嵐の吹き荒れる密林の奥地。
『彼』はそこにねぐらを据えていた。
歴戦を物語るのは角と尾に刻まれた白い傷。
強さを示すのは人が鍛えた鋼を好んで喰らったが故の黒。
ギルドから「縞付き」あるいは「スカー」と呼ばれる彼は、
ミラボレアスが大嫌いだった。
――――『鋼の彼が零す愚痴』――――
全ての龍の頂点に君臨するのは黒の王。
吐息は灼熱。触れる者はその瘴気によってすべからく地に還る。
『彼』にいわせれば傲慢が甲殻纏って歩いてるような奴である。
少しばかり前に西の国を滅ぼそうとして返り討ちに遭ったらしい。
最期は大剣で脳天カチ割られたとか。
だからいわんこっちゃない。
いや、そんな事言ったらアレの甲殻の一部にされかねないが。
秘境にて世界を見渡すのは白の祖。
纏うのは天雷。その存在は未だ伝説の中にある。
『彼』に言わせれば最近ボケの入り出した婆さんである。
鋼の身と相性が良いことを理由に愚痴や暇つぶしの相手にされる。
そんなに暇なら人間に喧嘩でも売ったらどうかと。
祖曰く、それでは面白く無いのだそうな。
こんな事を考えている今も、いつ雷が降ってくるか解ったもんじゃないが。
灼熱の地に降り立つのは紅蓮の災禍。
大地の炎に身を埋め思うまま力を振るう。
『彼』に言わせれば、礼儀知らずの若造である。
もっとも、飛べぬ龍の悲哀を考えればまだ許せた。
そんな彼も一人の人間に魅入られ、倒された。
今は火山の麓で気持ちよく寝ているらしい。
人様を舞台装置にしやがった上に、守り番つきの祠はネコが毎日お掃除。
……思い出したら腹立ってきた。
菓子代わりに舌で転がしていた純水晶を噛み砕く。
気がつけばその爪がマカライトその他鉱石を削り取る。
ぶり返した怒りが沸点に達したその頃、運悪く出くわした人間を吹き飛ばしてしまった。
……ま、まあ、下は湖だし、死にはするまい。
『彼』にそんな義理はないのに、不幸な遭遇者の生存を確認していたその頃。
遙か彼方、人知れぬ秘境に立つ白い龍は思う。
――それなら、さっさと飛んで逃げれば良かったのでは?
遠目と呼ぶには遠すぎる場所から『彼』を眺めるを楽しみながら……
雷を落とすタイミングを見計らっていた。