ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Crossfake

 あの時は本当に怖かったの。ナガセ副操縦士にこう言われた事を思い出しましたわ。
 民間人が犠牲にならなかった戦争なんて無いんだって……。
 −「ユリシーズ戦役の体験者」より当時の客室乗務員マルグレット・エイセル−

サンズ・ローランド
 ノヴェンバーシティ南の航空基地にて。

「とうとう始まってしまったか。ついてないなひーちゃん」
「その呼び方何とかして欲しいんですが……」
「じゃあリボ……もご」」
 手にした新聞には、ユークトバニア本土侵攻が開始されたこと、その上陸部隊を助けたウォードッグ隊の活躍が記されていた。
 その向こう側ではシルバーホークの整備士、セレナイト・エイセルが先ほどアクロバットを披露した機体の整備を行っている。
 通称セレネ。更に短く「セレ」と呼んでいいのは私の口にウォードッグ隊の切り抜きを押しつけてる彼氏だけだ。
「まあ覚悟はしてた。しかし弟さん達、戦果を見る限り凄いな……」
「なに、戦意高揚の為に英雄を仕立て上げるなんてよくある話だが……と、本物相手に言う言葉じゃないか」
 そう言うと露骨に困った顔をしてくれるのだから面白い。
 私はこの実弟とさほど年の変わらない義弟を気に入っていたが、同時に信じられずにいた。
 鋭いように見えて、瞳の内側に穏やかすぎる光を宿す青年がISAFの英雄だとは。
 だが若くして中佐にのし上がったと言う現情報部大佐に連れ出され、自由エルジアの武装解除の知らせから間もなく戻ってきた彼にカマを掛けた時の反応は間違い無く図星と言うそれだった。
 そこまで突き止めてしまうと後は芋づる式。
 メビウス1の行方を隠したがる者達の危惧通りに万一なったとき、私の無事も保証されなくなるからだそうな。
 それでも、今なおその名で呼ばれることを嫌うのは、彼を気遣う親友との約束であるからに他ならない。
「……この子達は、本当の英雄になって、ちゃんと帰ってきてくれるだろうか?」
「僕は正規の軍人じゃないから詳しいことは……ただ、良い仲間に恵まれていることは解る」
 一人で戦局をひっくり返したと言われるエース。
 しかし、いざ間近で見てみるとかつての友人知人にどれだけ支えられていたかすぐに解った。
 その頃の絆は絶えてはいない。さきの親友との約束と、今も彼の翼を支えるセレネが好例だろう。
 ユージアに戻れば退役した当時のパイロットがチームのマネージャーを務めている。
「そう言えば……弟さん記者と上手くやってるの?」
 おそらくソルの紹介文だけ妙に簡素な事を言ってるのだろう。
 あれから顔の乗っている写真もちゃんと出てくるが、やはりというか何故かと言うかコイツに関してだけ文章量が明らかに少ない。必死に頑張っただろう跡は見て取れるのだが飛行技術で何とか繋いでる感じだ。
「検閲されてるだろうからな。冷静沈着だと二番機と被るし他の要素はとても戦意高揚にはならない性格してるからねえ」
 どちらかというと、戦後に全てを振り返って何を思ったかを訪ねた方が記事になりそうな奴だ。
 しかし、笑い話のつもりで振った話に、彼は悲しげな顔をしてこう言った。
「だとしたら、きっと辛いだろうな……」

ブレイズ

「我々は故あってユークトバニア本土に武器を持って足を踏み入れたが……」
 作戦空域に入ってからハウエル将軍の演説が延々と続いている。
「そんなに上手く行くもんなのかねえ……」
「行ってもらわんと困るがね」
 型どおりの演説。心なしか白々しく聞こえるそれに俺だって期待しているわけじゃない。
 特に相手の感情をなだめることも尖鋭にする事もないだろう。
 バストーク半島の拠点が落ちたことで、ユーク軍部隊は撤退せざるを得なくなっていた。
 昨日の今日でその撤退作戦の阻止が俺達に命じられた。
 いつの間にか戦争が日常のものになってしまっているような気がする。
「なあブービー、昨日貸したCD聞いたか?」
「悪い。途中で寝た」
 チョッパーが就寝時刻ギリギリまでロックをかけているのはいつものことだがここ最近ずっとかけている曲がある。名前は……はて、なんと言ったか?
「名曲を子守歌にするなんざ良いセンスしてるぜ。今度「JOUNEY HOME」でも貸そうか?お前の兄貴のあったぞ」
「そ、それはちょっと勘弁……」
「各機、私語は慎め」
 この時ばかりはサンダーヘッドに感謝した。歌手としての兄を嫌ってるわけではないがいい年こいた実兄が女性そのものの声で歌うのはかなり複雑である。
「へいへーい。相変わらずだなー」
「ダヴェンポート中尉、私語は慎めと言っている」
 チョッパーと石頭の毎度のやりとり。実は楽しんでるんじゃないかと言うのがグリムの見解だ。
 確かにこのやりとりがないと緊張しっぱなしになってしまいかねないしな。
「隊長、前方に敵機。輸送隊の最後尾でしょうか?」
「行くぞ」
 そのまま最初に護衛機を撃墜する……はずだった。
 HUDとレーダーに移った大量の敵機に面食らっていなければ。
「なんだ……?」
 あっという間にレーダーとHUDは敵機の表示で埋め尽くされてしまった。
「このあたりの飛行機が全部飛び立ったんでしょうか?」
「敵さんのドアをノックして聞いてみるか?何機いますかー?……泣けてきた」
 昨日配備されたばかりのマルチロック式のミサイルを撃ち込んでみるが、それは空しく煙を残すだけだった。
 ナガセやグリム達も似たような状態のようだ。距離をつめてしまえば避けられないだろうとしたときに、妙なことに気が付いた。
 HUDで表示されるターゲットの中に、肝心の敵機がいないのだ。
 だがもう一個のターゲット表示の中にはちゃんといる。それを撃ち落とすとターゲット表示が二つほど消えた。
「……ははーん。解りましたよ」
「お、グリム、言ってみろよ」
 グリムが何かに気が付いたようだ。
 そう言えば、機械いじりの技術に関してはかなり世話になっていたか。
「上空に電子戦機。あれがHUDとレーダーの表示を狂わせていたんです!」
 見上げるとサンダーヘッドが乗っているのと同型の電子戦機、E-767がいる。
 ミサイルの無駄撃ちを狙ったジャミングとは考えたもんだ。
 輸送部隊なんてマルチロック式ならカモに過ぎないのだろうからな。
「エッジ、FOX1、FOX1」
 ナガセの放ったセミアクティブミサイルが難なく電子戦機を葬る。
 次の瞬間には、HUD、レーダー共に綺麗に整理されてしまっていた。
 もうダミーに煩わされることもないし何より……。
「ブレイズ、FOX3!」
 せっかく積んできたマルチロックミサイルが無駄にならずに済む。
 そのまま俺達は高度を上げ、次の輸送部隊の護衛についていた電子戦機に矛先を向けた。
「どうかユークトバニア一般市民の皆様は我々を恐れず、我々と共に……」
 未だに空虚な演説は続いている。
 だんだん腹が立ってきていい加減チャンネルを変えようとしたときだった。
「敵の……ジャミ……電波……」
 さっき電子戦機を落としたばかりだというのに比べ物にならないほど強烈なジャミングが来た。
「……あ……何……」
「今……言える。ブービー、……、……だよな?」
 それこそ通常通信さえままならないほど強烈な奴だ。
 耳障りな雑音が頭の中でガンガンする。
「駄目だ全然聞こえない」
「ECCM、通信……回復……ろ」
 それに乗じてチョッパーが何を言おうとしていたのか……。
「……んだと、失礼だぞ!?」
「何が?」
「いっ、な、なんでもありませんですはい……」
 通信が回復した瞬間の氷の如く冷たいナガセの声を考えると聞かない方が利口だろう。
「こちら8492。作戦を実行せよ」
 回復した通信からどこか、おそらくはオーシア軍からとおぼしき声が入る。
 それを遮るように、ショッキングな通信が俺達の中に飛び込んできた。
「オーシアの航空部隊が市民の集まった大学に向けて機銃掃射をしている!!」
「なっ……!」
「民間人に被害が出たの!?」
 どこだ!?電子戦機を落としたままの高高度から見渡すがそれらしいものは雲海に阻まれて見えない。
「セクターチャーリーオメガで作戦中の機に告ぐ、民間施設への攻撃は許可していない」
「この近くだな。やった奴等の馬鹿面見えるか?」
 この近く……他の部隊が来ているなんて話は聞いていない。
「ウォードッグ、民間施設への攻撃を実行し……」
「こちらブレイズ。この高度でどうやってだ?」
 我ながら随分低い声が出たものだと思う。
「あ、ああ。解っている。確認のためだ」
 本当にどこの馬鹿共の仕業だ。更にタイミングの悪いことに演説では民間人への攻撃は一切させないと徹底しているなんてのたまっている。これじゃ逆効果だ。

「隊長!!」
 グリムの警告。無線に響いた罵倒の声。
「ラスターチカ3!何やってる!!戻れ!!」
 突っ込んできた護衛らしき敵機。その寮機からの静止の声。
 とっさに機銃のトリガーを引く。コックピットが粉砕する。
「敵輸送機及び護衛機の全滅を確認。帰投せよ」
 その声がなかったら、自分はどうなっていたか解らない。

「畜生……」
「やめておけラスタ4。奴等は人間じゃねえ……」

 息が上がる。心臓が痛いほど脈打っている。
 叫びたかった。違うと、俺達じゃないと、こんな事、こっちだって御免被るんだと。
「戦争の汚い面だ……誰がやっても結局こうなるんだ!」
 雲海の隙間を、白い影が横切ったような気がしたのは気のせいだろうか……。
「ブービー、大丈夫か?」
「あ、ああ……」

 が、悪いことはまだ続く。
「早速で悪いんだが、オーレッドに飛んで貰うことになった」
 ハミルトン大尉の口から告げられたのは例の銃撃の件で、査問にかけられること。
 あの豚司令がその場にいないのは幸いだった。
 顔も見たくないと言う意志表示だろうがそれは望むところだった。
「フライトデータには5000フィート以下を飛行した記録はないのにどうやってと散々言ったのだがね……」
 仕方がない。冷静な部分でそれを理解している。
 ましてシンファクシの一件以来あの司令がこっちを見る目に明らかな殺気が含まれてるぐらいだ。
 格好の口実ができたようなものだろう。
「ハミルトン大尉」
「何かな?」
「ジャミング中、8492という部隊の名前が入って来たのですが」
「そうだな、少し調べてみようか。それとなブレイズ……」
「?」
「向こうに着くまでには落ち着いておけよ」
 軽く俺の肩を叩いてハミルトン大尉はそのまま退室。俺達もそのままオーレッドに向かうことになった。
「……俺、そんなに酷いか?」
「顔、真っ青ですよ」
「汗ぐらい拭いておけよ」
「大丈夫よブレイズ、ね?」
 どうやらかなり酷いらしい。
「とにかく、このフライトデータ……物的証拠があれば濡れ衣を被る事も無いはずだ」

−あの子は、戦場に立つには優しすぎるんだよ−