ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Twins

 時に笑い、時に怒り、何事も無いように営みは続いていた。
 例え明日には脆く崩れ去る物だとしても、昨日の笑顔は偽りでは無かったはずだ。
 −文集・ユリシーズの悲劇「星の降った夜」より−

 デイズ・ローランド少尉
 コールサイン・バーニィ。

 ガキの頃からあいつとは一緒だったよ。悪戯するのも、亡命の時も、士官学校に入ったときもいつも一緒。馴れ合いとかそんなんじゃなくてさ。
 この島に行くのを志願したのは、歴戦の古強者がいるって話を聞いてからだ。
 強くなりたい。親父のようなエースパイロットに。それが俺の夢だった。
 で……あいつ……ソルの方はよく解らないんだよな。ガキの頃声が出なくなったせいなのか表情や態度に内心がよく出るタイプ……よく出る通り越して隠し事が出来ないからベイルアウトさせられねえよな。捕まったら洗いざらい搾り取られて。
 と、話がずれたな。あいつがパイロットになった動機は……実の所さっぱりって訳でもない。唯一の手がかりとでも言うべきか……その話になるとあいつは笑わなくなる。元々笑顔がイメージしにくい面してるけどな。
 ま、切実な願いがそこにあるってわけだ。
 冷静沈着。それが弟の第一印象。ひとたび空に出れば荒れ狂う炎のよう……だから、コールサインはブレイズ。俺のは……バーニィ。親父と同じコールサインだ。

「兄さん!」
 沈着冷静なその実、軍にいるには豊かすぎる感受性の持ち主……って所か。無口だし肝据わってるしで解りにくいんだけどな。
「おーどうしたよ?」
「母さんが……危篤だって」
 息が上がっていたのは、なにも全力疾走でここまで来たからじゃないことは明白だった。

 ジャック・バートレット大尉
 コールサイン、ハートブレイク・ワン。

 奴等の第一印象?そうだな……まず思ったのは……。
「似てねーなお前ら」
 これに尽きるだろ。双子とはいえ兄貴の方は小柄でサラサラの優男なのに対して弟の方は……目つきといい体格といいかったい髪の毛といい、いっちょ前の軍人って感じだったからな。この一言のあと、兄貴の方は「やっぱり」とでも言いたげにニヤニヤ。弟の方はまたかと、溜息をついた。表情変えまいと頑張ってはいたがな。
 特別扱いはしなかった。相部屋につっこんどいたが、訓練の時一緒になったりならなかったり。
 ……ダヴェンポートと兄貴セットにすると相乗効果で五月蠅くなるからむしろそっちの方が優先だったな。そこに弟入れるとまさに漫才みたいで面白いと言えば面白かったが。
 だが、共通して肝が据わってやがる。新入りに一度は一括入れるのが習慣だが、どっちも反応は一緒だった。兄貴はいつもの調子で軽く敬礼。弟の方は……鋭い目つきを急に緩くして尊敬の眼差し向ける余裕まであるときた。
 饒舌な兄貴と無口な弟。
 これが、空に、模擬演習行くと入れ替わる。優等生の兄貴と破天荒な飛び方をする弟。鍛えがいがある。そう思った。

 お、まーた兄貴がナンパしてやがる。とうとうパイロットにまで手ぇ出すかぁ……あ、フられた。ダヴェンポートにからかわれ、そしてまた弟に蹴りを入れられて終わると……どいつも飽きないねえ。

 ケイ・ナガセ少尉
 コールサイン、エッジ。

 彼の第一印象?……顔を最初に見ていれば似てないの一言で済んだでしょうね。
「お、懐かしい本読んでるな」
 あの演習の前、私はいつものように本を読んでいた。思い出したくても思い出せない、ページの欠けた本を。
「またですか?」
「いやいや。ナンパならその本を引き合いには出さないよ。空戦の天才が妻子持ちに惹かれても困るし」
 この時……本の内容を引き合いに出していなかったら、さっさとその場を去ったでしょうね。
「兄貴がオペラ歌手なんだけどな、俺達がこっちに来る前それに出てくる悪魔……ラーズグリースを題材にした歌劇の話が来てたよ。今も交渉中だから、その破れた部分も埋められるかもよ」
 結局、これを引き合いにまたナンパしにくる予定だったのは見え透いていたけれど……少し興味があった。
「この演習終わったら兄貴にメール入れてみるよ。ひょっとしたらラーズグリーズに会えるかもしれないぜ」
 彼等が来た頃から……随分長い交渉の理由に察しが付いた。

 その話が印象に残っていたせいだったのだろう。国籍不明機の奇襲から逃れた後 あまりに兄に似ている彼の声を聞いたとき、一瞬でも生きていたんじゃと思ってしまったのは。

 アルベール・ジュネット記者

 彼の第一印象は、狼を思わせた。新兵とは思えぬほどに精悍な体躯と顔立ち。
 それを知っていたから、あの奇襲から戻った直後に見た、息を切らし、青ざめ、不安を隠そうともしない……少年のような顔はことさら印象深く残った。
 あの奇襲から帰って来られたのは三機だけ……そのうち一機がクラッシュするのを、彼は見ていた。
「記者さん……何かあったんですか?」
 兄と同じ声。その精悍な顔立ちに似合わぬ声で私に問いかけた。
「いいよ。俺から話す。お前もお前だ。いきなり聞く奴があるか」
 狼を思わせた青年。それが、バートレット大尉に睨まれ、子供のような顔で隊長を見上げている。
 今まで「あの」雰囲気に押されて、なかなか声をかけづらかった自分が少し情けなかった。
「申し訳ありません」
 すぐに姿勢をただし、隊長に敬礼した後私に詫びて、またいつもの、あの雰囲気に立ち戻る。
「やれやれ……感が良すぎるのも問題だな」
 その場で、起こったことを簡潔に話していたのを、近くにいたナガセ少尉と共に聞いていた。
 あの少し前まで自分をナンパしていた男と同じ声だった。それが、彼女がここにいた理由。

 全ての説明が終わり、彼が隊長に返した短い返事は、奇襲直前に聞いた返事と同じものだった。

 アルヴィン・H・ダヴェンポート少尉
 コールサイン、チョッパー。

 ああ。あの兄弟か。結構長いつきあいになるな。兄貴とは……つっても俺よりずっと年下だが……非番の日なんかはロックの話で盛り上がってよ。訓練中に顔会わせちまうともれなく教官から怒鳴られたりもしたんだ。何かあるたんびに弟に蹴られてたよ。自慢の髪に靴跡がついたらどうしてくれるんだって言ったら、俺と違って髪サラサラだからつかないって言われて口開けてたの笑ったこともあったな。その後……原因は覚えて無いが兄貴共々ドミノ倒しの要領で蹴り入れられたこともあったな。
 弟の方とも兄貴繋がりで接点ができたな。あまりに似てなかったから当初は双子だってことも気付かなかったぜ。ま、実際に話してみるとなんだ、すぐ顔に出て来るんだよ。からかいがいはあったぜ。あの強面が露骨に変わってくのは見応えがあったよ。無口なのは変わらないけどな。

 兄弟仲は良かったぜ。お袋さんが危篤だって知らせが入った時によ、お前が行かないで誰が行くんだって弟の休み取り付けて。後で行って、彼女が出来たって言ってやるんだっつってな……。

 ソル・ローランド少尉
 コールサイン、ブレイズ。

 実感が湧かない。それが正直なところだった。あの時のように、取り乱す事もなければ声を失う事も無かった。休憩室に足を延ばし、少し前までそこにいた人たちが、もう帰らぬ人となっていることに、どうしても現実味を持てなかった。
 母の葬儀に出たばかりだと言うのに……何故何も思わない?何故何も思えない?
 誇りある軍人になれ。殺人兵器になるな。それが、長兄から託された母の遺言。それを伝えるべきもう一人は、伝える間もなく逝ってしまった。
 ……自分はもう、声を無くしたあの時から、感覚が麻痺してしまったのか?それとも、現実を見据えられないだけ?
 次に飛ぶ場所は、おそらく戦場。
 不謹慎なことに、飛びたいと思う自分がそこにいた。
 自分の感情が正常に機能することを確かめたいその一心で。
 何を考えている……俺は……。

「文句の山ほどもあろうが人手も足りん明日からは新米どももスクランブル配置だ。上では俺のそばから離さん」
 その配置を決める為に、集められた。飛びたい。その動機を、覆い隠すよう勤めた。急ぎで戻って乱れたままの髪をいいことに目を合わせれば飛びたいと叫びかねない視線を隠した。
「ナガセ。お前は俺の二番機だ。目を付けてねえと何しでかすかわからん」
 だが……。
「残り二人はダヴェンポート。そしてローランド弟、お前だ」
 その時、顔を上げた俺の目に何が映っていたのだろうか、何故自分がという不服か、飛べるという喜びか、いや、そんなことはどうだって良かった。
 はっきり覚えている。その時、隊長が微かに笑った。

 その理由を、いつか聞こうと思いつつ問うことは無かった。
 いや、チョッパーや兄さんの半分でも俺の口が回れば上手くその話を引き出せたのかもしれないが。