ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Ex...Story
帰郷

ソル・ローランド

 お疲れさん。
 ゆっくり休めよ。

 しばし、その翼を休めるといい。

 そんな声が、俺の意識を揺り醒ました。

 最初に目に入ったのは朝日の射し込む窓と真っ白な天井。
 SOLGの降下を止めるために飛んで、通信越しに聞こえる歓声を聞きながら飛んで……
 ああ、その前にナガセに馬鹿言われたんだった。
 無理も無いよなあ……自分でさえ思い返しても十分恐かったしあれは……。
 着陸した記憶は辛うじてあるが……寝ているところをコックピットから引きずり出されたかな。
 ふと、腕に係る重みを感じて視線を横にずらしたらナガセが寝ている。
 ……無理もない。仮眠を取ったとはいえ消耗の方が大きい。下手な徹夜よりきつかったはずだ。
 ひょっとしたらドアの外で何人か雑魚寝しているのかもしれない。
 体を起こして窓の外を見る。滑走路が見える。下りた基地の一室だろうか?
「ん……?」
 あ、起きた。
「おはよう」
 まだ寝ぼけてるのか少し涙目になってる。これはこれでちょっと可愛……。
「良かったーっ!!」
「!!!!!!!!!!!!?」
 次の瞬間、衝撃と共に視界が90度ほどひっくり返る。
 今見えているのはナガセの顔半分と真っ白な天……。
「ちょ、おい、ナガっ……!!」
「馬鹿っ!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁーっ!!」
「いや、ちょ、待っ……!!」
 がくがく揺さぶられるわ耳元で散々どなるわ……俺自身ちょっと冷静じゃなくなって……。
「っ!」
 逆にナガセをベッドに沈めてしまう始末。
 泣いてた。目を真っ赤にして。でも間近でよく見るとうっすらクマもできてた。
 出撃前は、クマなんて無かったよな?いや、少し薄暗くてよく解らなかったけど。
 そうやってまじまじ顔を見ている間に……。
「良かったぁ……」
 両手で顔を覆って、普通に、静かに泣きだした。
「大げさだな……俺が出撃直後に寝てるなんてよくあることだったろ?」
 まだ朝日が出て間もない時間。机の上にあったデジタル時計の時刻はまだ8時も回ってない。
「一時間起きないぐらいでそん……」
「……馬鹿」
「いや、あの時は心配させて……」
「違う」
 俺の言葉はことごとく不機嫌なナガセの声に遮られる。
 彼女が指さした先にあったのは時計の下の日付。

 2011:01:02

「異常無いって言われたって……もうこのままって思っちゃうわよ……」
 ……俺、49時間寝ていた事になるんですが。
「あ、いや、その……ごめん」
「馬鹿……」
 気が付いたら眠りこけて、翌日も翌々日も目覚めなかったら……不安になるよな。
 ナガセはベッドに沈んだまま、俺はベッドに腰掛けたまま。
 暫くは哨戒飛行に出るのだろうジェットエンジンの音を聞いていたが、ようやく意識が完全に現実に引き戻されて……あ。
「ナガセ、その服どうしたんだ?」
 今のナガセの格好。白のハイネックに黒のタイトスカート。
 明らかに余所行きの格好なんだが……対して俺は簡素にパジャマ。
 ナガセはともかく俺はいつの間に着替えさせられたんだ……。
「……今更気付いたわけね」
 いや、ナガセ、ちょ、その握り拳は……いだだだだだだだだだだだだだっ!
「あ〜な〜たって人は〜っ!!」
 こめかみ、こめかみ痛いってばー!!

 そんなこんなで、およそ2分はぐりぐりされていたわけで。

「ううう……」
 まだズキズキする……しかもなんか左側の髪質までなんか違う。
 いや、何かどころじゃない……そこだけ妙に髪質が柔らかくなってる。
 こめかみの少し後ろだから別にナガセの腕力でどうにかなったわけじゃ……。
「……はい」
 ナガセが手渡された鏡を見て……。

 その頃、その部屋から壁一枚隔てた向こう。
 壁に耳を当てて呆れているのが4人ほど。

ハンス・グリム

「……なんか急に静かになったな」
「やっぱショックでしょあれは……」

 デバガメと言われようと後で隊長にどつきまわされようと、コレばっかりはもうお約束な気がする。
 隊長がナガセ大尉のぐりぐりから開放されて数十秒沈黙が続いている。
 で、ココまではいいんですよここまでは。

「つか、オーシアの基地って防音性皆無?」

 ベルカからお偉いさんが二人ほどやってきてるんです。
 金髪にオッドアイで補聴器とインパクトだけなら多分下手な芸能人よりありそうな人がステファンさん。なんか大統領とは知り合いらしい。
 なんか聞いた話だとあの7発を落とした連中をしょっ引くと公言して議員の椅子を手に入れたとか。
 小さい頃にちょろっとだけニュースでそんな話を聞いた事があった気がするけど覚えてない。
 更に言うなら、俺達の受け入れ先が正式に決まるまで面倒を見てくれる人でもある。

「いやいやファルブロス基地も似たようなもんですよ」

 もう一人、薄い栗色の髪の人がノルト・ベルカの空で出会ったレーヴェ1……クルト・アルニム中佐。
 最初は何で?と思ったんだけど、ステファンさんのお姉さんが奥さん……つまり義理の弟さん。
 でもこれだけだとやって来る理由としてはまだ弱い。
 俺達の受け入れ先とか、今回の戦争の事についてとかは半分が建前みたいなものらしい。
 この二人が来た本当の理由は……隊長だった。

「しかしソル君何時まで固まってるんだろう」
「彼女に張り倒されるまでそのままんなんじゃね?」
 正確には、隊長のお父さん……なのかな?
「そんなに似てたんすか?」
「アレ白髪増やしてやつれさせたら思いっきり隊長」
 何でも部下だったとかどうとか。まあ隊長が起きないことにはどうにもなんないんですがね。
 ついでにバートレット大尉もなんか縁があったらしくて……。
「うへぇ。とんでもねー奴だったんだなあいつはマジで」
「あの中潜っちゃうような人っすからねえ……」

 そうそう、恐らく隊長が固まった理由って言うのは……俺も最初見た時びっくりしたんすよね。

「白髪一本だけでも十分似すぎですよね」
「恐怖で真っ白よりはいくらかマシなんだろうがなあ」
「むしろバルト隊長がなんかやったんじゃねってぐらいだよなあそこの白髪は」
「一番目立つのがあそこのでしたからねえ……」

 ヘルメット取ったら綺麗に白髪が一筋出来てりゃそりゃあねえ……。

ケイ・ナガセ

「……みんな気付いてないわね」
「まだ固まってると思ってるな」
 私達はとっくに部屋を出たと言うのに。
 本当はベルカから来た二人の事を聞いてみる為だったんだけど、その二人までデバガメ……。
「で、どうなの?」
「うーん。最後にあったの開戦から半年以上前だったから。その頃は補聴器は無かったけど、オッドアイの知人なんてステファンさんだけだったから」
 クルトさんに到っては思い出すのにもの凄い時間がかかってた。
 多分グリム達が固まってると思ってた時間の大半はそれじゃないかしらね……。
 そして半開きのドアの隙間から壁に耳つけてる二人の顔を見てやっと思い出したらしい。
 でも、それはフルネームにまで到ってない。
 その時の彼の顔は、少し哀しげだった。
「色々忘れてるな……ベルカにいた頃最後の思い出のはずなのに」
 でも、笑っていた。良い思い出を思い返すような顔で。
 その足で基地の裏側にある、いかにも寝そべるなり座るなりご自由にと言うような芝生へ。
 空は晴れ渡っていて、彼が寝そべらなかったら私がそうしていたんだろう。
 こうなると、私が横に腰掛けるしかない。
「少し皮肉屋になったわね」
「……いや、喋るようになったんだよ。昔なら、頭の中だけで終わらせていた」
 そして本人も気付いていない。自分の口調の年齢が少し下がっている事に。
 そのこめかみの横には本来なら老齢を示すはずの白い線。
 更には私達の行く場所は敵だった者達の祖国。
 ここまで皮肉が出そろっては何も言うことはない。
「でも、ホントに色々……昔話と言ったっておかしいぐらい色々思い出せないんだ」
「あの人達のことを思い出せなかったの、悪いと思ってる?」
「……」
 質問に対する沈黙。
 それが無口と言われていたけど会話にはちゃんと答える人だったと思い出させる。
「言っていいか?」
「……失語症以上のインパクトがあるなら」
「思い出せない物理的要因だけは今でもはっきり覚えてるんだ」
「要因?」
 そしてそれを聞く。
「……ベルカ戦争のドタゴタで後頭部強打したことがあって一週間検査入院したことがあるんだ」
 そして思う。
 何でこの人無事軍人なれたのかしら?
 それこそベルカンバッシングは無いってポーズの為だったんじゃないかとか、実は当初からグラーバクに目を付けられてたんじゃと一瞬は思ってしまう。
「それって……どの程度の……」
 そう聞いたとき、彼は何か考え込んで、妙に慎重に言葉を紡いだ。
「直後の知らせに、対して全くのノーリアクションだったから……感情のネジは飛んだかな」
「あ……」
 直後の知らせ。ベルカ戦争。そして何とか選び取った言葉が、感情のネジ……。
 そうか……うち一発が上空ではなく地上で炸裂したという話をテレビで見たことが……。
「ごめん」
 この人、故郷を喪ったとき、泣けなかったんだ。
「いや、それはこっちの台詞だよ。それに……暫くそんな話を何度かすると思うんだ」
「え……」
「どうせノルト・ベルカに行くんだったら、あの頃の事、少し調べてみようと思うんだ。それに、やっぱり抜け落ちた記憶があるって言うのも嫌だし。あの頃の記憶を辿ってみようと思うんだ。どれだけ残ってるのか解らない……長い昔話に付き合わせる事になるかもしれない、だけど、その……付き合って欲しいんだ。ナガセに」
 手を握るだけで精一杯。目が泳いでる。この人、これで口説き文句のつもりらしい。
 握られた手の上に反対側の手を添える……あ、茹で上がった。

 丁度その直後だ。
「おわ!あいつらいねーぞ!!」
「ええーっ!?」
 今更脱走に気付いたらしいバートレット隊長達の声が聞こえて来たのは。
「……してやったり、だな」
「お父さんの元部下ぶん殴っちゃっていい?」
「んー……ま、いっか」
 ふと周囲を見渡せば遙か先で少佐がこっちを見て笑ってる。
「上には上がいたな」
「まあ、いいんじゃない?」
 青空に二人分の笑い声が響く。
 こんな時間が、向こうについても流れるのなら、それはきっと幸せなことだ。

ノルト・ベルカ空港

「お、着いたみたいだな」
ハヤイナーラズグリノエーユー
「ステファンの姿が見えないな」
「……彼が起きるまで滞在を引き延ばしていたんだ。ゆっくりする暇もあるまい。で、それより何故君らがここにいるのかね?」
「まあ良いじゃないかデミトリ。シュミッドは元々あの人に気に入られていたし……お前も似たようなものなんだろ。ハゲタカ隊?」
「あのおっちゃんには散々からかわれたからなーライオンにゃ
カナワナイナー
「お。横に嫁さん確認。おいデトレフ。今夜はお前の奢りな」
「いや、後ろにコブ一個。言ったろうあの子は仲間1人ハブにしてハネムーンするような子じゃ……ん?」
「どうした?」
「あの、最後尾の……大分頭が薄くなってるが……」
「ん……て、うわー……あのテカテカは見間違えもねえ」
「おいおい……デミトリ責任重大だぜ。ちゃんと面倒見てやれよ」
「まったく、この中であの子と面識があるのは私だけだがなんでまた……」
「「「金も土地も一番持ってるからだろ」」」