ACE
COMBAT 5
The Unsung War
…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...
Monolog
あの人は結局、ずっと独りで戦っていたんじゃないでしょうか
−ベルカ空軍のとあるルーキー−
−空を流れる飛行機雲−
−モノクロの青空、日の光を反射する白い帯、幼い兄弟二人が見上げていた−
−それを遠目に眺めている自分−
−自分を残したまま、景色が少しずつ色付いてくる−
遙か上空でアクロバット飛行を披露していたはずの飛行機が慌てた様子で降りてきた。
待ってましたとばかりに駆け寄って行く幼い俺達。
跳ね上がったキャノピーの中から出てきた黒髪のパイロットが叫ぶ。
「おい!誰か洗面器持ってきてくれ!!」
その後ろでは顔面蒼白になっていたサンズ兄さんが今にも吐きそうな顔をしている。
ああそうだ。この後ほんとに吐いちゃって父さんが散々に怒られるんだ。
「ちょ、ティルラ落ち着け、家族サービスしろって言ったのはおま」「問答無用!!」
母さんに。
多分あの人より強い女性って言うのは見たことがない。
ナガセと会わせたらさぞ面白いことになっていたような恐いような。
その向こうで父さんの同僚達に遊んでもらってる俺達。
「あーあー。隊長も奥さんの前では形無しですねえ……」
「そうでも無いぜ新入り。あの人は常時あの調子だ」
バルト・ローランド。俺の、自慢だった父親。
「兄貴もなっさけねえなー。親父もどうせなら俺乗っけてくれれば良かったのに」
「僕等二人入れそうだよねあそこ」
父がもう少し大きくなったらなと言おうとしたところで母さんに蹴倒された。
俺達が生まれたときには既に三十路も過ぎていたはずなのに、何処か子供のような人だった。
そう言えば、生きていたらこの人おやじさんより年上になってたんだよな。
−悪路を走る車、手近な所にしっかりしがみつく兄弟二人−
−窓の向こう側に、検問にかかっている親子連れを見つけた−
「こんな所で空戦だあ?勘弁してくれよ!!」
これは……街から逃げる時だ。
場面がまた入れ替わる。深刻な顔をして受話器に向かって叫ぶ兄。
「親父!!一体どういう……あー、切れちまった」
母さんと何か話した後、二人によって無理矢理車に押し込まれる俺達。
サンズ兄さんが叫ぶのも聞かず、北へ走って行った母さん。
そしてまた悪路を疾走する車内に場面が入れ替わる。
疾走する車の上で繰り広げられていた空戦。
流れ弾が後輪を吹き飛ばすのが見えた。
「くそっ……二人とも出ろ!こっから走……危ね!!」
車から出ようとした真正面に何かが落ちてきた所で、視界が何かに遮られる。
そして真っ赤に染まり、また消える。
俺が、声を無くした瞬間。
忘れたくても忘れられない、血に染まったコックピット。
フラッシュバックする。初陣の時、工科大学襲撃事件の時、査問で見せられた現場写真。
俺は克服出来ていたのだろうか?それともまだトラウマとして残っているのだろうか?
あの頃よりは、強くなったつもりでいたんだけどな……。
また場面が入れ替わる。行き交う人混み。その真ん中で泣きそうな顔をしている幼い子供。
何とか占領下の街に入れた後だ……俺だけ迷子になって、あの人に会った。
「……、……?」
オーシアの人間らしい女性士官。最初会ったときは恐かった。
今だからこそ第一声が何だったのか解るのだが、当時は母国語以外解さっぱり、その上声も出せなかった俺はパニックに陥っていた。かといってそこは袋小路で逃げるわけにも行かず。
そしたらすぐ後ろにいたもう一人の将校に彼女が何事か尋ねる。
彼が何事か彼女に耳打ちする。
「坊や、迷子?」
ベルカ語。その言葉に、(元々声は出せないが)ただ無言で頷く。
人混みの向こうからサンズ兄さんの歌声が聞こえてきている。
あれが家族だと、俺は何とか伝えようとしていた。
「お前、声出ないのか?」
そのジェスチャーを違う方向に取られたのかジェスチャーだったからなのかは未だに解らない。
結局俺の意図は伝わらなかったらしいが、一緒に探してくれると言ったその将校が俺を肩車してくれた。
そのお陰ですぐに兄さんを見つけることが出来た。
それからだった。この人達と良く会うようになったのは。
最初のうちはオーシアの連中なんかと口聞かないと言ってたデイズ兄さんも、だんだんほだされてきた。
彼女はともかくもう一人の将校はじきに前線へ行く事が決まっていたからこのままじゃダメだとオーシア語を彼女に習いだしたのもこの頃だ。
相変わらず声は戻って来ないのだけど。
自分を単に「中尉」と呼ぶよう言う彼女は結構お茶目な人で、そんな彼女に惹かれて、兄弟3人で基地の近くへ足を運ぶことも多々あった。
彼女にからかわれたり、基地の隊員達と遊んだり、そうしている間は、あらゆる不安を忘れる事ができたのだ。
でも彼女は時々遠くを、北の方を真っ直ぐに見つめてる事がある。
なかなか聞き出せずにいたのだが、戦場で連絡の途絶えた恋人を待っているのだと教えられた。
それを知ったサンズ兄さんの落胆ぶりは今でも良く覚えている。
あっという間に惚れて、あっという間に諦めた、そんな話。
それから数日後、俺達の故郷はこの世から無くなった。
突然の知らせに呆けている俺達を余所にしばらくの間は凄惨な戦況の知らせが届き、前線へ向かったのか、彼女も街を離れていく。
それから程なくして戦争は終わり、負傷した民間人に混じって母さんが戻ってきた。
右腕の頬に核の火傷を負って、父さんの訃報を携えて。
……父が死んだ。
その日の晩に喉の渇きを満たそうと起きたときに聞いてしまった。
愛用の銃で自分のこめかみを打ち抜いたのだ言う事を。
サンズ兄さんを寝室へ行かせた後、気丈な母が壊れそうなほど泣いていた。
俺も泣いた。何故俺達や母さんを置いて逝ったのだと。
どうしてだと、あの時ほど、父を恨んだ事は無かった。
ぼんやりと流れて行くだけだった光景が突然ハッキリと浮かび上がった。
広いリビング。オーシア軍の制服を着た俺とデイズ兄さん。
その前にいるのは、火傷の跡が気にもとまらぬほどニコニコしている母さんと、少し複雑な顔をしているサンズ兄さん。
「大丈夫、俺は簡単には死なないって」
「ましてこのご時世その心配も無くね?」
「こら。何があっても軍人が気を抜くなー」
もうこの世にいない父への当てつけが半分。
……もう半分は、あの人達にたった一言、自分の声で伝えたかった「ありがとう」。
場面が少し遡る。終戦間もなく兄さんの仕事で連れてこられたユージアのサンサルバシオン。
後に巨大な大砲が作られることになるその上空を、一機の小型機が舞っていた。
翼が陽光を跳ね返し、それに負けぬほどに輝く白い飛行機雲。
「綺麗だ……」
横にいるデイズ兄さんにも解らぬほど小さな声で、でも確かに呟いていた。
デイズ兄さんも声に出さずとも同じ事を思っていたんだろう。
「兄貴!俺、やっぱりパイロットになる!!」
すぐに俺も同意の意志を告げるべく手を挙げる。
「ソル、お前は声直すのが急務だ……」
「イエッサー」
いつもからかう側に回っていた兄二人が固まる。
してやったりと思った。
「母さーん!!」
「ソルが、ソルが喋ったーっ!!」
その後予想以上にもみくちゃにされて散々だったのは予想外だったけど。
−視界が空へと吸い込まれ、意識は遙か上空を駆け抜けていく−
−そして鳴り響くレッドアラート−
次の瞬間、俺は空戦の中にいた。すぐ後ろに付いた機に、誰かがミサイルを撃ち込む。
レーダーに、敵機に追われている誰かが映る。
反転する機体。敵機と向き合う。操縦桿を引こうとした。
でも、その手は空しくすり抜けていく。
何か、声を聞いたような気がする。
「例え無茶だろうが……」
すれ違い様に見えた味方のナンバーは「007」。
−これは、まさか−
「見捨ててたまるか!!」
−意識は機体からはじき出され、機体はそのまま青空に吸い込まれていく−
「兄さ……!」
そこで夢が終わった。
そうだ、サンド島から脱出して、セレス海でヘリに拾われた所で寝てたんだ、俺。
何処なんだろう。凄く寒いからかなり北の方だろうけど……額が痛むのはなんでだ?
「寝てる隊長の正面に出ちゃダメですね」
「あ、足の次はアゴかよぉ……」
見ればアゴを押さえて蹲っている海兵隊が……あ。
「えーと……大丈夫?」
「アンタはアンタで傷開いてっぞ隊長さん」
その言葉に額を撫でると何かで滑った。何処かで開いたんだろうか傷の治りが悪いんだろうか。
ひょっとしたら海水にどっぷり浸かってしまったのが悪かったのかもしれない。
眼下に見える空母、ケストレル。どうやら、あそこが俺達の新しい家になるらしい。
既に空母に着艦していたスノー大尉が最初の出迎えだった。
「お久しぶりです。スノー大尉」
「こうして会うのは初めてだな。ようこそケストレルへ」
そして知った。
艦載機の殆どを失い役目を失いつつあった空母。
だからといって彼等は昼寝をしているわけではなかった。
自分達に与えられた時間をフルに使って、この戦争の舞台裏に辿り着いた。
艦長にも会った。
この戦いを終わらせるために、力を貸して欲しいと言われた。
もちろん快諾したよ。
まだ飛べる。まだ頑張れる。
不謹慎かもしれないが、それが嬉しかった。
何はともあれ、今日はここでゆっくり羽を伸ばせるらしい。
と、言うわけで……。
「うわっ、カーク、解った、解ったからちょっとのいて!」
「なんつーかもう隊長にべったりですね」
前日に貰った手紙を読もうと思ったのだが、カークがさっき無視されたお返しとばかり飛びついてきてそれもままならず。
ナガセはと言うと、いつも持ち歩いていたあの本を眺めている。
なんでもあの収容所の一件の時ジュネットに中身を見られてしまったらしく、それ以来常に持ち歩く事にしたのだとか。
何とかカークを落ち着かせると、改めて手紙の封を開く。
「それ、お兄さんのからっすか」
「出撃直前に届いたんだよ。何というか、ほんと間が悪いよな」
中身を取り出そうとしたとき、グリムがぽつりと呟いた。
「兄貴、どうしてるかな……?」
俺達は死んだ事になっている。敵性スパイとして。
そして気付く。
自分達が、置いていく側になったことに。
あれほどなるまいと思っていた立場になったことに。
でも……。
「大丈夫。俺達はまだ生きてる」
兄さん、エレン。
悪いけど俺、もう少し無茶してみるよ。
だから、もう少しだけ待っていてくれ。
俺は、必ず生きて帰ってくるから。