ACE COMBAT 5
The Unsung War

…The Unsung War…
……The Unsung Hero……
...The Unsung Dream...

Prolog

 大昔に馬鹿やった軍人達がいたと、色あせた写真の乗った教科書が教える。
 それだけで良いと思っていた。
 −デイズ・ローランド−

 ……まずは、私の身の上から話させて貰うとしよう。
 私の出身は、今はノースオーシアと呼ばれている。
 15年前までは、南ベルカと呼ばれていた。
 そう。自国に核を落として、放射線を持ってして南北に分かれ、今はオーシアによって信託統治されている場所だ。
 私は、その軍人家の長男として生まれた。開戦からわずか一ヶ月にして戦線が綻び始めてきたベルカ。国の中にもこれ以上の戦に何の意味があるのかと反戦運動も活発になっていた。
 父に不満を覚えたことは無い……むしろ物わかりが良すぎて怖いぐらいだった。
 ……そんな父への当てつけのごとく反戦運動に参加し、後の融和政策のシンボルとも言える平和の歌を唄うことを生業としたのは、物わかりの良すぎる父を……恐れていたんだな。今となって思えば。
 反対されても歌い続けついには認めさせる。そんな事に憧れでも抱いていたのかもしれない。
 私の下には二人の弟がいた。二人は双子で、上のデイズはお調子者。下のソルは生真面目。だが肝が据わっているという共通点から、兄としては厄介きわまりなかった。今は当時の復讐とばかりにやっかいな兄をやっているわけだが。
 私と上は母親に、何故か末の弟は父によく似ていた。柔らかなベージュの髪が、あの子だけ癖のある黒。
 ……二人は父に懐いていた。無理も無い。軍人としても夫としても完璧過ぎた父。親としては寛大すぎるのが普段の頑固さの落差となって拍子抜けさせる。
 だが軍人としてはそれ以上に非の打ち所がなかった。父が見せた飛行機雲は、私から反抗心をぬぐい去り、幼い弟二人に空への夢を抱かせるのに十分だった。

 ……このまま戦争など自然消滅してしまえ。そうすれば、私が自分で掘ってしまって言うのもなんだが親子の溝も一緒に埋まる。そう思っていた。
 それはかなえられること無く終わった。そう……国の軍人達が何を思ったのか、自らの国に核を落とすという暴挙に出たのだ。私たちは当時、南ベルカの、それも隅っこの所にいた。オーシアに亡命を。国の最後を悟った父が、いつもの寛大さを捨て、我が子に初めて下した「命令」だった。
 それも果たされずに終わった。核投下とほぼ同時期に、その戦争は終わりを告げ、亡命するまえに国境が自分からこっちを越えてくれてしまったおかげで。平和は、確かに訪れたのだ。
 ……だが、代償は大きかった。
 父にとって上官より遙かに強い権限を持つ母だけが国に残り、直撃こそ無かったものの……以後15年、被爆の後遺症と闘う生活を送る事になった。
 それでも母は強かった。それがなんだと言わんばかりにボランティアに勤しみ人々を励まし、亡命直前まで来ていた私を引き戻して歌手として人々を活気づけろと言う始末。
 父は……その暴挙を止められなかったことを恥じて自らのこめかみを打ち抜いた。弟二人には事故だと言い聞かせて……後に、軍の学校……なんと言ったか……そこに入る少し前に、その事実を突き止められてしまうのだが。
 ……深刻なのは末の弟だった。国境付近が激戦地なのはいわずもがな。一機、目の前に飛行機が墜落すると言う事態に見舞われたときに、私は彼の顔を覆いきれなかった。
その現場を、私は直視していない。真ん中の弟も。あの子だけがそれを目に、そして喉に焼き付けた。母が精力的に活動した理由も、このショックで声を失った我が子の為だったのだ。
 復興は……少なくとも私たちが活動していたその地域は早かった。私の歌は恩給を受けて懐の暖かいオーシア兵にすこぶる評判だったこともある。
 こっそり聞いたオーシアのラジオで聞いた曲……「JOURNEY HOME」これが私のデビュー曲となった。
 多くの歌手がカバーしているだろうに、身の上?それとも実力?どちらとも解らぬまま。
 私たちは平和を享受していた。終戦から2年で、海外に足を延ばす余裕さえ生まれてしまうほどに。
 ユージアから一人の伝説的パイロットが生まれる少し前、私は弟二人を連れて、仕事でサンサルバシオンを訪れていた。
 そこで偶然、エアショーの様子が目に入った。優美な……白縁の青いリボンを思わせる飛行機雲……気が付いたら弟二人が目を輝かせてそれを見ていた。
 戦火によって燃え尽きた灰の中でまだ燻っていた空への夢。飛行機が風を切る音。その風が、灰を巻き上げた。
 ……そこまでは良かった。ただ、戦闘機の本を絵本代わりにして読んでいたこいつらの行く先は……やはり空軍だった。精神的ショックで失語症になったはずの末弟が立ち直りに言ってのけたのが「イエッサー」である。もはや血筋だ。私も母も二人を止めなかった。上のデイズはまだ解るが、下のソルまでというのはあまりに意外すぎた。
 あの時、サンサルバシオンに弟を連れていったことは……未だに判断に悩んでいる。
 連れて行かなければ私は身内を亡くさずにすんだかもしれない……しかし……。

 始まりは母の死。
 二人いっぺんに帰るわけにいかず、上は演習を終わらせたら文字通り飛んで来ると言った。
 二人が母の最期を看取ることはかなわなかった。そして、下の弟が基地に帰っただろう日、連絡は無かった。
 そして、上の弟がこっちに帰ってくるはずだった日……再び、戦争の幕が開いた。

 ……私の名はサンズ。サンズ・ローランド。
 二人のパイロットを弟に持つ、南ベルカでは少し名の知れたオペラ歌手だ。