ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Eepilog1:Promise

 お前……あの時泣いてたな。
 それは、お互い様でしょう?

 空が輝く。制御を失って、空中で、大気の壁の向こう側でそれは爆ぜた。
 ……あの時の核で落ちなかったわけですから、壁がある以上驚異にはならないんでしょうね。
 幾億年と、太陽という巨大な核からこの地を護り続けていた壁の向こう側では。
 だけど……。

「サイファー、任務完了だ」
 いっそ……落ちてしまえば良かったと思っている。
「さぁ帰ろう、俺達の家へ」
 英雄は、最後の敵と差し違えて伝説になりましたって。
 いえ、そんな格好の良いもんじゃないのは解りきってるんですが。

 このままマスク外して、キャノピーも空け放てたらさぞ気持ちが良いんでしょうけど。

「お前の帰りを待っている奴らがいる」

 ……。
 ……。
 ……。

 ……弱いなあ、ホント。
 鼻で返事してしまいましたよ。

 言えませんでした。言わずとも解ってくれると思いました。
 飛ばせて下さい。長く、長く、長く。
 空中給油なら受けますから。

 解ってます。悪あがきです。
 でも……あの子達の前でグシャグシャの顔をしたくなかったんですよ。
 だって、格好付けたいじゃないですか、大人として。

「給油しながらで良い。聞け」
 意外と出来るもんです。
「円卓上空で交戦していたシグ達は無事だ」
「そりゃそうでしょうねぇ……」
「今さっきシグともう一人が救助隊に拾われたと連絡が入った」
 ……落とされたんかい。
「残りは全員無事だがジウは先に基地に戻っている。ベルカ側の増援は大人の都合で先に帰った」
「……落ちたもう一人は誰です?」
「ヒレンベランド中尉だ」
 なんでしょうこの異様な安心感は。
 ああ……安心したら涙出てきました。

 ここが私の最後の空。
 この、独りぼっちの空が。

 だから今ここで、泣くだけ泣いておく。
 マスクを外して、ヘルメットを脱いで、キャノピー越しの空。
 雪がとても綺麗でした。それがまた泣けて……。

 左目拭おうとしたら視界が真っ暗……それでまた泣いた。

「あの場所へ、寄るか?」
「いいえ。帰るまでが遠足です」
 ……もちろん帰還も早めました。
 最寄り基地? いいえヴァレーです。こればかりは意地と根性。

 ここが私の最後の空。
 この……独りぼっちの空が。

 辛いですよ。後ろめたいですよ。
 それでも、滑走路の前でみんなが迎えてくれた。
 全部最後。何もかも……でも……。

「サイファー!!」
「シエロさん!!」
 子供達が待ってる。それだけで良かった。
 飛び込んできたリョウ君とシュウちゃんを受け止めて、側に立っているスク君を抱き寄せて……。

 ……ササメちゃんの方を見るのは、勇気が要りました。
 シンシアさんの方を見るのも。
「良いんですよ」
 スク君が言う。連絡は全て届いていると。何もかも、届いていると。
「みんな、もう泣くだけ泣きましたから」

 ササメちゃんは、カミラちゃんに支えられて何とか立ってる。
 シンシアさんは、泣きそうな顔だけれど何とか笑顔でいてくれている。
 ああ……無理なんてしなくていいのに。

 ……雪を踏む音がしたのは、私の右側からでした。

 立っていたのは、ダボダボの黒いコートを羽織ったヒサメ君。
 その手が敬礼しようとするのを、私は止めました。
「……?」
 もちろんソレが、無粋な行為だと言うことは重々承知しています。
「ダメです」
 それでも、この子の敬礼は見たくはありませんでした。

 この子はきっと、良いパイロットになる。
 きっと、私の後を追い掛けてくる。
「約束してください」
 だからこそ、言わねばなりませんでした。
「君は、平和の空を飛ぶ。誰が命を落とす事も無い、自由の空を」
 こんな血塗れの空は、私達の世代でもう十分ですから。

「約束、してくれますね」
 これが一度目。

 二度目は、病室の中でした。
 ええ。あの後祝勝会もへったくれもなく問答無用で病院送りです。
 ディレクタスで、いっち番立派な病院の。
 むしろ祝勝会も新年会も病室でやっちゃいました。勲章授与もぜーんぶ。
 ……皆さん騒ぎすぎです。

 て言うか何が酷いって、検査結果待ちだった時ですよ。
「アデーレさん……計りましたね……」
「常識的に考えて、これ以上待てるかっての」
 子供達の立ち位置が計算尽くだって何ですか。
 シュウちゃんリョウ君で気を引かせて、スク君でだめ押しして。

 ……ヒサメ君に最後に気付いたら、即入院って鬼ですか?
 あの敬礼はいわゆる殉職者へのアレですか。
「……」
 ヒサメ君に頷かれました。
 ていうか勝手に人の心読まんでください。

 もうね、みんなの視線がなーんか痛々しいんですよ。
 私が泣くだけ泣いている間に、この人達は心の整理までつけていたんでしょうか。
 ……て、そんなわけ無いんですよ。

 ササメちゃんの目元が腫れてる事がありました。
 リョウ君とシュウちゃんは明らかな空元気。
 解りやすいのがスク君。一番冷静なつもりが顔に出てます。

 カミラちゃんに至ってはアルトマンさんとこに住み込もうとして私どころではないと。
 だったらどうしてその家の子に縋って泣いてるのでしょうね?

「なーんか、実感沸きませんねえ……」
 と言うわけで……一番の難敵はやっぱりこの子なんですよ。
「……」
 ただ、側に居てくれるヒサメ君。
 会話らしい会話と言えば、一つだけ。
「……お父さん、傭兵辞めるって」
「そうですか。今後は?」
「適当なツテ、探すって……」
 一回でも墜ちたら辞める。そう決めていたそうです。

 みんな、それぞれ向き合っていたって事なんです。
 現在進行形で、現実と。
 そして……これから失う現実と。

 病室で、沈痛な顔で私を見るのは、両親でした。
 特に母は……父が飛べなくなった時の事も知ってましたから。
「……ようやく、まともな反応してくれる人に会えた気がします」
「皮肉よね。寿退役した私だけが飛べる体って言うのも」
 ちなみに父親は、まーた日曜大工で足折ったそうです。
 カルシウム不足って言いますか、そろそろ大人しく家にいちゃくれませんかね。
「シエロ、これからどうすんだ?」
「まーず職探しでしょう。このまま軍に居たら何仕込まれるか解ったもんじゃありませんし」

 目の方なんですが、飛べて、勝てて、生きて帰ったのが奇跡と言われました。
 ……手術の日取りも、かなり早く決まってしまいましたね。
 まあ、思惑も気持ちもよく解りますけど。

 色々な人が代わる代わる見舞いに訪れた数日は、私の心の準備の為。
 前科持ちは辛いですねえ、こう言う時。
 だと言うのに……一人、来ていない人がいるんです。

「フリーダさんはどうしました?」
 居並ぶ子供達と、アデーレさんに聞いて見たんです。
 今の今まで聞かなかったのもどうかと思いますけれども。
 ……一人一人と目を合わせて行くと、必ず一方に傾くんです。
 その終着点にいたのは、カミラちゃん。
 ササメちゃんに小突かれて、おずおずと呟いた言葉は……。

「良い子なんて、辞めてやりますって……」
 ……マジですか?
 ていうか、真面目とよい子は違うでしょう。
 真面目過ぎたあげくな妖精さんどうなります?

 いいえそもそも……。
「手術前日に聞いた私が悪ぅございました……」
 いましたよ。
 現実に、足掻きに足掻く道を選んだのが。予想外の所に。
「それで……コレが原文です」

 ……。
 ……。
 ……その原文が何故便箋三枚に渡ってるんですか?

 でも、読んでみて納得しました。
 内容は、彼女が放棄した仕事と、それに伴うであろう事態。
 何でしょう。この、途方もない矛盾感を抱えて私は手術に臨めと?

 誰も彼も、強気ですねえ、ホント。
 ホント……脅えて何ていられませんよ。

 手術直前、私は子供達を全員呼びました。
 みんな綺麗に一列に並べて、言いました。
「……さて、これから私が受ける手術はみんな知っての通りです」
 どんなに辟易されても、これだけは口を酸っぱくして言わないといけません。
「みんなは私よりずっと長く生きます。その間に、いろんな物を得たり失ったりする事でしょう」
 約一名とっくに経験済みの子と、何があっても心配無用そうなのもいますけど。
「けれど、忘れないで下さい」

 ――何を、どれだけ。補充の間無く失ったとしても「ZERO」には決してならないという事を。