ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Prolog

2006.3.23

「フォルクさん、火傷、大丈夫ですか?」
「ん、ああ。跡は残らないし顔も無事だ」
 見舞いに来たインタビュアー共々、間が悪いと言えば悪い話だった。
−あの子達に会え。会わせると約束した−
 もう、とっくの昔に守れなくなったものだとばかり思っていた。
 一縷の望みにしがみついていなかったと言えば嘘になる。
 出来過ぎた話かもしれない。
 だが、俺の頭からはその考えがどうしても抜けきらなかった。
 化け物が孵ったというかなんというか。
 そこまで思い出してふと思う。
 あの子にマイクを向けるまでに、このインタビュアーの胃に穴が空いたりしなかったかと。

 手元にある一枚の新聞。思えばこの記事が、第二幕の始まりだった。

2006.4.2

 そりゃあ驚きましたよ。
 横でへばってる彼なんかより、よっぽど。
「んな話とっくに押さえてますって」
 記事に直接的関わりは無いんですけどねー……。
 こりゃあ約束は破ってくれちゃったかなあ。
 どうやって揺さぶりを、でもその前に、仕事を片してスケジュールを詰めなければいけませんね。
 ああ〜、こんなにうきうきと悪巧みを練るなんていつ以来でしょう。
「あの」
「何です?」
「虐めすぎないように」
「ぇー」

2006.10.22

 かつて鬼神の足跡を追ったインタビュアーが居た。
 鬼神と共に飛び、相対した者達を辿ろうとしていた。
 そんななか、彼が決してたどり着けない場所にいた者が居た。
 名を、早乙女時雨と言う。
「傭兵とその家族は己の戦果をひけらかすべからず」
 そう言って、生前の彼は姉と子供達共々口を閉ざし続けた。
 そう、生前。彼等はもう、この世の人ではない。
 1999年7月8日……ユリシーズの破片によって、彼等が練習飛行場として滞在していたゴールドバーク基地もろとも逝った。
 子供達も、ファーバンティに飛来した隕石片の二次災害による水没に巻き込まれ、帰らぬ人となった。

 ……そのはずだった。

 その長男が、戦乱の去ったユージアの空へ華々しく戻って来たのは、全てが終わった後だった。
 既に答えを得ていたインタビュアーが、その子の住居に程近い場所にいたのは偶然だった。
 だが、
「あの、すいません……」
「はい?」
「早乙女さんの家を探しているんですが……」
 インタビュアーの目の前に、赤い癖毛の男がいたのは違った。
 その男は知っていた。尋ね人の住居も、そして、今道を訪ねている相手が何者かも。
 インタビュアーは、何を察することもなく、男の問いに答えた。

2006.11.1

 あの日から遠く離れたエルジアで、ただ雨の匂いが懐かしかった。
 あれからまた国境沿いのドタゴタのせいで入院が伸び、ユージア滞在の延長を知らせ、いざ行こうと思ったら残党の一斉蜂起に対処すべく駆り出され……気が付けば半年が過ぎていた。
 思えばインタビュアーがいなくなった途端酷い目に遭ってる気がする。
「……お陰で事情がハッキリしたからいいけどよ」
 一人で戦争終わらせたなんて、良くある誇張だとばかり思ってたんだがなあ。
「そうですか」
 あいにくの入れ違いだった。
 残党連中の掃除も終わって、久々の休息なのはお互い様と思っていたんだが。
 代わりに応対しているのは、留守を任されたらしいこの土地の管理者。
 ……一生遊んで暮らせるだろう恩給を何に使ってるんだか。
 いやに警戒しているから、この管理者もひょっとすると軍人なのかもしれない。
 ユージア中に名の知れ渡ったエアショーパイロットに興味本位の客など珍しくないだろうに。
「……あの子に、何かあったんですか?」
 あの子を心配していると暗に伝えた俺の言葉を信じてか、その重い口をゆっくりと開きはじめた。
「留守中に1人客が来たのさ。どんなやりとりをしていたかは聞いてないけど、留守番してたリロイ君と一悶着あったらしいのさ。普段は大人しい子なんだよ。でも、あの戦争で大怪我をしてね、無理の利く体じゃ無い子だっていうのに……」
 それだけ聞ければ十分だったのだが、この管理者、実は相当なお喋りだったらしい。
 そのマネージャーが元ISAFのパイロットで怪我は撃墜されたときと言うこと。
 その時彼を助けた元エルジア軍の男と仲が良いこと。
 ここまでは、このチームのHPを見ればすぐに解ることだ。
「んで、先週帰ってきたと思ったらそのままウスティオの方に行くって言って……ありゃ、あんたがあんまりいい男だからおばちゃん話しすぎちゃったよ」
 ……つい数分前に人を不審者扱いするような目で見ておいて何を今更。
 しかし、ウスティオか……。
「その客、赤い癖毛の男ではありませんでしたか?」
「あんた、その男の知り合いかい?」
 相棒……お前何やらかした。

2006.10.22

「リボンさんはいますか?」
 唐突な来客の言葉は、マネージャーを任されている松葉杖の少年−に、見えるが実はいい年−に警戒を抱かせるに十分だった。
 そして、同時に致命的なミスを犯したことに気付く。
「な、何のことで……」
「ああ、すいません。ほら、髪を青いリボンで括ってましたから」
 目の前にいる、赤い癖毛の男。少年と同じ、エルジア系の顔立ちの。
 その含みのある笑みは、嫌がおうにも悪い予感を掻き立てた。
「まあ良いです、不在の確認に来ただけですから」
「!!」
 不安が確信に変わる。きびすを返した彼を引き留めようと手を取る。
 男のもう一方の手が腰のポケットに突っ込まれていることに気付く。
 少年も松葉杖を持っていた手を反射的に腰に突っ込んだ。
 一瞬。
 その一瞬が何秒かに感じられた事で、まだ戦場にいた頃の勘が健在な事を確認する。
 でも、体はついていかない。赤毛の動く方が先だった。
「どうやら、良い友人に恵まれたらしいですね」
「え……」
 その呆けたスキに赤毛は銃を引いた。
 そうしてやっと自分が抜いた銃に気付く。
 ……この体でデザートイーグルなど撃ったら死ねる。
「良かった」
 茫然に飲まれたままの少年の手に紙切れを握らせ、赤毛は岐路についた。
 敷地を出るかどうかのタイミングで、既に消えかけた姿が言う。
「あの子が帰ってきたら伝えて下さい。ウスティオのサイファーが会いに来たと」
 呆然とする少年の手にある紙切れには、こう書かれていた。

−約束、破りましたね?−