こんがり肉Gができました×9

「もぐもぐ……だってさー、こう言うのは、むぐむぐ。焦がしてこそ情緒っていうかー」
「ハフハフ……いきなり万焼きが出るとはハフー……思わニャかったのよー」
 人の焼いたこんがりGかじりながら何言ってやがりますか。
 ミケ姉さんに至っては猫訛がでちゃってます。
「もぐもぐもぐ……」
 確かに、美味しかったです。
 いつも自分で焼いて、食べていたんですが、はい。
 でも、やはり格別です。

 ……出来れば、彼と一緒に食べたかったです。

「でもコレだともったいなくて狂走エキス、もぐもぐ……混ぜられないねー」
 ラウルさん、また殴られたいですか?

   ――『騎士の娘、狩人になる:後編』――

 真横からみた青いそれは、首、足、尾のラインが綺麗な逆三角でした。
 それがただの縦長に見える位置に立ってはいけない。
 鳥竜種独特の、爬虫類じみた丸い目玉がまん丸に見える位置に立つことを心がける。
 どんなに遠く離れていても、必ず軸はずらさなくてはいけない。

「それにしても、ハフハフ……けっこうやるわねえ」
「もぐもぐ……ホントだよねえ……おっと」

 風の音、鳥の声、時折響く砲撃音。
 先ほどと違い、樹木の代わりに背丈そこそこの草が茂るその場所。
 一本生えた大樹のざわめき。
 私と向かい合い、時折爪を振る青いそれを睨みます。
 大きく振りかぶり、少しずつ体を横に動かし、飛びかかってきたところで……。
「はいっ!!」
 殴るっ!!
 先ほどまで私がいた場所に飛んで来たランポスさん。
 おやすみベアによる側頭部殴打で夢の中。
「はいっ」
 もちろん、その後は更に上から振りかぶって永眠です。

 その青い鱗に急ぎ剥ぎ取りナイフを突き立てます。
 アプトノスさんの時と違って、肉と皮の間を沿うように、沿うように……とれたっ。
「いただきました」
 体液その他の関係で、事前に「いただきます」をして三体ほど悪くしてしまいました。
 いえ、その後もランポスの剥ぎ取り自体が結構難しくてラウルさんに教わりながらでした。

「アタシ、闘技場のみんなとだって初対面の時は恐かったのよねえ……」
「思ったより慣れるのが早いよねー……と、もう一匹」

 砲撃音。
 時折来る増援を的確に撃ち落としてくれるラウルさんのお陰で、私はとことん1対1の勝負ができました。
 変人でもやっぱりギルドナイツです。

 ……撃ち落とされたのとはまた違う、明らかな着地音。
 餌場を荒らしているのはこちらですから、暫く増援は来るんでしょう。
 そして、何時までもお世話になるわけにもいきません。
「二匹、いってみます!!」
 振りかぶる腕。走る足。
 イメージの中には、すり抜け様に当て、即警戒の流れが出来上がっていました。
 一匹目へ命中、二匹目……奥にもう一匹居ますが、関係在りません。
「やぁーっ!!」
 中間で踏み込み、勢いは殺さず、そのままぐるぐるっと!
 流れる景色に、青い色を見つけて……。
「はいっ!!」
 振り下ろすっ!
 細くとも大きな体がぶっ飛ぶのはなかなか爽快です。

 ……やっぱりお店でハンマー買っておくべきでした。

「はーい、打ち止めー」
 先ほど三匹とやりあったおかげでしょうか。
 その後は殆ど援護無しで実に十体近く狩ったと思います……思い……。
「うぇぇぇぇ……」
 今年は酷暑です……悪くなった匂いが、辺り一面……。
 この辺りは大分、和らいだと言うこと、だったんですが……おぇぇぇぇ……。
「これ、剥ぎ取りの時に内臓傷つけちゃった時の匂いよ」
「うんうん。対人でも中やるとあと悲惨なんだよねー」
 わ、私がまだまだ未熟だったと……。
 所で……ミケ姉さんのポーチが偉く膨らんでるのは何でですか……?
 そう言おうとした私の足下に、なんか、しわくちゃで、ちょっと焦げた、ピンクの……。

 思いました。彼のお姉さんの弓だったら、どれだけ良かったかと。

「痛い。酷い。あんまりだ」
「あの匂いに比べたら」
「ラウル君が撃ち落としたの、とてもじゃないけど剥ぎ取れなかったわ」
 テオ何とかという大砲でぶち抜いて、綺麗に済むハズがないんです。
 と言うわけで、ミケ姉さんのメラルーガジェットでマヒさせた後おやすみベアで殴打。
 ……ナイトが不覚をとるってどれだけ過酷なんでしょう飼育係。
 アプトノス三体とランポス二十体を撲殺した凶器なのは問題ありません。
 力のコントロールも強さの条件ですから。
「うー……まあね、怯えて動けなくなるよりはいいんだけどさー」
「それアタシも思ったわ。怯えたら援護しようと思っていたけど」
 だから剥ぎ取りに回ったんですか……。

 でも、ランポスさんと向き合ったときに確信しました。
 彼のお母さんは息子を一流ハンターにしたかった。
 もしくは、諦めさせようとして失敗したのだと。
 彼の最初の獲物は好戦的なアプケロスと聞きました。
 そんなのと向き合わされたら、戦うか怯えるしかありません。
 ……半殺しになるまで放置だったのはどうかと思いますが。

「でも初めての殺気にそう対応できるんなら素質ありそうだね」
「ありますか?」
「うん。それならナイトやれる」
 ……はい?
 今、ナイトとおっしゃいましたか!?
 ナイト……ナイトになれたら、いつでも彼と一緒でしょうか?

 そう言えばナイトは基本的に単独行動はタブーだそうです。
 となると私にもパートナーがつくのでしょうか?
 彼はよくお父さんと一緒に行動しています。先輩と後輩の関係です。
 もし、もし私がナイトになったら、やっぱり彼のご指導を頂けるんでしょうか?
 いえいえここで天狗になってはいけません。
 私は彼ほど幼い頃から鍛錬を積んでいたわけではありません。
 彼ほどの才があるかも解りません。

 まあどんなに短く見積もっても、最上位に上がるまで五、六年と踏んでおきましょうか。
 二十三、四歳の彼と、十八ぐらいの私ですか……うふふふふふ。
 いえいえ何処で何があるか解りません。
 栄誉の負傷で一月ぐらい動けなくなるかしれません。
 とはいえ、その頃には彼も後輩の面倒を見る年でしょう……これは、美味しい。

 彼に手取り足取りだなんてそれだけでも至福です。
 例え厳しい……対人戦の訓練だったとしても。
 勿論パートナーなら非番の日もよく重なります。
 お父さんと彼がそうですもの。
 最近は訳あって、彼の非番が少し多くなっているらしいですが。
 ああでも、そんな穏やかな日々と危険な任務の日々と。
 ヘマ踏んで私と任務と二者択一で苦しむ彼に私は構わずとか一度叫んで見たいものです。
 ……彼の腕の中眠るのも悪くないかもしれません。
 勿論キスで息を吹き返すのがお約束でしょう……うふふふふふ……。

「どーすんの、マイラちゃんまた変な方向にぶっ飛んじゃったわよ?」
「んー、あのぐらい普通だと思うけどなあ」
「ラウル君に聞いたアタシが、馬鹿、だった、わっ!」

 ぱっこん

「あれ、ラウルさんどうなさったんです?」
「ちょっとお昼寝ですって。アタシ達は先に行きましょ」
 そう言って、縛り上げて大木の根元に……あれ?
 私の記憶に間違いがなければ、その根元にあるネコの置物は、アイルー達のゴミ捨て場の目印だったような……。

「そう言えばマイラちゃん、ミミズとか平気?」
「はい。お父さんはこんがり魚好物ですから」
 ちなみに彼の好物はリュウノテールです。
 ……ホムラ君捕まえた後、大丈夫だったんでしょうか、彼。

 それはともかく、この先は海岸線沿いに森が広がっています。
 湿気が良い感じなのでカエルやミミズがごっそり取れるんだそうですが……。

 ブルルルル……

 お出迎えしたのは、いきり立った猪さん、数頭でした。
 とはいえ、私も先ほどランポスの群を蹴散らして来たんです。
「マイラちゃん、やる?」
「はいっ!!」
 そう。この猪……ファンゴさん達の最も注意するべきは突進です。
 早速迫ってきたそれを二人別々な方向にかわして……戦闘開始です。
 まずその無防備なお尻にきっつい一発を……!
「危ないっ!!」

 ドゴッ
「っ!」

 ガクッと視界が飛びました。ガクッと。

 ドグォッ!
「がはっ!!」

 そう思う間も無く側面からの衝突。
 視界が飛ぶ。視界が舞う。ゴロゴロ転がってやっと気付きました。
 脇腹、クリーンヒットです……。

 ……理解の後に、来るものなんですね。

 脇腹が、痛むと言うより……むしろ、熱い、痛い……。
「い……いだ……」
 カエルの潰れたような呻き声……自分の声と思えませんでした。
 ミミズのようにのたうち回っている自分。
 視界の奥で、足を踏みならすそれ。
 大丈夫。頑張れば、少なくとも直撃を免れれば、死にはしません。
 こんなの、彼の負傷遍歴に比べ……や、やっぱり……。
「ディ、ディく……」
 恐……。

 彼の名を呟き、「助けて」と叫ぶその一瞬前に、ぱこんっと言う気の抜けた音と、何か重い物が倒れ込む音が響きました。

「ふー、危機一髪」
 倒れた猪に馬乗りになっているミケ姉さんがいました。
 その向こうに何体か転がっているので、もし彼女がいなかったら……。
 考えただけでもぞっとします。

「立てる?」
 私の手を取る若葉色が、もの凄く頼もしかったです……。

「あ、はぃ……」
 嘘です。もの凄く、体起こすだけでも凄く痛かったです。
 涙って、どうしてこう、制御が効かないんでしょうか。
 こんなの、こんなの、彼の負傷遍歴に比べれば、比べれば……。
「ちょっと診せてちょうだい」
「へ……」

 ぷにっ

「ンアーッ!?」
 無遠慮に脇腹押しやがりましたっ!
 絶叫ものです、はしたないとか考える間も無く。
「あららー……打っちゃってる。ま、骨は大丈夫っぽいからいいわね」
 こ、この、薄情、ネコ……。
 い、いいです。幸い支給された回復薬があります。
 これ塗ってしまえば、ちょっとした……骨がどうこうしてなければ……。

 ぺたり

「う゛ぉ、ぉ、ぉ、ぉ、ぉ〜……!?」
 死ぬほど染みました。
 いえ、生きていますが。
 火箸を押し当てられたような痛みが走りました。
 いえ、経験はありませんが。
 ありませんがアレです、彼の頬と腕もきっとこんなと思うような……。
「うふふ。染みた?」
 笑い事じゃないです……。
 で、でも、いいんです……こ、こんなの、彼の負傷遍歴に比べれ……ば?
「あれ?」
 痛み、あっさり引きました。
 ちょっと足に、覚悟決めて塗ってみました。
「……っ!」
 電撃が走る?
 とにかく一瞬は全身を強張らせるような痛みが走ります。
 傷の度合いにも寄るのかもしれませんが、致命的な隙です。
 ですがそこを抜ければ、少しのじわじわはありますが殆ど尾を引きません。
「マイラ、ちゃん?」
「はい。大丈夫です」
 ……行動の支障が、すぐに無くなる。
 一瞬の激痛を味わってでも、動けなくなるより遙かにマシでしょう。
「ジャッシュさんにも感謝しなさいよ」
「……はい」
 普通の装備だったらアウトだったかもしれません。
 趣味丸出しとか初心者の情緒とか、チャラにしてあげましょう。

 それから土いじりをする事数分。
 私のポーチ、ミミズ用のスペースはあっという間にいっぱいになってしまいました。
 ですがミケ姉さんの方は実に数十匹は集めているのにまだ詰めています。
 カエルさんのスペースはまだあるので、ミミズはミケ姉さんに。
「クックのピーキーちゃんや、ローズさんのご飯なのよね」
 ……ガルルガもやっぱりクックでしたか。
 となると生肉その他も集めなければならないはずです。
 本来飼い主がするべき事を肩代わりするとはいえ……。
 安易にリオハートを飼い慣らすという目的は、とりあえず却下の……。

 ぼふっ

「はい?」
 背負ったおやすみベアを、後ろから何かが……ぽふぽふと。
「ミケ姉さん、あの……」
「どうかし……あら?」
 振り向いて見えたのは極小のファンゴさんでしょうか?
 体の表面には白っぽい筋や斑点がまばらに散っています。

 それが、ぼふぼふぐいぐいと。
 どうやらこれは防具としても効果があるようです。
 いえ、こんなに弱々しかったら素手でも押し返せそうなものですが。
「……新種?」
「子供だと思うわ」
 もの凄く珍しいことに直面しているのは解ります。
 いえ、未だに私の背中でぐいぐいやってるんですけれども。
 ですが、その、おやすみベアには睡眠毒が仕込んでありまして、ね……。

 どさっ

 案の定眠ってしまいました。これでやっと後ろを向けます。
 ぐっすり眠っているこの子……大きくなったら、アレですか?
 なんとなく子豚さんをふかふかにしたような、ちっさな牙が愛らしいこの子が……。

 その足がちょっと赤くなっているのに気付きました。
 その意味に気付いたとき、私の頭は真っ白になりました。

 ……私が、悪かったんです。
 子供が怪我して、そこに私が来て、だから……。
 でも、それは狩り場では当たり前の事です。
 アプトノスさんの子供から、親を奪ったばかりじゃないですか……。

 ずるいですよね。

 結局逃がしました。狩れませんでした。
 起こした途端、脱兎の如く逃げて行きました。
 その影が見えなくなるまで、後から来たラウルさんの間に立っていました。
 この人だって、私達ごと撃つようなマネはしないでしょう。
「あーあ。ディと同じ事やってる」
 全然、嬉しくありませんでした。
 憧れているだけで、良かった事なんです。

「この洞窟の奥、キノコがあるからお小遣い稼ぐんだったらここよ。覚えておいてね」
 そのあとミケ姉さんに促されるまま、岩山にぽっかり口を開けた洞窟へ。
 まずはミケ姉さんが入り口の黒猫さん達と話をつけてくれました。
 そのお陰で、ぼんやり考え事をしながらでも採掘にいそしむ事ができました。
 さらに奥、少し水の溜まった所にいたランポスさん達。
 今度は、一人で全部狩れました。
 ……特に、迷ったり躊躇ったりすることなく。

 あの子が可哀想と思ったのは、弱かったからでしょうか?
 こんな事を考えるのは、自然の厳しさから離れた人間だけなのでしょうか?

 でも、

「なんで悩むの解っててやっちゃ……あ」

 もしそうだとしたら、

「マイラちゃん、戻って!!」

 私は、目の前の龍さんに食べられないといけません。

「……あ」

 顔を上げて最初に見えたのは、黒くて鋭い鼻先。次いで、鋭く青い瞳。
 ……そこに、呆けた顔の私が映っていました。
 それが龍さんだと気付いたのは、風に煽られて尻餅をついた後です。

 真っ黒い龍さんが、目の前で横になっていました。
 前足で持ち上げた胸から上だけ、こっちを向いていました。
 それが時々角度を変えるのは、後ろにいるラウルさんのせいでしょうか?

 艶のある漆黒に覆われた、しなやかな体が、もの凄く綺麗に見えました。
 角を飾る白いひび割れ模様は、歴戦の猛者の証でした。
 青い瞳が、宝石のようでした。
 それが吸い上げる息に、髪を軽く持ち上げられて……。

フワァ〜……

 生暖かいあくびが返って来ました。
 鋭いと思った目は、いわゆる半目だったようで。
 口の端を限界まで引いて、フワァ〜……って。
 しぱしぱ瞬きする目が潤んでいたのは気のせいでしょうか?
 そのまま、目の前の黒がズリズリと……龍さんの体で見えなかった崖に、どさっ。

 呆ける私に、駆け寄った気配が肩に手を乗せるのがわかりました。
「マイラちゃん、大丈夫、だった?」
 ラウルさんの息が上がっているのは、気のせいでは無いと思います。
 ですが……。
「……立てません」
 私は腰を抜かしてました。
 視線も動かせませんでした。
 眼下の広間を通り抜けた龍さんが体を投げ出すように横たえる姿から。
 その体勢のまま岩壁を引っ掻いて、大きめの石が転がると腹這いのままかじかじる姿から。
 威厳の欠片も無いその姿から、何故だか目が離せませんでした。

 今年は酷暑でした。
 あの龍さんにはまだ辛いみたいです。

 傷跡の残る角と、きっと同じ理由でつけられた尻尾の白い縞模様。
 歴戦の猛者が不躾な視線に気付くまでそうしていました。
 いえ、睨まれたわけではないんです。
 むしろ間近で見たら、笑っていたんじゃないかなって思うような。
 一礼した時に、小さな、透明な石を拾いました。龍さんの涙だそうです。
 その場に採掘した氷結晶を半分置いて、キャンプに向かう事にしました。

 綺麗な綺麗な龍さん。どうか街を襲わないでくださいね。

「でもラウル君にしては珍しかったわねえ」
「何が?」
「龍さんを撃たなかったです」
「あんな殺気に平然としてる方がおかしーい」

 何はともあれ、私は幸運だったようです。
 私が逃がしてあげたあの子も、きっと。

「殺気ですか?」
「アタシ平気だったわよ?」
「だってラウルさんですし」
「酷い。差別だ」

 ラウルさんは言いました。
 私があの子を逃がしたように、彼はホムラ君を預かったと。
 ミケ姉さんは言いました。
 彼が人間のエゴでは無いかと悩んでいたと。

 ですが、私はそんな姿を見たことはありません。

 彼が見せなかったのか、答えを出したからかなのかは解りません。
 ですが、私は私の答えを見つけました。
 古龍さんの前に不用意に出た私は今、ちゃんと生きてます。
 狩人の前で昏倒してしまったあの子もきっと今、生きています。
 生きているという幸運。
 もし彼が迷っていたら、私はそう言うつもりです。
 それを享受している限り、先はあるのですから。

 いただききますの意味、戦う術、痛みに耐える術、そして幸運。
 初めての狩り場には、宝物がたくさんありました。
 抱えた龍さんの涙がほんのり暖かい気がします。
 岸辺の小舟に、三人寝転がって見上げた空は曇りでした。
 いいんです。爽やかな青空でなくて。
 所々でゴロゴロ言ってます。一雨降りそうです。

 暑さでよれよれの龍さん。
 この雨で少し元気になるといいな。

「マイラちゃん、全部が全部ああだと思わないようにね」
「そうそう。アレ、少なくとも僕は殺る気だった」

 いいんです。雨を通り越して嵐になって、帰りの出航が遅れても。

 お陰で、帰りの馬車は彼と相乗りです。
「んで、とーとーやっちまったのな……」
 あ、やっぱり良くないんでしょうか?
 いえいえ、幸運と言うことにしておきましょう。
 呆れつつも、咎めるような事は言われて無いのですから。
 ああ……やっぱり頬が緩みます。うふふふふ……。
「あれー、ディはジャッシュさんの方じゃなかったっけー?」
「ヒーラーUなんて買い与えて、狩り場行くなって方が無茶だろ……」
「知ってて何も言わなかったわけ?」
「言ったら稽古がリンチになる」
 そうそう。大事なことを忘れていました。

 あの馬鹿親父、帰ったら殴り倒さなくてはいけません。