ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Princess

 今は姫君も戦場に立つ時代よ。
 −ユークトバニア軍・ヴィスナ中隊パイロットの一人−

チョッパー
 2010年9月23日ある日のサンド島の会話

「よぉ、デイズ。どうしたよ、マジな顔して」
「マジに見えるか?」
「見える見える。お前、ひょっとして本気でナガセ狙ってんのか?」
「おう。今回は本気も本気」
「でもブレイズ戻ってからでも良くねえ?アイツ無しで仕掛けるにゃきっついだろ」
「いやさ……どうもソルと変なところで好みとか似てるっぽくてよ……」
「そういやお前らいつも同じもん食ってるよなー」
「そーそー……って、俺は真面目に言っとるんじゃーっ!!」

 そうなる前に撃墜してやる。そんなことを言ってあいつは飛んでいった。
 後にも先にも奴が真顔を見せたのはあの時だけだっただろう。

2010年11月17日。収容所に程近い飛行場。

 ……こんな事を思い出したのは、何もナガセが落とされておセンチになっていたからじゃねえ。
「何というか……荒れてますね」
 俺達は今、あの収容所から一番近い航空基地にいる。
 ここは搭乗員待機室と射撃訓練所の部屋がすげえ近い。
 そして、我らが隊長は内心酷く荒れていらっしゃる。
 となるとだ、そこから派手な銃声が響く響く。跳ね返った弾が壁ぶち抜きそうで恐いぐらい。
 あの後の気迫は通信越しでも十分凄かった。
 ナガセの救助要請、シーゴブリンが捕虜を下ろすであろう最寄りの飛行場へ降りる許可、全部空中で済ませちまいやがった。
 ま、あの司令もおっかねえと思ったんだろう。昇進したことの連絡もそこそこにさっさと要求飲んでくれた。
「隊長……大丈夫っすかね?」
「かなり大丈夫じゃねえだろあれは……」

 デイズの勘はホントに良く当たるよな。

ソル・ローランド大尉

 一発、二発……もう何発目だ、これで?
 無性に苛立っていた。自分自身に。
 救助要請はもう受理された。あとは救出作戦に供えて休むべきだろう。
 だが、頭の片隅で、あのままあそこに飛び込んで守ることもできるんじゃないかと考えている。
 ……自惚れだ。そんなことしたっていらない苦労が増えるだけだ。
 カチリと言う音がした所で撃つのをやめた。
 苛立ちを助長するだけだと気付いたからだ。

 でも結局、解っていても俺は飛んだんだろう……。

ケイ・ナガセ大尉
 2010年11月17日。収容所付近の森

 ……何やってるんだろう私は。
「どう?大丈夫?」
「おう。全然平気」
 私を助けに墜ちたガンシップの搭乗員の一人は、幸い片足を捻っただけで済んでいた。
 一面の猛吹雪。一過性と聞いていたが、今夜がピークらしい。
 ガンシップから炎は上がらなかったから、そこから防寒具とか非常食とか、救助を待つのに必要なものが調達できたのは幸いだった。
 さすがにユークの捜索隊が迫ってきそうだから収容所からはだいぶ距離を取ったのだけど。
「とりあえずほれ、食べないと体がもたないぜ」
「ええ、ありがとう」
 彼等を危険に巻き込んでしまった。
 何故あの時、速度を落としたりしてしまったのだろう。どうして……。
「大丈夫だって。すぐ救助が来るよ」
 一番機は落とさせない。そう決めたあの時、隊長は……。
 行き着く考えは同じ。解っていてもそうしただろう。
 まただ。二番機であることに拘った時だってそうだった。
 そうやって、結局ブレイズに苦労を押しつけている。
 さすがに怒っているだろうか?それともやっぱり、気の毒なぐらいに心配してくれているんだろうか?
「なあ、どっか悪いのか?」
「ううん。大丈夫」
 多分上官殴り倒してでも飛んで来ると思う。
 握りしめている拳銃。彼ほど上手く撃てるわけではないけど……私が頑張らなくては。
 自分でまいた種だ。自分で刈り取らねば。
 彼等を無事守れるかという不安と、必ず来てくれると言う希望とでなかなか寝付けなかった。

 2010年11月18日

「お姫様。お目覚めの時間だぜ」
「あ、見張り……」
「いいってことよ。そっちの方が疲れてるはずだろ、な?」
 その日は快晴だった。雪に反射された強い日差しで目が覚めた。
 救難信号を発信させると、私達は移動を開始する。
「大丈夫、ブレイズ達はきっと来てくれる」

アーチャー

 思い返してみれば、こう言うときお互いの性格が露骨に表面化するものだと思う。
「待ってろよ、ナガセ!」
 いつも以上に喋るチョッパー中……大尉。
「隊長、大丈夫。きっと見つかりますよ」
 そして本気で今日は一言も喋らない構えの隊長。
 朝からずっとこの調子で、今日に至っては「出撃する」すら言わなかった。
 そして戦闘空域に入るなりそこを飛んでいた敵機を撃墜。
 なんだか極限まで張りつめているようで……。
 僕はと言うと、そんな二人に板挟みでどっちつかずと言うところだった。
「大丈夫……まだまだ行ける……」
 救難信号に乗って聞こえてくるナガセ大尉の声……こっちからも声を伝えることができればいいのに。
「おい、今下に人影が見えなかったか?」
「僕の方では確認できませんよ」
 救難信号の反応はどんどん大きくなる。
 でも、通信越しからもっと大きな反応が聞こえて来る。
「シーゴブリンよりウォードッグリーダー。今、そちらの信号音をモニター中。信号音が変化している。少しずつナガセ大尉に……」
 途中で通信が途絶えた。レーダーに新たな敵機。
「電子戦機だ」
「ジャミングによる妨害です!!」
 でも、それが隊長の目の前にいたというのが敵の不運だった。
 今あの人の前に出たらどうなったって文句は言えない。
 でも、そのジャミングの中確かに聞こえた。

「ブレイズを守る?……守られているのは私の方だ」

ケイ・ナガセ大尉

 上空が騒がしくなってきた。さっきから時折爆音が聞こえてくる。
「お、とうとう来たみたいだな」
「ええ。耳慣れた爆音が聞こえる……ブレイズ……あなた達なの?」
 発信器に語りかける。間違いない。間違えようもない。
「と、こっちも安心ってわけにもいかないっぽいぜ」
 こっちは森の中だったけど、その外の様子はよく見えた。
 人影が動いてる。ここに留まっているわけにはいかなかった。
「ったくまだ歩かせるか〜」
「文句言うならおいてくぞ」
「ネガティブ。三人無事に帰るの。場所を移動するわ」
 その時だった。上空を駆け抜けていく機影。視線が追いかけた先で撃墜されていく大型機が見えた。
 急反転してこっちへ、通り抜けた先で爆発音がした。
 見逃さなかった。上昇していく機体、主翼に書かれた「016」のナンバー。
「ブレイズ!!」
 その戦闘機は、私達の上を一周するとまた飛び去っていく。
 ヘリを呼びに行ったんだ。でも、私達もここを動かないと……もう少し上が見える、それでいて身を隠せる場所へ。
 大丈夫、もう少しで助かる!

ブレイズ

「見つけた!」
 さっきから、作戦空域に入ってから、落ち着かない、落ち着けない。
 自分でも解らないほどの焦燥感。
 敵機の中をかいくぐって探知機の反応が大きくなる場所へ飛んだ。
 後ろに何機かくっついていたような気もするし、オーバーシュートさせて何機撃ち落としたかも覚えてない。
 こんな飛び方、今までできたか?
「了解、良くやった。さすが良い目だ。これより救助に移る!」
 さすがに肉眼でナガセの姿は視認できない。
 代わりに対空砲がレーダーに、それもちょうどシーゴブリンのヘリの周囲にこれでもかと言うほど映る。
「なあ、君らのその、ナガセ大尉は美人か?」
「救助して自分の目で確かめろ」
「美人だったら口説くぞ」
「ガードの硬さも確かめてみやがれってんだ」
 ナガセを見つければそれも収まると思ったのに、焦りは消えない。
 いい加減にしないと、心臓がどうにかなりそうだ。

 ケイ・ナガセ大尉

 さっきから、ブレイズの機体がずっとこっちと向こうを往復している。
 その間隔がだんだん短くなってくる。撃墜の音も、戦闘機の爆音も、その度に近づいてくる。
 そしてまた彼が離れていく。そうしたら、今度は今度は恐いぐらい静かになった。
 そうでなければ、気付かなかっただろう。
「動かないで!」
「ひぃっ」
 すぐ近くに追跡隊がいることには。
 どうやら向こうもここまで来て初めて私達の存在に気付いたらしい。
 反応が遅れた相手が持っていたのは自動小銃。
 威嚇のつもりで撃った弾がそれを弾き飛ばした。
「動いたら撃つわ」
 爆音が近づいてきて、また遠のく。
 彼に蹴散らされたのかかそれともはぐれたのか、周りに足音は聞こえない。
「両手を挙げてこっちを向きなさい」
「わ、解った……」
 振り返ったユーク兵は、マスクで顔を覆ってはいたけど呆けたような顔でこっちを見ていた。
「立って」
「ラーズ……グリーズ」
「何?」
「あんた達が……そうなのか?」
「何のこと?」
「うちの潜水艦二隻も潰した連中が……今そう呼ばれてる」
 潜水艦……シンファクシとリムファクシの事?
 その沈黙を肯定と捉えたのか、そのユーク兵は観念したと言う素振りを大げさに示した。
「ははは……ラーズグリーズ相手じゃかなうわけねえわな……」
 そして、今度は地上が騒がしくなった。
 爆音の代わりにヘリのローター音が聞こえる。
 上から、海兵隊達が降りてきた。どうやら、助かったらしい。
「姫君、助けに参りましたぜ」
「おい、今口説くのはやめとけ。後が恐いぜ」
「?」
 それにワンテンポ遅れて爆音が……かなり低高度を飛行しているらしい……響いてきた。
「ホントだ。ナイト様はあっちだなー」
 何でそうなるのよ……。

 追っ手の敵兵が、海兵隊に連れて行かれようとしている。
 私もヘリに乗り込もうとしていた。
「あ、待ってくれ!」
「おい、暴れるな」
 その敵兵が、何か言おうとしていた。
「あんた達は戦争を終わらせてくれるのかい?」
 皮肉ではない。むしろ、期待に満ちた声。
「私達は、やれることをやるだけよ」
「そっか……期待してるぜ、北の女神様方」
 ここまで話してやっとヘリに乗り込む。
 墜落したヘリの搭乗員も無事。
 さすがに緊張の糸が切れて座り込んでしまった。
 渡されたのは毛布とヘッドセット。
「ナガセ大尉、大丈夫ですか!?」
 最初に入ってきたのはグリムの声……あれ?大尉?
「あそっか。俺らまた昇進だってよ」
 続いてチョッパー。次は……。
「お。ヘッドセットいらねえかも?」
 ブレイズは、すぐ真横にピッタリついて来ていた。
 それに気付いたのか、彼は軽く手を振るだけ。
「ホントに無口な隊長さんだな……結局アンタ見つけた時だけだぜ喋ったの」
 ヘッドセットはそのままだったけど、何を話せばいいのか解らなかった。
「おーい、いくら何でもコックピットで寝るなよー」

 戻ったら、真っ先に謝らないと。そう思った。

「隊長!」
 だから……。
「ナガセ、しぃー……!」
「……え?」
 完全に肩すかしを食らったわ。いや、任務が終わったらすぐ寝てしまうのはいつもの事だったんだけど、おやじさんやジュネットまでいる搭乗員待機室のソファで寝ているなんて思わなかった……しかも私のお気に入りの場所で。
「ブービーの奴昨日からろくに眠ってなかったからな」
「一昨日もバートレット大尉のことが気になってなかなか寝付けなかったみたいだしね」
「本当は眠たくて仕方なかったと思うんですけどね」
「ナガセ大尉の無事な顔見てからだと聞かなくてね、さっきまで起きてたんだよ」
 そんなに心配してくれていたんだ……叱咤もない、お帰りもない。
 でも、これが一番彼らしいと思った。
「ナガセ……」
 その彼が何事か呟いた。
「お?……て、寝言か」

「……Sie sind……Fliegen Nr. zwei……auf meinem Flugel」

 寝言はベルカ語だったから、その意味は解らなかったのだけど……。
「若いというのは良いことだね」
 おやじさんにそう言われて顔から火が出る思いだったのは言うまでも無い。

ジュネット

 寝ているブレイズ君を下心たっぷりにナガセ大尉に押しつける形で部屋を飛び出した我々。
 チョッパー大尉とグリム君はあの後部屋に駆け込むとパソコンと睨めっこしている。
 どうやら翻訳サイトを漁っているらしい。
 そして、私とおやじさんはというと、搭乗員待機室の方を眺めながらやはり似たようなものだった。
「おやじさん、彼はさっきなんて言ったんでしょう?」
「さあねえ。ま、こんな時に言う台詞となると、追求するのは無粋と言うものじゃないかね?」
 いつもの笑みが返るだけ。
「おい。ここ発音記号これじゃねえか?」
「えー、でもちょっと訳が変になっちゃいますよ?」
 すぐ側では未だに翻訳ソフトと格闘中の二人。
「だとしたら彼等は無粋の極みですね……」
「はっはっは。若気の至りと言う奴だね」