ACE
COMBAT 5
The Unsung War
…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...
Reunion
今でも探してるんです。待ってるんです。おかしいですよね。
もう会えないって、自分でも解ってるのに……。
−ノルト・ベルカ第129飛行隊・グラウレーヴェのパイロット−
ユークトバニア北東・輸送機のコックピット後方
「来ました。ヤバい奴らかも知れません。8492だ」
「……来たか」
輸送機のレーダーに移る敵航空部隊。
すぐ後ろを飛んでいたラーズグリーズ達が彼等に食らいつくまでは一瞬だった。
「ブービー!グラーバクを仕留めろ。1機も残すな!」
「了解」
「8492を名乗る敵、ここで決着をつける!」
4対4、それぞれがそれぞれの獲物に食らいつく。
ただ一機だけ、自分の獲物に目もくれず仲間の後ろに付こうとする機だけを追いかけていた。
「ほー……また危なっかしいことやらかしてるじゃねえの」
二つの機動を目で追う。一人で全部相手にする気?
彼の矛先は一つに留まらない。牽制に次ぐ牽制、統率を乱されたのかグラーバクの一機が墜ちた。
それを待ち侘びたように今まで彼を追っていた機に矛先が向く。
自由になった寮機が別の寮機のサポートに向かう。
「過保護ね」
口元に浮かぶ笑みとは裏腹に思う。心臓に悪いわ。
……声を失って尚、前を見つめる瞳を確かに覚えている。
まだ幼い面影ばかりがちらついていれば尚更の事。
−誇りを捨てた貴様に、後れをとると思うな−
−貴様に誇りを語る資格はない!−
聞こえてきたのはベルカ語の応酬。そう言うこと言える子だったのね。
ブレイズ
「私は堕ちるわけにはいかない。
ブレイズの2番機は誰にも渡さない」
ナガセがグラーバクの一機を撃ち落としたとき、アシュレイが舌打ちするのを聞いた。
数でアドバンテージを取った以上、グリム達のサポートを彼女に任せ、奴を迎え撃った。
……何故だろうか。
さすがあの戦争を生き残ったパイロット。なかなか後ろを取らせてはくれない。
なのに、あの舌打ちを聞いた瞬間、奇妙な確信が生まれていた。勝てる、と。
追いつ追われ……いや、一方的に追われているにも関わらず。
「数の上ではこちらが有利なのに、倍の数を相手にしてるみたいだ!」
「弱音吐くな!さっさと隊長のサポート回るぞ!」
上へ、上へ、上へ、ミサイルアラート……やれるだろうか?
限界ギリギリまで小さなループを描こうと操縦桿を引く。人体のスペックを超えかねないGがかかる。
自機の性能と、自分の腕と、敵機の性能と、相手の腕と……大丈夫、できる!
ブラックアウトギリギリ、視界から色が消えかけたところでエアブレーキを引く。
後ろへ滑り墜ちそうになるのが解る。出力を上げる。
空気の薄い上空、動きの制限がレーダーロックに十分な時間を作る。
「FOX2!!」
かなり無茶な状態にも関わらずベイルアウトする敵機を見送り、こっちも半ば失速同然に墜ちていく。かかるGは凄まじかったが高高度、体勢を立て直す時間は十分。
「また戻る、絶対に」
……だろうな。
混戦状態の空域の真下から回り込む形で突っ込んでいく。
機銃のレティクルが敵機のキャノピーに重なる。
すれ違った次の瞬間、パラシュートが一つ増えていた……撃ってないぞ、俺。
残る一機も、スノー大尉から回避行動を取ろうとしたところで撃ち落とした。
空には白いパラシュートが四つ……。
「全機墜としたようだが、全機ベイルアウトしやがった。あれはあれで、戦闘機乗りの鑑だぜ」
「お疲れさま」
その言葉を聞いて、護衛中に感じた既視感の正体が朧気ながら形になる。
まさか……な。
輸送機のコックピットで
「最高にスリリングだったわ」
横に出てきた彼女の言葉にバートレットも同意する。
「お前ら全員合格……と、言いたいところだがブービー。お前なんつー無茶しやがる。あとで胃薬代請求してやるから覚悟しとけ」
……なのに、なーんでナガセに言ってやった台詞がコイツには出ねえんだ?
「アレは流石に冷や冷やしたわ。一体誰に似たのかしらね?」
そしてその言葉に、ついついなるほどと納得してしまう自分がいる。
……さあ、そのうち気付くかもしれないね……
かつて凶鳥と呼ばれた男の言葉が蘇る。
ダメだ。まだ解らねぇよおやっさん。
飛行場に程近い高台の上で
白いパラシュートは朝靄にとけ込み、薄暗い森から見送るレジスタンス達の目には映らなかった。ただ悠々と隊列を整える黒い翼だけが、朝靄の空にくっきりと映えていた。
「綺麗だ……」
「ユーリー?」
ミスターB達を見守っていた一人の頬を滴が伝う。
彼等に見送られ、黒い翼は白い雲の向こうに消えていく。
彼等もまた、自分達に出来ることの為に、それぞれの方向へ歩いていく。
飛行場の真上の空で
黒い翼は悠々と自分達を飛び越えて去っていく。
彼等は白いパラシュートの下でそれを忌々しげに睨み付けていた。
「こちらグラーバクリーダー、全員無事か?」
「こちらグラーバク4。着地成功、木に引っかかったお陰で軽い打ち身程度だ」
「こちらグラーバク2無事だ。さて……」
だが、その視線の対象はもう一つあった。
「どういうつもりだグラーバク3。無傷の機体を捨てるなど愚の骨頂だぞ」
返事はない。ただ、僅かに歯がぶつかる音だけが無線に響く。
それに悪態を突き続けるグラーバク2。
「そのくらいにしておけ。後で奴に己の甘さを後悔させればいいだけだ」
アシュレイもまた、先の機動を頭の中でトレースしながら歯噛みしていた。
突然滑り落ちるように向かってきた機体を避けた結果がこれ。
避けなかったのなら差し違えになることは間違いなかったが、あのような形での無様な相打ちなどプライドが許すはずも無く、幾度思い返してもあの時出来た以上の判断が思い浮かばなかった。
無線に響く歯の音と、青ざめているだろう3番機を一瞥して、呟く。
「……やはり血は争えぬか」
アルベール・ジュネット
北辺の基地にて
彼が再び帰って来た。彼はユークトバニアの元首ニカノールを連れ、驚いたことに、さらにもう一人の連れがあった。
ユーク陸軍情報部の女性少佐……15年前のハートブレイクのお相手である。
彼の姿が捕虜収容所で見えなかったのも無理はない。
戦争勃発とともに捕虜第一号となった彼は収容所に着く前に脱走を果たしていたのである。
「あなたのことは、なんとお呼びすれば?」
「単に、少佐と」
「本当のお名前は?」
「ふふ……」
……微笑が返るだけ。
そして、驚いたことはそれだけに留まらない。
どうやら、彼女がハートブレイクさせたのは、バートレット大尉だけでは無かったようなのだ。
「お久しぶりです」
「……ブレイズ?」
複雑な表情をしているナガセ大尉の視線の先には久々に見たブレイズ隊長の敬礼。
「中……いえ、少佐。あの時は、ありがとうございました」
「あら、恩返しならこれからたっぷりとして貰うのに」
「いえ……どうしても、自分の声で伝えたかったんです」
何があったのか、今の私にそれを知る術はない。
ただそっぽを向きながら笑っているナガセ大尉と少佐、そしておたおたしている隊長を見る限り……ナガセ大尉と少佐は良い共犯者になれそうだった。
隊長には少々可哀想とは思ったが……本当に少々。
サンズ・ローランド
ユージア大陸、シルバーホークの本拠にて
「あの頃のメンツ勢揃いじゃねえの。氷雨いっそ簡易結婚式でも挙げち……」
地に足がついて早々そんなことを口にしたかつてのメビウス3……レオン中佐の顔面に見事なフライングニーが決まる。
「おいおい氷雨……開口一番飛び膝蹴りは無ぇだろうよ……」
「いや、色々と」
ちなみに打ち込んだのはセレネでなくひーちゃんだ。
「いきなりなにしやがるーっ!!」
そしてぶちきれた中佐殿と無言の英雄との攻防戦。さすがセレネに仕込まれただけあってか相手の力を受け流し利用する絶妙の……等と感心もしたが、ふと動きが止まりひーちゃんの視線がこちらを向く。
彼がそこまでの暴挙に出た原因は私だった。
「そこまで気を遣わなくてもいいのにねえ」
そう言って肩をすくめる私を余所にばつが悪そうな中佐がその矛先を後ろにいたパウル大佐に向ける。
それを見てISAFから離れていたひーちゃん、セレネ、リロイ君達が変わらないなと笑う。
エレンが、それをぼんやりと眺める。
それが帰還直後の光景だった。
気のせいだっただろうか。二ヶ月ぶりに見た娘の顔から、表情が薄れていたのは。
私を呼ぶのが「パパ」から「お父さん」に変わっていた。
考えすぎだと何度自分に言い聞かせても意識してしまっていた。
そしてデイズの事を告げたとき、それは考えすぎで無かった事を知る。
エレンは取り乱さなかった。目には涙が溜まっていたが、口を真一文字に結び、しっかりと現実を見据えていた。現実を受け入れられなかったのは、取り乱したのは私の方だった。
「すまない……私が臆病だったんだ!」
娘を抱きしめて、情けなく泣いたのは私の方だった。
「ソルおじさん……」
こんな状態で、ソルまで帰ってこない事を言い出す事など出来るはずもなかった。
「デイズおじさんの事聞きに言ったら、泣いてた」
「……え?」
聞きに行けるタイミングはハイエルラークで、この子確か翌朝ソルのベッドに寝ていたわけで……。
「寝てたけど、泣いてて、ぎゅーってされて……。」
つまりベッドに潜り込むつもりはなく、寝ぼけたソルに抱きしめられて逃げられなくなったというのがあの日の真相……つまりとっくの昔にばれていたらしい。きっとソルの事だ、寝ぼけて覚えてなどいなかっただろう。
「あの馬鹿……」
お前がばらしてどうするんだなんて言う資格が、ボロボロに泣いてる自分にあるはずも無かった。
「ソルおじさんは?」
自分のことで精一杯でとても口に出来る状態では無くなっていた。
「……っ……」
私の状態を見て、察しが付いてしまったらしい。
私にしがみつき脇腹を握るその手が、とても痛かった。
シリル・コーウェン少佐
オーレッドにて
最近視線を感じる。最初は気のせいだと思っていたのだが、どうもそうでは無いらしい。
一人二人ではない。指折り数えたわけでもなく勘でしかないが大体4人ほどであろうか。
上……もとい彼等を葬ったような連中が一管制官をどう見ているか解らないが、用心に越したことは無いだろう。少々なら護身術の心得もある。そう簡単には……。
その日、そのT字路を通るのに意識も何も無かった。
一瞬感じたいつもの視線。聞こえて来た話し声。素通りするフリをして耳を傾ける。
「お……、どう……だよ?」
「あ……人、ウォ……ック隊の」
小声と言うこともありよく聞き取れない。もっと近寄った方が……。
「私、やっぱり聞いてみる!!」
「え、ちょっ、それは流石にヤバ……あ!」
時既に遅し。突然飛び出してきた女性と正面衝突した私は吹っ飛ばされ、背中をしたたかに打った。
ついでに言うとメガネのフレームに激突したらしく眉間が痛い。
……万一暗殺者など仕向けられたら抵抗する間も無いだろうな……。
「ああああ、し、しっかりして下さい!え、えーっと……」
その張本人は、階級章を見ると軍曹らしい女性。
後ろにいるのは妙に童顔の男、こっちも軍曹だ。
「ん、ああ、大丈夫だ……しかし廊下を走るのは感心しないな」
「あ、はい……申し訳ありません」
さっきの慌てようはどこへやら。気が付けばその態度は上官に対するそれに変わっていた。
随分と生真面目なタチをしているらしい……自分もこんな感じだったのだろうか。
そして、この二人が視線の主だろうか?
向こうも何か言いたいことがあるのか、互いに動けず気まずい沈黙が流れる。
私語は慎め。これが口癖になっていた私が沈黙で動けないとはな……。
先に口を開いたのは女性の方だ。
「あの……ストーンーヘッド、ですか?」
「は?」
ス、ストーンヘッド……思わず間の抜けた返事を返してしまった。
そんな風に呼ぶのは彼ぐらいだと思っていたんだが……。
更に二人出てくる。眼鏡をかけた女性と線の細い男。やはり軍曹だ。
「ストーンじゃなくてサンダーヘッドでしょ」
「そ、そうだったわね……あの人が連呼してたものだからつい……」
……私のコールサインをもじって連呼するような男を、私は一人しか知らない。
「私に、何か用か?」
私達は場所を変えた。
なるべく騒がしい場所へ、不用心なようだがこっちの方がかえって盗み聞きは難しい。
「ウォードック隊が査問にかけられたことはご存じですよね?」
「ああ」
「私達は、その時彼等の監視役を仰せつかった者です。私は、ダヴェンポート中佐の担当でした」
彼女は先ほどの慌てようが嘘のように平静だった。
その後ろの三人は随分としょげた顔をしていたのだが。
「やはりお喋りだったか?」
「はい。あなたの事を良く聞かされました。私が注意する度にまるでストーンヘッドだなって」
引き合いに私を出すとは……何処にいても変わらないな。
「でもそのあなたとそう言い会っていたときの事を、本当に楽しそうに話してました」
その言葉に、少し救われた気がした。
まだ彼が健在ならきっとそんなことを真っ向から否定していただろうと思うと、少し複雑だが。
「それで、あなたに渡したい物があるんです」
テーブルの上にあったのはウォークマン。
誰の持ち物だったのか、どういう経緯で彼女の手にあるのかは容易に想像が付く。
「査問の時取り上げて、結局返せなかったんです。ノヴェンバーシティの時……最寄りの飛行場に降りてきたとき改めて渡すつもりでした。戦争が終わって、凱旋した彼等に託すつもりでした。でも……」
「……解った。私が責任を持って預かろう」
「ありがとうございます……!」
部屋に戻って、そのウォークマンをどうしようか考えた。
私のポケットには少々大きいのだが、かと言って机に突っ込むのはあまりに忍び無い。
答えの見つからないまま、中にCDが入っている事を確認してスイッチを入れる。
流れてきた曲はやはりロックンロールだった。
……あの時は何とか堪え切れた涙が、今更になって溢れてきた。
ソル・ローランド大尉
北辺の基地にて
バートレット隊長が帰ってきた。よりにもよって俺達兄弟の初恋の人を横に連れて。
上空支援をしていたときにも思ったことだが、やはりこの人には一生かなわないんだろうな。
そしてもし隊長が帰ってきたら、一つ決めていた事があった。
「おう。何か用かブービー?」
「はい。実は……」
「却下」
俺まだ何も言って無いです。
「お前の言いたい事なんざお見通しだ。大方隊長職返上だろうがそうはいかねえ」
やはりお見通しか……まあ、もし解ったって言われたらどう反応したらいいのか解らなかったのも事実だが。
「いつケツ掘られるかわかんねえ野郎をぶら下げて飛べるかい。この際だから言っておく。お前に列機の適正は無い。編隊はよれよれだわ、戦闘になりゃ一人でかっ飛んで行くわ、その上悪知恵だけは働くと来た」
ははは……我ながら酷い言われようだな。しかも悪知恵って一体……。
「そんな奴、一番機以外の何処に置くんだ?」
「……え」
まあ既に却下されたとはいえそれはこのまま隊長でいろと言うことで……。
「露骨に喜んでんじゃねーよお前は!」
迂闊に油断していた俺はあっさりヘッドロックの……いやホントに苦しいんですが。
「良い面構えするようなったって言ってやろうと思ったら思い切りお子様顔になりやがってこんにゃろはー」
「た、隊長!本気できつ……!!」
その後無人機落とす時も俺の真下掠められてそん時に本気で次の推薦グリムを後ろに付けて荒行がてら別小隊長やって貰う予定だったとかどう話が飛躍したのかお前ら兄弟誰も少佐に手ぇ出して無いだろうなとか……ハートブレイク小隊だなあ……俺はと言えば先の空戦とまだ隊長をやれると認められた安堵のせいだろうか、ひょっとしたら隊長のチョークスリーパーが効いたのかも知れない。俺の意識はそのまま微睡みに沈んでいった。
ジャック・バートレット大尉
この野郎本気で寝やがった。いくらチョークスリーパーったってそう簡単に寝るかよオイ。
着任直後は修羅場知ったかぶった面してやがったのに今度はガキ見たいな顔しやがってからに。
「おーい。ブービー、起きろー?」
「本気で意識無くすまで締める事もなかったろうに」
「うおっ!?待て、誤解だおやっさん!!つか何処から出てきやがった!?」
この神出鬼没があの頃最大の驚異だったんだろうなあ……と、ブービーがこれじゃ倉庫裏で小一時間問いつめるわけにもいかんし、ダメ元でターゲット切り替えてみるかねえ。
「でよ、いい加減教えちゃくれねえか。結局のとこ、ブービーって何者なんだ?」
「特別扱いはしないんじゃなかったのかね?」
「いや何となく喉まで出かかってたんだが最後の最後で解らなくなってよ、あんな無茶平然とやってのける奴とやりあった覚えは無えぞ?」
その上人様の背中で寝息なんぞ立てやがるような奴俺は知らん。
−敵さんの心配して胃を痛めるなんざまっぴらだ−
「そうか、もう解らないか」
「おやっさん?」
「なら、私からは何も言うまい。今の彼に失礼というものだからね」
そう言うとおやっさんはさっさとどこかへ行ってしまった。
やれやれ……父親より師匠に似てしまったか。
どちらにせよ、君の息子はもう君や私など当の昔に超えてしまったのかもしれないな。