ACE
COMBAT 5
The Unsung War
…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...
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独りで得られないものを得たとき、心の中にある守るべき物、
仲間と一緒なら、独りでさえなければ、苦境に陥ったとき……
−ノヴェンバーシティのホテルに残されていたメモ群−
ソル・ローランド大尉
夜も更けたケストレル艦橋。
結局、手紙の内容に目を通せるようになったのは夜も更けた頃だった。
さすがにグリムの前で開けるのは気が引けたし、部屋にはジュネットさんもいるし、かといって慣れないケストレルでは一人で読めそうな場所を見つけるのも至難だったから。
さすがに状況が状況だけに一行目だけ丸文字の手紙なんて寄越さないと思うが。
−何も知らなかった頃、彼は一つの夢を抱いた−
ソル、元気にしているか?
まあ、新聞読めば大体の状態は見当が付くから言わなくても良いけどな。そろそろユージアに向かうタイムリミットが近づいてきてるから今のうちに手紙を書いておく。そうなるとろくな文章が思い浮かばなくてな有り体な事しか書けないかもしれないがこの状況でウケ狙っても仕方ないしな。
サンズ兄さんにしてはまともな出だしに安堵する。
新聞か……消印を見る。日付は11月29日。あの平和式典の当日。
届いたタイミングばかりか出されたタイミングすら間の悪い、運の無い手紙だな。
−時を重ねるにつれ、それは叶ってはならぬ夢だという事に気付いていった−
今、ノヴェンバーシティのホテルでこの手紙を書いている。これから大きな仕事が……ああ、この手紙を読んでいる頃にはもう解ってるだろうな。今頃展示飛行でポカやったことあたりからかわれてたりしてるのか?多分その頃には私はエアショーパイロットの友人(将来の義弟かもしんない)とお前の飛びっぷりでも寸評してるんだろう。これから一緒に馬鹿リンゴにNOを突き付けに行くところだ。でだ、隊長違いかも知れないけど一筆したためて貰ったよ。
そして続きに目を通す。何処かで見たような文字だが俺には読めなかった。
すぐ上に小さく注意書きが書かれている。
彼の母国語で書いて貰ったから、ナガセちゃんに訳してもらえ。
……壁に頭をぶつけた。最後の最後に何てことしてくれるんだこの馬鹿兄。
そして思い出す。ナガセの名前が書かれていた言語じゃないかこれ。
「ブレイズ、また傷口開くわよ?」
いや、もう十分手遅れかと。
「丁度良かった。実はさ……」
手紙のことを話すと案の定と言うべきか「大変ね」と苦笑された。
「ユージアで流行った飛行機乗りのお守りを同封しておきます。会える日を楽しみにしています」
封筒の底を調べたら腕を二周りするサイズの青いリボンの輪が一つ。途中で半回転捻られている……メビウスの輪と言う奴だ。
それを見て言うのもなんだが、捻りが無いよな。
最後の一枚は写真。その友人ともう一人女性と一緒にいる写真だったんだが……。
「どうしたの?」
「……こないだ話した事覚えてるか?」
あんな形で、会っていたなんて……。
−だが、舞台は整えられた−
「良いんですか、スノー大尉?」
「かまわんよ。今や実力は証明済みだろう?」
そして俺達はスノー大尉を加え、再び4機で飛ぶことになった。
「気を付けた方がいいっすよ。うちの隊長何処すっ飛んで行くか予測つきませんから」
「言うようになったなグリム」
「そりゃあそこまで大暴れされればねえ」
「う……」
それを言われてしまうとぐうの音も出ない。
ナガセまで納得したように頷かなくたっていいじゃないか。
−NGはもとよりリタイアも許されないシビアな夢の−
目的は大統領の救出。場所はベルカ公国内、あのクレーターのすぐ側。
俺にとって、再スタートにはうってつけの場所だった。
機体は南ベルカの会社……グランダーインダストリー、かつての南ベルカ兵器産業廟がユークに輸出しようとしたものを拿捕していたのでそこから使わせて貰うことに。
甲板の上で、整備兵達が慌ただしく動いている。
本当に有り体な言葉しか浮かばない。ここから、俺達の本当の戦いが始まる。
−そして幕は開かれる−
雪に閉ざされているだろうベルカの大地を目指して飛ぶ俺達。
後ろにはシーゴブリンのヘリも列を連ねている。
「うへー……もう寒くなってきたぞー。足に響くってのー」
相変わらずな彼等の元気はその寒さにも負けていない。
あの時墜落したヘリに乗っていた彼に到ってはナガセのおっかけだそうな。
眼下に広がる銀世界に、ぽっかりと空いた七つの黒い孔。
生命の耐えた大地は、15年と言う歳月を経てなおその姿を止めている。
まるで時間が止まったように。
航空作戦の指揮を執ることになったおやじさんの通信が入ってくる。
「聞こえるかね?そろそろ古城が見えて来るはずだよ。シー・ゴブリンが降下するから、対空兵器を始末してやってくれないか?」
「了解」
よく見れば地上基地らしい施設を遠目に見た。
どうやらここの時間も動いてはいたらしい。焦臭い方向に。
対空砲の始末にさほど時間はかからなかった。
戦闘機が襲撃してくるなんて思いもしていなかったのかもしれない。
「対空火器沈黙、引き続きヘリの護衛に移る」
「こちらシーゴブリン。さすが仕事が速いな!あ、ナガセ大尉も来てるんだよな?」
「ええ、吹雪の山から救助していただきました」
「どうだい?こっちに転……なんだよ?」
「やめとけ。騎士様に撃ち落とされても文句言えんぞ?」
やっぱりそう言う方向に行くのかい。
「隊長、いい加減腹くくったらどうですか?」
グリムの言葉に更に盛り上がるシーゴブリンの面々。
どいつもコイツも好きだよなほんと。
「あれ?お喋りの旦那はいないのかい?」
「!」
ここまで伝わって無かったんだ……。
ナガセが辛うじて言葉を発するが、また沈黙が戻ってきてしまった。
「……そっか。すまねねな。と、城の上空に到着!大統領とのご対面だ。身だしなみ整えておけよ!!」
そこは荒くれ揃いの海兵隊と言うべきか、沈黙を吹き飛ばす術を良く知っている。
そのまま城の周囲を警戒する。ゆっくりと旋回していくと、あのクレーターがよく見える。
ナガセが息を飲むように呟く。
「この世の終わりが通り過ぎた後の風景……」
「ああ……上から見るのは初めてだ」
幼い日の夢に見ていた景色はもう、ここにはない。
「隊長?」
グリムが疑問の声を上げる。
「……話して無かったか?」
答えに迷って、結局とぼけることにした。
「初耳ですよ」
「私も……」
「なんとも、因果な話になってきたな」
まったくだ。もう何が出てきても驚かないぐらいの構えでいかないと今後何が出ることやら。
「こちらシーゴブリン。城内に入ったのはいいが、敵以外にもなんか出て来そうだ」
「そこ、有名な心霊スポットっだったからな」
「おいおいマジかよ」
シーゴブリンとそんなやりとりをした直後だ。城を目指す戦車隊を目視した。
「外の方に出たみたいだ。戦車隊を確認、城内に通すな」
シュティーア城の一室
再び城内が騒がしくなってきた。さっきまでひっきりなしに動いていた対空砲も今では無惨な姿をさらし、代わりに内部で何か動き出しているらしい。
昨日までクレーターに延びていた視線を城の入り口に落とすと、今まさにミサイルを受けて弾け飛ぶSAM車輌が見えた。
そのミサイルの主である戦闘機に未だカラーリングは施されていなかったが、狭い窓からという状況が、かつて輸送機の窓から見たあの部隊を思い出させた。
外の情報の全く入って来ないここ。あの時の彼等は今どうしているだろうか。
ふと、その女性パイロットの言葉と、隊長の声を思い出す。
自分に希望を託してくれたにも関わらず、彼等と入れ違いにやって来た部隊によって塀の中の身。
合わせる顔がないなと苦笑しつつ空を仰ぐと、戦闘機の機影が数を増している。
一方は味方なのだろうが、入り乱れたその中でどちらがどちらなのか、確認する術はなかった。
その時、自分のいる部屋のすぐ近くで轟音が響く。
「城外からも手荒なおもてなしだ!ラーズグリーズ、お返しできるか!?」
潜入部隊の声だろうか。だが、ラーズグリーズ?
北の海の悪魔と呼ばれるような者達がいるのかと首を捻る。
しばしの沈黙の後、また潜入部隊の声が聞こえる。
「ったく、相変わらず無口な野郎だ。可愛げねぇ」
無口な、その言葉に、やはり思い出されるのは彼等しかいない。
しばしの銃撃戦。それが収まると扉が蹴破られた。
「大統領、お迎えに上がりました!!」
オーシア海兵の装備を身につけた海兵隊達が一斉に敬礼を向ける。
彼……オーシア大統領、ビンセント・ハーリングもそれに応えた。
もちろん、これだけで安心するのはまだ早い。
敵もただで返してくれるほど甘くはないようで、部屋を抜けてすぐの所でまた銃撃戦が始まった。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。大統領こそお怪我の無いように!!」
その時だった。頭上で轟音が響くと同時に、上から僅かながらガラス片が降り注ぐ。
だが、目を開くと自分達が向かうはずの道がない。
「罠……っすかね」
「閉じこめられたようだね」
それを見計らうようにまた敵兵。解っていても壁に向かって走るしか無いようだ。
「こちらシーゴブリン!挟撃にあって身動きがとれない。壁の一部吹っ飛ばしてもらえんか!?」
空軍に応援を要請したのは自分の真横にいる海兵だった。
そして、その手に握られていた通信機からラーズグリーズと呼ばれていたであろうパイロットの声がする。
「よし、やるか」
さらりと言ってのけた声。何とも、奇妙な縁は続くものだ。
壁のギリギリまで下がる。響く轟音、城全体を揺るがしそうな衝撃の後に光が射し込んだ。
「うっへぇ……やること派手だねえ隊長さん」
「思い切りの良さは相変わらず、だね」
文化遺産に指定されている城壁に出来た見事な大穴からヘリの姿が見える。
そしてまた通信機からパイロット達の声が聞こえる。
「大統領は?」
「無事、隣にいらっしゃる」
「素敵な声のお嬢さん、君もいるのか」
どうやら、また彼等に救われたらしい。
ヘリが飛び立っていく。もう追っ手も来ない。どうやら助かったようだ。
通信機越しに溜息が聞こえる。一仕事終えた後のそんな溜息だ。
「所でその声はもしや?」
「はい。お久しぶりです、大統領」
「そうか。また借りが出来てしまったようだね、ブレイズ君」
さて、私にもやるべき事がまだまだある。
今度こそ、その希望に添わなくてはならないか。
歓声が上がるヘリの中で、大統領はそんなことを考えていた。