温暖期、晴れた日のお昼時。
 ドンドルマ図書館の一角。

 この場所には不似合いな人物が二人、偶然その場に居合わせた。
 一人は赤と黒を纏った蒼髪紫眼の少年。もう一人は漆黒を纏った男。
 先に口を開いたのは後者の方。
「なんだ、その嫌そーな顔は」
「平時に顔を合わせるお立場ですかね?」
 蒼髪紫眼の返事は即答だった。

 最上位とはいえまだ十代の少年ハンターとギルドナイツ筆頭。
 場所も場所なら組み合わせもまた、それしか知らぬ者が見れば不似合いだ。
 
ギルドナイツ筆頭が笑う。
「じゃ、ご期待に添えて厄介事でも頼もうか」
 少年の顔が強ばる。口の奥から、何か言葉が出そうで出ない少年。

 ……先日少年に降りかかった災難を思えばその気持ちも汲めよう。
 それは例えば、二人に気付いて首をかしげる銀青虎の司書ネコのように。

 そして司書はふと気付く。
 そう言えばこの二人。
 常連同士なのに、ここで鉢合わせたことがなかったなと。

「そうか。まあ、今は好きにした方がいいかもしれ……」
「いーえ、頼まれた以上受けましょう。どーせ暇ですから」
 司書の恋敵だった少年は、僅かな不幸に甘えないことにしたらしい。

 それがまた、ちょっと違う不幸を招くとも知らずに。


   ――――『騎士の娘、マラソンに出る』―――

 私、マイラ=グローリーは今、我が身の不幸を噛みしめています。

 人生の幸不幸は心一つ、なんて言う人はよくいます。
 ですけど、その時不幸だと思ったら、やっぱり人は不幸なんだと思います。

「ねえ、マイラちゃん、ほら、肉球肉球」
 ミケ姉さんのプニプニとした肉球も、
「と、とりあえずコレでも食べて、さ」
 ラウルさんお勧めのコロコロッケも、私の心を癒してはくれないのです。
 どうして……どうして……。

「私が狩りに行く時に限って、ディ君いないんですかぁーっ!!」

 どうせなら、どうせなら笑い飛ばして行こう思ったんです。
 だから、ハンターの登竜門とも言われるクックさん、彼と一緒に行きたかったんです。
 それで、気を引き締めてお誘いに行きましたら……お父さんと一緒に……お仕事……お仕事……。
「あンのクソ親父ーっ!!」
 その辺に八つ当たりしても破れないおやすみベア。流石です。
 傷一つつかない闘技場の壁もたいしたもんです。

「んでさ、どうして代わりの同行者が僕になるかな?」
「うふふ。だってラウル君、暇でしょ?」
 いるのはミケ姉さんとラウルさん。
 結局、ずっとこのメンツで狩り場に出向いてる気がします。
 彼の入るスペースはいつでも取ってあるんですよ?

 ラウルさんはいつも通り赤い羽帽子に、炎龍の籠手と具足に赤い皮鎧です。
 背負っているのは……大きな鋼の銃、という所でしょうか。
 中折れ式の断面がレンコンぽくて微妙に美味しそうです。でも鋼。

 今日のミケ姉さんはカイザーN(ネコ)セットでフル武装。
 赤いドレスみたいな鎧と頭にちょこんと乗った冠は可愛いんですけれども。
 ……材料は、彼の顔にあの火傷を負わせた龍さんの甲殻だそうです。

「ミケ姉さん、前にハンターは無理とかしおらしい事言ってませんでしたっけ?」
「うふふ。そうだったかしら?」
 月刊狩りに生きる、働くアイルー特集で、駄目とか言ってませんでしたっけ?

「いやその前に、オトモ制度もあるのに何でいきなりハンターと同等の扱いなのさ?」
「うふ。実績♪」

 あれ?
 ラウルさんがうつむいて、肩振るわせて……。

「あんのネコ馬鹿ーっ!!」

 吼えました。吼えてその場に蹲りました。
 なんだかもの凄くレアな光景のような気がします。
「大丈夫ですか……」
「うん……大人の世界のヒエラルキーって奴ね……」
 ラウルさんも大変ですね。

 まあいいです。クックさんやっつければ、一人でも行けるようになるんですから。
 彼はお母さんから止められていて歯がゆい思いをしていたそうです。
 私のお父さんはホラ、ご存じの通り変なところでドへたれですから。うふふふ。
 彼と一緒に行けるようになればきっともう邪魔はありません。うふふふふふ……。
「マイラちゃん……ニヤケニヤケ」
「おととと……いざ、クックさん爆殺!!」
 色々やけっぱちです。

 と、気合いを引き締めて来たのはいいんですが……。

 酒と、料理と、火薬と、ホリーさんのコロン、その他諸々の匂いの充満する集会場で、
「マイラちゃんが受けられそうなクック先生、入って無いのよ」
 私の半径50pだけ空気が凍り付いたようでした。
 近々異動が決まったというシャーリーさんの、申し訳なさそうな顔が余計辛いです。

 意気消沈な私の代わりに口を開いてくれたのは、意外な人でした。
「乱獲とかその手の被害、先生は無かった気がするー」
 ラウルさんです。

 曰く、先々月に一つ密猟が摘発されたものの、クエストが無くなるほどの被害は無いと。
 特に災害や極端な気候の変化に見舞われたわけでもなく……。
 ううむ。流石ギルドナイツという所でしょうか。意外と頼もしく見えます。

「ところでミケ姉さん、先生って何ですか?」
「うふふ。ハンター誰もが最初に戦う飛竜だし、みんなが学ぶ基本がクックにはあるのよ」
 基本……ですか。でも、最弱なんですよね。
 もちろん、飛竜なので気を緩めてはいけませんが。

「別に狩りを自粛するような事にはなってないんだけど……」
 シャーリーさんがカウンターの下からなにやらごそごそと。
 ややあって、ドサッと乗っけられたのは、依頼書の山。
 正直、内容いかんに関わらず、全部一日で処理しろと言われたら死ねそうな量です。
「こ、これは……」
「全部……」
「はい。クック先生です」
 横でミケ姉さんが、カウンターの上を見ようと必死です。

 身軽なミケ姉さんでも、カイザーセット装備では飛び上がるのはきついみたい。
 こういう所に未だ人間優位の社会を感じてみたりします。

「それにしても、これはまた……大老殿の方はそうでも無かったのに……」
「どいつもこいつも、つい最近巣立ちしたてのピッチピチだから、全部下位扱い」
 ラウルさんが引き気味って実は凄いことだと思います。
 ヘラヘラなだけじゃ無かったんですね。
「外敵もつい最近盛大に狩られちゃったし、そのせいか……」
「クックは逃げ出してもスルーされちゃってたから、その分も噴出してるんでしょうね」
 ……密猟者許すまじって所ですか。
 ナイツの活躍無しに狩り場の平穏は無いのですね。

 私はといえば、未だに頑張るミケ姉さんを持ち上げようとしたのですが……。
「んぐ……ふぐ……んくぅぅぅ〜っ!!」
 そ、装備が重くて、びくとも持ち上がりません……。
 仕方が無いので、シャーリーさんに頼んで依頼書見せて貰う事に。

 クックさんご夫婦。子連れクック。ヒッチコック。縄張り争い。
 変わり種としてはクックさんの群れに恐れを成したゲリョスさん。
 こちらはもう受注済みですね。ですが……。

「単品、無いのでしょうか……」
「無いわね」
 良くて二頭。大半が複数匹で、ノルマは三とか四とか……別の大物混みもかなり……。
 どんだけ大量発生してるんですかクックさん。
「もう一週間ぐらい待てば大分落ち着く見込みだから、今日は他の受けて待ってみる?」
「それは出来ません」
「どうして?」
「いえ……その……」

 日を改めるワケはもいきません。
 ミケ姉さんは闘技場のお仕事お休みを取ってます。
 ラウルさんは弾丸代が馬鹿にならないはずです。
 本人はランポスの牙集めたいしと言って笑顔で手伝ってくれますが。

 私にも、時間がありません。

 今着ているのはヒーラーUと言う、訓練所で頑張って頑張ってやっと作れる装備です。
 娘に買い与えるのはどうかと思いますが、お父さんが作ってくれたものです。
 サイズを、スカート丈が若干長い以外は全部「今の」私に併せて。

 その一方私と言えば、もう十三になるというのに背丈百三十の幼児体型。
 いい加減、そろそろ、やって来るであろう成長期。
 この服がキツキツになる日はそう遠い事ではないはずです。
 でもこんな事、誰かに直接相談するのも憚られますし……。

 と、悶々悩んでおりましたら後ろのテーブルからかかる声。
「嬢ちゃんよぅ、ゆっくりいっとけばいいじゃねーか」
 いかにも年中飲んだくれてますみたいな方々です。
「そーそー」
 そして声を揃えて、
「パッツパツの太ももで愛しの彼を悩殺ー♪」
 私がおやすみベアを構えると同時に、四方八方から麻痺弾が打ち込まれました。
 見目麗しい先輩ハンターのお姉様方、グッジョブです。
 酔っぱらい? もちろんぶん殴りましたとも。

 本当にボコボコにしたいのはあの馬鹿親父ですが。

 ……しかし困りました。
 ある程度、彼のお姉さんみたく後は試験だけみたいなハンターならともかくですよ。
 私のような、装備以外は正真正銘の駆け出しに受けられる物がありません。

 ああ、よく見ればいかにも新米な装備の方がテーブルでたむろしてます。
 同じハンターの名を冠する防具でも、彼のとは色つやからして雲泥の……うふふふふ。

 と、そんな私の手をくいくい引っ張る肉球が……。
「マイラちゃんマイラちゃん、クックいかないの?」

 ……はい!?

 振り向いてみましたら、カウンターで、何かに、ペンを走らせるラウルさんが。
 顔の横で、紫色をした素材不明のペンをチロチロ振ってるわけで。
「僕は受けるけど、マイラちゃんはどうするー?」
「う、受けます!!」
 何はともあれ、まずは実績を!!
 と、言うよりは……。
「これ終わらせたら、一人で行けるようなりませんか?」
「落ち着いてから改めて受けてちょうだい」
 世の中そうは問屋が卸しませんね、はい。

 と言うわけで、いつものメンツいつもの狩り場。
 さざ波の聞こえるベースキャンプも、目の前にそびえる崖も、
「終わったらクックのスナズリで一杯やるニャ」
「いやいや皮を直火焼きで頂くのがだニャ」
 船番アイルーさんのやりとりも、今や見慣れた物で。
 両サイドにラウルさんとミケ姉さんがいるのもいつもの事です。

「所でマイラちゃん」
「アイテムポーチちょっと見せてちょうだい」
 ちょうだいと言いつつ結構強引に取られましたが。

「えーと、麻酔玉に罠二種類とツールにネット。お、鬼人薬」
「眠った時用の大樽Gに強走薬ねえ……あ、材料まで持ち込んでる」
 初めての飛竜なのでアイテム、ぎっちり詰め込んで来たのですけど……。
 と言うか女の子のポーチの中身をごそごそ探らないでほしいです。
 あ、何ですか。人の荷物から色々取り出して……。
 あの、その、本当に、色々準備したのに、ポイポイと……。

「はい、どーぞ」
 返されたポーチは、相当軽くなっておりました。
 捕獲用セットと、ペイントボールと、回復薬と……。
「強走薬一個ですかっ!?」
「その装備で何を言いうかな君は」
 あの、とりあえず依頼のノルマに五頭とかあるんですが……。
「フル持ち込みなら一頭五分以内よね」
「立ち回りとか、そう言うのは……」
「うふふ。それこそ殴り殴られ」
 まったくもって、私の周りはSばかり。

「それに、クックのピーキーちゃん相手に練習してたでしょうに」
 全身緩衝材でフル武装しましたけどね。

 流石にラウルさんは慣れているようで、最初のクックさんはあっさり見つかりました。
 キャンプのすぐ近くの浜辺に降りてきただけなんですけどね。
 忘れている方が多いのですが、ここ、淡水ですから。

 遠目には、襟巻きみたいな耳と、でっかいくちばし。
 ほっそい足にちょこっと丸い体と小さな尻尾。
 生物学上ランポスさんと同じ鳥竜だけども飛竜と呼ぶに相応しい、大きな翼。
 ……アプトノスさんとは別な意味で、一見やりにくそうに見えました。
 闘技場のピーキーちゃんと顔を合わせていたので、尚更。
 だったんですが……。

「じゃあ、アタシお掃除がてらみんなのご飯採りに行くから」
「回復弾、クックに当てちゃったらごめんねー」

 後ろから、クックさんの前に付き出されました。
「クェーッ!!」
「ほわああああああああっ!?」
 練習したのに練習したのに!!
「クェーックェックェッ!!」
 突進やらついばみやら怖くて近寄れませんーっ!!
 と言うか何で出会って早々怒ってるんですかぁーっ!?

 と、とにもかくにも当たらないようにはできました。
 横に避ける。この原則さえ守れば大抵の飛竜は何とかなるってもんです!!
 と、思った私が甘かったのです。

 ……突進、馬鹿言っちゃいけません。
 ……火炎液、頭が焦げます、高くて届きません。
 ……連続ついばみ、寄ったら頭に穴が空きます。

 遠目に眺めていても、一発入れられそうなタイミングが……見つかりません。
 期待はしていませんけど、期待していませんけどっ!!
「うーん。いいねえ。初々しいなあーいきなりボルテージ全開」
 ラウルさんは援護の気配無し。
 プップカ角笛吹いてる姿がクソ忌々しいーっ!!

 突進を何度も避けて避けて、近寄っても尻尾ぐるぐるされますし。
「マイラちゃんマイラちゃん」
「何ですかっ!!」
 私は今、ものすっごく真剣なんですっ!!

「いい女はね、誘って落とすもんだよ」
「知りませんっ!!」
 こう叫ぶ間にも、目を離さなかったクックさんが立ち上がって方向転換。
 その向きが、どうも私の真正面からずれているようで……。

 いつもの私だったら、どうせナイツだしと思ったかもしれません。
 でも、その時は本当に、真剣で、真剣で……。
「ラウルさん!!」
 思わず叫んでしまいました。
 後で思えば、クックさんの突進ぐらいどうと言うことは無かったかもしれません。
 だって事実、ちょうどあの人の手前で、ずさーっと。

 駆け寄ろうとしたら、ラウルさんは立てた手の平をこちらへと。
 制止の意味。「見てて」と言うことです。
 立ち上がったクックさん、標的をラウルさんに切り替えたらしく噛みつこうとして……

 ひょいっ

 ごんっ

 ひらりとかわりして銃身で一撃。
 尻尾が当たるその前に、クックさんの足の下にくるりと入り。
 もう一回転して真正面にきたクックさんの頭にゴッツン。
 ……つまり、その、誘って落とせと言うわけですね。
 どうやら実力差が解ったらしく、ラウルさんから逃げるように向かって来たクックさん。
 ある程度距離を置いて、すっころんだところを……!!

 ばさっ……クェーっ!!

「どえええええええええっ!?」
 何で私の時は飛んで来るんですかぁーっ!?
 ううう、思いっきり湖へ向かって青春ダイビング。いいです。いいですよ。
 動きのお手本はしっかり覚えさせていただきました!!
「一撃いれさせていただきま……」

 くるっ、もふっ、ごろごろごろ。

 尻尾にはたかれました。おやすみベアで防ごうとして吹っ飛びましたけど。
 直に殴られちゃうよりはマシですよね、ええきっと。
 迫ってくるクチバシは……まあ言っちゃ何ですが、立ち止まってから噛みつくので。
 ひょいっと交わすまでもなく脳天に一撃。うん、コレならなんとか……。

 くぇーっ!! どごっ

 ……普通に轢かれました。真正面で待ってちゃダメですよね。
 おやすみベア越しのおかげか大事には至りませんでした。ぬいぐるみ万歳です。
 他のハンマーが使えなくなりそうで怖いですが。

 まずは、当たらないことを心がけなければ。
 何回か浜辺に振り下ろしてしまっておやすみベアは砂まみれ。
 私も何度か浜辺に突っ込んで砂まみれで水まみれのおまけ付き。
 へばりついた砂が気持ち悪いけどそれどころじゃありません。

 ユーモラスな顔も、こう間近で殴り合ってると飽きる前に嫌になるわけで。
「そろそろ、ぶっ倒れやがれゴルァーっ!!」
 ようやくクックさんの巨体が横になってくれたときはもう……。

 Zzzzzzzzzz……。

 ……寝ているだけでした。
 思えば、ドスランポスさんやドスファンゴさんは寝る前に気絶してましたものね。
 今までお父さんしか眠らせたことがないと言うのが何とも。
 でも無防備なこの瞬間こそ、千載一遇のチャンス。うっふっふっふっふ……。

「ラウルさん、爆弾」
「ダメ」
「何でっ!?」
「最後まで自分でやりなさいー」
「ケチー」
 良いじゃないですか。武器の特性生かした戦術使って何が悪いんですか。
 第一、その爆弾は私が持ってきた物なんですがね?

 Zzzzzzzzzz……ク、クェ……?
「もうちょっと寝ててください」
 ボギャッ。

 振りかぶって寝ぼけ眼に一発かまして動かなくなりました。よしよし。
「ラウルさん、爆弾」
「いや、多分今ので死んだから」
「……え?」

 私が一匹目を仕留めたその頃、ミケ姉さんは三匹目を仕留めていたそうです。
 それからしばらくは私の訓練にと打ち止めか時間切れまで頑張る事になりました。

「どっせーいっ!!」
 そして私は装備の力でごり押しのまま、ハンターの登竜門たるクック先生の屍を踏み越えているのでした。
 ……これって本来、何度も何度もリタイアして、やっとこ倒せるようになる物なのでは?
 武器のせいでしょうか、防具のせいでしょうか……最近この格好を服と呼べなくなりました。
 なんと言うか、優遇通り越して大事なことを取りこぼしている気がします……。

「討伐タイム十分台目指していってみよー」
 代わりに、ラウルさん超スパルタです。いきなり五分十分は無いです……。
 にこやかに鬼のようなノルマを課してくるんですよこの人。
 ……例えば、無傷目指せとか。
 ミケ姉さんは採集に勤しんでます。ポーチからお腹の膨れた苦虫が溢れてます。
 ついでに底の方で破れてるのか苦みエキスも染みてます。
「マイラちゃん頑張ってー……あ、大地の結晶みっけ」

 倒したクックさんはネコさん達がネコタクと呼ばれる荷台に乗せてお持ち帰り。
 キャンプで解体しておくそうなんですけれども、私が倒れた時もアレ。
 お世話にならないようがんばりませんと!

 何度かはたかれる事はありますが、段々慣れてきました。
 ……ヒーラーUでなかったら、十回ぐらいキャンプ送りかご臨終だそうですが。
 噛みつかれたときは確かに生きた心地がしませんでした。
 何はともあれ、装備に頼って技をおろそかにしては彼の側にはいられません。
 目指すは無傷かつ五分以内の討伐で……。

 バサバサバサ……くぇー
 バサバサバサ……くぇー
 バサバサバサ……くぇー
 バサバサバサ……くぇー
 バサバサバサ……くぇー
 バサバサバサ……くぇー

 湖の向こうからなんかいっぱい来ましたーっ!?
「マイラちゃん呆れてないで逃げる逃げる!!」
 振り向くより先にラウル君に首根っこ掴まれ、ミケ姉さんに担がれて。
 三人仲良くキャンプへ直行……て、ちょっと狭いだけですよね、ここ?
 先ほどまでいた浜辺を覗けば、六頭のクックさんが砂浜にクチバシ突っ込んでクェクェ。

 たかが六頭と言えどクックの巨体。十分ぎゅうぎゅうです。
「……何でなだれ込まないんですかね?」
 私とラウルさんが覗き込む岩の隙間は二人で十分ぎうぎうです。
「ここに来ようととすると濡れちゃうからじゃない?」
 おかげで、地形的にもここに来ると狭そうではあるんですけれども……。

 と、何かが私の髪の毛をくいくいと。ミケ姉さん以外にいたらまずいのですが。
「じゃあ、あそこで寝てるの何かしら?」
「はい?」
「へ?」
 私やミケ姉さんは闘技場で結構いろんな飛竜の近くに行くことがあります。
 一方ラウルさんはといえば、ハンターとして狩る側に最初立っていたわけで。

 イャンガルルガさんが支給ボックスと納品ボックスの間で寝てたら、固まりますよね。