カークかく語りき

 私、犬です。名前をカークといいます。
 ご主人と一緒にこのサンド島にやって来て結構経ちます。

 どういう成り行きかはこのさいおいときまして、私の日常とこの島の人間達の紹介でもしていこうかと思います。
 さて、私の一日の始まりは……。

ぐぉぉぉぉぉ〜……がぁ〜……ぎりぎりぎり
 
 ご主人のいびきと歯軋りで始まります……基本的に。
 昔はこんなに酷くなかったんですがね、さすがに年なんじゃないですか?
 今まで私だけだったから良かったですけども……
「う〜ん……う〜ん……う……う……う……」
 上のベッドで最近新しく入って来た方……えっと、ジュネットさんがうなされてますよ。
 あーあーベッドから足ほっぽり出しちゃって……これに何度脳天を……。
 あ、これは私が頑固にその位置に居座ってるせいですね。
 でも最近臭くなって来たからいい加減変えましょうかねぇ……。
 失敬。話がそれました。
 朝はまだいいんですけどね、この人寝入ってから眠りの浅い1時間はこの調子ですから。
 まあ、ここで小鳥のさえずりなんて期待してはいませんけど。

 ちなみに最初基本的に……と言いましたのは……お、来た来た。ブレイズさん。
 毎朝ジョギングがてらに挨拶に来てくれる隣の部屋の人。
 ご主人がいびきをかくより先に寝入って、いびきをかくより先に起きる羨ましい人です。
 たまーにご主人がいびきをかくまえにやってきて挨拶してくれる事があります。
 毎日そうならいびきに煩わされる前に起こして差し上げるんですけどね。
 ちなみにこの人、この基地の中でも随分静かな方です。
 でも、一番分かりやすい人だったりします。
 今だって、口にこそ出してませんが、ご主人のいびきに悩まされる私の状況を理解してくれてます。
 どうしましょうかねえ……今日もうまくいきますかね?
 ちょっと机が散らかってますけど……えーと、確かこれを下げると……。
 よし。開いた開いた。
 一緒にジョギングしてから起こしに戻りましょうかね。
 あ、逐一撫でなくてもいいですよ。もう鍵開けぐらい珍しくないでしょうも。
 さ、走りましょうか。

 さて、次の人。
「おはようございます。バートレット隊長」
「お。朝から関心だな」
 隊長さん。ご主人とブレイズさんより偉い人です。
 時々怖かったりなんなり……ご主人が何かやらかしては怒っていたりしましたっけ。
 あ、私ですか?私は怒られたりしませんよ。時々遊んで貰ったりしてます。
 何よりブレイズさんが自分から話しかける人なんてこの人ぐらいですから。
 おや、もう一人いらっしゃいます。
 みんながおやじさんと呼ぶ方。ご主人が遊べないときはお世話になってますよ。
 おや、ホットケーキですか。私蜂蜜は微妙なのでパンの部分だけ頂きますね。

 では、ジョギング終了と共にご主人を起こしにかかりますか。
 ご主人〜。
「ワンッ!」
「ん、あ〜カーク……もうちょ……」
「あの、少尉、そろそろ起きないとやばいんじゃないのかい?」
「!!」
 ありゃりゃ。朝の挨拶も無しに飛び出していっちゃいました。
 今日は隊長に怒られることも無いと思いますけど……。
 まあ、新入り君の援護射撃に感謝しますよ。

 今日は隊長さんはじめみんな鉄の羽乗ってどっかへ飛んで行ってました。
 新入り君も隊長と一緒に飛ぶらしいです。
 いいですねえ……私だってまだ乗ったこと無いのに。
 ご主人とブレイズさんはお留守番……だったんですが。
「!?」
 大きな音。滑走路と呼ばれる所ではあの羽がぐしゃぐしゃになっていました。
 その日……隊長さんと新入り君と、もう一人以外は帰ってきませんでした。

 あ、そのもう一人紹介します。ナガセさん。
 女性の方は他にも何人かいるんですが、空を飛べる女性はこの人だけです。
 優しくていい人ですよ。いつも赤い本を持ってるんです。
 中に黒い服を着た綺麗な人の描いてある本。
 ブレイズさんにも言える事なんですが何となく安心します。
 暇を持て余しているけど疲れてるって時にどちらを探すかは気分ですかね。
 ……もっとも、今日はそれどころじゃなかったみたいなんです。
 顔色悪いですけど、大丈夫なんでしょうか。

 でもってその翌日……ブレイズさん、その時の彼女より真っ青な顔してました。
 飛んで行った日はいつも気持ちよさそうな顔して帰って来たじゃないですか。
 そう言えばご主人も随分お疲れ。さすがにナガセさんは大丈夫……なのかな?

 そして、翌々日ぐらいですか。また隊長と一緒に飛んで行きました。
 て、新入り君。部屋の高い所に何を置いてるんですかね?
 ……まあ、邪魔にはならないようなので良しとしますか。
 で、どのくらい待ちましたかね。
 人が来たんですよ。
 何て言いましたっけ。あまり覚えていません。
 なんだか単品でおられると……なんと言いますかよろしくない。
 一緒にいた人がダメすぎたせいなんでしょうかね。
 あ、でもこの人とその一緒にいる人、ここではかなり偉いらしいです。
 この人の時はそうでもないんですが……もう一人とブレイズさんがすれ違うとすんごい嫌な顔しますね。
 と、帰ってきた帰ってきた……て、あれ?

 鉄の翼が三つだけ……えーっと、隊長さんがいませんね。
 あ、また飛んでっちゃいました。慌ただしいですねえホント。

 幸い、その三人はちゃんと帰って来ましたよ。
 みんな随分疲れているみたいです。
 特にブレイズさん……こないだほどじゃないんですがだいぶお疲れのようです。

 さて、後はご主人も私も大好きな音楽を聴いてぐっすりと……
 ん?何ですかこの耳障りな音は……あれ?ご主人何処へ?
 ……よく解りませんけど。それから暫くは新入り君と一緒でした。
 結構人が集まってましたけどなんだったんでしょうねえ。
 なんだかみんな飛んでいたらしいです。
 あれ?ちょっと焦げ臭い……まあ、いいでしょう。
 ご主人を探していたら、最初に見つかったのはブレイズさん。
 おや、いつぞやの偉い人もいる。

「ブレイズ、すまないが、暫く隊長として頑張ってくれないか?」
「……はい」
「すまないな」
「……あんなのに命預けたくは無いですから……」

 会話の内容なんて解りませんでしたが……もうその後はぐったりしていましたねえ。

 その日から、私にはもう一人友達が出来ました。グリム君。
 一緒に遊んで貰うには最適。ご主人やブレイズさんがバテてしまうぐらい走り回って全然平気。
 あ、それと、一時的にですけどもう一人……いや一羽友達が出来ました。
 その日の……どのぐらい後でしたかね。
 ちょっと散歩していたらカモメ君達が妙に騒がしいんですよ。
 何かなーって思ったら……。
「ニャー」
 猫の声です。猫は猫でも海猫です。鳥です。足に布きれらしいものが巻いてありました。
 なんだか妙な臭いがしたんで、人を呼びに行きました。ナガセさんとブレイズさん。
 布を外したら、ちょっと赤い傷が見えました。
「足……誰かが応急処置をしてあげたのね。取り替え……ん、ありがとブレイズ」
 ブレイズさんが渡したのは青いハンカチを裂いたもの。
 その子暫くここにいたのですけど、長らく住み着いていた船の上でぱっと光ったらしいんです。
 気が付いたらその船以外無くなっていたとか。
 そこに避難していたら黒い人があの布きれ巻いてくれたんだとか。

 そうそう。二人とも今日は暇だったらしく海猫君の様子を一緒に見ていました。
 ご主人が妙によく誉めてくれたのを覚えています。良いことすると気持ちよいですねー。

 海猫君も元気になって大きな船にでも行って来ると飛んで行きました。
 それから……随分経ったある日の事。また、三人だけだったんです。

 ナガセさんが帰って来てません。
 グリム君はおろおろしてますしブレイズさんはむっつりしていますし……。
 ご主人もご主人で難しい顔していますねぇ……。
 こういうとき……どうしよもできない自分がちょっと情けないです。

 で……翌々日でしたっけ。彼女、ちゃんと帰ってきましたよ。
 どうやらちょっと迷子になっていただけのようですね。

 それから……どんぐらい経ちましたっけ。
 何を話していたのかは覚えていないんですけど……いえ、覚えていたところで解るはずも無いんですが……。
「チョッパぁーっ!!」
「がははは。ま、そう怒るな怒るなって。じゃ!」
 ブレイズさんがもの凄い声上げてました。なんか知りませんけど、耳まで真っ赤にして。
 ちょっと初めて見る光景に私もびっくりです。
「どうしたの?」
 あ、ナガセさんがいらっしゃいました。その後の彼の様子はよく覚えてますよ。
 えらいしどろもどろになっちゃってまあ……私もナガセさんも首を捻るばかりでした。
 とりあえず、さっきみたいに怒鳴られると困りますから、二人とも仲良くしてくださいね。

 ……で、この日もやたらご主人に誉められました。
 新入り君が呆れたような顔してますけどなんだったんでしょう。

「あれ?どうしたんですか隊長」
「ああ、気にするな。ブービー編隊飛行苦手だからなあ」

 また少し経ちました。今日は飛ぶ前からみんなの顔が明るいです。
 隊長だけはちょっとうかない顔して……あ、ご主人に何か言われて耳まで真っ赤。
 今日は怒鳴り声上げないでくださいよー。

 ……

 ……

 帰ってきました。三人だけ。今日の迷子は……ご主人でした。
 でも、なんか様子が違うんですよね。
 その日の晩はブレイズさんと一緒でした。
 こんな時間まで外にいると良くないですよ?

「ごめん……お前のご主人、助けてやれなかった」

 どうかしたんでしょうか。私をぎゅっと抱きしめて、暫くそうだったんですけど。
 大丈夫ですよ。
 迷子なんでしょう?こないだのナガセさんみたいに。
 早く帰らないと、風邪を引いてしまいますよ。

 随分待ったんですけど、まだ帰ってきません。
 みんなの様子も少し変な気がして……私も食事を取る気になれませんでした。
 ご主人と一緒に食べる方が美味しいですから。

 それからさらに数日後の事でした。
 ご主人が帰ってくる前に、私達は島を離れました。
 前から乗りたいと思っていた翼に乗ったんですけど……あんまいいものじゃなかったですねえ。
 なんだか体がぐわんぐわんして、ぽーんと弾き飛ばされたと思ったら海の上ですし。
 ブレイズさんと新入り君随分参ってたみたいです。

 まあ、世の中不思議なもので、その後案内された場所で、いつぞやの海猫君に会えるとは思っても見ませんでした。

 そう言えば、隊長さんが久しぶりに帰ってきました。
 うっかり忘れそうになりましたが随分長い迷子だったようで。

 ご主人も、いい加減帰ってきてくれませんかねえ……。


純粋で無垢でご主人様が大好きなカーク……
ムービー見てると決路直前とか本当に元気ないんですよね。
ご主人はもう帰ってこない……解ってないような無垢な目でみられると辛いっすよな。