ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which drew a blue ribbon.

Mission1

張り子の基地

「……僕達……大丈夫なのかなぁ……」
 こんな気分なのは、何も僕だけじゃないと信じたい。
 エルジア軍に追われ追われて追いつめられたノースポイント。
 正直、この劣勢をどうにかする手段なんて考えつきもしない。

 これまでの敗走劇を思い出す度にそう思う。
 あの時の……当時のエースだったゼロ1が負傷で引退せざるを得なくなったとき……
 この戦争の勝敗も決まってしまったんじゃないかってさ……。

 総司令部を張り子の基地なんて言ってたけどさ、僕等の部隊だって張り子具合は負けてない。
 ほぼ全員が新兵。実戦経験なんて殆ど無い。
 あのゼロ1が管制機を預かることになったって言うけど……
 正直、不安でたまらない。やっぱり死にたくないんだ。

「お前のコールサインはメビウス1だ」
『……了解』
 かつてゼロ1を救い、彼の推薦でこの隊に入ってきた男のコールサインが決まった。
 戦闘技術をゼロ1直々に叩き込んだと言う新人パイロットは嫌がおうにも噂に登った。
 嫉妬混じりの嫌みを含んだ噂も結構聞いた。
 仕方ないとは思うんだけどね。余り表情を変えない整った顔に鋭い目つき。
 声を掛けても少し返事をするだけで殆ど喋らないっていうんだから。
 で……よりによってそんなのが隣にいたら、正直な所怖いです。

「お前のコールサイン。トーテム1な」
「えぁっ!?」
 その後決まった僕のコールサインに対する返事がこれだった。
「なんでっすか……」
 垂直なラインのてっぺんに輪を乗せて、左右に翼が付いている僕のエンブレム。
 なんでも、それを見て真っ先に連想したのがトーテムポールだったそうで……。
 本当は僕が所属するはずだった中隊。名前さえ告げられる前に、全員が帰らぬ人となった。
「あー、天使のイメージだったのかぁ。悪いが俺はカミさん以外のそれも野郎を天使何て呼びたかねぇ。悪く思うなー」
 そ……そんな理由でトーテムポールなんてイロモノ連想するようなコールサインにしないでくださいよ〜……

 あんな理由でコールサインが決まったのは僕だけだった……。

 格納庫に入る直前までゼロ1を救った男……メビウス1は隣にいた。
「うう……トーテムかぁ……」
 別れ際、同情するように軽く肩を叩かれた。良かった……噂よりは良い人だ。

 などと考える間もなく僕等の隊は目的地に到着していた。
「こちら管制機スカイアイ、聞こえるか?まもなく爆撃機が見える、全機撃墜せよ」
 今空中管制機から僕等をナビゲーとしてくれているのはゼロ1。
 相当無茶を言ったという噂もあるが、かつてのエースがそこにいてならない理由も説くに無かった。
 スカイアイから当たり前の用に指令が伝えられた後……ゼロ1から激励が伝えられる。
「今日は俺の誕生日だ。勝利をプレゼントしてくれ!」
 んなこと言われたら頑張らないわけに行かないじゃ無いっすか……。
 通信機を通じて、気合いを入れる同僚達の声がする中、ぽつりと公用語でない言葉が混じった。
『……嘘つけ』
 メビウス1のものだった。昔僕がホームステイに行った国の言葉だった。
 多分、聞こえはしただろうけど僚機の誰もその意味には気付いて無いんだろうな。
 文法が公用語とは大分違う言語だったから。
 それに応えるようスカイアイも同じ言語を小声で呟く。
『いやマジだから』
 緊張が和らいだ所で、スカイアイは仕事に戻った。
「メビウス1。エンゲージ(交戦)」

 そして、それとほぼ同時だった。
「メビウス1、フォックス2」
 スカイアイがメビウス1のミサイルの発射を告げる。
 同時に爆撃機が二機空の藻屑となって消えた……。
「早い……」
 誰よりも誰よりも早く飛び、そして誰よりも早く戦果をあげた。
 無防備に前に並んでいる敵の迂闊さを差し引いても新兵とは思えなかった。
 あの早さで飛んで……ああも簡単にミサイルって当たるのか。
 ……これがゼロ1の指導の結果なのか……?
 そのままの速度を維持してレーダーからさらに二機が消えた。
「ターゲット、残り2」

「護衛機!何やってる!」
「こちら1番機!くそう、まだ爆弾を抱いてるのに! 」
 ISAFの誇る傍受システムから爆撃機の通信が聞こえてくる。
 爆弾を抱いたまま被弾したそれは炎を上げ、それがそのまま断末魔になった。
『落とせた……』
 意外そうな声。その一方で、既に次の敵機を探し始めている。

「上空で護衛機の展開を確認。各自注意しろ」
「了…うわっ!!」
 返事をする間もなく機体にバルカンの弾が降り注ぐ。
 ダメージを知らせる%が一気に30も増えやがった。
 くそっ!!メビウスに対処出来なかったはずだ。奴ら高高度から見張ってやがった。

「注意、ロックオンされた!」
「えっ……」
 上空から回り込んで来た敵が、いつの間にか僕の後ろにいた。
 さっきの精度で当たるとしたら……いやだ……まだ……っ!!
「トーテム1、上へ」
 聞き慣れない、冷静な声。
 訳が分からなくなって、声のまま上昇した。操縦桿を引きすぎて宙返りしたときに見えた。
「メビウス1、フォックス2」
 自分の真後ろだった方向で敵機に翻弄される味方。
 真上の海に、パイロットが脱出して、直後に爆発する敵機。
 そして少し遠くに、味方機を援護する、青いリボンのエンブレムが見えた。
 声の主は……彼だったんだろうか。

「トーテム1、いつまで背面飛行している。お前今フリーだ。爆撃機を撃ち落としてこい」
「了解!!」
 メビウス1が二機の敵機を引き付けている。冒頭で上げた戦果を警戒したんだろう。
 ……戦闘中に見とれたり取り乱すような僕は眼中に無いよねぇ……。

「逃がすなよ。今日戦争が終わっちまうぞ!」
「やつら、行きがけの駄賃にアレンフォートを爆撃するつもりだ」
 くっそ〜成績ぎりぎりの僕になんでこんな大役回って来るんだよも〜っ!!
 でも僕がやらないと……町が爆撃なんてされたら……。
「トーテム1、市街地上空を通過」
 それから一呼吸も置かないうちに爆撃機が二機。こんな所まで来てるのか。
「トーテム1、フォックス2!!」
「ミス!」
 メビウス1のようには行かないか……でも一個当たって落ちた。
 かなーり派手に爆発した。前の4機に比べて派手に。こいつらが本命か……。

「こいつらしつこいぞ!」
「ちくしょう、振り切れない!」
 後方じゃ、相変わらず味方が四苦八苦してる……護衛機が全部向こうに行ってるのかな。
 後方の敵が上空にいたぐらいの違い。さっきのメビウスも同じ状況だったんなら……。
 Uターンして、最後の爆撃機を仕留めにかかる。
「後方に注意!」
 ……すっげー嫌な予感……。

「そのひよっこはエースに相手をさせろ」
 敵の通信傍受。
 こんな後方単独で飛んでいると言うことは、それだけ腕の立つ人なわけで……。
「避けろトーテム1!こっちまで来い!!」
「ごめん!爆撃機無理だ!!」
 くぅ〜敵エースかよ〜ダメージ%がじりじり上がってく。
 遊ばれてる。このままじゃ混戦空域に着く前に落とされる。
 それどころか追い回されて爆撃機の周りを回ってる……なぶり殺しかよ……。
 脱出ボタンに伸びそうになる手を叩いた。こんな時に片手開けるなんて自殺行為だけど……。

「メビウス1が敵機撃墜!」
「ナイスキル!」
 立て続けに聞こえた声。良かった……向こうから応援が来……。
「当たらねぇっ!!」
「え……」

「護衛部隊。向こうもエース一機だけか!」
「ちくしょう。何て奴らだ!」
 流石に敵も焦ってる……だけど、もう一人のエース機に手間取って応援は無理って事……。
 ミサイルがかすめた……ダメージ%がもうすぐ80に届く……。
 勝てる戦なのに……僕だけここで死ぬのかな。

『護衛機はこっちで引き受ける! 』
 公用語じゃない言語。メビウス1が、こっちに来る。
 彼に狙いを定めていた向こうのエース機は当然のように追いかける。
「全機に継ぐ、メビウス1が爆撃機撃墜に向かう。サポートしろ」
 スカイアイが、即座にそれを通訳する。

「メビウス1!避けろ!!」
 通訳の間が惜しい。ミサイルが撃たれた。
「イーグル1敵機撃墜!頼むぞ!!」
 だけどそれに応えた僚機が、メビウスに気を取られていた敵エースを撃墜した。
 同時に、僕を追い回していたエースも撃墜された。
 僕のギリギリをメビウスを狙っていたミサイルが掠める。
 ……後ろのミサイルを避けながら、僕の後ろの敵を落としたらしい……。
 とりあえず護衛機は全滅……これなら。

「投下!投下!」
「止めろ!」
 くそ、護衛を無くしてヤケでも起こしたのか!!
「トーテム1、フォックス2!!撃墜!!」
 爆弾が全部落ちてく……よりによって市街地かよ……。

 ボロボロの機体じゃそれを見送ることしか……。
「え……」
 その横をほぼ垂直に急降下する機体があった。
「メビウス1?」
 爆弾は空中で破裂し、その炎の中を突っ切っる、青いリボンのエンブレム。
 スカイアイの、あっけに取られた声が聞こえた。
「何て奴だ……落下中の爆弾に一発で当てやがった……」

 今回の戦闘は、一人の犠牲者を出すこと無く終わってくれた。
 滑走路に無事着陸して、降りる前に操縦桿に頭をもたれかけた。
「良かった……」
 まだ心臓がドキドキする……初陣って、誰もがこんな気分なんだろうか。
「おーい。後が支えるぞ〜」
「あ、はいっ!!」

 で、降りて真っ先に、メビウス1を探しにいった。
 彼のことだから僕より早く戻っていると思うんだけど……。
「あ、いたいた」
「……?」
 格納庫前でぼ〜っとしてた。声を掛けたら目が丸くなった。
 なんだ。結構リアクション面白い奴じゃん。

『さっきはありがとう。お陰で助かったよ』
『あ、うん』
 彼の母国語でお礼を言う。
 ぎこちない返事が返って来たところを見ると、口数が少ないのは元からのようだ。

『公用語、苦手?』
『ゼロ1から、軍事用語とか色々教わりはしたけど、文章が組めなくて』
 ちょっと意地悪をしてみる。
「じゃあ聞く分には?」
「問題ない」
 と、公用語で返すと『通信傍受内容もちゃんと解ったからね』と、続いた。

『さっきの凄かったね。初陣でエースになっちゃったじゃん』
 5機以上を落としたらエース。それが慣わし。
 うち4機は動きの遅い爆撃機だったけど、護衛機を3機。十分だろう。

 ……ただ、これは話題に出すのはまずかったらしい。
『……死んだんだよな……』
 僕の言葉がたどたどしいから解らないと思ったのか……
 それとも自分の言葉を聞ける人間がいて安心したのか……

『じゃあ何もせずに撃ち落とされるの?少なくとも僕はそこまで殊勝じゃない』
 初陣を飾ったエース。だけど、今日始めて戦場に出た、新兵でもあった。
『ん。解ってる。でも、だから忘れないでおきたいんだ』
 彼の焦げ茶の髪を束ねる白縁の青いリボンが、寂しげに揺れた。

 ……なんて感傷に浸っていたら……
「ちょっと!そこの二人っ!!」
「うわっ」「っ?」
 女性整備士が真後ろに立ってた。ツナギ姿で偉く気の強そうな子だ。
「メビウス1とトーテム1だね?」
 お互い顔を見合わせて首を縦に振る。
 何かあったのかな……って、僕は間違いなく修理費のことだろうね……。
 メビウスは……おっかけかな?女の子が好きそうなキャラしてるし。

「これ、二人の修理費だ。仕事ふやさねーでくれよ。せっかく整備したんだから大事にしやがれ。じゃあな」
 と、思ったら淡泊な……って、メビウス1も被弾したのか……やっぱ世の中そんな……
『……メビウス1……この修理報告は……』
 僕は案の定バルカンの弾やらだったんだが……メビウスのはというと……。
『突っ込んだのまずかったか……』
 戦闘の最後に、弾打ち込んで破裂させた爆弾の炎による損害だった。
『突っ込まずにすんだんなら今後はやめようね……』
『ああ』

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