ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Bird

 降り注ぐ無数の星々。私が全てを失った瞬間だった。
 仇を取ってくれたはずのそれが空を奪った。
 −アクロバットチーム・シルバーホーク公式HP掲載の日記より−

 あの時の散弾ミサイルはユークの潜水空母シンファクシからのものだった。
 それに対抗すべく、オーシア軍もまた、アークバードの投入を決定。
 ユークとオーシア。二つの国による共同プロジェクト。平和の象徴であったはずの白い鳥。

 サンド島への帰路はにぎやかなものだった。
 慣れてくると互いに会話するようになる連中、質問を浴びせる連中と様々。
 チョッパーがそれに答えて良く喋るから尚更。
「そう言えば隊長があの鬼教官失神させたって本当ですか?」
「今でも怒らせたら複座に引きずり込もうとするからなー。ほれ、あの記事の写真の時とか」
 俺への質問にまで答えてくれるお陰で、いつの間にか超が付くほどの無口にされるんですが……。

 俺達がひよっこ達を引き連れ向かうマクネアリ航空基地は、そのアークバードに届けるべきレーザー兵器を射出するバセット国際宇宙基地のすぐ近くにあった。
 航行中、巨大なマスドライバーの上を通り過ぎた。
 白く、長い滑走路の終着点は上を向き、宇宙への架け橋の姿を見せている。
「ブレイズ、アークバードが生まれたわけを知ってる?」
 相変わらず騒がしい後ろ。ナガセが殆ど喋らない俺を見かねてか、質問をかけてきた。
 これなら割り込まれる心配も無い。何より割り込めそうな話題でも無いか。
「ユリシーズの破片を落とすために開発し直されたことなら」
 ナガセに夢のない男だと思われるのは別に構わない。
「はぁ〜っ……」
 だが何故3番機以下全員に溜息つかれなきゃならんのだ。

 俺は基地司令官への挨拶を済ませ、一人どう時間を潰そうか考えていた。
 余談だが、見た目にも性格的にも人望が伺える彼に敬礼を返されたとき、うちの基地司令官に爪の垢を飲ませてやりたいと思った。
 ひよっこ達の面倒はチョッパーとグリムで十分。
 俺はマスドライバーを見に行こうと屋上へ向かった。
 数ヶ月に一度、乗員の交代や物資補給の為に射出されるSSTOが見られるのだという。
 今は戦時中で、そんな期待は微塵もないのだが。
 そこにはナガセがいた。
 どうしようか。目があってしまった以上ここできびすを返すわけにもいかず、何とか会話の糸口を探そうとしていた。
 まあ、無口で通っていた男が喋らないことは不思議でも何でもなく、彼女は再び視線をマスドライバーへ向けてしまっていたのだが。
 彼女は平和の象徴だった白い鳥が、軍事転用されてしまうことを気にかけているようだった。
 この時何とか言葉を絞り出そうとしていたのは、イーグリン海峡でチョッパーに言われたことが引っかかっていたからだ。
「同じ過ちをなぞるほど人はバカじゃない」
「そう、ね」
 それ以上会話を続ける材料がない。
 言葉に詰まって空を仰ぐと、小さな白い影が青空に映る。アークバードだ。
 件のレーザー兵器を受け取るべく高度を下げているため、肉眼でも何とか見えるようだ。
「……綺麗だな」
 そう言うのが、俺には精一杯。
 白い鳥はさながら大空の守護者のようにそこにあった。
 衛星軌道上に漂う隕石の破片を一掃したその力が、理由はどうあれ、次は人に向けられる。
 ナガセの気持ちが分かる気がした。
 その時である。ハイエルラークのひよっこの一人が駆け込んできたのは。
「隊長!基地司令官から召……しつれいしま」
 変な誤解をされたまま基地司令官の所へ向かおうとして、もう一度だけアークバードを見上げる。
 相手があれでは……デイズ兄さんの努力が報われなかったのも無理はない。
 元々の成功率も高いとは言えなかったが。

 ひよっこ達を連れての出撃ではなかった。
 教習もろくに済んでいない彼等の出撃を基地司令官が却下したからだ。
「お心遣い感謝します」
「君達も無事に戻ってこい。彼等のためにもな」
 ほんと、サンド島の基地司令官に爪の垢でも飲ませてやりたいよ。

「マスドライバー発射まで、後10分」
 告げられた任務はSSTOの護衛。
 ミリタリーバランスを一変させるだろうアークバードの存在をユークが無視するはずがなかったのだ。
 ロケット発射。阻む敵機。それを守る航空部隊……そんな話がどこかにあったけ。
「しかしよぉ。大気摩擦利用して軌道変えるって、衛星兵器としちゃ脆弱じゃないか?」
「そこを狙われたら大変っすね」
 もっともだ。マスドライバー共々平和主義者の大統領が削減した軍事予算を投入したもの。
 本来、こんな使用を想定されて作られたわけではないのだから。
「こちらマクネアリ基地。敵は空挺戦車を差し向けた模様。目的はこの基地の占拠だ」
 その連絡と同時にHUDが輸送機の姿を捉える。決して俊敏と言えないそれにミサイルを撃ち込み撃墜する。
 別の輸送機から空挺戦車が降りてくるのが見えた。
「散開する。戦車の着地を許すな」
 イーグリン海峡に出向くさい、敵艦隊や地上部隊を想定していなかった俺達の装備は対空仕様。
 地上に降りられるとやっかいだったが、向こうだって直接戦車をほっぽりだすわけじゃない。
 パラシュートによるゆっくりとした降下……あまりに無慈悲だが、そこを狙ってしまえば容易く落とせる。
「このままじゃ鉄の棺桶だぞ!!」
「いつまで標的射撃をやらせておくつもりだ!?」
 時折混線する敵側の通信。悲痛な叫びもいくつか耳に入る。
「打ち上げのチャンスは今しか無いぞ!」
 だが、こっちにも死にものぐるいで頑張ろうとしている連中がいる以上引き下がるわけにもいかない。
 地上にやっとの思いで降りた戦車は、唯一マルチロール機で出撃していたチョッパーに任せる。
「戦車破壊!!大丈夫かブービー?」
 基地周辺の山々にできた戦車が撃墜した後を見てしまうと気が滅入る。
 それがもろ呼吸音に跳ね返ったのかチョッパーに気を使われる始末。
「ミサイル迎撃の方がまだ楽……」
 向こうで、ナガセが最後の輸送機を撃ち落とすのを確認した。
 その矢先のことだった。
「基地の占拠を諦めたユーク軍は破壊作戦に移行した模様。レーダー外に巡航ミサイル多数!」
「隊長。滅多なことは言わない方がいいみたいですよ」
 本当にミサイルが飛んで来た。しかも多数。
 随分離れたところにミサイルの母機らしい機影があるが始末に行く時間はなさそうだ。
 幸い対空用の特殊兵装の使用許可をまだ出していなかったか……ここが使い時だろう。
「マスドライバー発射まであと3分!!」
「必ず守り抜くぞ」
 下からの声に感化されたのか、柄にもなく熱くなってる自分がいる。
 四方からのミサイル。俺達も別れて迎撃する。ミサイル母機に動く様子が無いのは幸いだった。
 大きな移動を強いられることは無さそうだ。
「ミサイルの母機を発見、撃墜します!!」
 それどころかナガセに至ってはミサイルを逆にたどって母機を撃ち落としてくれる始末……すげぇ。
「チョッパー。ナガセと南方面を。グリムは俺と北からのを徹底して叩くぞ!」
 母機が一機減ったとはいえ、相変わらず数だけはバカスカ撃ちだしてくる。
 もっとも早く飛べるのはナガセだが今ので高威力の特殊兵装は使い切った。
 迎撃に徹した方がまだいいが残弾数がそろそろ怪しくなってきた。
 ガンの残数が0を示す瞬間、その時は来た。
「SSTO発射!」
 だが俺の横を機銃切れで仕留め損ねたミサイルが横切る。
 こっちの対空ミサイルはあと一発。反転し、射程に収め……撃つ!
「当たれえぇぇぇっ!!」
 マスドライバーの上を駆け抜けるSSTO。早く、早く、早く、早く……!
「マスドライバー、巡航ミサイル被弾!!」
 絶望する暇は元より、その必要すらなかった。
 爆炎を突き抜けて加速したSSTOはそのエンジンで長い尾を引きながら、空へと向かっていく。
 ユーク軍が撤退していく。基地から通信が入る。
 SSTO発射成功……と。
 ヘルメットの中に割れんばかりの歓声が響きわたる。
 あまりの盛大さに面食らったが俺自身アークバードに合流しようとするそれを眺めながら少し誇らしい気持ちになっていた。
 あれが、兵器として使われるのにと言う懸念を……その瞬間だけは忘れ、心地よい疲労に身を委ねながらも帰還した。

 俺達はまだ知らない。
 あの白い鳥と、思わぬ形で再開する事になるなんて。