、ストーンヘンジの驚異。
 射程内2000フィート上空に居た者達の末路。


「レイピア8、墜落!」
「オメガ11、墜落!」
 絶対的過ぎる力にせかされ、今度は谷にぶつかる人たちが出てくる。

 焦りを隠せない。それは僕にも当てはまった。
 死にたくない。だから必死に、でものろのろと谷を通って行くしかない。
「ストーンヘンジからのさらなる砲撃を確認」
 普通に飛べばすぐなのに、その時間が嫌に長い。
 腹の底が冷える。そんな感覚の中、操縦桿を握りしめて……。

「トーテム1!前方注意!!」
「えっ……」
 目の前に敵機……畜生……完全にハメられた……っ!
 駄目だと思った。
 怖いと思った。
 全部通り越して、何も考えられなくなった。

「メビウス1フォックス2」
「!?」
 悲痛な叫びが通信機から聞こえる中……僕もその一人を覚悟した中で聞こえた声。
『前方注意!』
「おっと……っ」
 岩をよける。再び青空に咲く白い花とあの轟音。
「ヴァイパー3、墜落!」
「レイピア4がやられた!」
「ヴァイパー11とオメガ5もやられた!」
 それに続くいくつもの悲痛な声。その一つには思わずぞっとしてしまうものもあった。
 僕は……助かった。後ろに回り込んだメビウスが、敵機を落としてくれていたから……。

『くそっ……っ』
「ちょ……どこに!?」
 そして、再び谷の外へ。続けざまに聞こえる撃墜音。
『これ以上……死なせない……っ』
「死にたくなければ谷から出るな。低高度を保て!」
 何をしようとしているのか……解ったんだ。だけど……僕は怖くて動けない。
 目の前の岩場をくぐり抜ける事に必死で……。
 青空に……また白い花が咲く……。

 すぐ後ろで……一機飲み込まれるのが見えた。
「レイピア12が巻き込まれた!」
「え……?」

 一瞬。本当に一瞬。全部が止まってしまったような……。
 何にも考えられなくなった。
 多分、安全空域の直前で無ければ落とされていただろうね……。

 ……初陣の日。帰ってきたときは安堵の余り降りられなかった。
 そして今日は……。
「おい。あと支えるぞ」
「あ……うん」
 部屋に置いて行ったあの小箱が、もう持ち主の元に戻ることはない。

 戻ってきたメビウス1は早速ゼロ1に殴られてた。
 イーグル1も無言のまま向こうを見ていた。
 整備士さんの雷も、今日ばかりは落ちなかった。
 どうすれば良かったんだろう。どうしたら良かったんだろう。
 解らなくなって、いたたまれなくなって、誰かといたくなって……そうなると手近なのはメビウス1で……。

 戦闘機のところには整備士さんがいた。
「おい。通訳」
「ん……何……?」
 渡されたのは消毒液とガーゼと……ハンカチ。
「メビウスの奴。手、怪我してる」
 そう言ってコックピットの方に視線を向ける。見て見ろと言うことだ。
「……メビウス……」
 操縦桿に、少しだけど血がついてた。どれだけ強く握りしめたのか……。

 すぐ近くで、さっきまで飛んでいた空を見上げるメビウスがいた。
 何て声をかけたらいいか解らなかった。
 そして、彼の方から先に口を開く。
『……遠くで見ると綺麗なのにな……』
 その一言の後、手の平の傷は更に深くなった……。

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