ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Companion

 仲間と言うのは良いものだ。
 −凶鳥フッケパイン−

ハンス・グリム空士長

 あの後すぐサンド島に戻ってくる事が出来た。身の潔白は戦いぶりで証明しろって言われて。
 やっとあの査問から解放されたのは良いけど、僕等にはまた別な災難が待っていた。
「ふぁぁ……大丈夫ですかチョッパー中尉」
「お〜……グリムかぁ。俺ちょっとここで寝る〜」
 時差ボケである。
 あれだけの長距離を東西に往復したんだ。なって当然。
 帰りついたのが昼頃。
 帰還直後にいきなりスクランブルとかならなくて本当に良かったと思う。
 そしたら僕は多分地面にキスしてる。

−何もない場所。何もない空間。ここにいると言おうとするのに、その子に声は届かない−

 いつもは冷静なナガセ中尉もさすがに参っているらしい。
 ソファに座って赤い手帳に何かメモらしきものを書き込んでいるのだが、今日の筆記用具はがペンでは無く鉛筆。二度三度書き間違えをしては消しての繰り返しだ。
 ちなみに帰還して自由行動になるや否やベッドに直行した隊長はと言うと……。
「Zzzzz……」
 いつものポジション……つまりナガセ中尉とは反対側のソファで寝ている。
 元々よく寝る人ではあったので参っているのを示すのは顔に乗っている書類仕事の紙だった。
 雑誌といいよく安定して乗っけながら寝られ……あ、隊長ごと落ちた。
「……痛い」

−ああ良かった……みんないる−

 そしてソファに上がり損ねたまま寝ている……ひょっとして一番参ってるんじゃなかろうか?
 いや、査問の時さんざん痛めつけられたらしいから疲れてはいるだろうけど。
 大丈夫かと聞いても苦笑いが帰ってくるだけ。
 本人は気を使わせないための精一杯なんだろうけど露骨に虐められて帰ってきた子供のようだとはチョッパー中尉の言葉。
「相当大変だったみたいだね」
 ジュネットさんがさっき隊長の顔から落ちてきた書類を拾い上げていた。
 あ、ほんとは僕がやらなきゃいけないのか。こりゃ自分も相当ひどいな。
 そんなこんなでちょっとその書類を覗き込む。
 視界がぼやけていてよく見えない……やっぱり眠い。
 それでも何とかピントを合わせて書かれている文字を読もうとする。
 辛うじて入ってきたのは対空、対地、そして各の名前と数字。
 いわゆる成績表と言う奴だ。
 更によく見ようとまじまじとピントを合わせ……そしてちょっとだけ後悔した。
「……ブレイズ君だけ抜きんでてないかい?」
「空に上がると大暴れしてるとは前から思っていましたけど……」
 まさか部隊が落とした敵航空機の半分がこの人の手柄だなんて今まで思いもしなかった。
「何というか……空戦の鬼だね」
「そういや爆撃機で撃墜してたこともあったっけ」
 その割に対地撃破数が妙に少ない。
 そういや降りてきたヘリ打ち損ねてたっけ?
「で、いつまでブレイズをそのままにしてるの?」
「「あ」」
 そこにはソファに足をかけたまま寝こけているブレイズ隊長の姿があった。
 よくこんな状態で寝られますねこの人……。

 翌日、僕等は作戦空域へ向けて飛び立っていた。
 あの基地司令曰く「他に語ることがない」だ、そうだが、嫌味を聞かされないだけマシだと思った。
 チョッパー中尉は相変わらず大あくびしてるし、ナガセ中尉は相変わらずクールだ。
 で、隊長は……。
「ブービー、そう堅くなんな。な?」
「あ、う、うん」
 ものすごく堅くなっている。時差ボケとかそう言う問題ではすでにない。
 今回は敵の兵器生産拠点を破壊する任務で、特に緊張するものでもない。
 原因はその内容にあった。
 そこのレーダー、四つ同時に破壊しつつ進まないと察知されるらしい。
「そりゃー名前がSolo(ソロ)じゃ緊張するのも解るけどよー」
 最後が一つ余計なですよ。でも、中尉がこんな事を言っても、反応がない。
 と言うよりむしろガチガチになってしまっているような……重傷だなこれは。
「ブレイズ」
「ブービー」
「隊長」
「肩の力を抜け」
 と、サンダーヘッドにまで言われる始末。そうこうしているうちに作戦空域に到達。
「ったくよぉ、お前の腕なら大丈夫だって、なあ?」
「ダヴェンポート中尉、私語は慎め」
 あの一言だけで、サンダーヘッドはいつも通りのストーンヘッドに戻ってしまった。
 一人のミスが重大な事になってしまうわけだから、僕も多少の緊張はしているのだけど。
「かー、すぐこれだ。コイツのいない空に行きてぇ〜」
「昨日までいたんですけどね」
 報復の報復に市街地攻撃とか言わなかった分まだ良かったと思うことにしている。
 そう言えば隊長対地苦手だったのはこういうことがあるからなのかな?
 小さい頃戦争に巻き込まれたって言うらしいし。
「エッジ、カウント頼む」
「了解」
 安定性の一番高い機体を選んで飛ぶとはいえ、早すぎても遅すぎてもいけない。
 まして発射タイミングを間違えて破壊がずれてしまうなんてあってはいけない。
「レーダーまであと30秒、はい、マーク!」
 ここに来てなんとなく隊長の気持ちが分かる……いや、きっと全員同じ。
 ただ隊長が一際緊張しているだけだ。
「なあ、攻撃じゃなくて破壊タイミングだよな?」
「……」
「そう。合わせるのは破壊タイミングよ」
 隊長の無言の間に、サンダーヘッドの「私語は慎め」が聞こえたような気がする。
「残り10秒」
 レーダーとの距離が縮まっていく。近づくか、離れるか?
「破壊まであと5,4,3,2,1……」
 そこから、いっきにトリガーを引く。
「破壊!!」
 あっという間に蜂の巣になるレーダー。同時にこっちのその範囲の表示も消える。
「よぉーっし上手く行った!この調子で行こうぜ!!」
「はぁー……っ」
 隊長の盛大な溜息。僕もどっちかというとこっちに同調した。
 これがあと三つも続くのかと思うと……こう言うとき、度胸とは別のものが必要になると思い知らされる。
「次のレーダーまであと30秒」
 誰も、チョッパー中尉すら一言も喋らない。
 極限まで神経をとぎすませる30秒。
 これじゃあ空戦の方がいくらか楽かもしれない。
 そしって二つ目のレーダーも無事に破壊。
「距離が縮まる……後10秒!!」
 三つ目はすぐ側。心なしか焦る。速度を上げる。
 これじゃ早いか、それとも遅いか?
「破壊まであと10秒、5,4,3,2,1,破壊!!」
「うわっとと!」
 焦りすぎて突っ込みそうになった。それだけはちょっと勘弁願いたいかも。
「あと一つ……」
 隊長の声。無口だなんだと良く言われていたけど、思ったより喋る人だと思う。
 口調は本来は無口な人と思わせるのに十分だけど。
「レーダーまで30秒、マーク!」
 この嫌な緊張感とも、次でおさらばできる。
「後20秒」
「待った待った、レーダートラブルだ!攻撃中断してくれ。」
 そんなときに限ってチョッパー中尉のレーダーに何か不具合が出たらしい。僕はいいんだけど……
「うわっ」
 ガチガチに構えていた隊長が一番煽りを食らったらしい。
「了解、攻撃中断、再トライ」
 そして、通信機越しからガンって結構盛大な音が……って、え?
「中尉何やったんですか!?」
「ん?けっ飛ばしたら直ったぞ?」
「本当に壊れたらどうするつも……!」
「すまん。ちょっと私語慎んでくれ」
 隊長、何もそこまでガチガチにならなくったって良いと思いますけど……。
 幸い四つ目のレーダーも無事に破壊。
「よし、行くぞ!」
 そこから飛び出すように隊長機が向かっていった。
 戦場で言うのもなんだけど、開放感が見ていて伝わる飛び方してくれるよなあ。

サンズ・ローランド
 オーレッド東の航空基地

 今日も空の上をひーちゃんの機体が舞っている。
 と言っても、その両脇にはここからでは見えないが機銃を装備して。
 空襲に巻き込まれた程度でシルバーホークは怖じ気づいたりしなかったと言うことだ。
 今私の横にいるのは彼のマネージャー兼、整備士と……昨日出発の遅れに苛立って上官蹴飛ばして譴責処分となったパイロットがいる。
「アンタらがいなかったら譴責じゃすまなかった気がする……」
 こないだあんなことがあったにも関わらず、ここでひーちゃんが飛べるのは彼の口添えのお陰ではあるのだが。
 離陸前にいっそ模擬戦でもやってみるかと冗談混じりに言ったパイロットに苦笑して遠慮すると言うやりとりもあった。
「しかしまあ、我々にしてみれば恩人だというのに、譴責処分とは解せないな」
 平和故の怠慢か、もたもたしていた連中こそがその対象に相応しいだろうに。
「やっぱそう思うだろ?ほんと上は何考えてんだろうねえ。オーレッドの方じゃかの撃墜王査問にかけたって話もあるしよ」
「……査問?」
 そのパイロット、実に良く喋る。
 査問なんて本当は伏せとかなくていいのかと言う所であったが「撃墜王」の言葉が引っかかった。
「ああ。なーんか前の隊長がどうとか、色々あるっぽいぜ。戦況には何ら関与しねえところでよ」
「しかも呼びだしたのが撃墜王では、時差ボケまでオマケされてマイナスだな」
「そうだな。こっからあの島までだって相当きついらしいぜ」
 あの島……やはりソル達だったか。
 そう言えばあの前日にひーちゃんが……不思議なこともあるもんだ。
「一体何があったのやら……」
「さあ。なんか前に大規模攻撃うけたらしくてよ、若手が随分落ちたらしい。で、補充要請のフライトデータが来たけど、音声データで隊長が啖呵切ったらしいぜ」
 まさか真正面にその撃墜王の身内がいるとは知らない男は喋り続ける。
 しかしながら、噂には尾ヒレ背ヒレ付くもの。どこまで全部本当なのだろうか。
 ただ……あの日見送った連中の大半がもう帰って来れなかったのだなと思うと、胸が痛む。
 それが上司が下した何らかの馬鹿な判断のせいだとすると……。
「良く前線に戻れたなあいつ……」
 査問なんて弁護士無しの裁判に耐えられただけでも賞賛に値するが、相当参ってるだろうなあ……。
 変なとこで責任感強いし隊長って立場もあるから大丈夫だとは思うんだが……。
「何とも、焦臭いのとは違う意味で嫌な臭いのする話だな」
「まったくだ。一体何でまたこの戦争も始まっちまったんだか」
 得体の知れない戦争。
 メディアは報復をたきつけたがり、それまで戦争に胸を痛めていた記者の名前は紙面から消えた。
 横にいるパイロットがくれた新聞に、空港で、かつての英雄が言った言葉が乗っていた。
 だが、その記事も、もうどこを探しても無い。
 この国は……いや、この国のお偉いさん達は、もう15年前のあの日を忘れてしまったのっだろうか。
 あんな凄惨な光景が、またどこかで繰り広げられているのだろうか。
 空にある平和の翼にも、どこか寂しげな色を浮かんでいた。

アーチャー

 眼下に広がる火の海。先に僕等に気付いた敵機は運悪く真正面にいた隊長に落とされ、あとは地上攻撃を数回と繰り返して今に至る。
 工場どころか石油タンクまであったんだ。上がる火の手は並ではない。
 レーダーの緊張感、施設上空での空戦、その疲労の最後が、この光景だった。
 考えないようにしている。
 何人死んだのかなんて。
「終わったな……」
「ええ、帰りましょう、私達の基地に」
 疲労の色が濃いのはみんな同じだった。
 僕に至ってはちょっと声を出すのも億劫だった。
「ナガセ、その台詞は、もうちょっと元気に言うもんだぜ」
「チョッパーも」
 時差ボケと戦闘の疲労、そして眼下の光景。僕等のテンションは急降下していた。
 何か喋ろうとしていた。なんだろう。なんだっけ……言ってなんとかなるかな?
「隊長、帰ったらどうします?」
「決まってるよなー」
「時差ボケも直しておきたいわね」
 隊長には申し訳ないけど、あの時エレンちゃんの言っていた一人だとつまらないって言葉を実感しちゃうんですよね。
「あー……どうしようか」
「ブービー、悪い事は言わねえ。寝ろ」

 その後、例のソファの上で隊長がうんうんうなされていたのは別な話
 この人対地攻撃させた後は寝せちゃだめだ。