ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission17

 ……出来れば思い出したくないな。
 ……奇遇ですねぇ。私もです。
 そう言うわけにもいかねえだろうなあ……。
 当社比二倍増しの跳び膝が待ってますからねえ……。

 思わぬ援軍のお陰で、大きな壁を一枚越えられました。
「みんな、大丈夫っすかね……」
「大丈夫ですよ。あの人達なら」
 何せシグさん達ですから。殺しても死にそうに無い人ですから。
 援軍の方々だって、あの戦争を、あの日を生き延びたエースですから。
 彼らのお陰で、破るべき壁を飛び越える事ができました。ズルって奴です。

 あの人達は墜ちない。だから、私も答えないといけません。
「サイファー、給油機が来てるっすよ」
 ……パト君、君はもうちょっと空気読みましょう。
 全部終わるまでそのまんまでいいですから。

 嫌いなんですよねえ空中給油……こう、だだっ広い空で人に会わせるの。
「完璧だガルム1! PJもちっとは見習えよ」
 そんなこと言われていたパト君が、こう、するーりと給油口へ。
 明日は雪だなと言う声がハモったのは言うまでも無し。

「こちらイーグルアイ。連合軍が入手した、アヴァロンダムに関する情報を転送する。給油しながらでいい、聞け」

 内容を聞いている間、パト君が追突しないか心配でした。
「情報によればダム周辺には強力な対空防衛網が配備されている」
 だってその作戦……どう考えたって、
「そこで、連合軍航空部隊が上空で敵対空砲火を引き付ける」
 私達のために他が死ぬって言ってたんですから。

「ガルム隊は連合軍のアヴァロンダム攻撃部隊と共に、攻撃目標地点まで峡谷沿いに低空進入せよ」
 どちらの死亡率が高いかは、別として。
「V2には 核弾頭が搭載されているものと推測する。この1発による被害は 先の戦術核による被害を大きく上回る可能性が高い」
 だからといって私だけで潰してやると言えるほど軽い物でも無く。

「サイファー……V2発射は、必ず食い止めるぞ!」
「何を今更、行きましょう!!」

 そこで最初に見えたのは砲煙咲き誇る空。そして狭苦しい峡谷の入り口。
「ガルム隊、待ってた。ついて来い!!」
「援護は任せてくれ、俺達もプロだ!!」
「くそ、しっかりしろ!!」
 砲撃より先に聞こえたのは歓迎の声二つに悲鳴一つ。
 どう入ろうかなんて考える暇も無く。

「パト君ー、突入しますけどー?」
「何を今更。最後まで、ついて行きますよ!!」
 この先、私の視界が捉えるべき物は二つ。目の前の谷と、後ろの相方。
 後の全てを目にしてしまったら、手元が狂ってしまいそうでしたから。

「お前ら びびるんじゃねぇぞ! ガルムだけにいいとこ持ってかれるな!」

 うねる谷、迫る森。空気が重い、空が重い、翼が重い。
 何もかも押しつぶしそうなGなんて今更。曲がるとまた谷、谷、谷……!

「左翼をやられた! すまない、サベージ4 離脱する!」
「ジョーカー1が落ちた、攻撃部隊 残機10!」
「ジョーカー4 離脱した、攻撃部隊 残機9!」
「だめだ!」
「ちくしょう!  壁が迫って……」
「ジョーカー3がやられた! 攻撃部隊……残り8機!」

 無線なんて聞いてません。アラートは高度制限のそれ。
 私達は抜けるだけ、抜けるだけ、抜けるだけ……!!
「パト君、橋!」
「解ってますよ!!」
 Gが緩む一瞬、弾かれるように冴えた頭に浮かんだ不安は杞憂。
 ああ……良かった!

「ギズモ2 踏ん張れ! ガルム隊がV2をヤルまで耐えろ!」
「後方から敵機! 駄目だ振り切れない! 先に行け!」
「インフェルノ4  ポイントBを通過した!」
「サルベージ1 ポイントAを通過! 繰り返す ポイントA通過!」
「デュース4もポイントAを通過!」

「こちらサルベージ1! ちくしょう くらった!」
 誰も助けられない。誰も救えない。ただ、前へ、前へ、前へ!!

 谷が終わる、森が消える。広がるコンクリートの壁……。
「二機抜けた!!」
「抜けたのはどいつだ? ガルムか!!」

 空。

 陰鬱な灰色の空。見下ろす先も灰色。
 鉄とコンクリで固められた……終末には似合いの場所と空。

 でも、どこか拗くれていた私の目は、雲の隙間にまた違う物を見つけていました。
 時を同じくして無線から流れる雑音。それで、正体がわかった。

「破壊という名の新たな創造は、正道な力を以って我々が行使する」
 微妙に聞き覚えがあります。ま、元が元。無線の周波数もまたしかり。
 ああ、この人が聖地の番人って奴ですか。
「領土、人民、権力、今そのすべてを開放する。国境なき世界が創造する、新しき国家の姿だ」
 でも異様に腹が立つのは何ででしょう?
 身勝手な行い?
 独善的な理想?

 敵機視認。射程内。
「国籍や国家も意味を成さ……」
「ふぉっくすつー」
「どあああああああっ!?」
 胴部狙って逃げられました。

「鬼神、貴様ァッ!!」
「あーあー聞こえなーい」
 えーっと、見える四機と見えない四機。先に目視されてはねえ。
 ……上と下、どちらからやろうかとか考えてたんですよ。
「くそっ……対空砲全開、空を炎で埋めつくせ、アヴァロンを見くびるな!」
 そんな声が聞こえた直後。
「施設が動き始めた。ダムの底に発射制御装置が3箇所、そいつを破壊しろ!」
 上がまた無茶な事言ってくださるんですよ。

「アレに飛び込めとおっしゃる?」
「他にない。お前ならできる!!」
 ダムの底、灰色に四角く空いた穴。
 後ろでは怒り心頭らしい敵機が8……おや、たった3機。
 皆さん追いついていらっしゃる。私も目の前のを一機……羽をもがれて墜ちていった。

 アラートが鳴る。後ろに4機。PJは?
 限界ギリギリのGをかけながら探す。いた、やっぱり追われてました。
 Gがかかる。血が頭から抜ける。腹が立って血が上ってるからトントンですが。

「どうした鬼神、怖じ気づいたか?」
 五月蠅いですねえ。
「所詮、お前も使い捨ての駒に過ぎん。解るだろうその現実が!」
 今進入路の確認してるんですよ。
「皆知っているはずだ。国境に縛られ、使い捨てられる命を、志を!!」
 ああ、解った。
 言うこととやることが一致していない。目的に対する手段が全くの間違い。
「それに命を投げ捨ててなんとす……」
 威嚇のつもりで一発。
 解っちゃうんですよ。一人自己陶酔しててお手々がお留守の機体。
「ご高説は結構」
 レーダーロック、逃がすつもりはありませんが無駄弾撃つ気も無し。

「子供達が待ってる」

 目の前に広がる灰色の大地。ぽっかり空いた黒い穴。無線は切った。
 戯れ言も歓声も聞いている暇はきっと無い。
(……狭っ!!)
 視覚的に、縦はともかく横は機体一つ通るだけでつらそうな、まさにトンネル。
 入って後悔。0.01秒単位で開き直り。
 あんだけ勢いつけたのに、のろのろと飛ばざるを得ない。

 遅い、遅い、遅い、
 なのに何ですこの肺が潰れそうな圧迫感。

 目的はHUDに映る。砲台もまたしかり。潰すこと自体は得意分野。
 広い空間に並ぶ大がかりな装置。細い通路に飛び込んでまた次。
 大丈夫。全部潰せる。でも……無事にここから出られるのかな?
 二つ目を潰す。中を機体が飛んでいたような気がする。気のせい?

 三つ目の破壊を確認、通路に先がない……!
(よしっ……!!)
 操縦桿を引く。広がる空。開放感。視界の端にチラリと見えた敵機。
 アラートは、鳴らなかった。無線を入れる。

 聞こえてきたのは、音の洪水だった。

「ガルム1の無事を確認!!」
「インフェルノ隊、全弾発射、奴らにやらせるな!!」
「ECM起動、ガルム1を守れ!!」
「ガルム2、FOX2!!」

 あ、あははは……良かったぁー。
 みんな、みんな、みんな、後ろにいる。空にいる。
 ……灰色の大地には、黒い跡が点々と広がっていた。
 空はいつのまにか、ずいぶんとガラガラになっていた。
 それでも、みんなちゃんと動いた。動いてくれた。

「ガルム1、まだ一つ起動している、もう一度だ!!」
 私は、どれだけ「彼」が気に入らなかったんでしょうかね?
 出るところを狙ってるだろう一機、見つけた上で私は穴に飛び込みました。
 ……パト君のFOXコールが聞こえて、レーダーからそれが消えた。

 妖精さん、一つ聞きます。
 あの空で何があったか、聞こえませんでしたか?
 ……ああ。聞こえた。だから飛んだ。
 うーん。今殴ってしまうと次でトドメになりかねませんしねえ。

「そうだ、待ってるガキ共がいる!!」
「核なんざ落とされてたまるかってんだ!!」
「こんな愚行を許せば、末代までの笑いものだ!!」
「子供達に、胸を張れる未来を!!」

 開かれた回線。お返しだとばかり響く連合軍の声。
 狭いコックピットの中で、レーダーを見るぐらいしかやることがなかった。
 最後の詰めが俺と「コレ」だから。仕方がないとはいえ、暇だ。

 味方を示す光点が異常な速度で消えていく。多分、墜とされていない奴もいる。
 世界を変える。ジョシュアはそう言ってた。
 だが、何もかも逆手に取られちまったな。

 アイツが、変えちまった。
 世界なんてデカイもんじゃないが、確かに。

 ……「メイン」の制御システムが落ちた。

 俺が出ないといけないんだが、滑走路も管制塔も静かなもんだ。
 気付いちまっているのに、裏切りになるのが怖くて言い出せない。
 ……俺も似たようなもんだったのかもしれない。

 無線越しに聞こえるのはPJのはしゃぎ声。
 ジョシュアがコイツに墜とされるとはなあ……相棒がハメたか、実力か。
「上がるぞ」

 ヴァレーにあった物。ここに無かった物。
 思い知らされるタイミングとしては最悪だった。

 相棒、何も言わないのか?
 言いません。
 どうしてだ。
 それは私の仕事では無いからです。

「これより状況確認に入る。サイファー、PJ、上空で待機せよ」
 最後の最後まで、ほんっとこき使ってくれました。

「これで戦争も終わりっすね!!」
「すいませーん。はね回るパト君にぶつかりそうで怖いでーす」
 そしてとっくに帰り支度を始める周りの皆様。
 まあ、さっさと帰ろう的なことを言ったのは私なんですが。

 私の右側についたんパト君、ぴこぴこバンク振ってます。
 全身どころか機体で喜び表現しちゃってまあ。ここは、あれですか?
「で、帰ったら結婚式とかだったりしますー?」
 定番文句ですかねえ。
「はいっ!!」
 ……あれ?

「俺、戻ったらプロポーズするんです!」
 えー、その、あの。
 つまり、今後この手のネタに関しては、ノロケが返ってくると?
「つきましてはお願いが」
「……なんですか、改まって?」
 嫌な予感がします。今からサブイボがぽつぽつと。

「式の仲人を是非!!」
「ぇー」
 何を喋れと……。

「警告! アンノウン急速接近中!」
「!」
「なっ」
 アラートが鳴る。知覚したのはそれだけ。

「ブレイク!!」
 余りに咄嗟の事で、操縦桿を握る手が強ばった。
 全く動けない私の機体。

 視野の外で何かが爆ぜた。
 私が見たのは、横切るパト君の機体。
 何が起こったのか解らなかった。
 すぐ右横で起こった事なのに……見えなかった。

 飛んでいく、落ちていく。恐らく助からないだろう判断を下し、操縦桿を握る。
 私は、こんなにも薄情な人間だった?
 それとも……来ないはずがないとどこかで思っていたんでしょうか。

 無線に耳慣れないノイズが混じる。聞こえてきた、耳慣れた声。
「戦う理由は見つかったか?」
 ああ、でもこんな所で会いたく無かった。
「相棒」

 これじゃあ……連れて帰れないじゃないですか。