ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Epilog

 ラーズグリーズは英雄でも、ましてや悪魔でもなく、
 ただ戦場を生き抜いた、一人の人間だったのではなかろうか。
 −エレン・ローランド……2020−

 戦争は終わった。それから両国の絆はより確固たるものになったが、その絆相応の波が押し寄せているのも事実であった。両国のトップはその為に互いの国を奔走したし、ベルカの方では案の定発生したバッシングや国民の不安への対応に四苦八苦していた。
 だが15年前のそれにくらべればと言うのが、父とその友人達共通の見解だった。

「そう言えば、バートレット大……いえ少佐は?」
「今頃ユークにでもいるんじゃないかな?よろしくやってると思うよ。そういえば君はどうだい?」
「死亡が公表されたのは彼等だけでしたからね、復帰第一号の記事を書かなくては」
「で、私に取材と言うわけだ」
「本当はバートレット少佐にも申し込みたかったのですが、一足遅かったみたいですね。と言うわけで、よろしくお願いします。大……」
「ワンッ!」
「うわっ、カーク、あー、ごめんごめん、解った、取材前にご飯にするよ」
「はっはっは!カークも元気そうでなによりだよ」
「それにしても本当に静かになってしまいましたね」
「ああ。ムルスカの方は市街地に近いから、そのまま博物館にでもしようという話が出ているそうだ」
「では、直にここにも来れなくなりますね」
「ああ……やはりどんな形であれ、巣立った場所がなくなるのは、寂しいね」

 かつて伯父達が飛び立った基地はもう無い。今は国立公園として自然の姿を保っている。
 彼等は悲劇の英雄として伝えられ、未だ何人もの人がその跡地を訪れているのだが。
 私も行った事がある。その度に、伯父達が過ごした想い出の欠片を探そうとして父に笑われていた。
 平和からの島流しだった場所……平和の中心に据えられたその場所に、もう軍事基地はいらないのだ。

「いいか!パイロットに大切なのは、何よりもまずハートだ!!」
「艦長。結構ずるいですよね、スノー少佐。あの人ちゃっかりケストレル航空隊唯一の生き残りになっちゃって」
「ははは。もう私は艦長ではないよグリム君。よくよく考えたら彼は死亡通知を出していなかったからね。そう言えば、ご家族とは?」
「ええ、今は色々手続きとか保護とかあって難しいですが、近いうちに会えるようになるそうです」
「そこ!寝るなーっ!!」
「むにゃむにゃ……」
「イェーガー中尉……起きた方が良いですよ」
「しかしあの人が合同艦隊の教官ですか……」
「お前はそれでも誇り高きベルカ飛行隊の一員かー!!」
「スノー大……こほん。少佐、楽しそうですね」
「彼以上の適任もいないだろう。所で、君は手続きが終わるまでここにいるかね?」
「そうですね……二人の邪魔をするのも申し訳無い気がしますし、ここからなら、スタジアムも近いですから」
「誰でもいい……ベルカ語で起きろって言ってやってくれ……」

 国籍を問わず、志を同じくする者達が翼を並べた。
 今後の歴史においてあるかもどうかも解らない、その誇るべき事実は今も伝えられている。
 あの時の父達のはしゃぎっぷりは今でも覚えている。
 滅多に笑わないらしい叔父……ひーちゃんが私の顔を見て笑顔を作ったのを覚えているし、いつもはどつき合っていたレオン中佐と7さんが肩組んで喜んでいたのも覚えている(勿論その後またいつもの調子に戻って母と叔母の鉄拳制裁を食らうわけだが)
 そんな歴史的な瞬間を私も一緒に見ていたはずなのに、覚えているのは白くたなびく飛行機雲だけ。

「各員私語は慎め!」
「ハートブレイク・ワンよりサンダーヘッド。相変わらずの石頭だなお前は」
「せっかくの合同平和式典の練習ぐらい和やかにしたって良いじゃないですか?」
「駄目だ。許可出来ない」
「……最近ちったマシになったと思ったのに何があったんだよ」
「グリフ1、私語は慎めと何度言わせる気だ?」
「ちくしょ〜いるんだろ仲良し四人組!お前等が空軍転属してからいっつもこの調子だぞこのおっさん!」
「ハッキリ言って、こんなに堅苦しいのうちだけだよな」
「ほう……ならば各機私語を許可する。思う存分に喋るがいい」
「……」
「……」
「恐!」
「あー、俺が悪かった。お前は石頭でいい」
「!!」
「あ、コーウェン中佐……あの、その……」
「バートレット少佐〜ちょっと言い過ぎですよ」
「最近言うようになりましからね中佐も……」
「……馬鹿にしやがって……」

 パウル大佐は門外不出の機体がオーシアにあった件で当分休みは取れそうに無いと泣き言混じりに電話してきたわりに愚痴を零しにここを訪れていた。
 次こそあの頃の仲間全員で休みを取ってやると息巻いていたが「待ち人がいるから当分はいいよ」と、叔父にいわれて心底ショックをうけていた。その事に関してはそれ以上に叔父が賑やかな結婚式を望んでいた事への意外性の方が語りぐさになっていた。
 ユリシーズで天涯孤独となったISAFの英雄が、自分達の結婚式をお祭り騒ぎにしてしまったのは言うまでも無い。
 その様相は凄まじいの一言。ISAFはもとよりオーシア、ユークからもそうそうたる階級……つまり軍関係者が集まったばかりか数に個性が埋没しないという、ある意味恐ろしい事態だった。
 地上でリボンが投げられ空では飛行機雲が流れ。
 ……たかだか二組の結婚式にいては派手すぎやしませんかと。
 まあ、その功績を思えば当然か。
 一番すごいのは楽しそうなわりに表情をかえないひーちゃんだったが。

「あのよ、行きつけのバーのマスターが元ベルカ空軍ってのはいいんだ。だけどよ……政府とのコネがあって俺の事情まで全部知ってるってのは無しじゃね?」
「世の中どこに接点があるか解らないものだよハーバート君」
「ここにはあの隊長と彼女は来て無いのかい?」
「残念ながらね」
「そっか……白い鳥の妹の初飛行が決まったら連絡を入れたいんだけど、無理かな?」
「何、あの子達のことだ。そのうちやって来るさ」
「……だな。しかしまあなんだ。あのまま拾われてたら始末されてたろう所を救われて、救出記事の捏造までしてくれて何だけどよ、ひっきりなしに事情聞きに来る連中何とかならないのかね?」
「黙ってるしかないね。それこそ貝のように」
「だけどよー。あのままだと俺色々脚色して脱出劇語っちまうぜ?」
「ダメダメ」
「だよなー。俺当分酒も飲めないような気がしてきた」
「じゃあ代わりに私が飲むから付き合ってみるか?」
「悪い予感がするから却下」

 結局私はオーシアに帰る事無く、その後もシルバーホークの面々の世話になっている。
 少しでも早いバッシングの収束をと父が世界中を駆け回るようになったから、あの時よりも長い間会えない事も多くなった。最大の理由は、今の今まで蹴り続けていた役柄を引き受けた事にあるのだが。
 鋼の翼の代わりに作り物の鎧兜を纏い、銃の代わりに偽りの剣をもって、自分の戦場を舞うのだと。
 そして、私が私の戦場に立つのは、また別な話だ。

「あの人、いつまでハートブレイクしてるつもりなのかしら?ねえ」
「少……いえ、大佐とゴールインするまでじゃないですか?」
「ふふ。だとしたら当分難しいわね」
「あれ、そうなんですか?」
「あの人、夫には向かないわ」
「はは。でも恋人ではいるつもりなんでしょう?」
「飽きたら考える、というのはどうかしらボーディン少尉」
「はは……あなたは流石に言い間違えませんね」
「今も呼んでしまったら偽名の意味が……どうしたの?」
「いえ……あの後もアリョーシャと呼んでくれた奴が、こないだ逝ってしまいましてね」
「……そう」
「式典の時、改めてユーリーの奴も送ろうと思います」

 最低でも月に一度は帰ってくると言っていた父だったが、。それが守られたのは精々最初の半年だけ。
 結局、我が家はどんな形であれ戦うお家柄らしいと冗談混じりに笑っていた。
 母に到ってはもう慣れっこと言う顔である。だが私も少し覚悟しとこうかと言うと泣きそうな顔で否定する。
 もっとも、メールでパンクしそうなフォルダを見れば、少々鬱陶しささえ覚えるのだけど。

「ねえサンズ、一つ聞いていいかな?」
「どうしたクルト?」
「君に護衛が付くのは解るんだ。だけどさ……何でパイロットの僕がそれをしなきゃ行けないのかなあ?」
「おおっぴらに出来ないし友人という立派な理由があるんだしおかしくないと思うが?」
「……ひょっとして、中継点の事まだ根に持ってる?」
「当然」
「ううう、鬼、悪魔、人でなし」
「だって配役悪魔さんだし。そういえば、あの子は来たか?」
「……それがさ、隊長の墓参りに来る人、あのあといっぱいいて、解らないみたいなんだ」
「まあアイツの事だから、15年前の終戦記念日かあの日……それとも、今回の件でよほど印象深かった事があった日……絞れないな」
「まったく……でも、なんで解ったの?」

 私は伯父達を待ち続けていたが、オーシアに帰ろうとは言い出さなかった。
 嫌な想い出があったわけでも、ファーバンティの片田舎に馴染んだからでも無く、あの時レオン中佐が見せてくれた飛行機雲が忘れられなかったからだ。
 あれから叔父が叔母に黙って私を乗せて湖の上を飛んでくれた。ひょっとしたら張り合いたかったのかもしれない。
 だが湖面に映った影の先端の虹に見とれる前にひっくり返った状態に驚いた私が泣き出して、結局叔母と母の鉄拳制裁を食らうハメになったようだが。

「お久しぶりです、大統領」
「申し訳ないね大佐。わざわざ来て貰って。あの機体の件について、協力を申し出てくれたことには感謝しているよ」
「いえ、こちらこそ願っても無い申し出に感謝しています。ですが……本題は別にあるのでしょう」
「ああ。その年で情報部の大佐まで上り詰めた君の知恵を、是非とも借りたいと思ってね」
「彼等の件、でしたらいい場所がありますよ」

 それは……父が月に一度の約束を破ってしまうと公言したその日の事。
 私はいつものように空を見上げていた。

「セレの後ろに座る事になるなんて思いもしなかった」
「氷雨、バイクでも車でもいいから免許取ったらどうよ?」
「飛行機の方が早いし」
「そう言う問題じゃねえっての」

「ごめん、今回は長くなるんだ」
 いや、いつものようにと言うと語弊がある。
 父に抱きしめられたままむくれっ面で、そんな体勢だったから首が空に固定されていただけだった。
 ……ちなみに、むくれている理由は父が約束を破ることではなく、首があまりに痛かったと言うことを追記しておく。
 そんな状態だったと言うのに、何故気付く事が出来たのか、未だに解らない。
「あ……」
「ん?」
「おじさんだ!!」
 そして、この不思議な特技は、未だに健在である。
「……ひーちゃん?」
「ソルおじさんだー!!」
「えぇ!?」
 口をあんぐり開ける父とリロイさん。
 無理もない。叔父が乗っていた機体で、何故伯父がと思うのが普通だろう。
 もっとも、当時の私は理屈より直感を信じていたのだが。

「ただいま」

 軽く敬礼をしたその人に、私は力一杯抱きついた。
 この時は、ただ単純に、本当に嬉しかった。
 どんな会話をしたのかは覚えていないのだが、興奮しきった私は結構色々言っていたらしい。
 この頃から、厄介な娘になる素質は十分だったらしい。

「ねえ、彼、気付いたかな?」

 もう帰ってこないもう一人の伯父の行方を聞いて彼を凹ませるのも

「あのな、機動も見てない握手一つで解ったらすげーぞ?」

 案の定厄介な娘に育って家族の手を煩わせるのも

「解らないよ。エレンの伯父さんだし、でも、どっちが先かな……」

 空軍に入ると言い出して父を泣かせるのも

「先って、なんだよ?」

 一番反対すると思っていた伯父と叔父にあっさり送り出されてむくれるのも

「お互いの話を切り出すのは、さ」

 まだずっと先の話。

 

ここから始まる。
私達のThe Unsung War。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……称えられぬ、家族戦争と言う名の、ね。