ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission18

 ……おい、何か言えよ。
 ……何を言えと?
 ……だよな。
 懺悔でもしましょうか。

 不思議とね、「どうして?」とは思いませんでした。
 むしろ、こうして対峙していることの方が自然でした。居ないことの方がおかしい。

 ただ一つ……。
「サイファーよりAWACS。今、何が起こりました?」
 一番彼を揺さぶれそうなのが、私の横に居ないことだけが……。

 パト君が、爆ぜて墜ちた。私に解ったのはそれだけです。
 キャノピーの右半分が、焦げているように見えるのは気のせいでしょうか?

 まだ彼方の、点でしかない機体。
「今に解るさ」
 懐かしい声に対して、ごく当たり前にヘッドオンを狙う。
 ……輪郭が見えた。尾翼の間に赤い光が見えた。

 すれ違い様、確かに見た。
 向かって左……右翼を赤く染めた機体。

「核サイロの再起動を確認! ガルム隊作戦続行、交戦せよ!!」
 まだ終わってない。何を今更。

 雪が……降ってきました。

「ジウのデータから分析する、それまで持ちこたえろ!!」
 無粋だと思った。だってそうでしょう?
 いきなりビーって飛んできた赤い筋。エクスキャリバーの親類じゃないですか。
 当たったら死にますね、確実に、彼のように。

「それが答えですか、妖精さん」
 一筋の赤い光が、私の視界を掠めた。

 どちらにせよ、私が妖精さんに聞くことは一つ。
 あの時の、殺意の有無です。
 ……いまさら、どう言えって言うんだよ。
 どうとでも。何が変わるわけでもありません。

 ……馬鹿な奴。そう思った。
 誰も信じやしないだろうが、あの距離で当たるとは思わなかった。
 だが結果として相棒は一切の反応を見せず、庇うように跳んだPJが墜ちた。
 マスクの下で、口の端が吊り上がるのが解る。
「不死身のエースってのは、戦場に長くいた奴の過信だ」
 もう……これで後腐れ無しだ。
「お前のことだよ、相棒」

 すれ違うだけの機体は、いつものMTD。
「……何故墜としました?」
 冷淡な声だった。
「そこにいたからだ」
 そのまま、冷ややかな怒りを向けてくれれば良かったんだ。
「そうですか」
 向こうから、何で笑い声が聞こえてくるんだよ。

 向きを制御しきれないレーザーなんざかすりもしねえ。
 元々試作段階、不格好なのは俺が一番よく知っている。
 正直邪魔だ、飛ぶのに。

 だと言うのに……。
「何故撃たない!?」
 お互い通信ダダは漏れなんだ。
 イーグルアイの声がこっちまで聞こえてくんだよ!!
「しんきんぐた〜いむ」

 その時、フッとアイツの姿が消えた。
 ミサイルアラート……やられたな。
 即座に機体を捻る、レーダーに目を落とす。
 ……それが、不味かったんだろう。

 レーダーは真正面にアイツが居ると言っている。
 けれど視界にアイツの姿は無い。

 上か!!

 いた。衝突上等と言わんばかりのアイツが。
 避けられない。いや、アイツは離脱出来る。
 ……俺のキャノピーを撃ち抜いた上で。

 本気で死を覚悟すると、時間ってゆっくり流れるのな。
 いやー、ああもあっさり引っ掛かるとは思いませんでした。
 ……お前、何時でも俺を落とせただろ……。
 ええ、私の知るままの、妖精さんでしたから。

(……パト君の仇討ち、完了〜っと)
 流石の私でもあまりに不謹慎過ぎて、口にはしませんでしたけど。
 それに、もう確認は取れました。
 あの時のままの彼。
 だから生かす事が、許す事が、最大の罰になる。

 さて核ですが、遊んでる場合では無いんですよねぇ。
 かといって、殺してしまうわけにもいきません。
 どうしたものかと考えてましたら……。

 ミサイルアラート。機体を捻ったら花火が見えましたよ。
 私が、さっきまでいた所で。

「妖精さん……ソレは何の冗談ですか?」
「至って本気だ」
 至って本気に、殺されたいんですね。
 だぁーれがが叶えてなんてやるもんですか。

 さぁ参った。さぁどうしましょう。後一発ぐらい多分撃ってきますかね。

 とは言え、どうしたものか……。
 空の相手を屈服させる方法ってありますっけ?
「どうした、撃って来い!!」
 ……哀れな人だと思う。
 優しいが故に戦い、優しいが故にその惨禍に苦しむ。
 そして、自分の痛みなど小さな物と切り捨てて……行き過ぎた末路がこれか。
 目の前に、光の花が咲く。
「んぉ……っと!!」

 ちょっと機体を揺さぶられはしたんです。だけどね……。
「時間だ」
 その、押し殺したような声のなんと痛ましいことか。

「くそっ、V2の発射を確認!!」
 見えてますよ。不格好なミサイルが天に昇っているのが。
「……悪ふざけの対価だ、相棒。このV2で全てをゼロに戻し、次の世代に未来を託そう」
 ああ、どうしましょう。
「その次の世代のために、身を粉にして来たんですが?」
 皮肉らずにはいられない。
 ここが、私の最後の空だと言うのに……。

「聞け、ガルム1。敵機体の解析が完了した」
 ……時間がない。
「コード名はモルガン、この機体はECM防御システムで守られている」
 ……あの子達との約束がある。
「唯一の弱点は前方のエアインテークだ。正面角度から攻撃を行い、モルガンを撃墜せよ!!」
 破りたくない。
「今そこで彼を撃てるのは君だけだ」
 ああ……でも、もう叶わないのでしたか。
「円卓の鬼神、幸運を祈る!!」
 けれど、せめて次善を。

「妖精さん、イジェクトしちゃくれませんか」
 ……一秒待たずにガチャガチャ言う音が返ってきましたよ。
 なんです。レバーぶっ壊して来たって事ですか。
 私の時やってましたっけ?
 あの頃はミナゴロシ感覚でしたから生還は頭に入ってましたっけ。

 機体が向き合う。数発の機銃が掠めた気がする。
 私は……撃てなかった。
 レティクルに彼のキャノピーが収まっていたから。
 弾かれる、わかりきっているでしょうに。

「……優しくなったな、相棒」
 優しい? ご冗談を。
 ただ、逃げているだけですよ。今も。
「コレが俺の選んだ道。ソレがお前の選んだ道。答えは一つだ」
 わかりきった事を。

 ……エアインテークの破壊は、確実にパイロットの生死に関わる。
 けれども、これを見過ごしてしまえば彼の罪は歴史に焼き付けられる。
 知りもしない者達からの終わり無い謗り。
 どれほどの希望があるだろう。

 何度空を擦れ違っても、引き金を引けない。
 まだ……一縷の希望に縋りたい自分がいる。
 この一縷の為に、どれほど多くの命を犠牲にしようと言うのか。
 当たり前すぎる罪の意識。ここまで至るのに、どれほど命を屠ってきたと言うのか。

「どうした、さっさっと撃って来い!!」
 脳裏を過ぎるのは、子供達の哀しい顔。
 お帰りを胸の内にしまい込んだ子。
 全てを無くして狂おうとして出来なかった子。
 自分の無力を嘆いて動こうと必死にる子。

 ふと浮かぶ、光の無い灰色の目。
 ふと重なる、凍てついたセピアの目。

 指の震え。彼のキャノピーが銃弾を一発弾く。
 ……誰が言いましたか、一発だけなら誤射と。

 その一発が開戦の合図になるなど、何度あった事か……!!

 すれ違い様に見えた、真っ赤な片羽。
 ああ、撃てる。撃ててしまう。次に向き合った時、私は恐らく撃てる。
 ダメだ。まだ、なんの解決策も見いだしてない。けれど、撃ってしまう!

「あと1分!」
「来い!!」
 ああ、どうして、どうして、どうして!?

「行くぞ!!」
 オーシアがどうなろうと、故郷がどうなろうと、知らないフリができたのに!!

 引き金を引いてしまう。引けてしまう。弾かれた事に安堵する自分がいる。
「撃てよ、臆病者!!」

 命を背負うなんて、思い上がりも甚だしいのに!!

「ピクシィーッ!!」
「撃てっ!!」

 ――思い上がりも、甚だしい。

「あの子達に会え!! 会わせると約束した!!」

 ――私が引き金を引いたのは、咎を恐れてに他ならない。

 インテークに吸い込まれる銃弾が、嫌にはっきりと見えたんです。
 ふふ……おかしいですよね。

 だって、お互い最高速で擦れ違ったはずなんですよ?