ACE COMBAT 3
*アウト オブ エレクトロスフィア*

 そこはまっさらな空間だった。上も下も無くただ歩いていく。
 目の前に人の姿が見えた。年は20前後だろうか。
 男性ではあったが長い髪をぶっきらぼうに纏める青いリボンが印象的だった。
「誰?」
 事務的な問いを投げかけると、青いリボンの青年は寂しげな笑みを浮かべた。
「僕は君のオリジナルだよ」
 青年が何を言っているのか解らなかった。
 ただ、得体の知れない何かが自分の目の前にいるのだけは確かだった。
「オリジナル……?」
 警戒心むき出しの対応。しかし、それに対して青年は笑みを浮かべた。
「何も知らないんだね、君自身の事を」
「……」
 言い返せなかった。
 UPEO着任数週間前に事故にあって記憶を無くした……と、言われている。
 そんな自分の唯一の技能が、誰かのコピー?
「飛行技術の根本とでも言えばいいかな?」
「だったらどうだって言うんですか?」
「どうもしない」
「へ?」
 帰ってきたのは、呆れるほど突き放した返事。
「良かった。その様子だと感情も自我も人並み以上にあるみたいだ」
「一体何しに来たの?」
 文字通り気の抜けた声が出てしまうが、それは青年を更に喜ばせたようだ。
「うん。自分の技術継いだ相手の顔見に来ただけ。それと、一つ忠告にね」
「忠告?」
「君の思うままに生きてよ。疑問には口を挟み、君の意志を貫け」
 肩に置かれるはずだった手は自分の肩をすり抜けた。
「あ、僕こっちの住人じゃなかったな。じゃ、仲間を大切にね」
 そう言って、青年の姿は掻き消されていった。
「……ツ……おい……セツ!!」
「っ!あ、エーリヒいたの……」
「いたのって……お前なぁ……」
 セツと呼ばれた彼はそこで目が覚めた。またコフィンの中で眠っていたらしい。
 頭を掻きながら這い出す。エリックに大きく溜息をつかれる。
 自分でも呆れるこの癖を何とかしたいなと、上で模擬戦の火花を散らす女性二人を見上げながら思う。
「ねえエーリヒ……」
「何だ?」
「僕に似た飛び方の人って……ううん。何でも無い」
「お前みたいに10G平気でかける奴がホイホイいてたまっか」
「だよね」
 そう言って顔を見合わせ笑い会う青年二人を遠目から見守る男達がいた。
 どう若く見積もっても40後半の二人。
 ヘッドセットをつけた男の袖には青いリボンが縫いつけられていた。
「お疲れさま。わざわざエレクトロスフィア内部にダイブするとはね」
 車の中の端末にはハッキング終了の文字が浮かんでいる。
「仕方ないさ。直接話せる方法が思いつかなかったんだ」
 ネモがコフィンで居眠り……すなわちエレクトロスフィアへのダイブを日常的にやってるお陰でうまくいったようなものなのだが。
「しかし怖い時代になったものだ。フライトデータ一つあれば兵士が一人出来てしまう」
「どうかな。彼は確かに優れているが、その分人間臭い。君の姪がシミュレータで証明済みだろ?フライトデータだけの量産型なんて英雄一人いれば事足りるのは」
「軍事転用すればいつか彼等が反旗を翻す……か」
「あの子はそうはならないさ。性格は君がモデルかもね」
「おいおい冗談は止してくれよ」
 そう言うとリボンの縫いつけられたジャケットの男が助手席に座り、もう一人が車を出した。
 その車には漆黒の戦乙女のエンブレムが描かれている。
「もし彼が貴方を尋ねたらどうします?」
「用件次第だけど丁重に持てなした後君に押しつける」
「はは。勘弁してくれ。そう言えば、貴方の干渉を生みの親は計算に入れてますかね?」
「無い。向こうは僕等は何も知らないと思ってる。顔だって解ってないんだから」


日記に書いたAC3ネタ。
ネモとブレイズとメビウス揃い踏みなお話。
と言うか露骨に分かり易すぎ。流石30年後(笑