ACE
COMBAT 5
The Unsung War
…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...
Escape
あの時のチビが今やベルカのエースなんだから世の中わからんよな。
−バルト・ローランド−
AWACS・サンダーヘッド
自分はこんなに臆病だっただろうか?
背中に突き付けられた冷たい感触。
「こちら8492。彼等を発見した」
「……了解した8492。本当に彼等は裏切り者なのか?」
「そうだ」
「……信じられん」
そう呟くことが、私に出来る精一杯だった。
「信じようと信じまいとこれは事実だ。8492、撃墜を許可する」
こんな状態で信じろと言う方が無理だ。ウォードッグが敵性スパイなどと。
突然最寄りの基地に下ろされた私は、敵性スパイの調査という名目で四半日の監禁を受けた。
その後で無実は証明されたと言うなり与えられた任務がこれだ。
後ろでは無様に鼻を砕かれたハミルトンがいる。
これでは文句の言いようも無い気がするが、ブレイズが一度だけ激昂した状況を思い出すとこの戦争、裏で糸を引いているのも彼等のような気がしてならない。
「次は逃がさぬ」
一度襲撃したことを告げる言葉。そして何より、声をもって戦場に立つ私には解った。
僅かな言葉の訛りがどこの国の物であるか。
まして私が工科大学を銃撃した部隊の番号を忘れているとでも思ったのか?
……だが察したことを悟られてはいけない。
私には、AWACS搭乗員の命まで押しつけられている。
無事に逃げ延びて欲しい。ビジネスライクを装いながら私はそう祈り続けた。
だが彼等の機体は練習機。こちらの機体は新型……望みが薄いことは解っていても。
「……しまった、レーダーがきかない?」
「火山性の島でね、地磁気が強烈なんだよ。レーダーがきかないから君達もしっかりついてきたまえ」
小さな奇跡か?それとも単なる偶然か?
私のレーダーから彼等の機影が消えていく。
細長い島の影さえもう見えない。
多分、声もそうは届かないだろう。
もう私に出来ることは何もない。だが、同時に連中に荷担しなくて済む。
ただ、地磁気に妨害されながらも耳障りな8492の通信だけは入ってくる。
「あの飛……方、あ……は大佐では……か?」
「大佐……凶鳥フッケパイン……われた……?」
フッケパイン?15年前、連合軍から恐れられていたという、あの?
私がその言葉に覚えがあったらしい事を悟ると、ハミルトンが小声で囁く。
「そう言うことだ」
そしてブレイズの父親は……なるほど、名目はそうなるだろう。
もはや8492の声も聞こえない。
私に、何が出来るのだろうか?
ブレイズ
「フッケパインって……」
おやじさんは笑っていた。いつもの穏やかな笑みではなく、老獪な笑い声で。
「はっはっは。彼が話してくれていたのかい。まあ、つもる話は後にしよう」
出発前の違和感の正体はこれだったのかと、おやじさんの凄まじい機動に付いていきながら思う。
会うごとに父さんが誉めてたパイロットが身近にいただなんて……。
「それにしてもアシュレイ君かね?8492などと名乗っていたから誰かと思ったよ」
こんな所で15年前の因縁が絡み付くなんて思ってもいなかった。
「君がグラーバク戦闘隊などと名乗っていた頃から同じ空を飛ぶのは御免だと思っていたんだ。あれから更に理想を捨てたようだね」
俺はアシュレイという名もグラーバクという名もしらない。
この辺りで父さんが下していた評価も何となくわかるか……。
高軌道を繰り返し、俺達の眼下に戦闘機の残骸が見えた。
それもいくつもの、国籍を問わず所狭しとだ。
「ここは……スクラップヤード?」
「廃棄された兵器の墓場だ……」
「一歩間違えると仲間入りだな」
もっとも、今の俺達にはお誂え向きの逃走経路のようにも思えるが。
だが考える前に前をみないとおやじさんに置いていかれそうだ。
「おやじさんはどこでこんな操縦を?」
「遠い昔の戦場でさ、私の後輩」
あのフッケパインの後輩か……光栄だな。
崖のスレスレ、山の間。緩くかかってくるGが逆に気持ち悪い。
「さて、あのトンネルにつっこむぞ。心の準備はいいかい?」
……本気っすか?
もっとも、ここまで来て何を言う資格も無いのかもしれないが。
一度飛び込んでしまうと全神経を集中させざるを得ない。
グリムが素っ頓狂な悲鳴を上げている横でカークが暢気に吠えている。
「クゥ〜ン……」
無視されたと思ったんだろう。落ち着いたらたっぷり遊んでやるから我慢してくれ。
やっと洞窟を抜ける。だが上にはまだ連中が張り付いていて、開放感に浸るのはまだ先らしい。
「二人とも大丈夫?」
「ナガセ大尉は大丈夫過ぎます!!」
まったくだ。こういう時のタフさには本当に頭が下がる。
まてよ?俺達はともかくとして……。
「ジュネットさん、無事?」
前方に見えるキャノピーの中によれよれと動く手の影。
声も出せないことを心配するべきか手を振れる元気さに安堵するべきか……。
「さて、またトンネルに飛び込むよ」
そして凶鳥はまた無茶な飛行経路を指示してくれる。
付いて行ってる俺達も俺達なんだけどな。
明らかに人工的に掘られた洞窟。橋にクレーンに障害物が多いだろこれ。
機体を水平に保ちながら、おやじさんを見失わないように飛ぶ。
さっきまで辛うじてHUDに映っていた8492の反応に気を留めることもできていたのだが、もう俺の記憶からは吹き飛んでいた。
評価以前に忘れられていたから俺は知らなかっただけなのかもしれない。
もう目に映っていたのはHUDとおやじさんの機体だけ。
そこに、白い光が加わる。だが眩しさに目を閉じるわけにも行かず、薄目を開けて何とか抜けた。
もう島を抜けたらしい。8492の追跡も。目が慣れてくると一面に広がる海が見えた。
「もう追っ手は無い?」
「そうみたいだ」
やっと何とかなるかと言うと、そうでもない。
AWACS・サンダーヘッド
レーダーが再び彼等を捉えた。だが、不思議なことに追跡者の手が無い。
ここで気付かぬ振りが出来ればそれが一番良かったのだろうが。
「……8492、彼等の姿を再びレーダーに捉えた。彼等の姿しか捉えていない」
連中の代わりに、聞き覚えのある声が入ってくる。
「こちらソーズマン、スノー大尉だ。裏切り者とは彼等のことか?」
また、後頭部に銃が押しつけられる。皆まで話せと言うのか。
「そうだ……撃墜せよ」
皮肉な話だ。彼等が守ったケストレルの搭乗員が、こんな形で彼等の命を奪うことになるなんて……。
しばしの沈黙。一つずつ減っていくレーダーの反応。
一つ、また一つ、ゆっくりと……まるで拷問だ。
「全機の、撃墜を確認……」
ソル・ローランド大尉
俺はただぼんやりと空中を漂っていた。
後ろについたスノー大尉の機から発せられたベイルアウトせよとの信号。
それに従った結果、搭乗員のいなくなった機体は彼の手で四散し、海の藻屑と散った。
無事ベイルアウト出来たときはあの整備兵に感謝した。
脱出を勧めるぐらいだから、多分迎えぐらいはあると思う。
いつかケストレルを守った事がこんな形で帰ってくるなんてな……。
無事に着水……あれ、何か忘れているような?
「……長。隊長、パラシュート切って!!」
あ。
「ぶわっ!!」
無風だったお陰で流される心配は無いけど代わりに上から覆い被さられて溺れる所だった……。
「何やってんだか……」
「変なところが父上に似たねえ……」
そんなこんなでおやじさん達に引き上げられた。
額の傷に海水が染みてちょっと痛い。まだ塞がってなかったのかそれともまた開いたか。
「何やってるんすか本当に」
「いやちょっと考え事してたら……」
射出座席が即席ボートになっていたから四つ分を持ち寄って即席のイカダだな。
「父を知ってたんですね……おや……いえ、大佐」
「前のままでかまわんよ。初めて君の顔を見たときは驚いたものだよ。名前を知ったときは更にね」
暫く波に揺られながら、迎えを待つほか無いみたいだ。
波に揺られながら……。
「ブレイズ、顔色少し悪いわよ?」
「……あー……少し眠いかもしれん」
ここ最近寝不足だったし今日は連戦だったし……。
「いや眠いだけじゃ青くはならないと……」
「……あー……酔ったかも?」
だとしたら吐きそうで吐けない嫌な酔い方だ。
ジュネットも参っているように見えるが多分脱出と今までの飛行のせいであって船酔いでは決してない。
そんな中ヘリのローター音が聞こえてくる。ロープを下ろしてきた海兵隊の声にナガセが顔を上げる。
「あなたは、あの時の。足はもういいの?」
「よぉ、お姫様。お陰様でな。ところで騎士様とは……て、おーい。大丈夫かー?」
もう何言われてもいいや。
迎えに来たのはシーゴブリン。奇妙な縁だなと思いながら、俺達はヘリに乗り込んだ。
そして、乗り込むや否や、俺の意識は微睡みの底へ沈んでいったのは言うまでも無い。
おやじさんが言っていた。あの時亡くなったとばかり思っていたと。
多分、父さんは……そう言うことなんだろう。
「ありゃ、隊長さん、おーい?」
「暫く寝せてあげてくれませんか?ここ暫くずっと神経張りつめてたから」