ACE COMBAT 04 shattered skies
The contrail which drew a blue ribbon.

Prolog

リボンを描く飛行機雲

『……遠くで見ると綺麗だな』
 彼は、降り注ぐ無数の星を見てそう呟いた。それが始まりであった。

 ユリシーズ、そう名付けられた巨大な隕石。ストーンヘンジ、それを砕くため作られた大砲。
 星は砕かれた。50万の命が奪われると言う歴史的な悲劇と破片を遙か上空に残して……
 そして5年後、その大砲は、大国「エルジア」に奪われ、対空砲として空を支配している。
 その暴挙に対し、各国はISAFという共同戦線を張った……。

 その日、一人の青年はのんびりと、湖畔に船を浮かべていた。
 そこからその鋭い瞳で幾重にも螺旋を描く戦闘機に反射する光を見ていた。
 その光が、消えては黒い煙を引いて落ちていった。
 そのうちの一つから、パイロットが脱出したのを彼は見逃さなかった。
 主を失った機体が、民家に直撃したのもしっかりと見ていた。
 彼がパラシュートの落下点にたどり着くと、パイロットが酷い傷を負っていた。
「このまま死なせてくれ……」
 民家に自機を落としたことを言っているのだろう。
 しかし、そこまで考える余裕が無かったことは見て取れる。
 しばしの沈黙。重傷のパイロットを見据えて尚青年の目に感情が宿る気配はない。
 その青年は首を振った。
 無理にでもパイロットを安全な場所まで運ぶことを承諾させた。
「……生きて償えってか……」
 青年は首を傾げた。パイロットを担いで行く途中、それを撃ち落とした主を見つけた。
 黄色の翼に、13の文字がよく見えた。それは白い飛行機雲を描くと彼方へ消えた。
 それを見て、パイロットは青年を見る。パイロットは気付いた。青年の素性に。
 飛行機に乗る者には、知っている者も多かった。
「……お前もパイロットになるなら……ああ言う男になれよ」
 一つの家族の幸せと引き替えに生き延びようとした俺に「馬鹿野郎」と叫んでくれた男のように。

 青年の名は「早乙女 氷雨」
 数年前に、小さな曲芸飛行士として世間を賑わせた男だった。

 対空砲としての真価を発揮したストーンヘンジとそれを守る5機の部隊。
 部隊は全滅。大陸最北端、ノースポイントまで追いつめられることとなった。
 その撤退していくISAFに、何故氷雨がついていったのかは定かではない。
 重傷を負ったパイロットを見届けるためか、彼自身が戦争によって行き場を無くしたのか……。

 そして、今や大陸のほとんどを手に入れたエルジア軍は、大陸東部に爆撃機を配備。
 ノースポイントを陥落させるべく準備を整えつつあった。

「本当は、お前まで飛ばしたくはなかったんだがな」
 既に引退したパイロット……かつてのコールサイン・ゼロ1……はばつが悪そうに言った。
 ゼロ1自信は氷雨を巻き込みたく無かったのだが、氷雨自信が希望した。
 最初は、ただの暇つぶしであった。軍用語、航空のノウハウ、それらの知識を与えたのは。
 しかし人材の不足は、そこまで押し寄せていた。
 その瞳に相変わらず感情はなく、生死を分かつ場所へ飛ぶようにとても見えなかった。
 氷雨は気にしていないと言うように首を傾げると、明日自分が乗ることになる戦闘機のエンブレムのイメージを見せた。

 彼の髪を纏めていた白く縁取りがされた青いリボン。
 それを途中で半回転捻ってメビウスの輪を作り、更にそれを8の字に捻るデザイン。
 白い縁は、エンブレムの中で飛行機雲に姿を変えていた。
 いつぞや彼自身が、そしてあの日の黄色の13が、真っ白な飛行機雲で描いた青いリボン。
「メビウス1」
 それは、後にエルジアから死神と恐れられ、ISAFからは勝利そのものと称えられることになる。
 そして、氷雨自身の、新しい名でもあった……。

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