――Case7:八番目の大罪

 ……飛竜の背に乗る。慣れないなとジャッシュは思った。
 頑固で堅実。いわゆる堅物である彼に、摂理の外の事を理解しろと言う方が難しいのかもしれないが。
 どちらにせよ彼も男だ。男の背中にしがみついて楽しくも何ともない。

「ジャッシュ、いい加減機嫌直したらどう?」
 ディアブロスの上で、ひょうひょうとしていられる相棒。
 銀髪蒼装束のこの男、アガレスはそうでなくても十分おかしな男だったが。
「動きが『視え』てもついていけないんじゃしょうがないさ」
 角竜婦人。
 その名に違わぬパワーファイターと思ったのがそもそもの過ちであった。
 神速と精密の両立による切れ味。太刀使いという時点で考えるべきだった。

 しかし、ジャッシュの苛立ちは惨敗に起因する物ではない。
「あの夫婦のいた家の事、聞いたか?」
「……そっちか」
 相棒の溜息すら、この時ばかりは憎らしかった。

 そこは、あの村最後のハンターの家。
 事の異変にいち早く気付き、訴えたハンターの家。
 結局誰にも理解されぬまま、罪人として去ったハンターの家。

「その子がしっかりしてくれてれば?」
「違う。村人の方だ!」
 黒角竜が、びくりと足を止める。
 後ろで寝ていた新米二人が落ちそうになって手を取り合う。

 富を手放すまいとした村人に、そして父にまで追われた娘の家。

   ――――『火怨病:イキルウタ』――――

 アガレスは言う。正義が必ずし受け入れられるとは限らないと。
 むしろ正しいことこそ、受け入れがたいことは多々あると。
 だからそれを守る者が要る。それはジャッシュとて百も承知。
 苛立ちはそれを守れなかった自分へか、それを握りつぶした者達へか。
「それでも……こんな事は歴史の中幾度となく繰り返されてきたろうが!」

 手綱を取るアガレスに、怯むそぶりは無い。
 代わりに静かな声で告げる。
「近くにゲネポスの群れがいる」
「……何?」
 剣に手をかけたのは反射。疑問を口にしたのも反射。
 こっちに振り向いたアガレスは、ニヤニヤ。
「ほーら疑っ……て、何だ信じてる」
「お前の自動マーキングには、たびたび世話になってるからな」
 装備に頼るそれより、精度も範囲も凌駕する千里眼。
 アガレスはその力を、かつてシュレイドで死にかけた代償に得たのだと言う。

「じゃあこれ、赤の他人が、それも装備無しのが言ったら?」
「む……?」

 ジャッシュ自身、しかめっ面になったのが解る。
 満足したように笑うアガレス。手綱に応えて悠々歩く黒角竜。
「そうでなくても、こんな冗談繰り返してたら信じなくなるだろう?」
「元から二枚舌だしな」
 そのくせ意見は詭弁正論交えて突き通す。
「不自由を強要するなら、それこそ絶大な説得力がいる」
 その弁舌には世話になったし、かの「野心家」にも気に入られているらしい。
 何を企んでいるのかと聞けば「ゼロに何をかけてもゼロ」と二枚舌らしからぬ一点張りだが。
「焦りで仮定を軽視すれば、そこには取り返しの付かない歪みが生まれる」

 一部感覚を増す装備はある。竜人の装飾品にもあると知れたのは最近。
 それらをあわせて、生き物の気配を手繰る術を、風の流れで地形を知る術を人は得ていた。
 理論こそ解っていないが、重宝はされている。

 砂漠と街との中継地、小さな宿場町の裏路地。

 どこまでも赤い海に浮かぶ、どこまでも白い、まだ新しい骸。
 新米二人、その片割れが失神して現在医務室。
 現場に経つのは、ベテランとも新米とも言えぬ二人。
「……失血死、だな」
「見紛う事無き、ね」

 二つしか違わないが、年下のアガレスが血の海のほとりに平然と屈む。
 相棒が凄惨な状況でも顔色を変えないことに、ジャッシュは未だ慣れていない。
「ジャッシュ、竜車で先に送ってもらえ」
「何?」

「ほら、前から多発してた奴……僕の管轄だし」
 アガレスが睨むのは裏路地のさらに先、やや上の所か。
 ジャッシュには、何の気配も感じられない。

「疑う?」
 道中であんな会話をしていなければと思う。
「単独行動は禁止のはずだ」
「君には届け物がある。僕にはマギがいる。十分だよ」
 詭弁を受け入れたのは、その手腕に信頼を置いていたから。
「それに、砂漠に逃げられたら地の利は向こうだ」

 この時、腕づくで連れ戻していれば良かったのだ。
 この時、首筋の赤に、気付いていれば良かったのだ。

「……あの子も、あんな村でなきゃ良いハンターになってただろうに」
 それが最期の言葉になるなど、思ってもみなかったのだ。

――Case8:待ち人待つ人

「二人が、死んだわ」

 弟は、姉の簡潔すぎる言葉を、理解しきれずにいた。

 奇妙な静寂に包まれた酒場。
 その中心。喪服を纏った蒼髪の少女は、よく目立った。
 その表情は一切の感情を廃して冷たく、それ故に凛とさえしていた。

 姉のそんな顔を、弟は初めて見た。

 二人の亡骸は、街と村を隔てる砂漠の中程で見つかった。
 おそらくは村人達であろうその他の亡骸と、棺が一つ。
 二人を見つけた、かつて二人に助けられたという男は語る。
 ゲネポスやガレオスに食い荒らされなかったのが、不思議だったと。
 何者に冒される事無く、ただ、砂漠の地に晒されていた。

 葬儀には本当に多くの人が集まった。
 ある者は父に助けられたと言う。あるものは母の強さに惹かれたと言う。
 もっとよく見たなら、そこにやんごとなき家の者さえ見て取れた。
 何故だかアイルーが多い気がした。多くの人が嘆き、悼み、姉弟に声をかけた。

 その涙も、握る手も、どこか、悪い夢のようで。

 棺には布にくるまれ、開くことはままならない。
 その意味が解らぬほど、弟は幼くなかった。

 その顔を確認できたなら、この現実を認められたのだろうか?
 その体温を確認できたなら、二人の死を受け入れられたのだろうか?

 背筋を正し、淡々と喪主を務める姉が、何故だがすらりと見える。
 それがなおさらに、弟から現実感を奪っていく。
 両足が地面から浮き上がるような感覚に晒される。
「なあ……姉貴……」

 視線を横にずらせば、姉の蒼髪の隙間に首筋が見える。
 白い肌。蒼い髪。うっすら浮かぶ赤い筋が、よく映えた。
 弟がその意味に気付いた時……
「姉……」

 蒼い髪が、ふわり。

 弟の腕に倒れ込んだ体は、羽のように軽かった。
 抱き留めた体は、枯れ枝のように細かった。

「姉さんっ!!」

 現実なんて、それだけで十分だった。

 周囲のざわめき、動揺。しかし、パニックにはならなかった。
 両親が街に帰ってこれたのは、幾多の屍から人が学んだ結果。
 姉が自宅で横になることができたのは、父が広めた知識の結果。

 全てを吸い枯らしつつ次の贄を探し、自らもまた死に絶える。
 ……まるでその病は、人の業をなぞるように。

 ベッドで寝息を立てる姉。やせても、発熱でほんのり赤い頬。
 現実を教えてくれるのは、今作ったリゾットの湯気ぐらいか。
「皆様には、お戻りいただきましたニャ」
「……悪いな」
 後は赤虎の足音。そして……。

「飯は旨いのに何で調合はダメダメかのぉ」
 いつの間にか料理に匙をつけている姉本人。
「……いっぺん死ぬか?」
「坊ちゃま。今はそれブラックが過ぎますニャ」
 弟は思う。これでこそ、いつもの姉だと。

 それでもやはり体調が思わしくないのか、匙の進みは遅い。
 食器と匙が、コツリ。
「ねえ、ディ」
「……何?」

「お母さん、帰ろうとしていたんだよね……」
 姉の目に空虚を見たのは、気のせいだったのだろうか。

 病に倒れるか砂漠に倒れるか。
 その無謀を敢行した母が糾弾されなかった理由を、姉弟はもっと後に知るのである。

――Case9:生の誇りと死の名誉

 見ただけで貴族が住む家の庭園と解る場所の一角。
 青い騎士装束を纏ったアメショの猫と、車椅子に腰掛けた隻眼の女。

 現ギルドナイツ=ドンドルマ部隊筆頭、リリス=ソール=フォン=ファザード。
 過去の任務で車椅子生活を強いられるようになってからも、その地位にいた彼女。
 だが、その肩書きに「元」とつくようになるのは、今や時間の問題であった。
「まさか、息子に引導を渡される事になるとはねえ……」

 原因を考える度に頭が痛くなる。はらわたに嫌なうねりを感じる。
 どこか朧な目で、その名に淑女の意味を与えた従者に問う。
「ねえカッツェ……私は結局、かの婦人に負けたのかしら?」

 浮気性の夫が手を出そうとして、結局止めたのは彼女を気遣っての事。
 生真面目な息子は彼女の強さに惹かれて何度家出したことか。
 ……あげく龍に踏みつぶされ、生死の境を彷徨って、なお。
 その息子がにシュレイドへ異動した理由とて、血に染まった手で彼女の子に触れたく無かったから。

「どう思う?」
「ふー……ミュ」

 せめて剣だけでも思ったが、結果は気持ちよいぐらいの完敗。
 当時はまだ、力に中身の追いついていない、ただの娘だったはずが。
 そして今、彼女の無謀によってこの地位さえ失う事となった。
 他ならぬ、自らの息子による告発で。

「アテクシが思うに、かの婦人が輝きだしたのは夫という太陽を得てからですニャ」
「じゃあ、あの人はどうなるの?」
「……アレはただの浮気性ですニョで横に置きますニャ」

 次の医師を派遣しない決定。それは、もみ消されるはずだった。
 その工作に至る全て。その任を受けたのが母であること。
 ……「政敵」は、その全てを白日の下に叩きつけた。
 自らの野心を阻む最後の壁を崩す、最強のカードとして。

「リリスしゃまは自ら先陣を切る太陽で、ルシしゃまはそのご子息」

 野心家を気取りながら、その性根は真っ直ぐ過ぎた息子。
 親しい人の死を、出世の駒になど出来ない無いと思っていた。

 ……甘かった。

 真っ直ぐ過ぎる故に、息子は汚れ役を選んだ。
 傲慢と怠惰の元、死者を貶めることを断固として許さなかった。

「太陽が月を求めたのは、致し方ニャかったのでは無いでしょうニャ?」
 長い夜を越え、幾多の黒を宿す太陽は、確かに長く強く輝くかもしれない。
 同じ名の魔王が願ったように、太陽に取って代わってのけた。
 だから、あの子はソール……太陽の名を継がなかった。

「こんな足になった古い太陽はとっとと沈めば良かったと?」
「い、いえ、そんニャ事はっ!」
 さて、今日は目一杯、この忠実な淑女につきあってもらおう。

――私が、こんな形で成り上がりたかったと思うかっ!?

 息子の悲痛な叫びを、思い出してしまわないように。

――Case10:想いの渦のその中に

 ルシフェンはとにかく外を歩いた。
 次期筆頭は確実。そうなれば、今度は自由に動けなくなる。
 しかし今、自然とその足が向かう方向があり、必ず踵を返す場所がある。

 今日、その場所に、黒コートの赤虎がいた。
 懐かしい顔だった。会いにくいと言う意味でも。

「裏切り者なんて言いません」
 逃げようとする背にかけられた言葉。
 びくりと止まる足。拳が震えているのは、気のせいか?
「ただ、奥様を連れ戻すのにあなたは余りに無力だった」
 赤虎の口から響く声は、ルシフェンの知るそれと大きく異なっていた。

「スフィーダ家代々のお着き猫も、流れの一匹猫も、どちらもミハイルですニャ」
 忠義に篤い赤虎。その翡翠色の目が、次期筆頭の目を睨む。

 ルシフェンは濃紺の目を細め、微かに笑んだ。
 緩やかに、穏やかに、自嘲を込めて。
「リィの容態はどうだ?」
「……小康状態と言った所ですかニャ。栄養に関しては坊ちゃまつきっきりですから問題ありませんけどニャ」
「そうか……」

 元の明るさを取り戻しつつある街の喧噪は、二人の会話を飲み込んでいく。
 何事も、無かったかのように。

「野心叶って、本望ですかニャ?」
「そう見えるか?」
 口惜しい。事が起こってからやっと動けた。
 その事は片が付いた。筆頭の地位という思わぬ副産物までついて。
 しかし……一番助けたかった人を助けられなかった。
 その子供にも、自分が出来ることがない。もとより、会わぬと決めた子供達。

「ディフィーグと言う名には、高貴なる英雄の意味があるそうですニャね」
 こちらを見据える黒コートの赤虎。
 赤と黒。
 ふと思い出す昔の記憶。

「恨むのは坊ちゃまが、アンタが与えた名の通りに殉じてしまった時ですニャ」
 お遊びのような閃き。そこに乗る、真摯な想い。

「ミハイル……」
「何ニャ?」
 まさか、いやしかし、いつかは譲り渡さねばなるまい。
 文字通り、神にもすがりたい、今。

「お前に、預かって欲しい物があるんだ」
 これ以上の使い番もいるまいて。

――Case11:シンデレラの子供達

 時は深夜。かつて、小さな診療所だった家。
 診察室は今や、応接室以上の役割はなく、通り道となった部屋。
 廊下側からその扉に耳をつける、パジャマ姿の二つの蒼。
 部屋の主だった医者の、娘と息子。

「テメェで死んだことにしといてそりゃねーニャ」
 扉越しに聞こえるのは慣れ親しんだ赤虎の声。
 声色からふんぞり返った姿が容易に想像できる。
「でも、ジーネの子がここにいる!」
 その相手はシュレイドから来たと言う、やんごとなき身分と言う老婆。
 のぞき穴からでもそれは一目で解る。衣装センスに難ありと言うことも。

 母が結構な家柄の娘だったと言うことは知っていた。
 その戦いぶりからは想像もつかないし、父に出会ったのは出奔から数年後。
 蒼髪とテーブルマナー以外に、その証は与えられていなかったけど。

「つーかさ、ジーネって誰?」
「知らん」
 思えば母の名は、良家の御息女には少し勇ましすぎた。

「おみゃーさんが当主なっちまった時点で無効ニャー」
「で、でもアンタはこうしてあの子達に仕えてるじゃないか!」
「よく見るニャ。血判ニャ。血筋が当主の座を無くしたからもう誰に仕えるも勝手ニャ。それにオイラの主人はサイラス=エイン。ジーネさんなんて知らんニャー」

 しばしの無言。人が席を立つ音がする。
「おや、お早いお帰りニャ?」
「また来るよ。弟は、持ってないんだろう?」
 何をとは、言わずとも明らかだった。

 弟が姉の手を掴んだのは放さぬと言う決意。
 姉が弟の手を掴んだのは渡さぬと言う決意。
 義憤と冷笑。白い壁を見据える真逆の仮面。

 シンデレラは、やはり継母を憎んでいたのだろうか?

――Case12:生きる意志の行く末

「姉貴……ハンターボウはまだ解るんだ」
 弓は折りたためば矢筒もろともベッド下に入るサイズだったから。
「バトルシリーズも多めに見よう」
 結構スマートな防具だからクローゼットに入る。
「クロムメタルコイルを何処に隠してやがったーっ!?」
 大きなプレートスカートを何処に隠していたのかと。
 そしてこれらの武具とそれを扱う訓練に、一体いくらかけたのかと。

 いや、そんな事は些末な問題だ。

「第一、また倒れたらどうすんだっ!!」
 もう表向きの患者数はゼロになったが、油断は出来ない。
 訓練に伴う疲労は、決して楽観できるものではない。

 まして、アレから沸いて出た「自称」親戚の相手をしている事も知っている。
 母は家を捨てた。親から貰っただろう名前の綴りと蒼髪だけ残して。
 父の親類は皆、病で死んだ。その最期を思えば皮肉か運命か。

「いやーむしろ体力きっちりついてきましてのう」
 姉が聞いているのかいないのかも、いつもの事。
「時に弟や」
「なんだよ……?」
 いつもの口調で、目だけが嫌に艶っぽく見えた。

「あのババ共に、一泡吹かせてみる気は無いかえ?」

 そして弟は知る。静かな怒りは、時に激情よりも恐ろしい。
 負の感情を含む笑みが、艶やかに見える事に気が付いた。

 その数ヶ月後、繁殖期の終わり頃。
 いつもの装備で家を出る弟の姿がそこにあった。
「坊ちゃまにご指名の依頼ですかニャ!?」
「ああ。薬を運ぶ商隊がやられたんだと」
 傍らに立つ姉。背負った筒の中身は弓一式。
 ポーチの中身は全て弟へ。この後彼女が向かうのは訓練所。
「ほれ、音爆。予備がいらん所をみると、ソロで行くのかえ?」
「人手が足りないんだってさ」
 安定したと思ったら早速邪魔者掃除。
 人間とは、ゲンキンな生き物である。

「じゃ、行って来る」

 そして姉は知る。弟の後ろ姿が、逞しくなっていることに。
「私も、置いてかれるわけにいかんねえ」

 もう、泣いてた子供はいないことに。



――1308年:火怨病の終息が宣言される。
 死者の大半が都市部や村で、野外とは無縁に暮らす民間人だった。
 しかしこの件に絡むクエストで殉職したハンターも過去最悪の数字を記録。
 同時に獣人への暴行事件の検挙数も過去最悪に上る。
 皮肉にもそれによって獣人の人権問題が大きく取りざたされる事になった。
 これ以降、密猟団及びそれに癒着する組織に対し粛正の嵐が吹き荒れる事となる。

 治安悪化等の間接的要因を含め、正確な死者の数は未だ把握しきれていない。




――Case13:絶望という名の大罪

 ジオ・ワンドレオの酒場に近い通り。
 レウスSの鎧を纏った彼女は久々の狩猟成功の祝杯に、酔っていた。
 酔っていたと言ってもほろ酔い程度。正体を無くすほどでない。

 少なくとも、裏通りに倒れてる女性を見つけるほどには。
 ……普通なら浮浪者と素通りするところで声をかけたのは、やはり酔っていたから。
 そうして気付いたのは、ただの浮浪者で無かったと言うこと。

 着ているヒレの装飾がついた鎧は砂まみれで傷だらけ。体もしかり。
 つい先ほどまで砂漠でも駆け回っていたのだろうか。
「ふふ……ちょっと怖いのに追い回されちゃって……」
 喋る余力はある。奇妙な縁もいいかなと思った。

「赤い鎧……ステキね……」
 前言撤回。疲労のせいか目が虚ろだ。やはり医療機関へ運ぼう。

――ぷつん

 次の瞬間、首筋で、何かが切れる音を聞いた。

「……それ、ちょうだい」

 薄れ行く意識に、水の吹き上がる音を聞いた。