ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Heroes

 結局一番強いのは、心ん中に守るもんを見つけた奴なんだよな。
 −レオン・L・ベルツ中佐−

サンズ・ローランド
 バーナ学園都市北2010年11月4日午前1時

「おいマイク〜どうしたよ?」
「サ〜ン〜ズ〜……頼むから絡まんでくれ〜」
 最終公演終了の打ち上げの帰りだった。
 共演者であった友人が道に迷って警察のお世話になっている。
「やれやれ。盛り上がるのも良いがほどほどにしてくれよ」
「うるへー」
 私はと言うと送られる立場と言うこともあって余裕で飲んでいた。
「ついでに酔っ払いを助手席に乗せんな……」
「後ろにのっけて寝られたら車庫にいれられなくなるー」
「んで横に乗せると絡むってかあ?ったく最後に難儀なの捕まえちまったよオイ」

−真っ暗な場所。何かが足下に積み上がっているような気はする−

 気持ちよくほろ酔い中。
 車の窓から顔出すぐらいは平然とやっていたような……気がする。
 警官の後ろには赤いリボンの巻かれた箱が見える。
「ははーん。彼女へ早くおみやげ届けたいのですな〜お巡りさんも隅におけなーい」
「残念、俺は妻子持ちだ。今日は娘の誕生日なんだなこれが」
「娘さんですかぁ〜お年はいくちゅでつか〜?」
「可愛い盛りの4ちゃいでしゅよ〜あ、今日で5才だ」
「お〜いいねいいね〜うちの娘も来年5才〜♪」
「うお。あんたも妻子持ち!?偉い若いパパさんだな〜」
「はっはっは〜これでも35だぜ〜」
「お〜いいねえ見た目若いとそんだけで特だろー」
「……道、教えてくれんのかオイ」
 運転手のマイクをそっちのけで娘自慢に一時間ほどそのお巡りさんと話し込んでいた。
 暇が出来たら何かおごってやろう。反省はしていない。

−向こうで子供が泣いてる。何かに足を取られながら側へ向かう−

「た〜だいま〜……と、さすがにもう寝てるか」
 アピート国際空港近くのホテル。今日はひーちゃんがそこで仕事をすることになっているのだ。
 ちなみに、その部屋にはベッドが二つ。壁を挟んで置かれている個室が続いてるような部屋。
 うち一つはもちろん私の……と、言うわけで、若い二人はどーしてるかなーと覗き込む。
 そこで私が目にしたのは、ソファの上で行儀良く寝ているひーちゃんと……
「普通逆だろう……」
 ベッドの上でその寝相の悪さを盛大に披露している義妹の姿であった。
 何というか、まあ期待通りになっているとは思って無かったわけだが、これはちょっとなあ……。
 毛布をかけ直そうとしっかり握っている手を離そうとしたらぶん殴られた。
「ん〜……氷雨〜……♪」

−「どうしたの?」肩に乗せた手にぬるりとした感触があった−

「……ローランドさん?」
 派手にぶっ飛ばされた音で明日仕事が控えている曲芸飛行士を起こしてしまった。
「何とかならんのかねこのお嬢さんは」
 まったくだと苦笑する。
 が、流石彼氏と言うべきか手慣れた様子で毛布を取り上げるとまたかけてやる。
 それなりに心地の良い枕を代わりに抱えさせて。
「しかしこれじゃあおっかなくて一緒に寝れませんなあ」
「……」
 拳が鳴る音がした。
「私が悪ぅございました」
 ここは素直に謝っておこう。

−顔を上げた子供は……俺?−

ソル・ローランド中尉

「……っ!!」
 視界が真っ赤に染まった所で目が覚めた。
 三度目の査問の時に見せられた現場写真のせいだ……多分ユーク側からどう言うことだと突き付けられたものなんだろう。
 あの時よく堪えたと自分を誉めたい気持ちだった。
 ……さすがに終わった後手洗いに駆け込んで盛大に戻したけど。
 机の上には、そんな俺を見かねて軍曹が持ってきた水筒が置かれている。
 ちなみに中身は自販機にあった清涼飲料水。
 それを飲み干して寝直そうと思ったが、窓の外からは既に朝日が昇っていた。

「夕べは眠れましたか?」
「……ちょっと無理だった」
 結局起床時間まで寝付けなかった。ただ、起こしに来たのは昨日の軍曹ではなかった。
 随分線の細い男だなと言うのが第一印象。
 さすがに仲良くしすぎたと言うことで入れ替えられたのだろうか。
「あいつめ……人の水筒勝手に持ちだして」
 ああ、仲良し4人組の最後の一人か。となると彼がグリムのお付きだったのか?
「他のみんなはどうたったんだ?」
「ナガセ中尉の言うとおりですね」
「へ?」
「もの凄い心配してるんじゃないかと言ってました」
 やれやれ……査問委員会より彼女の方が一枚も二枚も上手か。
「ダヴェンポート中尉はなんかもう早々に切り上げられたって言ってました。私が昨日担当していた彼は可哀想に随分嫌味を言われたようですけど、愚痴る元気がある分大丈夫そうでしたよ」
「そうか……良かった」
「で、私が隊長さんの様子を伝えるはず……なんですけどねえ……」
「……俺、そんなに酷いか?」
「かなり」

 だが、この日待っていたのは陰鬱な査問などではなかった。

「あ、ローランド中尉起きてます!?」
 駆け込んできたのは昨日の軍曹。
「なんか偉い剣幕で早く来いって言ってますよ!」
 どうやら、厄介ごとがここまでやって来たらしい。
 もっとも、集まった先では査問委員の爺さんののっぺりした口調で迎えられたわけだが。
「どうやら本当に君達は疫病神らしいな」
 渡された司令所には二カ所で敵襲劇の知らせ。
 一方にあった混合神経ガスの文字に背筋が凍った。
「生憎人手が足りないのでね、撃墜王の諸君にも飛んで貰うことになった」
 そんな嫌味を言っている場合じゃないだろうに、そのスローモーぶりも俺を苛立たせる原因だった。
 ナガセの目つきもどことなく鋭い。チョッパーに至ってはかなり露骨だ。
 ……グリムはその影に隠れて見えなかったが似たようなもんだろう。
「さて、どっちに飛んで貰うか……これで決めるとしよう」
 そう言って取り出したのはコイン。
 ふざけていると思ったがもはや早急に決めてくれるならもうどうでもよかった。

「んで、撃墜王ガス中和に回すか普通?」
 行き先はバーナ学園都市。毒ガスによるテロの発生、中和弾の投下か……。
 今敵機と向き合ったら正直平静でいられるか解らなかったから、不謹慎ながらも幸いと思った。
「グリム、大丈夫か?」
「隊長こそ大丈夫ですか?かなりこってりやられたそうじゃないですか」
「キレなかったか?」
「大丈夫だった?」
 ナガセまで……俺はそんなに信用無いのかい。

ケイ・ナガセ中尉

 中和弾を搭載した機を向こうが当ててくれると言う話だったが、ハンガーでは未だに整備兵がてんわやんわしている。
 向こうではチョッパーがグリムと委員会の扱き下ろし大会を繰り広げている。
 女を理由に相手にされなかった私も今回ばかりは少し参加したい気分だった。
「ナガセ、大丈夫か?」
 不意に声を掛けてきたのは、ブレイズだった。
「え?」
「いや、思い詰めた顔してたから……」
 そんなに酷い顔をしていたのだろうか。ふと手元を見ると、指令書がぐしゃりと潰れていた。
「大丈夫。貴方こそ、3回も引っぱり出されたって言うじゃない」
「……上にはは悪評高いらししかったから」
 それじゃあ根拠も無い私怨と先入観じゃないと言おうとしたとき、準備が出来たと声がかかった。
「ナガセ」
 その直後、機体へ向かおうとする私は呼び止められた。
「隊長という立場じゃなかったら、3度も乗り切れなかったと思う」
 この人と話すことは決して多くないけど、そのときは真っ直ぐ前を見ている。
「感謝してる」
 そう言うとご自慢の敬礼を向けて機体へ駆け出していく。
 後ろでザッて音がして走りながら振り返ったらあの軍曹4人組がそれに応えていた。
 オーレッドでの恩人達に私も敬礼を向けるとそのまま機体へ乗り込んだ。
「おいブービー、ナガセと何話してたんだぁ?」
 チョッパーにそんなことを言われて、少し体温が上がった気がするのは気のせいだったのだろうか?
「中尉、今日はもういじめないでおきましょうよ」
「後で覚えてろ……」
 この人、随分喋るようになったなと思ったのは、これが最初だった。

ブレイズ

 こんな事を言うのは不謹慎かも知れないが、あんな辛気くさい場所にいるぐらいならこっちの方がいくらかマシだった。
「オイラの任務をコイントスで決めるだぁ?とほほだぜ」
「ダヴェンポート中尉か?無線での私語が多いと前線から報告が入っているぞ」
 管制官はいないが、地上から指揮出してる奴はいる。
「アーアー、ダヴェンポートは任務遂行中につき、お答えする余裕がないであります」
 チョッパーは相変わらず。目の前でもうもうと立ち上るガスの煙。
 本当に俺達には疫病神でも憑いているのかもしれない。
「散開して対処するぞ」
 慣れない機体だが、やれることをやるしかない。
 無線からはパトカーからのものとどこからかぎつけたのかテレビ局のレポートまで入ってきている。

「チャーリー11。今日は娘さんの誕生日じゃなかったのかい?」
「じっとしていられなくてな!早く片付けて帰るぞ!」

 既に何人、いや何十人と言う人達に被害が出ているという。
「投下ポイントが良くわからん、どこだ?」
「チョッパー中尉、かなりおおざっぱに当てても大丈夫なはずです」
「あいよー」
 ビルが建ち並ぶ中には上から、それ以外は低空から。
 時には建物にぶつけるぐらいの勢いで投下しなくてはならないものもあった。
「屋上で助けを求める人が見えますが どうすることもできません!」
 その状況が俺の目の前にあった。
 中和弾の白い煙が黄色いガスをうち消す。これで何とかなるといいが……。
「余程の憎しみがないとここまでは出来ない……」
 ナガセが呟く。そうだとしたら、やはりあの民間施設の銃撃なのか。
 報復……か。
「ガスの様子はどうだ?」
「こちら西担当。あらかた片づけたぜ」
 こっちも今さっきのでラストだった。避難も終わっているらしい。
 混乱の坩堝だった街は、一転して人っ子一人いない静かな様相に移り変わった。
「こちらチャーリー11。東岸地区オーケーだ。空軍の戦闘機に感謝」
「こちらべーカー7。西岸地区のガスもオーケーだ。こちらも空軍の戦闘機に感謝」
「市警本部了解。他の地域も全市クリアになった。まったくもって、空軍の戦闘機に感謝だ」
 ここで一段落。もうこっちで市民の犠牲が出ることはない。
 だが、ここからこの騒動はまた毛色の違ったものになってくる。
「隊長、あれ、真下の道路!」
「ん?」
 グリムが示唆した方向を疾走するトラック。
「なあ、あれってひょっとして?」
「間違いない……BC兵器を用いたテロリストがトラックで逃走しているぞ!」
「空軍機よく見つけた!こちらベイカー7、追跡を開始する!!」
 眼下でカーチェイスが始まる。ビルのスレスレをドリフトで駆け抜けるトラック、追いすがるパトカー。
 どっちもかなりの腕前だ。
「あー、空軍の兵隊さん。すまないが、うちの警官は戦争に関しちゃ素人だ。上から手助けしてもらえないだろうか?」
 そう言えば空軍を空港の方にも裂いてるといったか……。
「こちらウォードッグリーダー、了解した。各機トラックから目を離すな」
「なんか、凄いことになってますね……」
 実際の所は目を離すどころか釘付けになっているというのが現状なんだろうが。
「ちょっと待て、戦闘機から銃撃とかはしなくていいからな」
 あの現場写真を見た翌日の俺にはとても出来なかったが……。
「ちょっとだけでも、ダメ?」
「ダメ!」
 いや、解ってる。ここだっていつ何があるか解らないんだってことは。
 だがこんなやりとりを聞いていたら嫌でも力が抜けると言うか……流石だよチョッパー……。
「チャーリー11、ナビからお前の車が消えたぞ。何かあったのか?」
「ダルム通りの地下駐車場内だ。手前に回りこめると思う!」
 もはや主役は俺達でなくなった事だけは確かだろう。
「隊長……あれなんでしょう?」
 ナガセが言う方角は示唆されなくても分かった。
 そうであろうトンネルからいきなりパトカー一台飛び出してきたから。
 更にそのパトカー、公園を突っ切ってトラックとの距離を着実に詰めている。
 もはや道路法もへったくれもあった様子じゃない。
 解ってはいる。無差別ガステロがいかに許し難いものかは。
 それでもちょっと哀れに感じた。そもそも気迫が違う。
「俺達空港に回った方がいいんじゃなかろうか……?」
「隊長……」
「解ってるよ」
 ナガセに釘を刺されたと思った。
「それです」
「?」
「テロリストは空港から脱出する手筈です!!」
 ああ。なるほど、脱出路確保の為に空港襲撃か。
「こちら市警本部了解!マーチン橋を封鎖する!」
 見ればトラックの進んでいる道は一本道で、終着点は見事に封鎖されていた。
 それを追いつめているのはさっきから掛け合いを続けていたパトカー二台。
 早い。ひょっとするとオーレッドの軍のそれよりもだ。
「こちら管区空軍司令部。空港を襲撃中の敵がヘリコプターをそちらに差し向けた。警戒せよ」
 やっと俺達に仕事が回って来たか。もうこれを潰せば連中に逃げ道はないな。
「行くぞ」
「了解!」
 海沿いから方角問わずにぞろぞろと来たか。
 ミサイルが無いから機銃だけで撃ち落とす……いい加減あんな光景は振り払えブレイズ。
「あれユーク軍のヘリじゃねえか!!」
 俺にもユークの赤い国旗が見えた。
 そんなのがオーシア領内を堂々と飛んでるなんて……どういう防空体勢なんだ。
 呆れている暇も無く、着実にヘリを仕留めていく。
「おいチャーリー11!後部座席に見えるデカブツは何だ?」
「対戦車ライフルだ!家からの持参品だ!」
「……へ?」

 思わず気の抜けた声を出してしまいつつもヘリを一機撃ち落とす。
 緊張感が一分も持たないとはどういう事なんだ。

 結局それで本当にヘリが一機落ちて……ん?
 もう回収に回っているのか!?
 呆れている場合じゃなかった。照準をヘリに合わせる。
 地上掃射……違う。今そんなことを考えている場合じゃ……!
「アーチャー、投下!!」
「……え?」
 次の瞬間そこに上がる白煙。中和弾と言えど元は弾丸なわけで、バランスを崩したヘリが見事墜落。そのまま犯人逮捕となった。
 俺は完全に空回りだな今日は……。
「ブレイズ、大丈夫?」
「あ、うん……」
 最後の最後で一気に気が抜けてしまった……。
「チャーリー11へ、新たな事件発生」
 そこにまた入ってきた通信。また一悶着あるのかと思ったのだが……。
「誕生日会から行方不明のパパの捜索願だ」
 なるほど。自慢のパパだろうな。あんな事件の後だっただけに、胸を撫で下ろした。
「早く行った方が良いですよ。ヘソを曲げた娘は厄介らしい」
「了解、直ちに現場へ急行する。あ、戦闘機ってプレゼントにできると思うか?」
「そ、それは止した方が……」
 なんだかエレンあたりが欲しいって言い出しそうだな……。
 何はともあれ、彼等がいる限りバーナ学園都市の平和は守られるだろう。
「ウォードッグ、任務終了だ。すぐに帰投せよ」
「了か……あれは……?」
 帰投すべく高度を上げた時、テロリスト達が追いつめられていた橋の方角に青いモヤのようなものが見えた。
「アピート国際空港の方角に不審な煙があるが?」
「曲芸飛行士が一人巻き添えを食ったらしい。盛大にスモークを焚いて逃げ切ったそうだ」
 空港を攻撃してきた連中も何割かが投降してきたことで片が付いたという。
 そこに誰がいたかなんて、俺が知ることは無かった。

サンズ・ローランド
 アピート国際空港

 半分が使い物にならなくなった滑走路にひーちゃんの操る機が降りてきた。
 すぐ後ろには燃料タンクに被弾したらしいオーシア軍機を連れて。
 離陸直前に敵機を視認した彼は空中退避とのたまってその実自ら囮となった。
 敵機を挑発し、レーダーレンジに自ら飛び込み、スモークで相手の視界を奪い……結果として一機を落とすことに成功していた。
 少なくとも私のいたロビーが無事だったのは彼のお陰だった。
 その間中、彼女はずっと祈り続けていた。
 だが私はと言うと、混乱する人々の波に押されまいとロビー中央の椅子の上に立ち尽くしていた。
 それまで必死に彼の無事を祈っていたセレネが走り出すまで、私はそうだったと思う。
「馬っ鹿野郎ーっ!!」
 セレネを追いかけて彼の所へ行くと、何やらぼこぼこにされている姿が……。
 後ろではオーシア軍のパイロットがあくせくしている。
「またどうしたよ……」
 聞けば、無茶を責められた彼が「死ぬなら空で」なんて返した結果がこれらしい。
「俺はむしろ惚れ惚れしたけどな……と、嬢ちゃんそんぐらいしとけよ」
 さすがの彼女も男二人でかかれば何とか引き剥がせた。
 逆を言うと二人じゃないとどうしようもなかったと言うことなんだが。
 そしてそれがいらぬ世話だと、その後の彼を見て気付く。

 上ではこの煙によって守られた旅客機達が別の空港へ降りるべく移動しているのが見える。
 人々を戦火から守るために、一人の曲芸飛行士が行動を起こした。
 これだけなら美談だったろう。
 その煙の向こうにある惨劇を、私は知っている。
 半壊した滑走路。砲弾を受けた旅客機。無惨な姿をさらす移動式リフト。
 転がっているのは、子供向けのポシェット。
 彼がただの曲芸飛行士であったならば。

 かつてメビウス1と呼ばれた男。

 血が滲むほどに握られた拳だけがその内心を語っていた。
 その悲惨を映す彼の瞳に、感情はない。
 それが冷たい、静かな怒りを感じさせるには十分だった。
 恐いと思った。同時に、これがメビウス1なんだなと思った。
「アンタはよくやったよ。これは、もたついていた俺達のせいだ」
 何も知らないパイロットが言う。
 もし彼が乗っている機に機銃の一つでもあれば、何人の命が救えたのだろうか。
 だが、ここでメビウス1が飛ぶことは許されない。
 彼の悔しさを察することは出来ても、推し量ることはかなわない。
「ユークの奴等……」
 それでも彼は、早乙女氷雨は自分のすべきことを解っていた。
「一つお願いが」
「ん?」
「もう、世界のどこでもこんな事が起こらないようにしてほしい……どこでも……」
 パイロットはしばし考え、そして気付く。
「おう。任せとけ。んな馬鹿がいたら上官だろうが国家主相だろうがブチのめしてやっからよ。」
「あの時真っ先に駆けつけてくれた貴方には感謝している」
「ニュースにグリフってコールサイン見つけたら俺だと思ってくれ。アンタ、早乙女氷雨だろ?これに懲りずにまた来てくれよ」

 この日のテロでの犠牲者は300人を超えた。
 もう世界のどこでもこんな事が起こらないように。
 ひーちゃんが事をかぎつけた記者達にも同じ事を告げると、私達は帰路についた。
 平和への切実な願い。暗に報復を否定した言葉。
 それが記事に書かれることはなく、「平和の旗手並び立つ」との見出しが書かれた記事には悲劇のみが綴られた。
 メディアが報復を支持しようとしている。
 私の横に、哀しみの色を浮かべる「早乙女氷雨」の姿があった。