ACE
COMBAT 5
The Unsung War
…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...
Burst
阿保!これ以上部下を殺せねえんだよ!
−ジャック・バートレット−
チョッパー
俺達がサンド島に辿り着いたのは夜が明けて間もなくの事だった。
マクネアリ基地からサンド島まで、そう距離は無かったんだが時間が時間、談話室まで通してやると皆ぐったりとした様子でそれぞれにだべっている。
ブービーに至っちゃソファの上で早速寝息を立てようとしてナガセに引きずられてる。
そういやあいつ、マスドライバー護衛の後デブリーフィング中も寝てなかったけか?
向こうの司令官は苦笑いに止めてくれたけどよ。
−小さな家、小さな部屋。デイズ兄さんとエレンが遊んでいる−
かくいう俺もかなり眠い。部屋に戻ると律儀に待っていたジュネットがカークと一緒に出迎えてくれた。
「少尉、おかえりなさい」
「おう。じゃ、俺ちっと寝るわ」
で、何事もなけりゃあ少なくとも昼までは眠れたはずなんだ……何事もなけりゃ。
どんぐらいだろう。時計見たとき6時ごろだったから一時間半は寝てたんじゃないかな?
−窓から外を見る。飛行機雲が一筋流れていく。それが俺を誇らしげな気持ちにしてくれる−
「チョッパー少尉!起きてください!!」
グリムに叩き起こされた。顔見りゃ解る。何事か起こったなこれは。
カークは飛び起きている。まだ寝ているジュネットをおやじさんが起こしていた。
「ったくついてないねえ」
でだ、十中八九隊長はまだ寝てるんだろうな。
−ちゃんと帰ってきてね。姪にそう言われた。どこから?と尋ねようとした−
「起きなさーっい!!」
あ、今回の目覚ましはナガセか。だがその声の後にまた「何か」が金属にぶつかる音がした。
「いい加減ベッドの高さ調節すりゃいいのに」
「……毎回やってるんすか?」
「お前の初陣の時もやってたぞ」
がっくり肩を落とすグリム。
アレがなんで空に出るとああも頼れるのか未だにわからん。
少なくとも地上じゃナガセの方が遙かに強いことだけは確かだな。
そのまま俺達はブリーフィングルームに駆け込んだ。
偉いことになっている予感がして、それは色々な意味で大当たりした。
偉いことの一つ目はユークの強襲部隊がこの島狙って接近中。
そしてもう一つの偉いことってのは……あの豚司令が深〜く関与している。
「ま、そう堅くなんなよ。俺達だけで片づけちまうって選択肢だってあるんだぜ?」
ひよっこ達まで飛ばすなんて言い出してきやがった。いや、これはまだ偉いことには入らない。
あの豚司令ならそのぐらい言いそうっていうのが俺の見解だったんだが……。
「お前がそんな怒髪天なってっと、ひよっこ共に質問攻めだぜ」
それにブービーがキレた。
いや、大暴れしたとかそう言う事はなく意義申し立てただけだったんだが、その口調とにわかに逆立った髪は怒りの形相を示すに十分だっただろう。
真正面から見たら多分目つきもかなりヤバかったはずだ。
豚司令は元よりハミルトンまで一歩引いて慌てて制するぐらいだから相当。
しっかし前から思ってたがコイツの髪堅いな。長さが足りなかったらホントに真上向いてるぞこれ。
まだ血の気が引いてないブービーの頭を半分鷲掴み状態で撫でてやる。
なんでこんな役回りが俺に来るんだか。
「ほれ見ろ」
で、案の定、ひよっこ達がこっち注目してる。あ〜視線が痛いぜ。
「……そんなに逆立ってるか?」
「ヘルメット入らなかったりしてな」
ここで笑いが入ったところで俺達もテイクオフ。
ひよっこ12人を4つのグループに分けて、それを俺達が率いて行く形。
こいつらを俺達がそれぞれで守ってやるってわけだ。
ちなみに提案者はナガセ。
ブービーの様子だと全員俺一人で守ってやるって言い出しかねなかったもんな。
作戦空域までまだ間があった。
「あの、隊長達は、恐怖を感じる事はありますか?」
緊張でガチガチになってるひよっこの一人だった。よりによって今のブービーに質問た度胸あるねえ。
「あるよ」
さらりと返事しやがった。それに安心したらしいが、まさか今そうだなんて言えねえよなあ。
「よーっし。俺がいっちょコツを教えてやろう。生きて帰ってやりたいことを考えな」
「帰ったら聞きたい事があります!」
「隊長にならって昼寝します!」
ひよっこの意気込みに混ざって「後でシメる」って聞こえたぞー。こりゃ数少ない複座機にまた9Gかかるな。
一体何が気に入らなかったのやら。
「こちらサンダーヘッド私語は慎め」
「久々の美声だな。どこの喉薬嘗めたお袋に産んで貰ったのか聞いてみたいぜ」
荷が重いのは確かだが、指揮があの豚司令じゃなくて石頭なのが救いかねえ。
「ダヴェンポート少尉、私語は慎め。敵上陸部隊包囲280。即座に迎撃せよ」
性格はともかく声はいいってな。
で、海の上にはいやがるいやがる。旗艦から駆逐艦まで何でもござれだ。
「ひよっこ達を連れてくのは無茶だわ……」
「俺もそう思う。で、どうなんだブービーは?」
ぽつりと漏れたナガセの本音には俺も同感だ。
「アーチャー隊はホバークラフトとヘリを頼む。残る3隊で艦を沈める」
「仕方ないとでも言いたいのか?」
あれだけ怒髪天上がってた男の台詞かよって思った。
「ルーキーは兵装を惜しむな。尽きたらすぐに退避……生きて帰るぞ!」
今更ひよっこだけ引き返させるわけにも行かないんだけどな。
その後全員が一斉に了解を返すあたり、コイツも言うようになってきたじゃねえの。
前方3隊で壁を張って、バリケード擦り抜けていった奴をグリム達で落とす寸法だ。
今回の特殊兵装は長距離対艦ミサイル。ロックさえかければ当たるし、無理に近寄る必要もねえ。
「やった、一機落としたぞ!!」
ミサイルを積めるだけ積んでるとはいえ、連中もよく頑張る。
俺が狙った獲物先に撃ち落としてくれるぐらいだ。
「ブレイズ、一機撃墜」
「助かった……ありがとうございます!」
初陣と言うこともあってやはり力んでるのかひよっこ達が前に出やすい。
後ろに食いついてくる連中を落としつつって戦術がどこでも確立してるらしい。
敵戦闘機が3機グリム隊に向いたが、うち一機はブービーに後ろを取られ、もう一機はグリムがすれ違い様に落としていた。
面食らったらしい残る一機はひよっこ二人が何とかミサイルで撃ち落としていた。
「このぐらいだったら大丈夫だ!」
「浮き足だったらやられるわよ!」
ナガセにゃ楽観すぎるって言われそうだが、本当に大丈夫な気がしていた。
連中の背後についた敵機は俺達の格好の的になったし、ひよっこもミサイルだけはしっかり当ててくれる。
「対艦航空部隊は後顧を省みるな!我々はここで踏み止まって勇戦する」
で、そこで気分を萎えさせてくれる基地司令の声。
ったく、安全な防空壕かどっかで指揮してるだけだろうに。
「どうしたんでしょう?心を入れ替えたんでしょうか」
「いや、俺達には別な言葉が待ってると見た」
「迫撃砲が倉庫を直撃、搭乗員宿舎にも被弾した模様!!」
……って宿舎被弾だと!?
俺のロックコレクション無事かなあ……。
「預けて来てよかった……」
ブレイズのガンコレクションは、万一の自衛用にと言う名目でジュネットとおやじさんに預けてたらしい。
変な所でちゃっかりしてやがんなこいつも。
「かー……もう言われなくてもやってやるぞー!」
調子はえらい良かった。随分艦隊も沈めたしひよっこも俺達の援護と慣れもあってか数発ぐらい機銃を艦に撃ち込む奴まで出始めた。
あの豚司令肯定する訳じゃないが、ホントに金の卵いたりしてな。
「こちらサンダーヘッド、潜水艦からのミサイル発射を確認、空中で炸裂する弾頭と思われる」
「弾道ミサイル……まさか!」
よりによってあの化け物ミサイルが来てやがんのかよ。
「昇れ昇れ!高度5000フィート以上、急げ!!」
急上昇に耐えられないひよっこの高度がなかなか上がらない。
「どこか上位のコマンドがオーバーライドしてきた……Aサット照準データリンク……何だこの表示は?」
サンダー石頭野郎がぶつぶつ言ってる間に便乗した敵機が食らいついてくる有様。
ブービーがくるっと反転して援護に回る。
「勝手にカウントダウンしている……8,7,6,5……」
「FOX2!」
敵が一機落ちる。だが高度を落としすぎだ!
「駄目だ!間に合わねぇ!!」
「……4,3,2……」
「ブレイズっ!!」
正直駄目だと思った。本気で諦めた。
「1」
そしたら奴の横すり抜けるように光が降って来たんだ。
「な、何……?」
さすがに真正面にレーザーが振ってきて面食らったブービーが呆然としたような声を出す。
「こちらサンダーヘッド。ミサイルは消滅した。アークバードだ。頼れるぞ!」
「水中哨戒機ブルーハウンド。ソノブイより潜水艦の音紋分析、シンファクシと合致」
いつぞやの事がこんな形で返って来るとはねえ。鳥が恩返しする、そんな話もあったよな。
「さーって、ミサイルが来ないんだったらこっちのもんだ。行くぞ!」
ひよっこからも歓喜の声が上がる。俺だって気持ちは同じだ。でっかい驚異が一個消えてくれたんだからな。
「やった、やりました!敵艦沈没!!」
「後ろは任せろ」
俄然調子づいてきたひよっこ共。それが良い方向に働いてやがんな。
「絶対に、全員連れ戻すぞ」
「こちらサンダーヘッド、ミサイル発射確認、ロックオン!」
「アーチャーFOX2!!」
また艦が一席沈む。上から親鳥のレーザーが降ってくる。
「助かる、きっと生き残れる!」
「ミサイル消滅!!……やったぞ」
サンダー石頭ヘッドも興奮してやがる。やったぞの前に声の調子抑えなくてもいいのにお堅いねえ。
「潜水艦からの散弾ミサイル……連続発射確認!、3弾、4弾、5弾!!」
「駄目だ。あれじゃ対応できない!」
敵さんも馬鹿じゃないってか、一気に気が滅入って来るよまったく。
「昇れ昇れ!早く!!」
最初の時といい……悪い予感がした。
グローブの中が早速汗まみれになってるのが解る。
「弾着まであと10!」
「ひよっこ達早く、昇るのよ!!」
「9,8,7,6,5……」
「先輩達について行くんだ!」
「4,3,3,1……」
「昇れえーっ!!」
「弾着、今!!」
ミサイルが炸裂する音。光をまともに見ちまって思わず目を閉じる。
聞こえてきたのは、地獄だった。
「主翼が……落ちるーっ!!」
「嫌だぁ!死にたくない!死にたくないぃっ!!」
ヘルメットがなけりゃ耳を塞ぎたくなるような悲鳴。
レーダーに目が行く。なんとか操縦保ってるひよっこがいた。真横にブレイズがぴったりついてる。
「脱出しろ!!」
「隊長……」
良かった、一人でも生きてくれりゃあ……!
「駄目です……射出ハンドルが動かないんです……」
「まだ諦めるな!機首を……!」
「隊長!前!!」
「!」
幸い、ブレイズは目前のフリゲート艦をスレスレで避けた。
その艦は直後に火だるまになった。理由は……言わなくても解るだろ?
「やむを得ん。ミサイル攻撃の合間を縫って敵艦隊を攻撃せよ」
「やむを得んであの中に飛び込めってか!?」
「敵艦残り4隻……いくぞ」
枯れた声でんなこと言われたら従うしかねえわな……。
「ええいこうなりゃやってやる!!」
「こちらアークバード。水中哨戒機ブルーハウンドへ、ソノブイのデータリンクを要請する。」
それからすぐだ。海面にアークバードのレーザーが突き刺さった。
「なんだ、あれ?」
「ねえ、ひょっとすると……」
そのひょっとすると、だ。泡が沸いたと思ったらそこからでかい潜水艦が浮上してきた。
あのレーザーが効いたらしい。
「弾道ミサイルの発射を確認」
シーソーゲームだ。散弾ミサイルに軌道上からの狙撃、兵器がどんどん派手になってきやがる。
「散弾ミサイルの連続発射なんて、ほんとに鉄の雨だ」
「伝説の悪魔と符合するような……」
グリムとナガセの言うことに全く持って同感だった。
堅いわ対空砲火ばんばん上がるわ、あげく弾道ミサイルが残っていた敵艦を沈めてしまう始末。
「なら永眠してもらう」
一つ幸いだったのは、こっちにはまだ対艦装備が十分に残っていたってことだ。
あいつらの頑張りのお陰で。それが効いた。
「……ウォードッグ隊、帰投する」
艦はあっさりと沈み、そのまま俺達は帰路についた。
「こちらサンド島基地司令官ペロー中佐だ。敵部隊を壊滅させたようだな。新人達は全滅したがお陰で……」
その後コイツがなんつったかは覚えてねえ。ただ人の神経逆撫でする台詞だったことだけは確かだ。
いや、覚えてる範囲で既にそうだったから……
「ふっざけんな!!テメエの身可愛さの為に何人犠牲になったと思ってやがる!!」
多分途中でブチキレたんだと思う。「お陰で」ってところだったろう。
「チョッパー、ここで扱き下ろしたって何も変わらないわ」
「私語は慎め……補充要請の為に今回の記録を中央に提出せねばならない」
内心はみんな一緒のようだ。あのサンダー石頭と気が合うと思ったのはこれが最初で最後だろうな。
「……ふざけんな……」
「隊長……?」
俺達のそんな会話が聞こえていたのかいなかったのか、それともあの豚司令に止めをさすべくか……
「……っ……っ!!」
声にならない声と、何かを思いっきりぶん殴る音。
聞き取れなかったのは、通信機の調子が悪かったわけでも奴がベルカ語で罵ったわけでもなかった。
基地の裏手の草原にひよっこ達の遺品を埋めた。簡素だが、俺達に出来る弔いはそんぐらいだった。
「で、そんな状況で一人離れて銃ぶっ放して倒れてりゃあらぬ考えも浮かぶっての」
それだけに留まらず、弔砲代わりに(拳銃の中では威力最強、代わりに反動も最強らしい)デザートイーグルをぶっ放して海辺で仰向けになってる隊長が返事出来ない理由を俺は知ってる。
「ほれ、のど飴」
「……」
起きあがって素直に受け取って口の中で転がしながら、体だけ海に向けてこっちを見ている。
「デイズに決まってるだろ?喉弱いのにあんだけ声上げりゃーね」
納得したのかしてないのか、のど飴二個目を口の中で転がしながらまだ海を見ている。
その顔が何とも形容しがたい。
無表情のようにも見えるが飴ころがしてるせいかガキのむくれ面にも見える妙な面だった。
「なあ、ロックンローラー?」
「何だ?」
珍しい呼び方してくれるじゃねえの。
「どうしても気が晴れないときってどうしてる?」
俺、そんなにダメージ少ないように見えるのか?それとも逆か?
前者の場合コイツの性格なら話なんざ切り出さない……と、信じたい。
「そうだな。今日は沈むだけ沈んどけ」
「?」
「明日は笑って過ごせるようにな」
あとはさしたるリアクションもせず海を眺めていた。
こんな答えで良かったのか悪かったのか、俺にもわかんねえけど。