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 見上げる空は真っ青ニャ。
 前を見ても後ろを見ても真っ青ニャ。
 ついでにここは大海原ニャ。
 時計回りに体を動かすと、ボクの右側で水平線が途切れるニャ。

「どんぶらニャ〜どんぶらニャ〜」
 暢気に歌ってるのはメラルー柄の相棒ニャ。虫網背負った友達ニャ。
 今日は虫取りに来たはずだったのニャ。
 帰ったら一杯やって腕相撲に興じるはずだったのニャ。

 ソレがどうして今、大樽に入って漂流してるのニャら……。


   ――――『どんぶらニャ』―――

 さっきも言ったけど、今日は虫取りの予定だったのニャ。
 ランゴスタはこないだ駆除されたばっかりだから安全だと思っていたのニャ。

「流石にダイミョウザザミも追い掛けて来ないニャね」
 うん。アレはどう見てもヤドカリニャ。泳げる体つきじゃ無いニャ。

 そのザザミをやり過ごそうと思って見つけたのがこの樽ニャ。
 ハンターさんが大樽爆弾フル持ち込みしようとして余ったんだろうニャア。

 おっきな竜骨で作った樽は頑丈ニャ。
 ザザミの鋏もなんのその。ザザミの水ブレスもなんのそのニャ。
 軽くて丈夫な……って、軽すぎたのニャ。
 水ブレスにぶっ飛ばされてこの様ニャ。
 て言うかボクら密林にいたのにここは見知らぬ海原ニャ。

「ガノトトスが出たらどうしよニャ」
 奴は淡水魚だから来れねーニャ。
 重ね重ね言うけどここは海ニャ。
 飛び散った水がしょっぱかったから間違いないニャ。

 どんぶらニャ〜どんぶらニャ〜。
 あれからどれだけ漂流したかニャ。
「お腹が空いたのニャ〜」
 ボクがあえて黙っていた事相棒が言いやがったニャ。

 食べ物は現地調達の予定だったから持ってきて無いニャ。
 肉焼きセットはザザミから逃げる時に置いてっちゃったニャ。
 て言うかここで火をおこしたら……竜骨製だし大丈夫かもニャ?
 イニャイニャ、ボクらも一緒に焼けちゃうニャ。

 我慢して耐えるしかニャいと思っていたのニャよ。それが……。
「そうニャっ!」
 相棒が目を輝かせてる時はロクな事が無いのが常だニャ。
「コイツで魚を掬えばいいニャー」
 そう言って取り出したのは虫網……て、ちょっと待つニャ。
 ここから海に虫網突っ込むには体を乗り出さないといけニャ……。

「ちょっと行って来るニャ」
 やーめーるーニャーッ!!

 どんっ。
 どっぼん。

 ……勢い余って突き落としちゃったニャ。テヘ♪

 ボクは悪く無いニャ。悪いのはバカをやろうとした相棒ニャ。
 アイツ泳ぎは得意だから自力で戻って来るニャ。
 ほら、もう樽に手がかかって……。

 ぐいっ。
 くるっ。
 どっぽーん。

 ニャギャアアアアアアアアアアッ!?
 溺れるっ、溺れるニャアーッ!!
 おぶぶぶぶぶぶ……。

「しょーがねーニャア」

 ……相棒に助けられて事なきを得ましたニャ。
 やっぱり持つべき者は友達ニャ。

 でも、どっちにしろ樽は横倒しニャ。
 何とか入り込んで縦に出来たけど水浸しニャ。
 毛並みに水が染みこんで気持ち悪いニャ。
 うー……肉球じゃうまく水を……あ、お魚入ってたニャ。ラッキーニャ。

 でも、一匹ニャ。
 爪で三枚に下ろしてどっちが身の多い方食うかジャンケンなのニャ。
 ……負けたのニャ。

 相棒はたまに魚取りに行って帰っての繰り返しニャ。
 釣果はナッシングニャ。そう都合良く魚が居るはず無いのニャ。
 ……ついでに、帰ってくる度樽ひっくり返されるのも勘弁ニャ。

 とうとう日も暮れて来たニャ。
 相棒の魚取りはやめさせたニャ。
 幾らボクでも一人で漂うのは精神衛生上良くないニャ。
「なぁ〜腹減ったニャ〜……」
 そんニャのボクも一緒だニャッ!

 何とかの日のつるべ落としニャ。
 あっという間に真っ暗になったニャ。

 船乗りは月や星を見て方角や位置を割り出すらしいニャ。
 ボクらにそんな芸当は出来ないけれど、ここが見知らぬ土地なのは解るニャ……。
 あ、海だから土もへったくれも無いニャ。
 星空は綺麗だけど、出来ればお腹いっぱいの時に見たかったのニャよ。

 相棒は相も変わらず海を見てるニャ。
 この真っ暗闇で魚影なんて見えるはずねーのニャ。
 ついでに陸地があっても人里でなきゃきっと見えないのニャ。

 そろそろ諦めて眠ってしまおうかと思った頃ニャ。
「アレ、アレ見るニャ!!」
 相棒に髭引っ張られて目が醒めちゃったニャ……。
 一体何……ニャア!?

 ……相棒の指さした先には、ちょっと信じられない光景が広がっていたニャ。
「凄いニャ……」
 凄かったニャ……。

 ……夜の海が、そこだけぼんやり光っていたのニャ。
 時に強く、時に弱く、延びたり縮んだり動いたりしながらニャ。
 しばらくみとれていたボクらは、気がついたら必死に樽を漕いでたニャ。
 ……手で。

 所詮猫の手ニャ。
 段々弱々しくなっていく光は、そのまま消えてしまったのニャ。
「……消えちゃったニャ」
 消えちゃったのニャ。また真っ暗闇ニャ。
 ……そう思ったのニャ。

「あ、何かあるニャ」
 相棒の指さした先、海の中から、小さな光が浮かんできたのニャ。
 その明かりに照らされて、人の影が見えた頃かニャ。
 光の正体が雷光虫閉じこめて密閉したカンテラニャって気付いたのは。

 最初に見えたのは、海水に濡れた髪だったニャ……。
 少し長い髪の人間。
 海から浮かび上がるその姿は、まるで女神様のようで……。

「助かったニャアーッ!!」
「うわわっ!?」
 ボクと相棒、二人でしがみついちゃったニャ。

 んでこの人……男と解ってちょっとがっかりしたニャ。
 ついでに浮かび上がってきたのは青くておっきな竜であってこの人は乗ってただけニャ。
 でもこの人……ハンターさんがが狩ったらしいニャ。
 こんな真っ暗闇でよく狩りが出来たニャアって聞いたらだニャ。
「いや……もう時間切れとか悠長なこと言ってられる状態じゃなくてさ……ははは」
 ……漂流の乗り物が、竜の死体になっただけだったのニャ。

 ま、食べ物は足下にあったし翌朝には丘の見える場所に流されてたんだけどニャ。
 ハンターさん?
 もちろんこってり絞られたニャ。

 それからあのハンターさんにお世話になってるのニャ。
 今の問題は、どうやってウチに帰るかなんだニャア……。

「ご主人ー今日は何処の狩りですかニャー?」
 ……相棒は、なーんも気にしてないっぽいけどニャ。