ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Invoke

 鳩と姫君は、生きて幸せになっちゃいけなかったのか?
 −ソル・ローランド……1998−

ベルカ公国北方の海・アンドロメダ艦内
 アルベール・ジュネット

 勝利の報告にわき返る艦内。画面に張り付いていたシーゴブリンの面々は早速アルコールを持ち出しているし、他の艦からも無線越しに騒ぐ声が聞こえてくる。私自身もその様子と肩を並べる3国の艦隊を写真に収めるべく何度と無くフィルムを交換していたのではあるが。
「きっと今宵はラーズグリーズの女神もご機嫌なんだろうよ」
 誰か……堅い発音から察するにベルカ人だったろう……がそう言った。
 夜更け、今夜は良く晴れている。満月にほど遠い三日月が甲板に濃い影を残すほどに明るい。
 後々の取材に答えた者は言う。15年前のあの日以来、晴天の日が本当に希少なものになっていたのだと。
 その夜空を最後の一枚に写して私も祭りの輪に参加しようとしたとき、甲板に祭りの場をこっそりと抜け出した者がいたことに気が付いた。
「どうしたんだいカーク?」
「ワンっ」
 彼の敏感な鼻にアルコールの匂いは少々応えたのだろうか?
 思えばベイルアウトに沈み行く艦からの脱出と、随分と数奇な運命を辿ったものだ。
「お前は、この後どうするんだい?」
 青白い月の光は人の心を落ち着かせる作用があるらしい。
 祭りの余韻が冷め始めた自分は、ふと、もうすぐ別れの時が近づいている事に気が付いた。
 当分は休みの日が続きそうだ。
 そんなことを考えながらカークの背を撫でようとした私の手は空しく空を掠める事になった。
「あ、何処に行くんだい?」
 駆け出したカークが見つめる先、一瞬あのスタジアムかとも思ったが、東西が間逆な事に気付く。
 方角からしてスーデントール。彼等?いや、それにしては様子がおかしかった。
「バウッ!」
 鋭く一声吠えて、見つめるその先は空を向いていた。
 星の光が一つ、その色を変えるのを私は確かに見た。

ファーバンティ郊外・シルバーホーク本拠
 サンズ・ローランド

 戦いは勝利に終わったと、お祭り状態のスーデントールを映すキャスターが興奮気味に伝えている。
 彼等がトンネルに飛び込んでしまうと当分見つけることは出来なくなってしまうため、流石のエレンも待ちくたびれて眠ってしまった。他の面々もそれを見届けると今まで興奮に隠れていた睡魔がどっと押し寄せたのかソファの上でそれぞれが醜態をさらしている。
 たまにリロイ君が寝ぼけて「うりゃー」とか言いながら松葉杖を持ち上げるのは流石に危ないと思うが。
 今起きているのは私とひーちゃんだけだ。
「これからが大変ですね」
 さすが、英雄殿はよく解っていらっしゃる。
 皆に毛布をかけてやって、私達はエレンを抱きかかえたまま上の階の寝室へ。
 ベッドの上ではおいてけぼりをくった猫のぬいぐるみが主の帰りを待つように鎮座していた。
 寝せてやるとすぐそのぬいぐるみにしがみつく。どうやら余程気に入ったらしい。
「伯父さん……」
 その寝言は、どちらの伯父に向けられたものなのだろうか。
 あれが本当にソルだったらと、確認の術は無いものかと思う。
 これでやはり死亡通知が事実だったらこの子はきっと立ち直れない気がしてしまう。
 近々叔父になるであろう英雄殿が言うように、本当に大変なのは……ん、まて。
「……ノヴェンバーシティでの事、覚えてるか?」
 そうだ。彼もソルの戦闘機動を見ているはずだ。
 エレンが解ったんだ。リボン付きに解らないはずがないと、確信を持って私は尋ねた。
 もっとも、それを裏切るように、彼は僅かに微笑んだままゆっくり首を横に振った。
 だがその笑顔がどうも引っかかる。全てを知っているようにも見えたし、本当に解らないようにも見えた。
 そのまま彼の視線はエレンへ、そして窓辺へ、夜明けの近い空へ移る。その時、何を見たのか、驚くほど軽い身のこなしでベッドを乗り越え屋根づたいへと飛び出して行ってしまった。
 後を追いかけた私に、彼が空を示す。
 その先に、白みかけた空にあってなお青白く輝く星が見えた。
 凝視していると、それが西へ動いている事に気付く。
「……あれは……一体……」
 その時、私の真横には青ざめた表情で自身の片腕を握りしめる氷雨の姿があった。

 ソル・ローランド大尉

 俺達は雲の上にいた。三日月の光を遮るものはなく、星の光がハッキリと見えている。
「終わったな」
「ええ……あとは大統領達次第ね」
 これまでの事を思い返す。振り返って見ればたった三ヶ月に起こったことだった。
 環境も、自分自身も、加速的に変わっていった三ヶ月。
 どちらかと言えば良い方向に変われたと言える俺は、幸運な方なのだと思う。
 所詮は殺し合いの戦争、逆の方に変わってしまう人の方が遙かに多いだろう。
 もう変わることが出来なくなってしまった人達だって多いのだから。
「そういや僕等死んだ事なってますけど、どうなるんすかね?」
「決まってるだろグリム。毎日が日曜日さ!」
 そう言えば間違いなく弔報がサンズ兄さんに届いてるだろうけど、エレンには伝えたんだろうか?
 あの子が悪い方向に変わったりしないことを祈るばかりだ。
 ……デイズ兄さんに一番懐いていたから、俺だけで戻っても大丈夫なんだろうか?
 やっと平和が訪れるという時に何をネガティブになってるんだろう。
「隊長は長期休暇に入ったら何します?」
「ん、俺か?そうだな……」
 レーヴェ1には父さんの墓参り行くって言ってしまったし、まずサンズ兄さん安心させたいし、後ナガセに……俺個人にはやることが山ほどあるような気がするがとりあえず最初にすべきことはと言えば。
「寝る」
「ほーう」
「へぇー……」
 ……あれ?
「何その意味ありげな反応?」
「いえいえ別に」
「俺達が水を差すことじゃないしな」
 ちょっと待て。お前等たかが”寝る”の一言をどう拡大解釈してるんだ!?
「俺達何も言って無いよなー」
「隊長休日は一日中寝てそうと思っただけなんですけどねー」
 グリム、それ絶対嘘だろ!?ある意味最悪の方向に変わったよお前は。
 スノー大尉もそれは何処のいじめっ子の口調だよなあ……。
 ああ、さっきのネガティブの原因判明……エレンがこうなったら嫌だ。
 そんなこんなで気が付いたらナガセが真後ろに動いてレーダーロックをかけていたとかそんなことをしていた中に、通信が入った。

 その時だ、あの青白い星の高度が、少し下がっていた事に気が付いたのは。

シリル・コーウェン少佐

 祭りの喧噪もほどほどに、我々はニカノール首相の迎えに行くというユークの管制官と共に一足先にオーレッドへと戻っていた。腕の治療は良いのかとと言われたが、帰還するまでが作戦だと説き伏せて。
 そしたら足の捻挫までサービスされてしまい、ウォードッグ隊と関わった日はろくな事が無いなと溜息をつく日々を思い出していた。(勿論その後マリン・シギベルト軍曹の整体の方が痛かったのは言うまでも無い)
 だが、オーレッドで待っていたのは思わぬ知らせだった。
「今……なんと?」
 先の作戦で散々我々を手こずらせてくれた衛星が落下している。
 まだ落下先は特定出来ていないのだが、恐らくはオーレッド周辺だろうと言うこと。
 コントロール施設陥落と同時に落ちるよう設定されていたという。この期に及んでと憤る前に、まだ続くのかという脱力感の方が強かった。私自身の怪我の為ではない。
 ろくに休む間も無く飛ぶことになるだろう彼等を案じて。
 既に彼等には首都沿岸の高速道路へ着陸するように指示を出している。
 後は落下地点の特定と……彼等をサポートすべき管制官、勿論志願したが、当然の如く却下された。
 解ってはいた。こんな状態でそれは無理があると言うことぐらい。
 それでもせめて最後ぐらい同じ空を飛びたいと思っていた。
「仕方ないですよ少佐」
 解ってはいたが……落胆は隠し通せるものではない。
 医務室ではそんな私を案じてか軍曹四人が眠い目をこすってそこにいる。
 最後の最後で役立たずな自分が腹立たしいやら情けないやら、歯痒いことこの上ない。
 何か、何か出来ないかと、心中で彼の名を呼んだ。
 ……効果はあった。
 一呼吸置いて話を切りだす。
「君達に頼みたいことがある」
 次の瞬間には4人綺麗に整列しての敬礼。
 このノリの良さは私が見習うべき部分なのだろうな。
 それに私も敬礼を返……せなかった。折れた腕が痛い。
「コホン。と、とにかく、使いを頼まれてはくれないか?」

 4人の中で最も俊足だと言う男を見送りながら、医務室から見える空へ向けて折れていない方の腕で敬礼を送る。
「頼んだぞ、ウォー……いや、ラーズグリーズ!」
 そして、彼等を守ってやってくれ、チョッパー。

ソル・ローランド大尉

 SOLGの破壊。それが俺達に与えられた最後の任務だった。勿論戦闘機の装備で完全に破壊するのは難しい。それでも、パーツごとにわけてしまえば空気抵抗も相まってその被害は微々たるものになると言うことらしい。大気圏突入前提になっているだろう中身もそれなら大丈夫、と言うことだった。
「……よくそこまで聞きましたよね」
「グリムだって半分青ざめてた」
 俺達は今オーレッド沿岸の滑走路にいる。出撃に備えての待機中だ。
「ははは……まあ、僕はやること変わらないんですけどね」
「だな」
 後には退けない。何度だって思ったことだ。ただ、一つ決めた事があるとすれば……。
「隊長がどうなるかは解らなかったがな」
「もし危険って聞いたらどうする気でいましたか?」
 それもしっかりバレているようだったが。
 何も三人全員で詰め寄らなくてもいいじゃないか。
「大丈夫、そう簡単には死な……」
「「「そんなので誤魔化されるか!」」」
 ええそうですよいざとなったら一人で飛んでく気でいましたよ。

ケイ・ナガセ大尉

「……何も三人がかりでもみくちゃにする事無かったじゃないか」
 それも一段落ついて食事にありついている。と言っても、簡単なスープぐらいしか無かったのだけど。
 それでも暖かい食事は寒空を飛んできた私達には有り難かった。
「ほんと、何かにつけて無茶するんだから」
「……じゃなかった」
「?」
「でも無理じゃなかった。何時だって、大丈夫だと思えなければやらなかったよ」
 結局この人、どんなに言いつくろっても、仲間のために体を張る人なんだと思った。
 だからこんな時間ぐらい、逆の立場で良いんだと思った。
 彼の横に座る。緊急事態のせいなのか、仮眠を取ろうにも睡魔は襲って来なかった。
「そう言えば、本は?」
「あの状況で持ち出せるはず無いでしょ?」
 誰かが気を利かせてくれない限りは。それに、もう要らなかった。
 想い出は想い出。もっと大切なものがここにあるのだから。
 だけど、それを聞いて少し嬉しそうな彼の顔はちょっと癪に触った。
「どうしたの?」
「いや、その、さ」
 それは勘違いでは無かったらしく、しどろもどろな対応が返ってきたが、やがて腹を括ったように彼はこう切り出した。
「あの本、破いたのはナガセか?」
「!」
 単刀直入に、しかも正解を突き付けて来るとは思わなかった。
 頷いたらまた少し嬉しそうに、いや、少し寂しそうにも見えた。
「ラスト、覚えてるか?」
「大筋はね」
「そっか……」
 何となく嬉しそうだった理由が解った。
 この人、あの話が嫌いだったんだろうなと。
「……俺達は、生きて話を締めくくろう」
「ええ」
 でもその時、ちょっと幸せだった。

ソル・ローランド大尉

 出撃の時間が近い。俺がしっかり仮眠を取れていたのかには疑問が残る。
 熟睡は出来ていないだろう。時計の音が途切れた記憶がないからかなり浅い眠りだったはず。
 そろそろ起きないとまずいよな。
 俺とナガセはあの状態のまま寝ていた。もはや誰も何も言わないと言うのはなんとも……。
「ケ……ナガセ、そろそろ時間だ」
「う……ん。ありがと」
 こうなると馬鹿は俺だけだな。
 さて次はグリムを起こしに行くか。
「むにゃ〜……兄貴ぃ〜……」
 しっかり寝ぼけてやがる。頼むから首にしがみつくの止めろ。
 ナガセが笑いながらも中身が無くなって冷たくなったカップを首筋に押し当てなかったら首鳴りそうだった。
「あ、お、おはようございます!」
 良かったコレなら大丈夫そうだ。
「なんだ、寝過ごしてるかと思ったらもう起きてたか」
 スノー大尉も起きてきたことだ、俺達はそれぞれの機体へ向かう。

「寂しすぎる最後の出撃だな」
 そう。もうコレで最後にしよう。まだ後にやることがあるのに、手こずってはいられない。
「どうした?最後の戦いを前に 精神統一か?」
 ナガセの本の話を思い出して、一度ヘルメットを外して胸ポケットを漁った。
 引っぱり出したのはセロテープで補強されたペンダント。同時にデザートイーグルも飛び出しそうになる。
 ……兄と、父と、いや、それは形じゃない。戦友も一緒に。
 今までポケットに突っ込んでばかりだったペンダントを首に下げて、ヘルメットを被り直す。
「隊長!」
「ブレイズ!」
「ブレイズ!」
「ブービー!」
「ああ、行こう!!」
 皆と共に、俺達は白みかかった空へ。

オーカ・ニェーバ

「こちらオーカ・ニエーバ。急ぎ目標地点に向かえ。1秒遅れれば反復攻撃のチャンスは減る。SOLGが攻撃可能高度に降下するまで、あと5分」

 遡ること数時間前。AWACSに乗り込もうと言う時にその珍客はやって来た。
「待って下さい!!」
 廊下を疾走してきた男。何事かと追いすがった周囲の人間を振り切ってやって来たのはオーシアの管制官と共にいた軍曹の一人だった。ここの構造がどうなっているのかは解らなかったが、この寒い時期に額に汗を滲ませ肩で息をしている所を見ると余程の距離を全力疾走してきたことになる。
 一体何事かと彼の肩を掴もうとした自分の副官を片手で制すと、オーカ・ニェーバは彼の前に立った。
「まずはこんなギリギリの時間に不躾な形で押し掛けた事をお詫びします」
 それでも、姿勢を正し敬礼をする細身の軍曹。
「どうしても、持って行って欲しい物があったんです」

 預かり物はいつでも手の届く場所に置かれていて、それを見る度に考える。
 きっと自分が今こうしてここにいると言うことは、とても大きな思いを背負っていることと同義だろうと。
「約束は果たすさ」
 飛び立つ彼等を見守っていたその目は、レーダーの隅に映る機影に気が付いた。
 マイクを押さえ副官を振り向く。
「やれやれ。気の利かない連中だね。そうは思わないかい?」
「そんなこと言う暇があったらさっさと連絡してください」
 ……この副官、きっとオーシアの管制官と気が合う。そう思った。
「オーカ・ニエーバよりラーズグリーズの亡霊。レーダーに新しい敵機。オヴニルとグラーバク、ベルカ人の編隊がダブルで、だ」

ブレイズ

「やはり来たか」
 もう不思議には思わない。
 あの場に現れなかったのなら、彼等が怨念を向ける場所はここしか無いのだから。
「われわれは今、15年前の誇りを取り戻す!」
 ならば、その過ちをここで正すまで。散開した各機が襲いかかってくる。
 俺の背後にいるのは……両部隊のリーダー、二機がかりで仕留めようと言う腹か。
 いや、もう一機いる……そう言う事か。
「隊長機を堕とせば壊走するぞ!」
「あいつだ、あいつを堕とせ!」
 動こうにもこいつらのうち一機でも落とさなくてはどうしようも無い……なんて、計算通りに行くと思ったら大間違いだ。
 出来ないはずがない。3機のエース級のパイロット後ろにぶら下げてどれだけ持つか、だが、自信があった。
 ミサイルアラートに構うことなく、グリムの背後にくっついていた単独の機に狙いを定める。
「その甘さ故に、貴様の父も死んだのだ」
 アシュレイの低い声に冷笑が浮かぶ。嘘つけ、やり合ったことも無いクセに。
「我々は勝利する!屈辱はすでに十分なのだ!」
「取り返しのつくうちに、どきなさい!」
 第一、俺の二番機を甘く見過ぎだ。アラートが消える。次の標的をスノー大尉の背後に定めるフリをして回避行動の誘発。
「アーチャー、FOX2!!」
 撃墜には到らなくても、その間にナガセの背後にいた一機が落ちる。
「貴様たちも、無辜の民たちの犠牲の痛みを思い知るがいい!」
 俺を追撃していた機がグリムに矛先を向けたが、既に目論見は破綻している。
「その犠牲を強いたのは誰だ」
 エアブレーキを引く。一機、手前に現れた機体へ一撃を見舞う。
 だが、もう一機がまだ背後。
「一度の偶然を信じるとは、若さ以前に愚かだ」
 機銃の閃光がキャノピーの真横を掠める。本当に一瞬、俺は死を覚悟した。
 まだ落ちない。血の気の引いた頭で考える。それに負けてしまったら、本当に父の二の鉄を踏む事になる。
 Gの圧力の中で考える。俺とグリムの背後に一機、スノー大尉の後ろに2機、ナガセの後ろには……。
「ソーズマン、FOX3!」
「な、馬鹿な!!」
「勝ったと思うな。勝負はまだついていない!」
 誰もいない、か。
「ナガセ、二人を頼む!」
「……了解しました!」
 やや躊躇いがちの了承。我ながら呆れる。
「は、たった一人で私を相手にするつもりか!?まして、数が対等になったぐらいでいい気になるな!!」
 結局俺も、ベルカの人間だったわけだ。
「その言葉、そっくり返す。彼女が何て呼ばれてたか知らないだろう!!」
 空戦の天才。久しく聞かなくなった言葉だけど。

「ケリを付けよう。真の亡霊はどちらか!」

 ナガセに対応しようと機体を捻った敵機がグリムの射程に飛び込む。
 もはや、後顧の憂いも無い。

 あの時の機動はやはり通用せず、結局は高G機動の応酬が続く。
「隊長、援護に……!」
「駄目よ」
「流儀……か。同じ誇りでこうも醜美が別れるか」

「神よ、我らの地獄への門出に栄光を!」
 その時聞こえたのは、アシュレイだったのか、他の誰かのだったのかは解らなかった。ただ……。
「明日見る夢も無い奴に……」
 それが、俺の感情のヒューズを一時的に焼き切ったのだけは覚えている。
「栄光なんてあるもんか!!」

 理性の限界を超えた感情が一瞬、人体のスペックを超えた機動を許した。