ACE
COMBAT 5
The Unsung War
…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...
Ex...Story
SOLG撃墜と共に、「ラーズグリーズ」の歓声が響きわたった街。
その余韻は日没を迎え丸一日経った今も消えることなく続いている。
あの戦いに参加した兵士達が国籍を越えて肩を組み、久方ぶりのアルコールに酔いしれている。
だが、どうにも俺は損な性分らしい。相変わらず喧噪は苦手だ。
こういうときに騒ぐのではなく感傷的になる方向に酔いが回ってしまうのだから。
あの時、あの空で、二つの国が手を取り合う場にいたという高揚感はもう消え失せていた。
太陽の名に反して、俺の心境は酷くしんみりとしたものだった。
−こちらアーチャー。ターゲット、発見しました−
−OK。こちらH.Q.こちらもターゲットの誘導を開始する−
祭りの場を離れ、一人海を臨める場所に行く。並々と酒のつがれたグラスを空に掲げる。
あの場が一番似合うロックンロールの神様へ。誰より平和を望んでいた男へ。
一人で色々と思い返しつつ、一人静かに飲もうと思ったときに、足音が聞こえた。
「ナガセ?」
「残念でした〜」
「なんだオマエかい」
……グリムだった。足音とか歩き方とか、どれを取っても別人のコイツとナガセを何故間違えたのか。
相当酔っているのか、ラーズグリーズの悪魔も地上に降りればただの人というわけなのか。
「ナガセ大尉を待っていたんですかぁ?」
だからかどうか知らないが、気付くのに数秒かかった。
「お前……酔ってるだろ?」
一度チョッパーに飲まされたときはぐったりとしていたが……いつの間に強くなったのかあの時のはやはり飲み過ぎただけだったのか。
ニヤニヤと年齢より遙かにガキっぽい顔でこっちを見るグリムに、生真面目な4番の面影は……無い。
こんな事を考えている間にも酒は回っているのかどんどん酔っぱらいらしくなってくる19……ああ、来週二十歳か。
「バートレット大尉にいっぱい飲ませて貰いましたぁ」
酒瓶とグラス片手に肩にのしかかって酒臭い息吐きかけるな……オヤジじゃあるまいし……。
「お前未成年……」
「今日は無礼講です〜そんなにカタいとモテませんよ〜」
……バートレット隊長の受け売りだな。まあ、しばらく表舞台には出れないのだから無礼講の一言で全て片づいてしまうわけだが……俺の方も酔っている事に変わりはなかったらしい。
「ここで何してるんですか〜?」
「ロックンロールの神様とも、乾杯しようと思ってな」
随分上手いこと言ったと思う。昔の自分には想像も付かなかったことだ。
だがもう少し別な所でこういう事が言えれば良かったのだが……。
「隊長も言うようになりましたねぇ〜」
そりゃあそうだろう。俺が目指していたのはバートレット隊長だったのだから。
あの無駄話で、どれだけ気持ちが楽になったか……俺は結局習得できなかったが。そして……。
「お前も随分喋るようになったじゃないか」
トンネルくぐりながら上げる素っ頓狂な声は未だに忘れられない。
そしたらそれっきり黙ってしまったグリム。
静かな時間を邪魔する輩を無事撃墜できた……などと思うのは甘かった。
ぐすっ
「……ぐ、グリム?」
むしろその逆で、どうも俺の一言は、かなり威力のでかい地雷を踏んでしまったらしい。
「う……ぐすっ、だ、だって……」
さっきまでへらへら笑っていたグリムが今度は涙で顔をぐしゃぐしゃにしている。
「静かなんですよ?」
「あ……」
そして、その地雷が何か気付いてしまった。
「飛んでて……静かなんですよホントに。隊長はいわずもがなだし、ナガセさんだって……スノーた大尉は……で、でも俺……チョッパー大尉のようにはできなくて……」
もういい。呂律の回らぬ舌で必死に喋ろうとするグリムに、俺は何も言えなかった。
そうだ。一番苦労していたのはコイツじゃ無かったのか?
成り行きで飛ばされるハメになって、こんな大事に巻き込まれて……。
……4機目は正直者にしか見えないって話だぜ?……
……チョッパー、聞いたか今の?アンタすっかり神様だよ……
グリムもそうだった。コイツが一番よく喋るように……生真面目なルーキーには、あまりに荷が重い事だったろうに。
何とかならないものかと……言葉を出しあぐねていた時……。
Pipipipipi……
「あ、連絡」
「へ?」
グリムの胸ポケットに入っていたのは小型の無線。実は未だに俺の肩によっかかっているので、通信相手が誰なのか、容易く特定できた。
<<アーチャー、私語は慎め>>
……いたのかサンダーヘッド。そして何故グリムに……。
だがそこまで聞こえた所でさっと俺から飛び退き通話を始めるグリム。
「はい。こちらアーチャー。はい。装備は……了解。補給が完了しだい帰投します」
いきなりシャキっと立ったかと思うと、その口調はいつもの生真面目な4番機だった。
「お前いつからシラフだった!?」
「実はあれ、さっきスノー大尉と話してた事だったんですけどね。それにしても隊長も声張り上げるようになりましたよねえ」
「おい……主犯は誰だ」
「少佐っす♪」
「ぶっ!!」
マテ、何故そこで少佐だ!?そこは普通バートレット隊長なんじゃないのか?
「アレです。いわゆる女の友情って奴なんじゃないですか?」
よ、ようするにナガセを自分の二の舞にするなってことでか……しかし本当に可愛くなくなったなグリム。
「それに……ナガセ大尉があの時言った事覚えてます?」
「ん?」
「本当に、もう少し『だけ』でいいんですかってこと。じゃ、頑張ってくださいね。はい、補給」
顔のあたりの温度が上がっていく原因が、酒ではないことは明らかだった。
そう言って酒瓶(まだ未開封だった)を俺に押しつけ、そそくさとその場を走り去っていくグリム。その反対方向から足音が聞こえた。今度は、間違えようもない。
「ナガセか」
グラスを片手に持った彼女がそこにいた。
「みんなして様子を見に行けって……」
やっぱり。幸い周囲に人の気配も無いのが、せめてもの心遣いか。
「……一緒に飲まないか?」
「ええ」
解ったよ。もう……少なくとも俺達の戦いは終わったんだ。解った。言うよ、言ってやるよ……。
「なあ……ケイ、俺は……」
まったく、グリムの隊長は、俺じゃなくてチョッパー、お前だったみたいだ。