ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Simple

 大地が荒れてそれから随分とたった後、この地に一人の旅人がやって来た。
 そやつは病気で苦しむ者を癒し、腐った地を掘り蘇らせ、散り散りの人間達を纏め、村を作り街を作った。
 −老木の言葉。童話『姫君の青い鳩』より−

ソル・ローランド大尉

 サンド島には娯楽がない。
 当然と言えば当然だ。この島には軍事基地しか無いのだから。
 それ故かいざ娯楽のタネになるものを見つけるとその反応は早い。
 それは成績を競い合うことだったり上官をからかうことだったり、数少ない女性職員をデイズ兄さんがナンパできるかどうかの賭だったり、誰かの色恋沙汰だったり……。
 そういや去年の今頃だったなあ、ベイカー教官が思いきり茶化されて……何考えてるんだ俺は。
「どうしたブレイズ、集中力が乱れてるぞ」
 いつものように射撃場にいったら「ハートを撃ち抜く練習かー?」とか茶化されてほぼ全員追い出したんだが……気が付いたらそう言うことが出来るほど昇進してた。
 なのに今や数少ない上官となってしまったハミルトン大尉まで娯楽に飢えてらっしゃいましたか。
「終戦後で良いですから何か娯楽ないですか?」
「無理だな」
 即答。
 まあそうだよな……。
「いっそ転属願いでも出すか?」
「それは俺に死ねと言っているようなものですよ」

 一拍の間。

「……ブレイズ」
「?」
「それ、ナガセ大尉の前で言って見ろ」
 ……え?
「えええええええ!?」
 俺、何か、何か不味いこと言いました!?

「最近様変わりしたと思ったんだが……そう言うところは変わらんな」
「様変わり……ですか?」
「ああ、目つきが変わったよ。信念を持った目だ」
「そうでしょうか?」
 自分では余り自覚がない。むしろ迷ったり悩んだりしている方が多いと自分では思っている。
「昔ある部隊の連絡将校として派遣されたことがあってな……彼等を思い出すよ。皆、歴戦のエースだった」

 静まり返る射撃場。入り口から聞こえるのは何かを引っ掻くような音。
 不審に思って開けたドアから覗いた黒い鼻先は……
「わんっ」
 カークだった。何故ここに?飛び込まれでもしたら危ないじゃ……
「と言うことは飼い主もいるな」
 ハミルトン大尉の言葉に、入り口の観葉植物がガタっと動いた。
「……チョッパー君、そのマイクはなんのつもりかなあ?」
「えーと、いやー、そのー」

アルベール・ジュネット記者

 こないだはあんな事を言っておきながら、結局私も無粋な輩の仲間入りをしてしまっていた。
「いっそ単語ごとに訳してみたらどうだい?」
 そうして導き出した言葉は隊長が二番機に言う言葉としては差し障りの無いものだった。
 少なくとも、ごく普通の状況で、ごく普通の状態で言えば。
「チョッパああああああああっ!!」
 夢の中での言葉。つつかれて耳まで真っ赤になる当人。
 今日もこんなやりとりをグリム軍曹と一緒に眺めている。
「隊長もナガセ大尉見たく知らない素振りで通せばいいのに」
 その言葉は、一度バートレット大尉が彼女に向けて言った言葉。
 もちろん、その言葉に乗せられた思いも意味も全くの別物であったが。
「でもナガセ大尉は隊長のことどう思ってるんでしょうね?」
 ……などとは口が裂けても聞くまいと、互いの頭に出来たたんこぶを見て心に決めていた。
「いーじゃねーかお前が素直に……げっ、ナガsbびじょぁsぇtnまjd!!」
 何というタフネス。
 誰とは言わないが。

ブレイズ

 相変わらず平和である。
「今度は自分で決めろだぁ?」
 前線を知らないお偉方の頭の中は。
 作戦空域が広範囲に及ぶために、戦線左翼か右翼かを決める事になったのだ。
 だが、それがよりにもよって……。
「馬鹿にしてる、馬鹿にしてる、馬鹿にしてるぜ!またしてもオイラの任務をコイン投げなんかで決めやがって!!」
 作戦空域上空。俺達の出撃先を決めたのはまたもコインだった。
 人の生死を握っているという自覚は、まず無いだろうな。
「ダヴェンポート大尉、私語は慎めと何回言わせるんだ!」
 とはいえ、そんなものにも随分慣れてしまった。
「こちらラーズグリーズ3。了解、サンダーヘッド」
「何を言ってるんだ君は?」
 やれやれ、知らないはず無いだろうに。
 毎度思うんだけどこのやりとり楽しそうに見えるのは気のせいか?
「ブービーもあんなコイン豚司令に弾き飛ばしてやりゃあいいんだよぉ」
 あー……よりにもよって自分の頭にのっかられたからなあ……。
 いや俺だってそうしたかったけどそうなるとまた色々言い出しそうだし。
「俺だって豚の面長々と見たくない」
「ブレイズ、私語は慎め」
「ラーズグリーズリーダー了解。手筈は航行中に話したとおりだ」
「エッジ了解」
「了解しました!あ、ラーズグリーズフォーて言った方が良いっすか?」
「ウォードッグ、私語は慎めと言っている!!」
 さすがにやりすぎたかな。
 そんな考えもそこそこに俺達は二手に分かれて地上部隊の支援に向かう。
「俺とブービーかあ。そんなに気にしなくてもいいんだぜ」
「何のことだ?」
「……気付よ朴念仁」

 支援地域を二分しても充分に広すぎる作戦空域。開始した途端の支援要請。
「ダックスより空軍へ、目標への援護を頼む!」
「我がリュンクス隊への支援を空軍に要請している。我々は前に進めばいい」
 地図を見たときから思っていた。敵を追い回していたらキリがない。
 だから徹底的に支援に回る事にした。
「こちらダックス!空軍連中、完璧な支援に感謝する!!」
「ひゅー、お前の作戦大当たりだな。コレなら行けそうだ」
 対地をチョッパーとアーチャーに、その後ろを俺とナガセで担当する。
 作戦時間内の一定以上の戦果を上げるにもそれで十分だった。
「よくやったぞ航空隊。頼りはあんたらだけだぜ。くそったれの師団司令部め!」
 自走砲台が前に出過ぎたのを諫められていたが、上からの命令だったそうな。
 どうやらどちらも事情は同じらしい。
「この先の陣地を叩いておくぞ」
「了解。ったく本当に戦局を変えかねないぜ。恐ろしい奴だぜほんと」
「それはどうも」
 敵航空部隊は思ったより少なかった。
 どうやらグリム達が野戦飛行場を先に落としているらしい。
「合流できそうだが行くか?」
「いえ、離陸前に叩きました。敵航空支援は当分無いはずです」
 どうやら、戦闘機で地上陣地を叩くハメになりそうだ。
「隊長、上空の部隊ひょっとして……」
「ああ、間違いない。サンド島の部隊だ!」
 地上からの声には覚えがあった。フットプリント作戦の時の部隊だ。
「サンド島?ひょっとして、ラーズグリーズ海峡の英雄ですか!?」
「ああ、間違いない。覚えてるかねブレイズ君」
「ええ、その様子だとまだまだ現役ですね」
 いつかの隊長さんの声がする。そう、彼等はこの戦争が終わるまで帰ることはないのだ。
「俺達いつの間にか有名人だな」
「我々にとってだけでは無いぞ。捕虜の連中も口々にラーズグリーズの悪魔に襲われたと言ってる」
 なるほど……敵の士気も随分とがた落ちになっていると言うことか……。

 そうしている間にも地上軍は着々と侵攻を続け、俺達が担当していた石油施設側は制圧が完了し、それからすぐ野戦飛行場も制圧されたとの連絡が入った。
「コーギーよりダックス、作戦時間あとどんぐらいだ!?」
「後十分あるぜ!縁起かついで正解だったろ?」
「阿呆。上空にご本尊が飛んでるっての」
 ひょっとしたら予定時間より早く本当に帰れてしまうのではないか。
 そう思ったとき、アラートが響いた。
「危っ!」
 砂漠を流れる大きな川から水飛沫が上がる。
「一体なんだおい!」
 この辺りにあんな長距離砲は……
「こちらサンダーヘッド、敵の増援を確認した。馬鹿にしやがって……」
 サンダーヘッドが珍しく口元をかみしめるような声を出す。
 その後に出てくる言葉はそれに十分納得させてくれるものだった。
「戦艦だ!!」
「何ぃ!?俺達ついてねえ。化け物にばかり大当たりだ……」
「愚痴ってる暇は無い。行くぞ!」
「了解。地獄までお供させてもらうぜ」
 確かに広い川だとは思ったが本当に戦艦を浮かべて来るとは思わなかった。
 地の利はやはりまだ向こうにあると言うことか。
「エッジ、アーチャー、これより合流します」
 艦隊の護衛に航空機もいる。
 どうやら対空ミサイルは無駄にならずに済みそうだ。

サンズ・ローランド
 ノヴェンバーシティ片隅の本屋にて

「ひーちゃんどうした〜?」
 ノヴェンバーシティの片隅にある本屋。ひーちゃんが一冊の本を開いていた。
 タイトルには黒地に銀色の文字で「Knights of Razgriz」と書かれている。
 街の片隅の本屋の、更に片隅に置かれていた本。
 幼い頃故郷で良く聞いた話。長年断り続けている舞台のタイトル。
 子供向けの小さな本だ。
「君の方がよっぽど童話的な存在だと思うけど?」
「……」
 口を尖らせる。やれやれ。変なところがソルに似てるなこいつも。
 結局読みかけの本を閉じても、まだそれを眺めている。
 そして、ぽつりと呟いた。
「戦争嫌いの女神は、平和を祈る人を祝福してはくれないのかな?」
「……出来たらとうの昔にやってるんじゃないかな?」
「だとしたら、哀しいな」
「……そうだな」
 何かを壊すのは簡単だ。だが、作り上げるには途方もない時間と手間がかかる。
 彼が手にしていたのはそんな教訓を教える、そんな話。