ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which drew a blue ribbon.

Mission6

無敵艦隊封殺

「はは……悔しいですぇ……いつも彼には今一歩どころか全然及びません」
 撃墜判定を出されたレイピア12がいつも通りの顔で戻ってきた。
 表情はごまかせても……声までは無理だったみたいだけど……。
「いきなりメビウスに標的定めるからだろーが」
「でも彼を打ち落とせるぐらいにはなりたいじゃないですか」
 ……黄色中隊を撃ち落とそうと思うなら……そんな言葉が、聞こえてきた。

 何となく、空気が気まずい。理由は、解ってる。
「……レイピア12……落ち込んでるね」
 誰が言ったのだろうか……真の誇りは戦果ではなく、友を無事連れて帰ることだと。
「戦争なら、いつか起こる事だ」
「……イーグル……この間は結構血気盛んだと思ったんだけど……?」
 あの時、仲間をはね除けてまでメビウスを助けに行こうとした人間の言葉には聞こえないよ?

「まあ、慣れって言うのがあるからさ。兄貴は黄色に落とされたし、世話になった先輩はストーンヘンジで散った。こっそり憧れていた人は撤退作戦の途中で流れ弾に当たって死んだ。二つ前の作戦でも一人やられたらしいし」
 さらりと告げられた彼の友人の死亡目録に、僕は二の句を告げなかった。
「悪ぃ悪ぃ。んなつもりじゃないよ。たださ、帰ってこない人間を思っても仕方ないんだよ……」

 あいつが割り切れたのは意外だったけどな。
 そう言って、イーグル1が空を指した。一瞬見えた寂しげな表情を振り払うように。
 メビウスが飛んでる。飛行機雲を引かない、戦場での飛び方で。
「……流石によ……俺だってそれをプラスの方向にはもっていけないぜ」
 あのあと、一度あった訓練飛行で、メビウスは目を見張る成績を出した。

 何だか……僕は半端者だな……
 レイピア12のように泣くことも出来なければ、イーグル1のように割り切ることもできない……。
 そんな……自己嫌悪でしか泣けない自分がもっと嫌だった。
 こんなに……苦しいものなんだね……。
「まあ、あの二人を良く見ておくんだな。何時自分にその時が来てもいいように」
 その時……自分が送られるときなのか、送るときなのかは……解らなかったけど。

 あの日から四日が過ぎた。
 今回の任務は、ノースポイントに基地を移して以来の最も大規模な作戦。
 今までの作戦は、犠牲は、全て今日の為と言ったっていい。

 エイギル艦の撃沈。
 空中回廊、石油基地。全部この艦隊の力を削ぎ落とすための作戦だった。
「気合い入ってるじゃねーの」
「当然。今日は、絶対に堕ちるわけにいかないからね」
 そう。ここでしくじったら彼女たちに申し訳が立たない。
「バカ言うな。今日だけじゃねーだろ」
「ごもっとも」
 出撃前から気合いが入ってるのは僕だけじゃ無いだろう。

 そんな僕とイーグルの横を何やらぶつぶつと呟きながらやってくるレイピア12。
「お前も今日だけは落ちるなよ」
「あ。通訳君。ちょうど良かった」
「?」
「俺は無視かよ……」

 もちろん、僕がいてちょうど良い状況何て言うのはあだ名の通り……。
「さっき彼に『いい顔しない』と言われたんですけど……最初の言葉は落ちるなって公用語で言ったのですが……」
 どうして聞けるのに喋れないかねぇ……て、発音も結構違うからかな?
 意訳と、その意図を伝えた。
「いい顔しないっていうのは彼女の事だね」
「そう……でしたか。そんな風に見えます?」
「そりゃあ夕日に黄昏てたらなぁ」
 イーグルは、徹底的に無視されていた。
「アレやっぱり不機嫌だよー」

「すべてのターゲットへの攻撃を許可する!無敵といわれたエイギル艦隊を沈めろ!幸運を祈る!」

「あいつらみんなお休み中だ。今の内に叩きつぶしてやろうぜ!!」

 今回は、色々な意味で心臓に悪い日だった。
「何やってるレイピア12っ!!」
 ことある事にレイピア12が無茶をしてくれるから。
「支援感謝しますよ。イーグル君」
 弾幕に突っ込んで良く無事だったよ……。

「撃っていいのか?これは訓練じゃないのか?!」
「だめだ、味方機がほとんど上がっていない」
「味方だ!味方を撃つな!」

 幸いと言うべきなのか、奇襲戦同様の今回。
 突出したレイピア12の行動は敵軍の混乱を更に招く結果になった。

「信じられん。エイギル艦隊が沈んでいく」
「無敵の艦隊がやられるぞ!」

「イージス艦レイヴン撃沈。メビウス1、補給に向かう」
 僕等は殆どレイピア12につきっきりに近かった。
 何となく、そうしないと彼はこのまま落ちてしまいそうで……。
「トーテム1、一機撃墜。まさかと思うけど、囮なんていらないからね!」

 誰かが落ちるのを、もう見たく無かったと言うのが本音だった。

「空軍はどうしたんだ!」
「撃っていいのか?これは訓練じゃないのか!?」

 でもそれは、向こうだって同じ事で……。
「トーテム1、フォックス2!!」
 何故戦争なんて起きるんだろう?なぜエルジアは侵略なんて手段を選んだんだろう?
 隕石ユリシーズの時は世界各国が一致団結したのに、脅威が消えたらこうなるのか

 頭の片隅で、子供が言うような戦争非難を並べながら、僕の手は艦隊を一つ沈めていく。
 ここで散っていく敵兵に思いを馳せながら、レイピア12の後ろに付いた戦闘機を一機落とした。
 侵略なんて嫌だ。自由が欲しい。だけど、それだけで正義なんて軽々しく言っていいのか?
 そんなことを考えながら、口から零れる言葉は……
「機体の調子がいい。生き残れそうだ」

「メビウス1!無茶だ!!」
「!?」
 レーダーに、並ぶ地上砲台と、メビウス1が見えた。
「弾幕に突っ込む気か!!」
「メビウス1、フォックス2!!投下!!」
 不安は、杞憂に終わった。軍人でなかった彼は、何を思ってここに来たんだろうか……。
 それが、彼には聞こえたんだろうか?飛び方は、僕の心情を反映していたのだろうか。
『取り戻したいものがある』
 だとしたら……僕は……。

 無敵艦隊の最期は、あまりにあっけないものとなっていた。
 時間の流れも彼等に味方はしなかった。

 砲撃の止んだ空に、誰にともなく口ずさみ始める……歌。

 紺碧の空と緑豊かな大地が果てしなく広がる
 この地には 勇気と力強さに溢れた 自由と正義に充ち満ちている
 我らは最後まで戦う 我が祖国の自由のために

 僕は、一緒に歌う気にはなれなかった。
「正義……か」
「何やってる。お前らも歌えよ」
 イーグルにせかされても……ん?お前ら?」
「やめとけー。そいつ、音痴だから」
『人のこと言えない癖に……』
 はは……天は二物を与えずということか……それとも心情を察したゼロ1の嘘かな?

 ただ、レイピア12は、何かを振り切るように、喉が裂けるのではと言うほどに、声高らかにその歌を口ずさんでいた。
 でも、それはどことなく、レクイエムに似た口調が、嫌に印象深かった……。

 空に高らかと響いた歌。
 その余韻は、基地に帰ってなお残っていた。
 健闘を称え合う者、撃墜数の自慢を始める者。色々だ。
 無敵艦隊の撃沈。
 この大きな偉業に、自軍の不利は変わらぬにも関わらず基地中が盛り上がってる。

 そしてそれは、僕等の所にもやってきた。

「お。揃ってるな」
 ゼロ1が、機嫌の良さそうな顔をしていた。
 最初の吉報は、メビウスが今回最高の撃墜数を上げたと言うこと。
 まあ、これはほぼ日常化しているから問題ない。
 もう一つの吉報。それは……。

「レイピア6、帰って来るぞ」

 簡単な理屈だった。彼女は、脱出はできていたのだ。
 ただ、あの状況で後ろを振り向ける人が誰もいなくて、機影がレーダーから消えた。
 それを、撃墜されたと判断されても仕方なかったんだ。
 ゼロ1の話だと、ちょっと紐を強く引っ張ると膨らむゴムボートと、小型のモーターをいつもセットで彼女はコックピットに置いていたらしい。
 流石に漂流していたわけだから少し様子を見ないといけないらしいけど……。

 その言葉に、僕等は暫く何のリアクションも取れないでいた。
 長い……と、勝手に思っていた……沈黙が開けると……。
「「『やったああああああっ!!』」」
 当然の事ながら沸いた。
 イーグルにはヘッドロックかまされるしメビウスにはこれ以上無いほど腕掴んで振り回すし。
 で、そんな中……一人走り去っていく影が……。

「おーい。レイピア12何処へ行く〜」
 何故か彼一人だけどこかへ去っていく。
「おいおい。一番喜びそうな奴がどっかいっちまったぞ?」
 ひょっとしたら、感極まって一人で泣くんじゃないかなーって……思っていたら、ゼロ1がさ。

「おい。通訳。お前ちょっと見てこい」
「えっ」
「うん。お前適任」
 イーグルまで……あーあー皆さんお好きな事で。
 結局斥候は僕だったりするんですか?
『言って来て』
 ううう……メビウスまで……結局行きました。ええ行きましたとも。

 何とか見つけた場所は河原だった。まだ冷たい水の中でレイピア12が何か探している。
「あ、通訳君ちょうど良かった!!」
 何となく……嫌な予感がしないでも無かった……。

 そして、そう言う予感というのはすべからく当たるわけで……。

「撃墜されたからって即日投げ捨てたりなんかするからだよ〜っ!」
 小箱をあの日ここに投げ捨てたと言うのだ。
 特徴としては指輪の入っているアレより一回り大きい表面に彫り込み細工のある箱だとか。
 まあ、中身は本当に、指輪なんだろうけどね。
「解ってます。解ってますってば……一日も経たない内に……希望は、かなぐり捨てちゃいけないものだったんです」

 小箱は結局見つからなかった。
 深い川じゃ無かったはずなんだけど、やっぱり、日数かな。
「簡単に諦めた報いなのかもしれませんねぇ」
 嬉しいんだけど、泣いてる。そんな声を最後に引き上げる彼を見送って、僕も帰ろうと思った。

パキン♪

 ……ん?パキン?

 恐る恐る音のした場所をを見るとそこには……
 見事な細工箱を、見事に踏みつける僕の足があった。
「……うわ……どうしよう……」

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