ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Answer

 心ある限り私は挑み続ける。力ある限り私は飛び続ける。
 それこそが答えになる。
 −
Journey Home

ソル・ローランド大尉

 ……寝過ぎた。
 あれから俺は実に気持ちよく惰眠を貪り、目が覚めた時には呆れ顔のナガセが目の前にいた。
「何でバートレット隊長まで俺達くっつけたがるんだろう……?」
 グリムやチョッパー達はまだ解る。
 あの雪山の一件みたく自分がどうなっていたか覚えてない時というのは大抵ろくな事がない。
 しかも寝言で何か言ってしまったらしいし。
「もうそんな必要も無いのにね」
「まったくだ」
 ……あれ?今、ごく自然に出たな……。
 どっちが先に吹き出したのか、暫く笑ってたけど、結局全てに片が付くまで先延ばしというのが互いに暗黙の了解らしい。でも、ここまで来て腹をくくれない俺もただの馬鹿なんだろうかとは思うが。

 結局睡魔が戻ってくることはなく、風に当たってくると言ってケストレルの甲板に出た。
 明日から大統領からの連絡が来るまで洋上待機。機体も一緒に乗ってるが、艦載機ではないからもし何かあったら久々にホーネットに乗る事になるんだろう。もちろんそんなこと無いに越したことはないのだが。
 甲板に出るとおやじさんと少佐が空を見上げていた。
 何か話しているようだったが、俺の耳まで届かなかった。同じ方角を見上げる。
 満天の星空に一つだけ青い白い光が際だって見えた。
「……綺麗だな」
「昼寝の後に天体観測た良いご身分だなブービー?」
「っ!!!」
 い、いきなり声かけないで下さいよバートレット隊長……しかも微妙に酒臭い。
「しかしまあ、えらく物騒なもん見上げてるな」
「……物騒?」
「あれ、衛星兵器。SOLGつっても今時の連中は知らねぇか。ま、戦争も終わってユークと仲良しこよしになっちまって以来破棄された代物だな」
 下手をしたら砲口が自分達に向いていたかもしれない代物だった。
 また浪漫の欠片も無い物を見上げていたことになるな。
「でよ、お前ナガセと一緒に星眺めたりはしねーの?俺のお相手は小難しい話の方が好みらしくてつれねえけどよ」
 あー、やっぱきたよこの手の話。良い機会だし聞いてみるか。
 解らないままはやっぱ……なあ?
「グリム達は解るんですが何でバートレット隊長まで……」
「あん?お前がソファの上でごろ寝しながらナガセ横目で見る度顔赤らめてたってのは、結構有名な話だと思うんだが。知ってるだろ、デイズの奴がナガセにだけはお前使わなかったの」
「初耳……」
 なんでこの人の話題になると素直に悼む前に呆れるような話ばかり出るんだ……。
「は?」
 あの頃はそう他人を特別意識する事も無かったはずだ。
 そこまで考えて思い浮かぶのは結局あの日から15年、自分は子供のままだったという事実。
 ずっと兄さん達の後ろにひっついてただけだったんだな、自分は。
「どうしたよマジな顔して」
「あ、いえ、やはり思い当たる節が無くて」
「……あー、そっか。お前は雪国育ちだったな」
 そうそう。大方日差しに火照ったのを……。
「タンクトップ一枚にゃ抵抗があったか。しかもヘソ出し」
 い、いやそんな目で彼女を見たことは一度ももももも!
 確かにちょっと目のやり場は……いやいやいやいやいやいや!!
 なんでここで声が詰まるんだ俺ーっ!!
「……お前。筋金入りの紳士様だな」

サンズ・ローランド

 二ヶ月。職業柄毎週日曜日に遊んでやれると言うわけでは無かったが、それでも今回は少々長かった。
 そしてそれを今ちょっとだけ後悔している。
「おーい……エレンちゃーん……」
 今のISAFの英雄の状況。複座に陣取る4歳児に大苦戦。
 何故か中佐の愛称を付けられた猫のぬいぐるみをかかえてむくれっ面で陣取る姿には妙な迫力がある。父さんだって流石に4歳児は乗せなかったもんなあ……母さんがあいつら身ごもったの知った翌日にお前も兄ちゃんだなーとか言われて乗っけられて吐いたのは未だ記憶に焼き付いているが。
「エレンの奴、迷惑かけてなかったですか?」
「……ここは疎開には向かないとダケ」
 子供が苦手だと自称する7には本当に苦労をかけたと同時に感謝もしていた。
 苦手な理由は一つ。真剣に考えているからこそ。まして……相手が戦争で肉親を亡くしたとなれば尚更。
「君達に預けて正解だったよ」
「こっちは苦労したヨ」
 その頃うちの我が儘なお姫様の所には新たな刺客がやって来ていた。
 レオン中佐だ。何故かパイロットスーツ着用。
「何手間取ってやがる。ほれ、リロイ!」
「え……おわっ」
 コックピットから放り出されてセレネにキャッチされる英雄。
 その横では本来そこにいたはずのリロイ君が弾き飛ばされている……リハビリ中の人間に何て事。
 いや成人男性一人キャッチさせるのに比べれば幾分ましなのかもしれないが。
 で、キャノピー閉めて……エレン乗せた飛んでっちゃったぞあの人!?
「だ、大丈夫なのか……あれ?」
「大丈夫デショ?アレで万一戦闘機動したらカレ間違いなく殺されルヨ」
「……セレネちゃんじゃなくてマリーにな……」
 私達の視線の先で無線に何事か呼びかけている妻。
 内容は解らなかったが片手なのに拳が鳴っている。
 これだけで十分恐い。

ケイ・ナガセ大尉

 大統領が首都を奪還して、状況を整えるまでの洋上待機。
 この時期のセレス海は流石に寒く、サンド島のようにタンクトップ一枚で過ごせる天気では無かった。
「……なのに何でこの人こうあるのかしら」
「ほんとよね」
 目の前で私の一番機が寝ている。
 よりによって少佐に寄りかかって。
「ふふ。この子一晩中ジャックに絡まれてたみたい。ここからどいたら起きるかしら?」
「その後すぐに寝ると思います」
 いっそぶん殴ってやろうかしら……とも思ったのだけど、寝顔を見ていると私が嫉妬するような状況にはあまり見えない。この人こんなに童顔だったのかしら。それとも少佐が流石に大人なだけなのだろうか。
「少佐、伺っても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「この人、昔もこんな感じだったんですか?」
 ……やはり何処かで嫉妬しているらしい。自分の知らない彼がどこかにいるんじゃないかと。
 最近この人の昔の話がちらちらと出てきたことも関係あるのかもしれない。
「そうねえ……今より大人びてたわね。まあ、本当に大人だったかは微妙だけど」
 今より、か。やっぱりそうせざるを得なかったのだろう。
 兄二人が私の知っている調子だったとしたら尚のこと。
「いつもデイズ君達の後ろにくっついてたし人見知りも激しい所は子供だったわね」
 あれ?
「ひょっとして、それでもデイズにツッコミ入れたりとかはしてました?」
「してたしてた。あと迷子にも良く……」
「ちょっと待ってください」
「あら、もういいの?」
 もういい。もう良かった。正直信じがたい話だけど、そうだとしたらこの人……。
「私も開戦前まで付き合いはほぼ皆無でしたけど……」
「?」
「お話が本当なら彼、15年前から殆ど変わってません」
 この人ずっとああいうキャラだったのね。開戦前のあの時まで。
「そう?あの頃に比べれば随分大人になったと思うのだけど、見た目じゃなくてね」
「え?」
「少し皮肉な話かもしれないけど……こんな風に力を抜くって案外難しいのよ。あの頃なら絶対しなかった顔ね」
 ……皮肉か。その時、少佐が哀しげな目をしていたのを私は見逃さなかった。
 忘れかけていた?思い出さないよう勤めていた?
 あの時、この人は長年自分を守ってくれていた双子の兄を喪っていた。
 何故だろう。あの時は、あまりに慌ただし過ぎたから?
−ナガセ、もし今日俺が君に撃墜判定出したら……−
−ネガティブ−
−がっはっは!デイズ、明日から俺の二番機になるか?−
 あの初陣の時散った8人としてではなく、彼の双子の兄を、デイズ個人として悼んだことはただの一度も無かった事を今更思い出した。きっと、そんなことをしても喜びはしないだろう。いや、それ以前にそんな暇を与えられたとき、彼は果たして耐えられただろうか?
 結局、そうやって彼は守られて来たのだろうか。
「……どうしたの?」
「まるでお姫様ですね、この人……」
「お姫様……あははははっ、確かに、何かにつけて世話やかれてたものねえ。となると、どちらがラーズグリーズなのかしら?ねえ、ソル君?」
 話を振られて飛び起きる……て、ちょっと待て。
「一体いつからそうして少佐に寄りかかっていたのかしらねえ……隊長?」
「…………!!」
 声を詰まらせようが、起きにくくなってしまっていようが、向こうの都合なんて関係無いわね。
「はい。逝ってらっしゃい」
「〜〜〜っ!!」
 ぶん殴ってやったわ、この馬鹿隊長。

マルグレット・ローランド

 流石荒くれ者と言うべきだったのかしら、まさかエレンを乗せて飛んでくなんて思いもしなかったわ。それだけならまだしも、レオン君ったら無線切るの忘れてるの。お陰様で、彼に改めて聞いたら真っ赤にして喚きそうなお話がダダ漏れ。夫と一緒にお手並み拝見といきましょうか。
《寂しいか、ガキんちょ?》
《……うん》
 人より頭の回転の速い子だった。親バカながらきっと天才になっちゃうわねと喜んだこともあった。
 でも……それを今になって悔やんでいる。哀しい思い出を知るには、あの子は賢すぎた。
《伯父さん達の話したときの親父の顔見て、どう思った?》
《わかんない》
《じゃあ思い出してみな》
「……あの後私の顔そんなに酷かったか?」
「ふふ。露骨に目の下晴れ上がってたわよ」
 無線に沈黙が流れる。暫くして鼻を啜る音が聞こえてくる。
《……哀しいか?》
 まだ人への気遣いとか、考えなくていい年だと思っていたのに。
《ずっと昔にも戦争があった。俺達が戦うもっと前、俺の実の両親はそこで死んだ》
 内容に似合わぬ快活な声。本気で無線が入ってることに気付いてないわね。
 向こうで話を聞いてる氷雨君達が驚いた顔してる。
《引き取ってくれた親父はすっげ恐い人でさ、やっぱその時も泣いてなかったんだ》
 人類の歴史は戦争の歴史。とくにユージアでは何故かそう言う話に事欠かない。
 ……戦災孤児なんて探せばごろごろいるというのも、恐い話よね。
《その人が泣いたのは、俺と顔を合わせた時だった。相乗効果で俺も泣き出して、暫く男二人で泣きはらしてた》
 エレンの返事は聞こえない。向こうを見れば氷雨君が複雑な表情を浮かべている。
 無線を手にしているパウル君は、そのままスイッチをきろうとして結局好奇心に負けている。
《伯父さん達に同じ思いをさせんな。あの人は俺を抱きしめてくれたけど、それも出来ないでお前が泣いてるの見るのはすげーきついはずだ》
《う……わっ》
「あっ!!」
 娘の返事を待たずに緩やかに、でもそれなりにGのかかる機動を始める。
 白い筋が私達の頭上で弧を描く。娘の感嘆が無線を通して聞こえる。
《大丈夫か?》
《大丈夫ー!雲出来てるー!》
《よっしゃ、良く見とけ!こいつが出来る空を、伯父さん達は守ってきたんだ!》
 だんだん機動が派手になってくる。不安と裏腹に娘のはしゃぐ声が聞こえる。
《大丈夫かー?》
《全然平気ー》
《そりゃ頼もしい。おっきくなったらISAF来いよ。俺が色々教えてやるぜ!》
 それはいくら何でも……。
「却下」
《!!!!!!!!!!!!!!!!》
「ほほほ。これ以上身内戦場に行かれてたまるかい♪」
 氷雨君の時のセレネだってあんなに憔悴してたのに……スカウト入っただけで固まるような旦那がどうなるか解ったものじゃない。
 お母さん久しぶりに腕振るっちゃおうかしら。

ソル・ローランド大尉

 どこからこんな話に入ったのか、最初はナガセにぶん殴られた件だったんだが……そのダメージのせいなのかハッキリと思い出せない。もう階級ではタメとか、それでも隊長はバートレット隊長しかいないとか、そんな話をしていた。
「ふーん。じゃあ、お前にとって隊長ってなんだ?」
 ならばこの流れは自然なものだったろう。
 ほんの少し前まで、仲間を生きて連れ戻す事がそうだった。
 今そう言ってしまうと、自分を否定することになりそうだった。
「……道標、でしょうか」
 何とか言葉を絞り出した後で、そう言えば「Blaze」にはそう言う意味もあったと後付けする。
「道標ねえ……いまいち弱いな」
 滑稽な話と言ってしまうとそれまでか。
−助かる、きっと生き残れる!−
「不安を払拭する役と」
 ……それがそのまま死地へ送り込む事に直結する可能性は十分にあるのに。
 その当たり指摘されて本日二度目の拳骨を食らうと思っていた。
「不安ね……そのお前がんな面して……ん?」
 そんな事を言いかけた言葉が急に止まった。
 さっきまでは試されてると思えるような顔をしていたのが、真顔に変わる。
「慎重派のエースと、死を恐れないひよっこ数機。お前ならどっちがおっかない?」
「……後者、ですね。どうかしましたか?」
 生き残る前提の動きなんてそれこそ限られてくる。
 何をしでかすか解らないのが一番恐い。それは、15年前の教訓でもあった。
「昔いたんだ。後ろに張り付かれてるにも関わらずそれを無視して攻撃に移る奴が。あの頃前線配属されたばかりでな、かなり腹が立ったのを覚えてる」
 何か確認するような口調だった。
  バートレット隊長をぶら下げたままか……余程の命知らずか腕に自信があるのか。
「当時の俺の上官が、そいつを率いていた隊長を切れ者と呼んだ。ったく、長年の疑問が今更晴れる事になるたあ……ん?」
「今度はなんですか?」
 今度は返事がない。
 なんだろうか、バートレット隊長がこっちを向いたとき、目を丸くしてた。
 キョロキョロと周囲を見回す、それに合わせて周りを見回していた俺の視界におやじさんが見えた瞬間……。
「おやっさーん!!」
「……っ!!」
 バートレット隊長にネックブリーガーを食らうハメになった。しかも本人そのまま俺を引きずるつもりだったのが受け止められそこねて甲板に額を打ち付けるハメになった。幸い腕を地に付ける余裕はあったからそんなに酷くはならなかったけど。
「こいつの親父って、ひょっとしてキラービーか!?」
「おや、やっと解ったのかね……と、腕空っぽだよ」
「へ……うおっ。て、いつまで匍匐してるブービー」
 キラービー……父の渾名だ。なるほどね……列機落とさなかった人が後ろにいればどんな無茶でもできるだろうな。少し考えれば、やりあってた可能性なんて十二分にあったろうし……。
「おやっさんよ、そりゃ空戦機動見たって解らねえわ」
 着任直後からおやじさんにはバレバレ……。
 死んだと思われていたんだっけ。その時はさすがに驚いたのだろうか。
「遭遇したのは二度っきりだし、どっちの時もこっちの隊長につきっきりで俺相手にされてなかったし」
「はぁ?」
 おやじさんが素っ頓狂な声を上げる。俺も似たようなもんだった。
 記憶が正しければほぼ毎日飛ばされてたのに、たった2回?
「そうだったな、バルトだからなあ……」
 溜息をついて本気でへこんでいるらしいおやじさん。
 バルトだからって……一体この人と父に何があったんだろうか。
「……ブービー、よく解らんが誇ってよさそうだぞ」
「思い出なんて往々にして美化されるもんですよ」
 死んでも墓参りなんて行ってやるものか。
 また痛み出した額をさすりながらそんなことを考えていた。
 バートレット隊長が何か呟いたが、聞き取ることはできなかった。

……で、コイツとナガセが一緒に飛んでると。面白いな、世の中ってのは。

シリル・コーウェン少佐

 あまりに全てが唐突すぎて、状況を整理するのにはかなりの時間を要した。
「な、何故貴様がここにいる!?」
「さあ、私には君が何故ここにいるのかの方が気にかかるが?」
 扉の向こう、大統領の椅子の上でへたれているアップルルース副大統領。
 その彼に銃を突き付けているのはハーリング大統領だ。
 人知れず大統領府に潜り込んでいたハーリング大統領直属部隊……シーゴブリンの面々。
 主戦派を一網打尽にすべくその動きには一部の無駄も流血も無かった。
 例外と言えば事前に察知したらしい……ついさっき吐いた話なのだが……旧ベルカ軍残党が私を人質にしようとしてあった一悶着ぐらいだ。
 幸いその時私はウォークマンの電池を買い換えに出ていて不在だった為、残党の動きを察して私の援護に来た軍曹4人に取り押さえられるハメとなっていたのだが。その時童顔の彼が負ったかすり傷。
 それが大統領派部隊唯一の負傷となった。
 その後やってきた部隊にそのまま引きずられる形で付いていくハメになり、さらに軍曹の一人が私の正体を零したらそのまま大統領の所まで本当に引きずられるハメに……。
「大統領……やはり今までの戦争は」
「ああ」
 彼等の行方を聞こうとはしなかった。
 軍曹4人はそれをもどかしく思っていたようだが、心配は無用と伝えると顔が明るくなった。
 彼等を落としたのがケストレルの乗組員。大統領に付いてきたのがシーゴブリン。
 だとすれば、あの時思い立った希望の裏付けには十分だった。
「さて、これから忙しくなるね。政府の回線も、ここまで彼等が入り込んでいるのでは盗聴されてる可能性も大きいし……やはりこれに頼るしか無さそうだ」
 近くでパソコンを触っていた将兵に「義足のバーテン」で検索をかけるよう指示する。
「待って下さい!」
「それは、ひょっとしてかつてのベルカの……」
 義足だったか?足が不自由に見えたか?
 ベルカのという言葉への肯定と、脳裏に浮かんだ一言だけが確証だった。
−もう理不尽な思いをする子供達を見とう無くてな−

サンズ・ローランド

「マリー……ちょっとやりすぎだったんじゃないのか?」
 膝の上でエレンを寝かしつけながら、芝生に沈んだレオン中佐を眺めていた。
 彼を沈めたその当人はといえば、ご機嫌な様子でひなたぼっこを楽しんでいる。
「だってレオン君ったら以外と心得があるんですもの、つい力入れちゃったわ」
 全力と言って無いのが恐ろしい話である。
 そんなときだった。仕事柄ポケットに突っ込んでいた携帯電話が鳴ったのは。
「はい……ああ、マスター。どうか……え、クルトに?リスト?ちょっ……」
 内容は、短くかつ意味の解らないものだった。
「どうしたの?」
「いや、マリーには会わせてたっけ、あのバーのマスターが、ノルト・ベルカに空軍の友人がいるんだが、そいつにリストの事だと30分以内に伝えてくれって……そのまま」
 勿論長々と説明されたら電話代が恐ろしい事になりそうではあったが、本当にわけが解らなかった。
「空軍の……じゃあ、その通りにしてあげたら?」
「……へ?」
「私達の知らない水面下で頑張っていたのかもしれなくてよ?」
 確かに、半ば暗号状態の連絡。
 長らくかけていなかったアドレス帳の番号を選ぶ。
 昔レジスタンス活動に片足を突っ込んでいた頃の事を思い出す。
「あいつら人を中継点扱いしやがって、今度会うとき覚悟してろ」

 この時の私に考えが及ばなかったのも無理はない。
 この連絡経路が、どういう形で伝わってきたのかなど。