ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission16

 運命論なんて、お前なら笑って……ぐおっ!?
 いだたたた……くぅ……お前、こんなに手ぇ早かったけ?
 ああ。俺だってそんなのは嫌いだよ。
 ただな、因果ってのは信じる気になったよ。

 連合軍がつぶしにかかる。その情報は早くから入っていた。
 だからこそ、アヴァロンダムの地下に構えられた基地では慌ただしく人が行き来している。

 何かが足りない。最初に思ったのはそれだった。
 いや、アイツらじゃない。ガキ共じゃない。
 いくらなんでもそれは毒されすぎってもんだろう。

 足りないんだ。何かが。何が足りない?
 ジョシュアの奴が出撃前に演説ぶったことをやってる。
 師匠は自機の状態のチェックにご執心。
 どこの基地でもあり得る光景に、何が足りないと言うんだ。

 半ば気付いていながら、それを受け入れることはできなかった。
 だってそうだろう?
 何もかも捨てていったっていうのに、認めちまったら自分でいられなくなっちまう。

 それは……どこぞのイカレ国家のよくやる現実逃避。
 ああ、解っていたさ。だから終わらせる方法なんて、一つしかないと思っていたんだ。

 私は生まれて初めて、おバカと呼ぶべき人を見た気がします。
 だってバカでしょう。欲しい物を諦めて、大事な物を捨てて。
 未来がない道に踏み込むのをバカと言わずに何と呼べば?
 そんなあなたを軽蔑します。ここに自分の足で来た賞賛と併せてトントンです。

 鬼神は行く。従者に小烏。追従するのは親ガラス二羽に忍びが二人。

「B7Rを通過する、最悪の場所だが最速の近道だ」
「拙速は巧遅に優る。許されるならA/Bかけたい気分です」

 あの街の上空を通った。
 あの街を見下ろすことは無かった。

「本番でカツカツなっちまいますよ」
「給油機まで突撃の方向で一つ」

 行く先はちゃんとある。支える過去は他にある。
 広がる空は曇り空でしたが、陰鬱とは思いませんでした。

「エリアB7Rにレーダー反応。敵性航空部隊の接近を確認……」

 おや?
 珍しく中佐がきょどってます。
「機数16だ、別の空路をとっている暇は無い……やれるか?」
 ……パーティ会場はもうちょっと先でしょうに、ねえ?

 真っ先不平を零したのは隠れる人であるはずの忍び。
「あーやだやだ。本丸につくまでに意地でも削り倒そうって魂胆だぜ?」
「主賓にはなんとしても到着してもらわないといけないのにねぇ」

 戦慄いているのは傍若無人であるはずのカラス。
「えーっと、一人につき4機のノルマ……マジすか?」
「あれ、計算あわなくね?」
「だって主賓は送り届けなきゃ」

 何がおっかないって、識別信号の半分がベルカなんですよねー。
 もう半分はオーシア。いやーもう悪い予感ひしひししつつ、私達だけ高度をかえようかなーと。
「鬼神、私の相手はしてくれないのかね?」
 ……思ったら、聞き覚えのある声が、あちらさんから。

――愚かしいとは、思わないかね?――

 あの声だ。

 私は答える。
「私はこの時この瞬間、貴方という個人を軽蔑する」
 子供の実情を知らぬ大人の声に。
「いかなる言葉も行いも、それを払拭することはないでしょう」
 あの時と同じ言葉を。

 貴方とは、同じ空で翼を交えることさえお断りです。

 でも贅沢も言っていられない。妖精さんへの手土産に撃墜報告でもくれてやりましょうか。
 腹の底に燻る黒い物をどう吐き出そうか考えていました。
 六人でやればなんとかなる。このまま飛び去って本丸をつぶしに行きたい。
 だから気付かなかった。

 中佐が黙りこくっていたことに。
「……より各機」

 だから、ピィーンと響くその音はただの耳鳴りだと思っていました。
「槍を放て!」

「こちらノルトリヒター。B7Rの指揮はこちらで引き継ぐ」
 女性の声。レーダーに映る16機の壁の向こうに4機。あ、2機墜ちた。
 えーっと、多分ベルカ側からの援軍4機。どなたでしょう。

「数で押しつぶそうなんて関心しないわねえ」
「リラ1よりリラ2、相手は金色の啄木鳥だ、油断するな!」
「あーあ。せっかく上がれたのに、彼と飛ぶのは無しかぁー……」
「ゼファーよりフェニークス、だから前もって言ったじゃないですか」

 ……友軍の会話を聞かなきゃ良かったと思う事になりました。
 いつぞやの客人二人は解ります。ええ。
「何でヒレンベランドさんがいるんですかーっ!?」
「だって君の大一番って、おっと、言うからさ」
 ジークベルトさーん。一体何処まで手を伸ばしたんですかー。

 とっくに速度は上げてます。早々に離脱する準備ができています。
 でも、レーダーから目を離せないんです。だって……怖いじゃないですか。

 もしここで誰かが墜ちたら、なんて。

 追い立てられているだろう危なっかしい声。聞き覚えがありましたが、忘れる事にしました。
「行きましょうか」
「え、いいんすか!?」
 だって、ここでぼーっとしてたら、どうなるか解りませんよ?

「お前がガス欠なっちゃダメだろー」
「そうそう。騎士様は妖精さんを助けにいかなきゃ」

「最近裏方とか暴れられなくてイライラしていたのよねえ」
「まったくだ。うちの子にあんな思いをさせて……テメェらタダで済むと思うなよ」

「あの光景を目の当たりにした者として、ここで静観を決め込むわけにも」
「同じ愚行を、黙って見過ごせるほど獅子は大人しく無いですよ!」

 これが、私達の背負ってる物のほんの一部。
 ちゃんと届けないでどうするんですか。

 そう言えば誰の言葉だったでしょうか。
「国を背負わねばもっと早く飛べるのか?」
 重さでなく、重心の位置によるんですよ。

 なあ相棒。
 俺にはあのおっさんが呆然自失のままペリカンの相手する姿が浮かぶんだが。
 実際、相当楽しんで大暴れさせて貰ったと今でも楽しそーに語ってますよ。
 亡くなったと聞いたときも。あの空で一体何を語らったのでしょうね。

 その報せを受け取ったジョシュアの顔を見たとき思ったよ。
 ああ、アイツはアイツのままだったってな。

 鬼神が抜けた。思わぬ援軍に足止めどころではなくなった。
 ベルカには手を回しているはずだったが、届かない部分があった。
 ……どっちが癌だったって話になるんだろうけど。

 準備は進む。着々と。

 願わくば、どちらに転んでも全てを終わらせる戦いの。