アタシがこの街にやって来たのは三年ぐらい前だったかしら。
小さな村の小さな農場で、農婦で一生過ごす何て嫌だったのよ。
アタシがハンターになるのはちょっと駄目かなーって思ったけどね。
身綺麗にして、訛も頑張って抜いたの。
これでギルドで働くぐらいはできるんだーっと思ってやって来たの。
考えが甘かったのよね。
怖い病気が蔓延してたから、ネコの手も借りたぐらいなんだって思ってたの。
だけど、それにもちゃんとした勉強や訓練が必要だった……。
街に着くだけで案の定無一文。
言うまでもなく路頭に迷ったわ。
雨を凌ごうにも凌げそうな場所なんて無くってね……。
ずぶぬれになって倒れちゃったアタシ。拾ってくれたのが主任だった。
主任はいい人よ。
震えていたアタシに上等な毛布をくれて、暖かいミルクを振る舞ってくれた。
仕事もお金も無いって言うと、ちょっとの家事手伝いを条件にここに置いてくれたの。
お料理もお掃除もまだまだだったけど、それでも良くしてくれて……。
アタシがそれじゃ満足できなくなってね、お願いしたの。
あなたのお仕事を、手伝わせて下さいって。
え、何の主任かって?
闘技場の飼育係よ。
――――『バトルアリーナ・ひえらるきぃ』――――
そ、モンスターが真っ正面。ペットの面倒四六時中なんて無理だもの。
主なお仕事はお掃除と、体をごしごし洗って上げること。
勿論危険だって言われたけど、それでもやってみたかったの。
だって、みんな思ったより大人しかったんだもの。
どのくらいって、初めての仕事にイャンガルルガよ?ふふ。
危なくない危なくない。最古参のローズちゃんが一番大人しいの。
……棘でよく生傷作っちゃうから未だに上手くできないんだけどね。
名前の由来もそこから。触って見ます?
え、それより隣の空いてるのは何だって?
ああ、ゲリョスのスナップ君のスペースよ。
新聞見なかったかしら。スリに目眩ましして捕まえちゃったんですって。
マスコットにしようとか色々言っていたけど、きっと金ぴかの腕輪に目がついただけよ。
アタシなんて何度身分証のタグを取られた事か……すぐ取り戻せるからいいんだけど。
あら、試合が終わったみたい。えーっと、ちょっと待っててね。
傷薬とか、モンスター用の調合は難しいのよ。
ふふふ。あの子が今一番の注目株。蒼火竜のホムラ君。
ここに着た頃はご主人つつき倒してみたり、とにかく生意気だったのよ。
だけど先月テオ・テスカトルの襲撃に遭ってね(※)、ご主人、この子守ろうとして大怪我したの。
そしたらこの子、そのお陰で自由になった翼で、ご主人を救護班のとこまで運んだの。
この薬の匂いを覚えていたのね。
バリスタが構えられた広場に降りて微動だにしなかった……偉い子よ。
……最近じゃクックの鳴き真似やサマーソルトの練習に勤しんでるけど、自主的に。
一緒に出てきた白いモノブロスはシュガー君。
この子はちょっと特別でね……親が、密猟に遭ったのよ。
生活圏から遠い、大型モンスターの繁殖が問題にならない……いわゆる禁猟区ね。
あの子の主人はギルドナイト。密猟者摘発の時に捕獲したらしいの。
一番人間に慣れているのはあの子でしょうねえ。
え、じゃあ最初の相手じゃないのかって?
安全すぎて練習にならないのよ。それに……すぐアタシにじゃれてきちゃうんだもの。
在る意味ホムラ君の方がまだ安全だわ。ライバル対決はあっちに軍配ね。
名前の由来?うふふふふ……実はね、うふふー。
砂糖菓子でお腹を壊しちゃったからなんですって。
さてさて……ここからはちょっと覚悟決めてね。この先にいるのは……
「グルガァ〜……!」
ディアブロスのマギ母さんなんだから。
今のチャンピオンは彼女が独占。
黒いディアブロスは繁殖期の証拠。
……来たばかりの頃は鬱ぎ込んでいたんですって。
それでね、彼女のご主人、卵を探して来たんですって。
言うことを聞いてくれるようになったのはそれからなの。
今や彼女も二児の母。母は強しって言うのかしら。
黒グラビモスのドンを破ったのも子供が産まれた日だったわ。
……その主人も、あの病で亡くなって、今は友人の方が引き取ってるの。
尊敬はされてないようだけど……子供達共々嫌われてないから大丈夫よね。
来たばかりの頃は苦労したわ。小さなアタシなんてみんな見向きもしないんだもの。
お陰でお掃除をやりやすかったことも遭ったんだけど今はね……
ふふ。せーのっ♪
「にゃ〜ごぉ〜っ!!」
「グァ!?」
「クケッ!?」
「ブォ……?」
最強はこのアタシ、若葉トラのミケ姉さんなんだから。
「さあみんな、体ごしごしするから、並ぶんだニャーっ♪」
−狩りに生きる特別企画「働くアイルー達」より−
(※)テオ・テスカトルの襲撃事件。
街の中央広場を破壊した後闘技場へ進入。
その原因は血の匂いに引かれたとも、歌姫の歌声に魅せられたからとも言われている。
同事件にて蒼火竜ホムラの救出劇の裏では、ミケ嬢率いる飛竜達の奮闘があった。
彼女の人徳、もとい猫徳のなせる技であろうか?
彼女こそ、アイルー族の勇者に相応しいと飼育係主任、ラッシュ氏は語る。