ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Rookie

 戦場じゃ、机の上のお勉強なんてこれっぽっちの役にも立たない。
 −ある航空小隊の隊長−

ジュネット

 帰ってきた彼等の表情には、疲労の色が濃く見えた。
 特に、次の隊長が来るまで代わりを勤めることになった彼は一際……。
 ここ数日でここまで印象がころころ変わるのも珍しい。
 はじめは寡黙な軍人として、次はナイーブにさえ思える少年、その次は射撃の名手。
 ……そして今は疲労困憊している新人隊長。
 第一印象に比べれば随分プラスの方向に評価が変わりつつあったが、隊長の任は重すぎるのではと言う考えが新たに頭をもたげていた。
 他の二人にも疲労の色こそあれ、そんな不安を微塵も見せていない理由を知るのはその日のうち。
 それを実感し、確信に至るのはもっとずっと後のことだ。

「明日からの一番機?心配してると年取るぜ」
 私の問いかけとは裏腹に、ダヴェンポート少尉の返した返事に不安など微塵も無かった。
 逆に私の不安を見抜かれてそれは空でのブービーを知らないからだと言わんばかりにニヤリと笑う。
「うちは分遣隊だからな。本土から本隊の中佐殿が来て俺達の上にのっかる。それだけさ」
 逆にその事を少し残念そうに語る。
 空に上がると化ける。
 寡黙さと対を成すようなコールサイン、ブレイズを思えば当然のことなのかも知れない。

−暗い……体にまとわりつく油のようなもの−

 バートレット隊長の話題にシフトすると基地司令官殿口まねをしてくれた。
隊長の行動に不審な箇所は無かったか?だと。不審があるのは野郎の頭の構造だぜ」
 あまりにもよく似ていた上、的を突いたコメントに思わず笑ってしまった、その時だった。
 耳障りな警報音が基地に響きわたったのは。

−深い……海の−

「おいおい空襲警報だぜ。勘弁してくれよ」
 彼は私にカークを預け避難壕へ行くように言ったあと、隊長の部屋の前で……足を止めた。
「起きろコラァーっ!!」
 すぐさま聞こえる金属に何かがぶつかる音……て、空襲警報の中寝ていた!?
 何というタフネ……いや違う違う違う違う!!
 ドタバタとチョッパーの後を追うブレイズ隊長の後ろ姿を見ながら思った……。
「覚悟、決めないといけないかな……」
 一抹の不安を抱えつつも、私はカークを連れて避難壕へ走った。

−悪夢から覚めれば、それより恐ろしい現実が目の前に転がっている−

ブレイズ

 偵察の後は空襲。そんなセオリーなど、俺はすっかり忘れていた。
 悪夢が幸いしたのか、それとも頭をぶつけた痛みのせいか、寝覚めは悪いが睡魔は無い。
 目の前を機銃掃射が横切ったのを合図にまずチョッパーが離陸、続いて俺も。
「高度制限を解除する。ブレイズ、俺達の基地を守ってくれ」
「……ああ」
 目の前にいた敵機に機銃を浴びせ視界の先を飛ぶ爆撃機にミサイルを撃ち込む。
 大丈夫、いける。
「なんとか上がった様だな。機体の機嫌はいいかい?」
 おやじさんの声。感謝すると一言返した後、前方を横切った戦闘機を追う。
 被害状況を告げる声、消火作業に四苦八苦するその合間に場違いな声が聞こえてきた。
「こちらウォードッグリーダー、フォード中佐だ。サンド島へアプローチ中。何が起こっているのか?」
 高G飛行のただ中で、見て解らないのかと言うことは出来なかった。
 ……あれが本隊の中佐殿か。
 軍港で会ったスノー大尉の心境が少し分かった気がした。
「我々が到着するまで滑走路を維持出来るんだろうな?」
 もとよりそのつもりだが……俺は無視を決め込んだ。
「誰でもいい。応答できんのか!」
 その前にあなたの戦闘機にぶら下げてる物が何かご理解頂きたいな。
「先程の敵爆撃機、反転してサンド島へ再接近します」
「ああ!俺のロックンロールコレクション!守らなきゃいけないものだらけだ!!」
 母さんの見舞いに行く時、ガンコレクションにとデザートイーグルを買ったことを思い出す。
「同感だ」
 第二派を、レーダーが捕らえた。
「一機ずつ確実に落とすぞ」
「エッジ、了解」
「チョッパー了解!」

ハンス・グリム一等航空士

 その時整備班を手伝ってハンガーにいました。
 おやじさんも飛び立って、他の整備班も避難したのに、僕だけ。
 予備搭乗員が来て、さっさと避難壕に移れって、どやされるはずだったんだけど……その気配も無い。
 今、サンド島で飛べるのは、彼等3機だけ。
 少しでも多く空に出なくてはいけないというのにだ。
 そして、僕の目の前には……さっきまで整備中だった機がある。
 自分の目で、もう飛べると判断した機には、弓を構えた人馬のエンブレムが描かれている。
 あの人達が飛び立ってから、機銃の音は相変わらずだけど、少なくとも爆弾が落とされた音はしていない。
 ……どうする?
 このまま嵐が去るのを待つか?それとも……。

「救護班は負傷者の救助へ」
「消火装置が作動してないぞ!!」
「危険だ。退避する!!」

「!!」
 切り忘れていた通信機から、声が聞こえた。
 コックピットに潜り込み、周波数を合わせると上空を飛んでいる彼等の声を拾うことが出来た。
「チョッパーFOX2!!」
 すぐ上で爆音がした。
 それが、僕の心を決めた。
「……行くしかない!」
 すぐ側にあったヘルメットを拾い、座席に着く。
 それでも、心臓の鼓動が邪魔で前進するに至らない。
 大丈夫、上には彼等がいる。ヘルメットを被る。ハンス……覚悟を決めろよ。

「おい、ハンガーの方、誰だ?」
「グリムです。整備班を手伝ってハンガーにいました。離陸します」
「お前、補修訓練を受けていないだろ!予備搭乗員はどうした?」
 そのぐらいの言葉は、覚悟の上だ。第一、もう間に合わない。
「誰もいませんでした」
「かーっマジかよ!?」
「援護するぞ」
「りょーかい」
 ブレイズさ……今はブレイズ隊長か。見た目相応の厳しい声をしている。
 目の前で機銃掃射する機に誰かが食らいつくのが見えた。
「気をつけてグリム。守ってあげる」

「そちらから滑走路を確認出来ますか?」
 返事はない。代わりに上空を横切る轟音が聞こえ、続いて敵機撃墜の報。
 大丈夫、うまくいく。
「グリム一等航空士、コールサインアーチャー!これよりウォードッグ隊に参加します!!」
「こちらチョッパー。俺の後ろにつけ!」
「了解!」
 これが、僕の初陣だった。

「よーっしグリム。初陣の初手柄ついでに隊長に恩売っておけ!」
「え……はい!アーチャー、FOX2」
 隊長機の後ろに二機。にも関わらず前方の一機を打ち落とせる技量に感心する間は無かった。
「大丈夫?」
「ええ、教科書通りにやってみます!」
 彼等のサポートのお陰もあって、地上からの言葉と裏腹に危なげなく飛んでいた。
 このまま終わる、そんな時だった。

「こちらウォードッグリーダーフォード中佐だ!着陸許可を!もう燃料がないぞ!!」
 本土から来た中佐殿の声だった。
 あの人が上空で指揮を執って戦ってくれればもう少し早く終わったかも知れないと言うのに……。
「阿呆が」
 何て言いぐさだと思う前にチョッパー少尉が代弁してしまった。
 ブレイズさん(実は未だに本名を知らない)に至っては高G機動で護衛機の追尾を始めている。
「ダヴェンポート少尉か。それと今指揮を執っているローランド少尉、噂に違わぬ問題児のようだな。上官無視してただで……」
「中佐!」
 誰の声か解らなかったそれ。だが、その直後中佐の乗った機にミサイルが直撃し、炎上した。
 その凶弾を撃った機を、ブレイズ隊長が撃墜するのが見えた。
「……っ」
 彼の小さな舌打ちの音と共に、次の編隊が来る。

 それを撃破して、やっと基地の上空が静かになった。
「グリム良くやった。下で歓迎パーティ開かないとな
 僕は……生き残ることができた……でも……。
「隊長、僕は……上手く飛べたでしょうか?」
 返事はなかった。
「ブレイズ、何か言ってあげればいいのに」
 元々無口な人だったし……仕方がなかいか。

 地上に降りてから待っていたのは、顔なじみの整備班からの手荒い洗礼だった。
 さんざっぱらもみくちゃにされている所でブレイズ隊長がこっちに来るのが見えた。
 見えたんだけど……酷く疲れている。いや、3連戦……仕方が無いか。
 でもいつもの……特に射撃訓練所で見る顔とのギャップに一部整備班も戸惑っているのが解る。
 ……戸惑ってない一部がニヤニヤしている理由を僕はまだ知らない。
 そのまま横切ると思った気配が立ち止まり、肩を軽く叩かれた。
 上を向くと、その手が上に。そこに景気のいい音を鳴らして僕の手の平をぶつけた。
 その後頭撫でられたのは子供扱いのような気がしたけど、どうやら僕はウォードッグの一員に認められたようだ。
「おいおいブービー。命の恩人にそれだけは無いだろ?」
 チョッパー少尉に引き留められ、露骨に嫌そうな顔してる。
 整備班に目を向けると唖然としているのと笑っているの二つに大別出来る。
「ベッドに直行する前に挨拶ぐらいしてやれよ」
 あ、困ってる困ってる。
 ……上空ではあんなに冷静な人だったのに……。
 だが何か話さないとここを立ち去るのも気まずいらしい。

 なのでハイエルラーク練習飛行場にいた頃からの疑問を投げかけてみた。
「あの、複座に座っていた鬼教官を高G機動で失神させたっていうのは本当ですか?」
 僕がサンド島に配属される前まで流行っていた噂。
 正直ただの噂だと思っていたんだけど……。
「……うん」
 帰ってきたのは覇気のない、しかし肯定する返事。
 指揮を執っていたときの声はどこにやったんですかと言うような覇気のない声。

 その事実を告げてしまったことで周りからもみくちゃにされ就寝時間を大幅に遅らされる事になるブレイズ隊長を見ながら、あの覇気のない返事のお陰で僕はやっと理解した。
 中佐に注意を促すべく叫んだ声の主がこの人だと言うことに。
 寡黙で怖い人と言う認識は変えた方がいいらしい。
 少なくとも、地上では。

 ……あ、名前聞いておけば良かった。