ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Together

 我々は国籍も、人種も異なるが、我々は共に闘い、苦しみ、そして死んでいった。
 信じるものの為に、自由の為に戦い抜いてきた。
 −ISAF司令官−

 シルバーホーク本拠・エルジア標準時間22時00分
サンズ・ローランド

「その時、夢の中に……と、寝たかな?」
 例のサイトに乗っていた時間、ひーちゃんが大佐に指示された時間まであと5時間。
 時間が時間なのでまずはエレンに寝て貰わないことにはおちおち待ってもいられないわけだが……。
「次〜」
 いつもならとっくに寝ているはずの時間なのに、意図的に眠くなる声で絵本を読んでいるはずなのに、それでも娘が眠る気配がない。このためだけにわざわざセレネちゃんの安眠用枕と布団まで借りたと言うのに私も撃沈した妻の後を追うことになりそうだ。
 無茶苦茶だと解っていてもリロイ君がちょっと前まで飲んでいた風邪薬を盛ってしまおうかと思ってしまう。この状況で未だにお目目が冴えきっている4歳児もそれはそれで無茶苦茶だが。
 この語り口なら15のソルだって撃沈出来たというのに……こんな事なら少々値が張ろうとも昨日買い出しに出たファーバンティでナイトミルクでも買えば良かったか。
 あのサイトの内容と、ひーちゃんの待ち遠しげな様子……それこそリロイ君の風邪薬借りてまで仮眠を取る様子から、放送内容が決して悲観的な事ではないことは察しが付いた。ここで一番の吉報と言えば終戦しか無い。もうソルもデイズも逝ってしまったけれど、それでも。
「お父さん……」
「なんだい?」
「ほんとに伯父さん達、死んじゃったの?」
「そう手紙が届いたから……それを信じるなら、ね」
「そのお手紙、本当なの?」
 私だって信じたく無い。
「……お祈り、してみようか?」
「お祈り?」
「うん。ひーちゃんの故郷だとね、死んじゃった人は、49日だけこの世界にいるんだって……」
 あの伯父馬鹿が挨拶もせずに逝くわけない。そう信じる他無かった。

ソル・ローランド大尉

 隊長達は既にオーレッドへ、ニカノール首相を連れて到着したと連絡が入った。
 あとはもう出撃を待つだけ。その間、整備班の手伝いのはずが何故か今日に限って癖毛との格闘になってしまっていたのだが。
「ブレイズ、ここにいたの」
 ナガセが来る前に大人しくなってくれて良かったと思う。
 未だにハーバートさんが物まねして遊んでるがまさか俺のとは思わないだろうし。
「もう時間か?」
「ううん。まだ早いけど、珍しいと思って」
「……?」
「いつも甲板で寝てる方が多かったから」
 だよな。
「ああ、全部終わったら、コイツに乗ることももう無いと思ってな」
 今や愛機となったワイバーンを見上げる。憧れた英雄と同じ機体。同じ立場になることを望んではならないと思いつつも、やはり目の当たりにしたときは嬉しかった。
「流石に贅沢かな?」
「なんだか、雰囲気が変わったわね」
 自分でもそう思う。特にここ数日、色々あった。サンド島にいたころとはまた別な意味で。
「少し子供返りしてたのかもしれない。ほら、少佐に会ったりとか……」
 あ、やば。
「へぇー……少佐、ねえ?」
 え、ちょ、ちょっと待て。ナガセ、その握り拳は何!?
「ブレイズの思い出より大事な物って、何?」
 いや、それはもちろ……いやこんな所で言えと?
 向こうにはハーバートさんはいるし、いつの間にかジュネットまでいる。
 微妙に脇の締め方が不自然なのは何でだ。
「ぷ……そんなに真っ赤にならなくてもいいのに。あはは」
 ナガセも随分印象変わったと思う。
 少なくともぶん殴ってやったわが頻発するようなキャラじゃなかったような。
「おーい!お楽しみ中悪いがもうすぐブリーフィングだぞ!!」
「ああ。行こうか」
「ええ」

 次が最後の出撃になるかは俺達次第。
 全部終わったら、もっと腹の底から笑えるようになれるだろうか。

 少佐が持ち帰ったディスクの解析結果が出た。
 そこにあったのは核兵器の設計資料。うち一つは、15年前に落とされた……通称V1と呼ばれている物。そしてもう一つ、それ以上の破壊力を持つとされる「大量報復兵器V2」の設計資料。
 戦後密かに完成されたというそれはMIRV……多弾頭ミサイル、V1をまき散らす類と考えてほぼ間違いないだろう。俺とおやじさんが殆ど同じタイミングで溜息をつく。
 憂いと呆れと言う、随分と温度差のあるものだったが。
 それが仕込まれていたのはSOLG。あの時俺達が見上げていた衛星だ。
 アークバードの一件で指示を出していたシャンツェの場所は特定されている。
 南ベルカのグランダーI.G.社の実験施設が決戦の場になるようだ。
「彼らは実験施設と称して、南北ベルカを国境で分ける山脈に巨大なトンネルを穿っている。彼らの目的は、両ベルカの一体化だ」
 呆れた話だと思う。一体化などと言うが今の状態では体の良い侵略だ。
 もう余程の事がなければ驚くまい。そう思った矢先の事だった。

「!!」

 警報を認知するかどうかのタイミングで襲ってきた大きな揺れ。
 あわや椅子ごとひっくり返りそうになった俺はスノー大尉のお陰で脳天を打ち付ける事を免れ、その横ではグリムがナガセに引き起こされている。
 部屋が、いや、ケストレルその物が傾斜していく。
ケストレル、ミサイル被弾!敵の実体は不明、解析が間に合わない!さらにミサイル、接近中!ラーズグリーズはただちに発進、空中に退避せよ!》
 まったく何て間の悪さだ。カタパルトへと走る。
 もうアレには乗れないなとこんな状況で残念がる自分がいたはずだった。
 だからその光景を見たときはまさかと思ったよ。

「何が何でも君たちを打ち出すぞ カタパルトがいかれても構うもんか」

 甲板の上にはワイバーンが今や遅しと出撃を待っていた。
 その横にもナガセ達の機体が控えている。本来が艦載機だった俺のやグリムの小型機はともかく、無茶をしてくれる。味方に驚かされるとは思わなかったと機体へ走ろうとしたときにまた艦が揺れる。
 一瞬だった。顔面を打ち付けると思った事も。倒れかけた俺を支える二つの腕が伸ばされた事も。
「ったく手間のかかる隊長さんだぜ!なあ記者さんよ?」
「大丈夫かい?ブレイズ隊長」
「ああ、助かった。二人とも早く避難を」
「それはアンタが飛んでからだよ!」
 ジュネットとハーバートさんが二人係で支えてくれたお陰で無事。そのまま機体の方へ投げ出される形で俺は走った。ナガセ達の発艦を横目に俺も機体を飛ばす。
 離陸直前にガクリと揺れたような気がしたが不安は杞憂に終わり、機体は空へと弾き出された。
 見下ろせばケストレルを守るように艦が並んでいた。その少し外側から水飛沫があがる。
「……やったか?」
 敵潜撃沈の報と歓声。続いて……。
「ブレイズ、あれ!」
《沈む……艦が沈むぞ!!》
 ゆっくりと、だが確実にケストレルは沈んでいく。周囲に浮かぶボートを一つとして巻き込む事の無いまま。
 セレス海で拾われてから……
「ブレイズ……」
「彼女には、最後の最後まで世話になりっぱなしだったな……」
 敬礼と共に沈み行くケストレルを見送り、俺達が向かう先はスーデントール。

 ……15年前、決戦の地となった場所へ。

セレス海上空・ユーク第172爆撃中隊……オーレッド標準時間21時00分

 東へ飛ぶ一個中隊。爆撃機が大半の中一機だけ、AWACSに寄り添うように飛ぶ戦闘機がいた。
「君が説得に協力してくれるとは思わなかったよ」
「そんなに意外だった?」
 恐らくはいい年であろう管制官と低い声が印象深い女性のパイロット。
 そんな二人の会話に中隊の一人が割ってはいる。
「わざわざ助かった命を前線に持ってきたんじゃしかたないと思うぜ」
「もう一度、一緒に飛びたいパイロットがオーシアにいるの。いけない?」
 半信半疑な返事を返した男の返事を聞き流しながら、ヘルメットの内側に女は笑みを浮かべる。
 理想的なベイルアウトをさせてくれたパイロットに、借りを返す良い機会だと。

セントヒューレッド軍港……オーレッド標準時間21時10分

 滑走路脇で空母を乗っ取ったと言うオーシア人のパイロットが早く出撃させろと喚いている。
 港に浮かぶアンドロメダではケストレルの乗組員の手当と、通信艦であることを生かして両国へメッセージを送り続けている。手持ちぶたさなのは護衛艦役を買って出たグムラクの艦長とパイロット。
「浮かない顔だな」
「ああ、艦長か……知ってますか、工科大学の事件」
 その言葉に、艦長はゆっくりと頷く。
「あの事件以来荒れちまった奴が一人いてね、首相達の要請聞いてどうなるのかなと。真の敵への仇討ちに燃えるのか、それとも今までの憎悪が勝ってプロパガンダだと突っぱねるのか」
「……後者であることを恐れているのか?」
「いやいや。熱しやすく冷めやすい今時の若者だ。殺し文句をどうしようかと」
「しかし報われない話だ……憎しみを煽る為だけに起こされた事と思うとやりきれない」
 その言葉にパイロットは少し考え、口を開いた。
「あの時、うちの隊はオーシアの4機編隊と接触してた。そこにいる以上手を下したのは彼等では無いのに、一人突っ込んで行ったのがいてな……親友の甥だった。案の定返り討ち。強烈なジャミングの余韻だったのか、息を飲む音を今でも覚えている。今更詫びても、彼等には迷惑なだけだろうか」
 艦長が言葉を発しようとしたその時に出発の準備が整ったと連絡が入る。
「言葉にする必要は無いさ。贖罪の機会は今正に来たれりだ」

オーレッド……標準時間21時30分

 今や遅しと離陸を待つパイロット達。彼等を率いる事になった隊長に到ってはこのまま飛び出しても誰も不思議に思わないだろうと言わせるに十分な有様。
「ふふ。ジャック、ちょっとは落ち着いたら?」
「何いってやがる。ここ二ヶ月音速で飛べなかったんだ。体が疼いてしょうがねぇ」
 それも15年ぶりに再会した……しかも状況が落ち着いた頃にはひよっこに独占されていた彼女がなんとか地上に縫いつけているという状態。そんな二人を時折ちゃかしては「うらやましいだろ」と調子にのって少佐に軽くはたかれるの繰り返しである。
 そんな盛り上がった空気に不似合いな革靴の甲高い足音がハンガーに響きわたる。
 続く足音も似たようなものだったのだが、その「一人」の立てる靴音だけが盛り上がりを静寂に変えた。
 もっとも、それは威圧とか気配によるものではなく、彼の前で騒がしくしていると自慢の宝刀「私語は慎め」ですっぱり切られると言う理由によるものなのだが。
「ん……お前さんは……」
「お久しぶりです、バートレット大尉」
「……誰だっけ?」
 もっとも、場数を踏んできた万年大尉にかかればそこをどっと湧かせる事など造作も無いのだが。
 周りはともかく彼の補佐であるはずの軍曹達まで笑いを堪えている。
 同時に彼のこめかみの青筋と血管がくっきりと浮かび上がり、そして切れた。
「各員私語は慎め!!」
「ああ!サンダーヘッドか!!」
「……本気で忘れていたのかね……今回管制を受け持つことになった。改めて、よろしく頼む」

 シルバーホーク本拠・エルジア標準時間2時55分……オーレッド標準時間21時55分
サンズ・ローランド

 その時私を揺り起こしたのは妻の声でもセレネちゃんの鉄拳でもなく、ポケットに突っ込んでいた携帯電話のバイブレーションだった。
「よかった、このまま寝過ごされたらどうしようかと」
 つま先が微妙に痛いのはその場で起こさずにわざわざ引きずってきたからなんだろうか。
「一般人の感覚で付き合ってると疲れますよ」
 リロイ君にそう言われて凹む英雄を横目に、私は電話に出た。
 相手は、あの時私が電話したベルカ空軍の友人。
『起きた?』
『目覚ましコールのお陰で冴えてるよ』
『良かった』
 TVのチャンネルは既に合わせられている。後5分、まだ記者達が控えてる姿しか映っていない。
 普通会見前にはその子細をキャスターが告げるものなのだが、誰も、一言も発せず待っている。
『……お前、飛ぶのか?』
 そうでなければわざわざ高い電話代を払ってかけてくるとは思えない。
『うん。今更感が強いけど、やらなきゃいけない仕事だからね』
『俺だけのけ者ってのはどういう事なんだ』
『あの直後はソル君大変だったじゃないか。それに、北側の軍人と交友があるなんて知れたら、色々と面倒だったろう?』
『……そこまで悪いもんじゃ無かったんだけどな』
『そう、なんだ。ありがとう。良いこと聞いた』
 一方的に切られた電話。そこまで悪い物じゃなかったが、苦労したのは本当だ。
 そんな苦労話が記憶を過ぎるかどうかのタイミングで、沈黙を破る歌が流れてきた。

ノルト・ベルカ・旧ニーダストール北の航空基地……オーレッド標準時間21時55分

『隊長。レーダーが”客人”を見つけました』
『ああ、今行くよ』
 友人との、ひょっとしたら最後になるかもしれない通話を終わらせたのは4番機の声だった。
 今更引っ込めるわけにも行かないがまだ若い娘、少しばかり不安があるのは否めなかった。
『お前ね……15年前の戦争生き延びた連中とやり合う事になるかもしれないんだぞ?』
『ツケを払わせる丁度良い機会じゃないですか』
 上も、オーシア政府も、出来る限りの支援を寄越すと言ってくれているのだが、実力はあっても実戦経験の無い娘を飛ばすのには抵抗があった。無論、その抵抗を押しのけるだけの実力があるからこそここにいるのだが。
『それに15年前の戦争を生き延びた人達と組むことになってるんでしょう?私はグラウレーヴェ……灰色の獅子なんて名乗って撃ち落とされないかの方が心配ですよ』
『そんときゃ一緒にするなって言ってやれ』
 暢気な口を叩く三番機を後目に、鬣に白いラインを引いた黒獅子の機体へ乗り込む。
『今日迎えるのは上客だ。くれぐれも粗相の無いようにな!』
『その上客に厄介者寄越す以上の粗相があるとも思えませんしねー』
『カミラ!それ以上私語を叩くと下ろすぞ!』

 スーデントール上空……オーレッド標準時間22時15分
ブレイズ

 この戦争で、信じられないような状況なんて何度も目にしてきた。
 最初は大統領演説に繋いでいた通信だけだった。
 早速敵さんの出迎えかと兵装を切り替えた直後に聞こえてきた歌。
「こちらはユーク第703飛行隊だ。大統領たちの演説を聞いた。君たちにつく」
「我々にもその歌を歌わせてくれ。一緒に行くよ」
「我々もだ」
 それを最初に、どんどん増えていく歌声。
こちらはオーシア空挺旅団第一大隊。旅団長を殴ってきた。手を貸させてくれ」
「ユーク第172爆撃中隊だ。その歌は我々も大好きだ。空中管制機も連れて来た」
 その音程を派手に外した管制官が連れてきた隊だけでも一個中隊分。
 レーダーの範囲を広げるとそのギリギリのラインにまで味方を示す青い光点が散らばっている。
「隊長!これって……」
……それは最後までとっておけ……
 昨日のようには言えない。スノー大尉はもう歌い出しているし、俺も胸がいっぱいで何て言ったらいいのか解らない。一個飛行隊相当の部隊から響きわたる「JOUNEY HOME」の大合唱。
 そこに管制機……オーカ・ニェーバ経由でアンドロメダからの通信が入る。
「大丈夫ですか、おやじさん?」
「ああ。皆無事だ。先ほどこちらの空母からも増援が出発したよ。先発隊がもう到着しているとは思うがね」
 まだ仲間が増える。たった四機で戦い抜く覚悟を決めていたはずが一個飛行隊相当、こんなに心強い事はない。
「それより、SOLGがマスドライバーから最後に打ち上げられたカーゴとドッキングした。急いだ方が良いのかもしれない。司令電波の発信源はやはりシャンツェだ。場所はバルトライヒ山脈の地下トンネル。恐らくSOLGコントロール施設もそこにある。機甲部隊が施設を制圧するから援護を頼むよ」
「了解!全兵装使用を許可する、ここで終わらせよう!!」

 俺達は一斉に施設へ、対空砲へと襲いかかった。その隙を縫うように空挺戦車隊が着地、前進を開始するが、同時にレーダーが接近中の機を感知。青い光点とは別方向からやって来る白い光点……IFFは敵だと示している。
「君たちの接近を感知したグランダー社は、オーシア・ユークトバニア両国の好戦派の軍人たちに助けを求めた。見返りに3発目の小型戦術核V1を、助けてくれた側の陣営に渡すといってね。より強力なV2のことは隠したままだよ。いいか、彼らは戦闘機すら繰り出して来るぞ」
「大丈夫。目を覚まさせてやりますよ」
 即座に上空に狙いを済ませた俺はヘッドオンの状態から降り注ぐ機銃をバレルロールでかわして一撃を撃ち込んだがまだいる。幸いなのは、統制がまったく取れていないと言うことか。
 背後に回り込みマルチロック式のミサイルの照準を合わせようとしたとき鳴ったミサイルアラートに反射的に機体を捻る。
「ユーク軍機に構うな!ウォードッグの幽霊をしとめろ。私に続け!そしてすべての戦争に終止符を打つ」
 聞こえてきた声の主が誰なのか、以前とはあまりに変わり過ぎていて気付くのに時間がかかった。
「ハミルトンか!」
 気付いた瞬間に感情のボルテージが上がる。
「やはり生きていたな、ブレイズ!!」
「この状況を見てもまだ解らないのか!いい加減目を覚ませ!!」
 かつては馬が合うと思っていたせいか、ここまで拒絶反応を示したくなる理由が自分でもよく解らない。
 周囲をナガセに任せる。向こうも周りを下がらせたのか、一騎打ちになる。
「それはこっちの台詞だ!こんなもの、共通の敵がいる間の一時凌ぎに過ぎん!!」
「守る物の為の一瞬、何の非がある!?」
「次の矛先も解らないか!愚かな!」
「?」
「貴様は知っているはずだ……いや、お前が知らぬはずが無い!!」
 何となく解った。納得が理解より先にやってきた。
「ああそうかい。それがアンタの理由かよ」
 同時に苛立ちが明確な怒りに変わり、拒絶が哀れみに取って代わる。
「それが全てなら、俺はとうの昔に死んでる」
 きっと声だけでは済まされなかった。
 名目だけの理性が今怒らずに何時怒ると囁く。
「馬鹿にしてくれるな!」
 何より許せないと思ったのは逆恨みに走るような同情、そんなもの、こっちからお断りだ。
 向こうは余程頭に血が上っているのか、俺も人の事は言えないが機動の鈍りが解る分まだいいだろう。
「丁度12月、近くに湖もある」
 オーバーシュート、機銃こそ外したが、ミサイルを撃ち込むのに何の躊躇いも無かった。
「頭冷やすついでだ、この大地の人間に詫びてこい!!」
 エンジン付近への被弾、煙を引いて去っていくのを確認して俺は機首を反転させた。

 その時だ、さっきまでの進行方向に、白い光が降ってきたのは。

 シルバーホーク本拠・エルジア標準時間3時25分……オーレッド標準時間22時25分
サンズ・ローランド

 最初、その放送を見たときは呆けていたと思う。
 戦争の終わりを告げた両国のトップ。まだ成すべき戦いの舞台となったスーデントール。
 そこに集まる両国の部隊。今までに一体何があったのか、朧ながら形になる。
 まだ馬鹿共がいたんだなと。
「……もう暫く、エレン預かって貰うことになるかもな」
 それで結局割を食うのはやはり子供達なのに。10年ほどと付け足すと7が露骨に嫌な顔をした。
 後ろから、妻が私の肩にそっと手を置く。我ながら帰属意識の低さには呆れる。
 そんなことを考えていたから気付かなかった。
 一つの機影にISAFの面々が驚いていたことにも、彼等がそれを食い入るように探していた事にも。
「チャンネルを回していい?」
「……え?」
「もっと広い空域を映してる画面にしたい」
「あ、ああ」
 無数の戦闘機の群が映し出されていた。私も友人の影ぐらい探しても良かっただろうが、そんな気すら失せるほどの大群となっていた。闇と戦火とサーチライトと、更に突然降ってきた光の弾?そのお陰で、個々の機体の色すら判別がつかない。
「どうだ氷雨、見えるか?」
「今探して……いた!」
 その時、私の目にもハッキリと白い飛行機雲が見えた。
 でもそれだけ。とても機体まで判別出来る状態ではない。
 その証拠に、レオン中佐が一瞬「ほんとに?」と言いたげに英雄を見た。
 ひーちゃんは機体ではなく、パイロットの技量でそれを見極めていた。

「伯父さんだ!」

 それを教えてくれたのは、上の階でぐっすり眠っていたはずの娘だった。