Survive

 今日も今日とて俺らは哨戒飛行の後のスクランブル待機。
 ナガセはいつも通りソファの上で何か本に書き込んでるし、ブービーもいつも通りその反対側で寝て……あ、起きた。
 いや、戦争が始まったんだ。そのままで居られるはずもないか。
 休憩時間にゃソファの向かいに直行して寝息って言うのがいつものパターンなんだが……。

「お前、そんな頻繁に手洗いに立って空の上で大丈夫なのかよ」
 空の上でなったら悲惨なんてもんじゃすまねえ……いや、ひょっとしてお前吐いて来てないかって顔色してるんだが。
「……いっそ飛んでた方が楽だ」
「は?」
「待ってるのは……きつい」
 あーあ……そりゃ襲撃に供えてのスクランブル待機だけどよ。
「それじゃ神経もたねえだろ?」
 なんでこうコイツはこう生真面目なのかねえ。
「昔ほどじゃないけどやっぱきつい」
「昔って、まだ一ヶ月経ってねえよ」
 コイツ時々恐ろしいこと平然と言うよな。
 たかが一月、しかもひよっこ達の時死にそうなぐらい凹んでたのによー。
「あ、いや……南ベルカ出身なのは言ったっけ?」
「ん……ああ、そっか」
 待ってるだけってのは、辛いよな。
 今は、こいつならきっと何が来てもねじ伏せられるんだろうけどよ。
「親父さんがパイロットだったんだってな」
「……兄さんに聞いたのか?」
 そう言った途端目つきが鋭くなる。
 こいつ戦場じゃいつもこんな顔してんのかって目だ。
 俺、何か不味いこと言ったか?
「他にいねえだろ」
 んで、でかい溜息一つ。
「なんでこう喋るかなあ……戦果をひけらかす事なかれ。母さんに一度どつき回されたのに」
「へ、へぇ……なんでまた」
 お前のお袋の話ってそんなんばっかだな……。
 喧嘩とか射撃の腕とか仕込んだの母親だろ、絶対。
「もしチョッパーの身内が死んだとして、目の前の俺が仇だったら今まで通りでいられるか?」
 で、俺が聞きたかったのと別な事聞いてきやがる。
 ……ちょっと意地悪しちゃる。
「無理だな」
「……」
 おーし凹んだ凹んだ。ご期待通りの答えじゃ面白くねえっての。
「だってお前が今まで通り出来なくなっからそれ対応せにゃならん」
「……そう来たか」
 お前はただでさえこっちが心配になるぐらい神経細いんだからよ。
「そんなんじゃキリが無いぜ?」
「でも、戦場を飛ぶってそう言うことだろう?」
 あーあ……こりゃあ色々気に病んでるな。
 俺だって嫌だけどよ、お前は露骨過ぎるんだよ、幾ら何でも。
「だけどよ、そうやってお前も、お前の親父も、守って来たんだろ?色々とよ」
「守って……だったらいいんだけどな」

 ……なーんでこいつは嫌なこと思い出すような顔するかねぇ。
 俺も嫌なこと思いだしちまったじゃねぇかよぅ。
「そういやお前の親父さん、列機も自分も無傷だったってマジか?」
「あ、それ嘘」
 おい。あっさり認めるなよ。それはそれで寂……
「被弾した列機連れ帰った日に限って妙に機嫌が良かったの覚えてるから」
 ……よぅよぅブービー、よぅブービー。
 そりゃ遠回しにすげー自慢してませんかと?
 被弾して上機嫌て、手練れに会えて喜ぶ余裕あったのかよぅ。
「変な人だったよ。戦場の話は滅多にしない癖に自分が落とせなかったパイロットの話は嬉々として語るんだ。当時良く遊んでくれた人のキャノピー横に銃創付けて帰って来た時にまた会いたいなんて言った日にはその当人卒倒してたし」
「色んな意味ですげーなお前の父ちゃん……」
「ま、流石にその時は俺達も生きた心地がしなかったよ。その人もそうだし次会ったときあと数pずれてたらって思うとさ」

−ああ、地上でだよ。あの頃互いに必死だったって、互いに酒飲み交わすのも悪く無いだろ。ああ、平和な空で腕競って肩組んで帰るのも悪く無いな−

「それ、すっげ言い訳くさくねーか?」
「だろ?どう捉えても空戦馬鹿だよな」
 ああ、やっと暗クールな御気分から抜け出してくれたか。
 でもブービー、お前同じ状況になったら凹むだろ?
 凹みに凹んで胃に穴を開けるだろ?
「にしても……よ、相当熾烈だったんだろ?こっちにだって隊長みたいなのやウスティオの猟犬とか居て、それで列機無事所か無傷ってすげー事だぜ?」
 むしろ小隊単位で化け物だろ。
 ベテランとかそんなレベルじゃねえよ絶対。
「ガルム隊か……アレと鉢合わせてたらどうなっただろうな。父さんは西の戦線を受け持ってたから」
「どっちにしたってそんなパイロットがいてなんで負けるわけ……」
「そんなパイロットがいたから……かもな」
「ん?」
「掃いて捨てるほどいるエース。化け物のような巨大兵器……早い話が慢心、だな」
 あー、やべ。戻っちまった。
 いや、今日は喋る分いつもよりはいいのか。
「上と仲悪かったらしくて最前線には行かせて貰えなかったようだし」
「気に入られて無いならそれこそ最前線だったんじゃないのか?」
「初期はそれこそ小隊だけでとかあったらしいんだけどね。無駄だって思われたんじゃないかな」
 えーと、それはつまり、どんな危険地帯に飛ばしても生き延びると言うことで、殺しても死なないと……そんな化け物を私情で前線から遠ざけてたわけで……うん。そりゃ負けるわ。
「まあ、西に戦力を裂けば東のエース。東に戦力を裂けば西のエース。どの道、無理が……ぁ〜……あったってことさ」
「おいおい喋り疲れかぁ?」
「かも」
「んじゃ今日はもう寝ちまえよ。もう何も起こんねえよ」
「……そのまま、戦争も終わってしまえばいいのに」
「だな」
 止められる立場の人間が妙案を見つけて、それを実行してくれりゃどんだけいいか。
 そんなことをいつも考えていて、こないだのMr.積み荷ならやってくれそうな気がしてその矢先アークバードがぶっ壊れて……ああホント、このまま終わってくんねえかなあ。

 横目に聞いていた彼等の昔話。それを聞き終えたとき、15年前に書いてそれっきり、掠れたメモに改めて斜線を引いた。
 同時にチョッパーが出て行って閉めた扉の音で……起きた。そして転げ落ちた。何やってんのよこの人は。
「いたたたた……う〜」
「ねえ、ブレイズ……」
「?」
 でも、その時その言葉を口にしてしまったのはきっと……お父さんが昔言った言葉を忘れられなかったからだと思う。
「お父さんは、今……」
 斜線を引いたその願いが、叶えられるかも……
「……ああ、死んだよ」
 いや、もう叶っていた。
「あ……ごめんなさい」
 この上なく、奇妙な形で。

 思いもしなかった相手からの質問。何となく、迂闊なことを話したのではないか。
「……馬鹿な人だったよ」
 そこまで考えていたのに何故「気にしてない」「大丈夫」その一言で終わらせなかったのか。
「え?」

−亡命を進めたのは他ならぬあんただったのに−

−俺達を見捨てないって言ったのはあんただったのに−

「あと二週間踏み止まれば英雄になれたのに」

 どうして、自分で逝ってしまったりしたんだ。


 事務所待機の仕事中に思いついたネタ。
 何事もなければ昼に、何か有れば夜に帰ることになるその時の胃の痛さはまさにと(違
 それは冒頭のシーンだけで残りはつらつらかたるベルカンウォー(と言うかバルトパパ)