ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Finale

 犬死にするな。生き残ってこそ英雄だ
 −ストーンヘンジ攻撃に参加したパイロット−

 ファーバンティ郊外・シルバーホーク本拠
サンズ・ローランド

「伯父さんだ!」
 現在午前3時半。本来寝ているはずである4歳児の乱入に呆然となる私達。
 いや、それよりも伯父さんって……寝ぼけているようには見えない。
 そして、驚いている私達などエレンの眼中にはいないようだった。妻が立ち上がると画面が遮られてしまったのかTVの前に移動しようとする。自然、私達の視界に画面が入り、再び白い筋が画面の……かなり近くを横切る。
「またいた!」
 それを見て、ハイエルラークでソルが見せてくれた飛行機雲を思い出した。
 やっぱり信じたくは無いんだろうと判断した。また黒い影とサーチライトだけになった画面。
 さらに画面一杯に横切る黒い機体で本当に真っ黒に……。
「いたーっ」
「!」
 その瞬間にまた声を上げる。
「え、エレン?」
「今いたよ!」
「わ、解った。解ったから、ちょっと……」
 そこまで言いかけて、ちょっとひーちゃんの方を振り返る。
「なあ、ひーちゃ……て、おーい」
「……」
 画面を食い入るように見つめていて返事がない。今度は私が彼の眼中から外されてしまったらしい。
 私もエレンを膝の上に抱きかかえて彼にならったのは、娘同様、私も信じ切れずにいたからだ。
……一体受け入れるのに何年かかるんだろうか。遺品でもあったら違ったのかもしれないが……
 画面を食い入るように見る。遠くで飛行機雲が過ぎる。娘は何も言わない。
「いた!」
 それが爆炎で途切れた瞬間、ひーちゃんの視線が固定されたのとエレンが見つけるのは同時だった。
 カメラマンもその機体を追いかけていたお陰でW型の翼と赤いラインを確認する事が出来た。
《なぜ彼らが「ラーズグリーズ」と呼ばれているか、詳細は不明です》
 それまで聞き流していたキャスターが幼い頃良く聞いていた名を口にする。
 あの黒い機体がそうか……まさか、ほんとに化けて出たか?
 画面の奥を飛行機雲が流れる、あのシルエットさえ見れば、もう判別は容易い……はずだった。
「伯父さん!」
「え?」
 またカメラがその機影を追う。赤いラインは見えたが……鏃のようなシルエットは全くの別物だ。
 ……またあのWの翼を見つけてエレンが身を乗り出すがさすがにもう声は……。
「伯父さんいたーっ!」
 やっぱり出すか。そして機影が消えるとまた探す。時々あの鏃のシルエットを見つけ声を上げる。
 赤いラインと言う共通点に何かあるのかとも思ったが「伯父さん」を「ソル」と断定して無い事に気付いたとき、妙な期待につい周囲に視線を向ける。
 それがにじみ出ていたらしい私の顔を見て、ひーちゃんが現実を突き付ける。
「あれ、同一の機体」
 そこまで都合のいい話は無いと。

ブレイズ

「我々をこんなところに追い込んだのは彼らだ。ウォードッグの幽霊、ラーズグリーズの亡霊なのだ!」
「ラーズグリーズの亡霊……」
「そうだ、彼らをしとめろ」
「奴らをだ」
 ハミルトンを追い払ったのは良いが、SOLGからの砲撃に援軍が遅れている。
 その上ハミルトンの言葉通り、俺達を共通の敵に据えた好戦派の統率が取れてきた。
 だが、悲観するには早い。
「こちらオーカ・ニエーバ。歌声で集った諸君。二つの敵が一斉に ラーズグリーズを狙い始めた」
「彼等を守る」
「俺達もだ」
 それはこちらも同じ。条件が同じになっただけ。多くの銃口が俺に向くなら都合がいい。
 多勢に無勢なんて今に始まったことじゃない。何より、後ろには……。
「エッジ、FOX2!」
「ヴィスナ2、FOX1!!」
 今回は彼女一人じゃないしな。
 敵も味方も大軍。一体何機落としたのかもう解らない。
「信じてれば……味方って増えるんだ。本当なんだ」
「グリム、まだ来るぞ!」
「はい!」
 レーダーの範囲を広げる。北側に機影を見つけ、その方向に機首を向ける。
 それと同時に再びおやじさんからの通信。
「少佐のディスクからトンネルの見取り図を見つけた。中枢部は二つ。コントロール施設は最深部な上に長時間出入り口を確保するのも難しい……となると」
「飛び込むしかありませんか」
 サンド島脱出、狭いレーダー網、これ以上何が来ても。
「そうなる。よろしく頼むよ。北側も制圧できたと連絡が入った。もう一方から別働隊を送り込むよ」
 その指示を聞きながらも、俺の注意はレーダーに移る白い4機編成の光点に向けられていた。
 だがそのレーダーの端にそれらを追い抜いていく青い光点が映る。
 上空にいた敵機の攻撃目標がそれだったらしく、ヘッドオンで相対した俺に対処しきれずあっさり落ちた。
「こちら第112歩兵大隊。コントロール施設の入り口に到着した」
「よし、トンネルの入り口を開くぞ!」
 トンネルへ向かうべく反転、その時、白い機体からパイロットが射出されるのが見えた。
 あのカラーリングは……ベルカの?出入り口確保の時間制限がある以上気にしている暇は無いか。

 トンネルの出入り口を前に、一度深呼吸。
 大丈夫。もっと無茶なことをいっぱいやってきたんだ、このぐらい!
「じゃ、行って来る」
「ピッタリ付いて行くしかないわね」
「水くさいこと言ってくれるなよ」
「今更何考えてるんですか?」
 ……で、結局全員付いてくるのか。
 そのままトンネルに滑り込む。内部は明るいが果てがないように続いているというのは神経を尖らせてくれる。
「トンネルの反対側から別働機……こんなことが出来るパイロットが何人いるというんだ?」
「いるわ。”あの人”なら……」
 同感だ。”あの人”だったらむしろ嬉々として突撃してくれる気さえする。
「後ろから敵機!ハミルトンだ!!」
 冷静であれ。そんな状況だというのに予想外の事態は容赦がない。
 よりによって一番腹立たしい奴が追いかけて来た。
「逃すか、ウォードッグ!滅びへの道を飛べ!」
「……ご苦労なことで」
 向こうは俺達についてくればいいだけ。機銃の閃光が時折横切る。心臓に悪い。
 幸い、冷静さを失い欠けているが為にろくに狙いも定まっていないのだが。
 だがこのまま引きずっていては俺のヒューズが持たないかもしれない。
「逃げろ!後戻りできない滑稽を思い知れ!」
 それはお前の事だろうに。
「外で幾らでも相手してやる、少し黙ってろ」
「この状況で?気でも違ったか!」
 目の前はほぼ直進。そろそろ本格的にやばい。いや、実際何か飛んだかもしれない。
『五月蠅ぇつってんだよ、お前は!!』
 でなければベルカ語のまま罵倒なんてまず無い。
「こちらハートブレイク・ワン。お前がブチ切れるた珍しいこともあるもんだな、ブービー?」
 ……そりゃどうも。
「生きていたのか、バートレット」
 今ので発散できたのか、あとはすこぶる冷静だった。
「お前は生真面目すぎるんだよ、ハミルトン。敵味方の区別が出来なかったのが、お前の失敗なんだ。恐怖は味方じゃねえ」
 中途半端に知らないんだな……結局この男も、利用されたに過ぎなかったなと考えられるほどに。
 レーダーに白い光点が移る。続いてHUDに、トンネルの壁越しにレーダーロック、見えた!

「FOX2!!」
「ターゲット沈黙!」
 派手に爆炎を上げているだろうターゲットを確認する間もなくトンネルの先に飛び込む。
「こちらハートブレイク・ワン!こちらでも中枢部を破壊」
 これでもうSOLGから撃たれる事は無いな。
「こちらアーチャー、前方からバートレット機が急速接近中!ということは……」
「……やるしかないわね」
「いいか、1、2の3で右に避けろ」
「了解」
 あとは俺達が無事に脱出するだけ……研ぎ澄まされた神経が体の内側を冷やしていく。
「それ、1,2,3だ!……イヤァーッホォーッ!!」
 ほんとこの人相変わらずだ。とはいえ、状況は何処までも俺達を安心させてはくれないらしい。
「シャッターが閉まってゆく!!」
「急がないと閉じこめられる!!」
 これだけならまだいい。僅かながら動くスペースがあるから。
 だと言うのに、一度無茶苦茶な状況はすっかりハメを外したようになっているようだ。
「前方からも敵機!挟み撃ちだ!」
 一体何人エースがいるんだよここは。
 だが流石にヘッドオンからの撃墜は勘弁願いたいと、機銃のトリガーに指をかけ……。

 弾、無いし。

「避けるぞ!」
「隊長、弾は!?」
「無い!!」
 ……この瞬間俺の中では何かが切れていたんだと思う。
 原因はきっと後ろから猛追して来る馬鹿野郎のせいだ。
「ああ、もう!!最後の最後まで無茶苦茶の連続だ!!」
 もうコレがここでの最後の会話。シャッターの閉まるタイミングはますます早くなる障害物は増えてくる。
 早く、速く、早く、速く、早く、速く、早く、速く、早く、速く!!
 たった一つの単語が頭を埋め尽くす頃、ハードルを真下に掠めて目の前に夜空が見えた。
「もうちょっと!!」
「飛び込めーっ!!」
「行けぇーっ!!」
 それぞれの声と共に夜空へはじき出された俺達。振り向けば誰かが派手にやりすぎたのかトンネルは派手な爆発と共に崩れて行くところだった。
「は、はぁー……っ」
 無事脱出……そう安堵しようとしたとき、まだ厄介ごとを抱えていたことを思い出す。
 弾は無い機体も散々酷使したせいか機嫌がいいとはお世辞にも言えない。
「……ハミルトンは?」
 それでも口に出した以上相手にしないといけないと思っていた。
「レーダーで、敵機と接触したのを確認しました」
「そう、か……」
 やりきれない……一歩道を間違えたらひょっとして自分もああだったろうか?

 死という結末は、嫌いだよ、本当に。

 レーダーに友軍機の反応。トンネルの向こう側も似たような状況だった。
 違いは眼下に広がる兵器群の多さと、空の機影に白……ベルカのカラーリングのそれが多かったぐらい。
 勿論、全部友軍機だ。
『わー、ほんとに真っ黒だ』
 通信にもそれは反映されている。
 白い機体が出迎えと言うより物珍しげに眺めるようなバレルロールで迎えてくれた。
『レーヴェ3!!一番の上客に何やってるの!』
『ほいほーい』
 俺には会話の内容が筒抜けなんですが。
 レーヴェ3と呼ばれた機体が出迎えに来た、恐らくは隊長機の後ろに付く。
 3機編成……一機は、あのトンネル突入前のか?
「ラーズグリーズ、ようこそノルト・ベルカへ……と、言いたいところ何だが、領空侵犯を容認したのはオーシア機だけでね」
 偉く流暢なオーシア語。
 聞き覚えがあるような無いような……ベルカ語だったら少しは思い出せたかもしれない。
「空中給油機を手配しておいた。祭りに呼ぶわけにも行かないだろうし、早く帰って、安心させたい家族がいるだろう?」
 それまで上空を飛び交っていた戦闘機の群が俺達の前に道を開ける。
 明るい色の機体が……一部かなり派手な色のもいるせいかカーテンのようだ。
 そんな事を考えていたから、その声を聞いた時には思わず「あっ」と言いそうになった。
「ラーズグリーズ隊、貴機のチェックを実施し、給油態勢を取れ」
 ここ数日縁の無かった無機質な台詞に無機質な声。
 あいつなら「相変わらずの香しさだ」ぐらい言ったんだろうな。
 キャノピー越しに顔を見合わせていた俺達を警戒していると判断したのか、続いて聞こえてきたのは意外な台詞だった。
「今度は、罠じゃないぞ」
「心遣い感謝する、サンダーヘッド」
 そうして帰り分の燃料にありついている途中、後ろからの光にレーヴェ1がピッタリと後ろに張り付いていたのに気が付いた。
 それと同時、オーレッドの滑走路を明けてあるとの連絡が入り、その発光信号に「ja」とだけ返して、俺達はノルト・ベルカの空を後にした。

AWACS・サンダーヘッド機内

「……あの人達、無事だったんですね」
「ああ」
 世闇にあって尚白い雲に浮かぶ黒い翼を見送ったその後、機内は静かな歓喜に溢れていた。
 幼顔の軍曹が表現し切れぬ喜びのやり場に困り、眼鏡を掛けた彼女は涙で滑るトレードマークに苦戦している。細身の男は微笑ましげに顔を緩ませ、管制官の隣に座っていた彼女は管制官の腰にやっつけ仕事で下げられたポシェットに入っているウォークマンに目をやる……はずだった。
「きっとあの人が……て、コーウェン少佐、ちょっと腕を拝見」
 その異変に気付いて彼女がコーウェン……サンダーヘッドの腕に触れる。
 マイクを切っていなかった、しかも何の手違いか最大音量になっていたそれに息を飲む音が盛大に響いてしまった。
「管制官殿、どうした!?」
 勿論周囲から心配の声が多々上がるわけで。
「大丈夫、少し腕を折っただけです」
「少しって……最初のミサイルだな。済まない、我々の落ち度だ」
「いや……名誉の負傷を報告できる。私に出来ることをしたまでだ」
 戦闘が終わると、彼は堅苦しい管制官の仮面を脱いだ。
 本来後方支援のはずだったAWACS。だがより多くの支援を求めて呼びかける為だけに彼は前に出ることを決めた。その結果こそが、白雲の如く空を埋め尽くす戦闘機という結果に現れていた。
「あまり酷いようではありません、ここで十分処置できます。でも南側に降りて治療を受けた方がいいでしょう。マリン、お願いできる」
「は〜い。少佐、ちょっと我慢して下さいね〜」
 暢気な、と言うよりむしろ楽しそうな声が管制官に迫る危機を空域にいる全員に予感させた。
 そしてその予感通り、ノルト・ベルカの空に管制官殿の苦痛を堪える声が響いたのは言うまでも無い。

スーデントール滑走路脇・AWACSオーカ・ニェーバの手前

 勝利に盛り上がる両軍将校。その中に一人、一際歓迎されているにも関わらずそれに乗れずにいる若い女性パイロットがいた。
『今から拾いに来るってさ。代わるかい?』
『はい!ありがとうございます!!』
 理由は単純明白。これまでベルカ語圏から一歩も出たことが無かった彼女はオーシア語に全くの不慣れであったからだ。
『隊長!無事ベイルアウ……』
 が、聞こえてきたのはベルカ語らしい堅い発音から来る無機質な返事であった。
『レーヴェ4、以前から深追いするなと釘を差していたはずだが?』
『……う。あ、あの、ペナルティだったりしますか?』
『ああ。帰ったらレーヴェ2に酒を奢ってやれ、いいな?』
『え、あ、あの、そ、それだけは〜!!』
『楽しみにしてるわね、カミラちゃん』
 怯えた様子のレーヴェ4……カミラ・イェーガー中尉の怯えた声に顔を見合わせる他のパイロット達。
 だがそれもこの中で一人ベルカ語が理解できたユークの管制官……オーカ・ニェーバが笑いを堪えてるのを見て笑いに変わる。
『わ、笑い事じゃありませんよ〜!』
『ははは、そっちの二番機はそんなに酷いのかい?』
『本人は知りませんけど彼女のお父さんがお酒飲むと酷かったんですよ〜お仕置きに使われるぐらい』
「へぇ……」
『……ほんと、あのベイルアウトで今日の運は打ち止めですね〜……』
 その話をした直後の彼女は間延びた声の天然娘ではなく、遠い目をした、25歳の女のものになっていた。
『本当についてない……15年経っても相変わらず助けられたばかりか、確認も挨拶も出来なかった……』
 この時見せた表情のお陰で幸いにも、言葉の解らない祭りに放り込まれる事だけは回避できたのだった。

スーデントール・滑走路から少々外れた先

 そこかしこに戦闘機がひしめく空港。そこから飛び立った機体の殆どが近くの工場群で物言わぬ鉄くずと鳴り果て、変わりにそれらをそうさせた機体で犇めいている。ベイルアウトの仕方が良かったのかひしゃげてはいたが綺麗に原型を止めた白いカラーリングの戦闘機に、この当たり一帯の国籍の機が揃った事に彼女……ヴィスナ2は満足していた。
「こういう借りの返し方もありよね」
 自分の受けた恩を誰かに、その誰かがまた誰かに、そうして融和の輪が広がればいい。
 そんなことを考えながら、興奮で火照った体を12月の空気で冷やすべく祭りの輪を外れた。
 そこに同様の理由か、それとも単に祭りが面倒だったのか、先客が既にいた。
「お祭り騒ぎは苦手かしら?」
「……ユーク語でかまわねえよ」
 だがどちらの理由も違っていた。彼の手は胸元でしっかり組まれており、それが祈りであることに気が付いた。同時に、その顔に大きな青あざが出来ている事にも。
「あなた、名前は?」
「ラスターチカ4。ラスタ4でいいよ」
 コールを名乗られたから、彼女もまたコールサインで帰した。
「女神様は反対側のはずだけど?」
「いや、これは追悼だよ……守ってやれなかった人達への、さ」
「……?」
 疑問を浮かべた彼女にラスタ4と名乗った男は顔の痣を撫でながら返す。
「有名所だから知ってると思う。工科大学の件、俺、あの空域にいたんだ」
「復讐心一杯に主戦派連中についてきたんだけど、核だなんだ言い出し初めてさ、ああ、こいつら国の事なんてって思って、そしたら……あの時以上に頭に血が上ってさ、んでもって隊長に危なっかしいってぶん殴られた……ここ数ヶ月、復讐やらなんやらで燃えさかってたから、こんな時ぐらい、さ」
 夜明けもまだ遠い空。彼女は男が祈っていたよりもやや北を向いて祈り始めた。
「ご一緒させて貰うわ。海軍に知り合いがいるの。せめて、まだ生きてるように、ね」

スーデントール滑走路

『ほんとにぎゅうぎゅう詰めだな』
 所狭しと並ぶ戦闘機に、よく旅客機ベースのE-767が着陸出来たものだとレーヴェ1……クルト・アルニム中佐は溜息をついた。視線の先では余程理想的なベイルアウトだったのだろう同僚との再会にはしゃぐ4番機の姿。それに一際大きな溜息をついて周囲を見渡したとき、その視線は一機の戦闘機……正確にはそのエンブレムに釘付けになった。
「俺の機体がそんなに珍しいかー?」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 続いて背後から聞こえた男の声に派手にスッ転ぶ。
 列機がはしゃいでいなければ間違いなく笑われていただろう情けない有様だ。
「は、はは……オーシアの隊長さん、どうも」
 その男……言うまでも無くバートレットに腰を抜かしたクルトの声は何処かうわずっていた。
 まさか当人を目の前にして昔心底震え上がらせてくれたなどと言えるはずも無い。
「かの有名なハート付きさんがいたんだなと思いましてね……ははは。はぁ〜」
 何はともあれ、彼は列機の犠牲を出さずに済んだことに安堵していた。
 流石にアルコールは無く、恐らく気を利かせたTVキャスターが振る舞ったらしいジュースを受け取る。
「白髪混じりの獅子なんて言うからどんなと思ったら、随分若い隊長さんだな」
「威勢がいいと思ったら思ったより老けてましたね」
「お、言うじゃねえか」
 そこで缶ジュースの乾杯。飲み干した後にバートレットが呟く。
「そういやグラーバク連中とうとう来なかったな。ベイルアウトしくったか?」
「だと良いんですがねぇ……連中ちょっとやそっとなら”空戦で確かめるぞ”ですから」
 だがそのお陰で列機を失わずに済んだ。
 来ていれば間違いなく誰か、特にカミラは助からなかっただろう。
 今日は幸運に恵まれていた。

 コンド ハカマイリイコウ

 あの信号に「YES」の返事が貰えただけで、今日は十分だろう、と。