ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission16-Briefing

 あの時の事、恨んではいませんよ。
 最強の戦力を封じる。戦略上間違ってはいません。
 私はあの時ディレクタスで難を逃れていましたし。
 ……子供達に、あの惨状を見られたわけでもありませんから。

 ここは医務室でなく、司令室。
 ベッドに横になっているのは司令。
 その横に立っているのは私と……ジークベルト議員。
「ボロボロだな」
「ボロボロですね」
 片や本当に生死の境を一度彷徨ったあと。
 片や……ギャグマンガに出てきそうな青あざやたんこぶその他。

 私は非常事態に居ても立ってもいられず飛び出したのですが……。
 子供達に四苦八苦中の彼らも私の行動は予測済みだったようで、援護を期待していたようです。
 なので……。

 子供達の援護に回ることにしました。

 その頃司令は救助に加わろうとして瓦礫に埋もれたそうです。
 思ったより元気そうで何よりでしたが。
「で、ジークベルト議員。わざわざ来てくれたのはどういう領分だい?」

 ……早乙女 慈雨が、「国境無き世界」のメンバーの一人と接触を持っていた。
 そう、全ては予定調和。ただ、始まりが少し早かっただけ。
 少し早かっただけ。それだけで、失われた命はあまりにも多い。
「フリーダ中尉、少し席を外してくれるかね?」
「かしこまりました」

 その慈雨が、扉の前で待っていた。

「どう。私のアレ、少しは役に立ちそう?」
「表向き療養中の私に言われましても。ただ……」
 そして私達の歩く廊下の窓から、基地の惨状がよく見える。
「アレはどうにかならなかったのでしょうか?」
 原型を知っている。その事実一つで、意味が全く違うものになる。
 ……なるほど。絶望、報復、もっと酷ければそれに至るのだろう。

「こういうとき、クールな美人はもうちょっと柔らかくなるものなんじゃないの?」
「その相手がいません」
「ごもっともー」

 副官として軍人として、優等生として。
 そんな生き方の価値などとうに捨てました。
 それは人生のおよそ半分に当たる物でした。
 でも一つ、胸を張って言えることが。

 この時、この場所で、あなたを一番殴りたかったのは私という事です。

 まさかねえ、ヴァレーで目の当たりにするとは思いませんでしたよ。
 ええ、その跡とはいえ、きっと彼女も見ただろう景色を。
 恨んではいません。恨みようがありません。
 ……私の、弱さを再確認しただけでしたから。

 出迎えは、実に静かなものでした。
「サイファー」
 まあ、その先頭に立つのがヒサメ君じゃしょうがないのかもしれませんが。
 と、考えた私が甘かったんですよ。
 何です? その、アデーレさんと私を交互に見て……。
「みんなを手伝ってくる」
「ちょっとマテ」
 一体何を勘違いしてるのかなぁー?
 それ以前にそんな気遣いをするキャラでしたっけ。
 後ろに並んだスク君以下3名とカミラちゃんに視線を向ければ、
「ごゆっくりー」
 こんな事を言われる始末。

 パト君に助けを求めてみれば、人目も憚らず彼女とぎゅー。
「シンシア、大丈夫だった!?」
「うん……だってジェームズが上にいるもの……」
 はいはいごちそうさまー。

「お前らー、お父さんは心配しちゃくれねえのかーっ!?」
 遙か彼方。シグさんには満場一致で、
「どーせ墜ちないでしょ」
 そんな事を言われる始末。

 もう酷いですよー。
 せっかくのサプライズ、私は満喫したかったんですよ?
 ……こんな光景を、目の当たりにはしたくなかったんですがね。
「あ、アタシも手伝いに……」
「アデーレちゃんは、ルーメンで頑張ったんだから、休んでなさい」
「え、ちょっ……」
 こんな気を揉むセッティングじゃ、羽安めにもなりゃしない。

 ただ、こんな状況では、子供達もするべき事がないように思いました。
 それを裏切ってくれたのがスク君。
 軽傷者の手当を一部引き受けて力仕事に回れる大人を増やす。
 シュウちゃんとリョウ君は医療キット片手に子供ならではのスタミナで走り回っている。
「頼もしいね」
「ええ」
 でも、それが少し哀しい。

 不思議だった。何でアイツはあんな穏やかな顔ができたのか。
 あの時と全く違う痛ましさがあそこにはあった。
 その光景を作り出したのはアンタで何とも思わなかったのか。
 アタシは見たよ。アンタの負けが決まった瞬間。

 総勢6人の子供達。半分は小さいながらに大人達の手伝い。
 ひょっとしてアタシ一人よりよっぽど良い働きしてないかい?
 そう、思ったんだけどね。
 残りの半分がまた、きつかったんだこれが。

 カミラちゃんとササメちゃん。
 二人で遠くを見てるの。時々カミラちゃんが撫でてるとこを見るに、慰め、かな。
「言葉の壁が、役立つこともあるんですね」
 ただ、その言葉の壁の上で肩を並べる二人が、定期的に振り向く……
 ……というより睨む方向があって。

「ヒサメ君……」
「共同戦線張られてら……」
 それも結構酷い話なのかもしれないけれど。

 長男、裾の長すぎるコートを羽織ってやるせなく立っている。
 医療キットをスク君にひったくられたのが見えた。

 最後の出撃の前日まで、結局アタシ達は一緒にいることを余儀なくされた。
 ……そりゃさ、ルーメンからアイツの後席にいてさ。
 それも吐かないよう明らかに気遣うように飛んでさ。
 寝るとき以外常時くっつけられて、先輩に終わったらWデートとか茶化されるし。
 うん、もういい加減何とかならないのかと二人で嘆いてたのよ。
 ……そう。二人で。
 無人の食堂で。
 あの指令、後でぶん殴ってやる。

「私は生涯独り身を通そうと思ってます」
 そう言ったコイツの顔面に拳を入れようと思って踏みとどまった。

 全部終わったら覚悟してやがれこん畜生。

 言ったでしょう。私は約束したと。
 まったく、勝手に落ちられた時はどうしようかと。
 もうすぐ来るんですかねぇ……。
 ふふ。覚悟しておいてくださいよ、妖精さん?

 最後の出撃ですか。そりゃもう賑やかなもんでしたよ。
 まずパト君が彼女と抱き合って……て、夕べ何処にいたんですかね。
 司令は怪我を押してやってくるし、フリーダさんもいますし。
 シグさんはクロウ隊の人達と円陣組んでいて……。

 私と子供達の周りに、微妙な距離があるのは憎い心遣いのつもりでしょうか。
 普通に憎いです。ふっつーに。

『ピクシー、引きずり出して来て』
 そう言ったのはヒサメ君。
 ……この子が怒った顔を初めて見ましたよ。
 いえもしかしたら、誰にも見せたことが無いんじゃないですかね。
『みんなに、必ず会わせて』
 後ろに並ぶ子供達が、大きく頷いた。そして後ろに一歩引く。ヒサメ君を除いて。

『僕と、サイファーと、ピクシーと、同じを空を飛びたい』
 こんなに饒舌でしたっけ、この子?
『パト君を忘れちゃいけません』

 言ってから、気付いてしまいました。
 それは、果たせない約束だと言うことに。
 だから、一生懸命取り繕いましたよ。

『それに、君が飛ぶのは平和の空です。あんな煙たい空じゃありません』
 でも、その気持ちに嘘偽りは欠片もありません。
 一緒に飛べるとしたって、そんな空を望みます。

『……飛べるかな?』
 そんな空を?
『飛べます。その空を拓きに行くんです』
 例えそれが、ほんの一時のことだとしても。

 それでいい。その空を私が拓く。その空をこの子が飛ぶ。
 そうしている限り、私が空を失うことはない。
 自分を、そう納得させることにしました。

 そして、子供達が思い思いの言葉を言う。

「私、ピクシーに言うの。私がいるって」
「全部が終わった後、一時のことでも、解放された空気が僕は好きです」
「帰ってきたら一発といわずボッコボコにしてあげるんだから」
「んっとね、驚かせてみるんだ。ベルカ語で出迎えて」

「生きて帰って来て。ワタシを拾ってくれた人は、この戦争を終わらせたエースだって、あの街の真上でふぞんりかえってやるんだから!!」

 その言葉を受け取って、コックピットに入り、キャノピーを閉めようと思ったその時。

「シルヴァンス少佐!!」
 フリーダさん。激情とは、一番無縁と思った人が叫んだんです。
「御武運を!!」
 それで子供達が一斉に敬礼とかしちゃうんですから。
 あーあ。総元締めはこの人ですか。

 国境無き世界と名乗るクーデター組織。
 それが北ベルカのアヴァロンダムを、正しくはその地下施設を接収。

 アヴァロン。そこが、最後の空。