ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission15-Eve

 どうなさったんです? そんなに驚いた顔をして。
 いや……お前、自分から飛び出すような奴には見えなくてな。
 そうでなければ、私はここにいませんよ?
 ……それもそうだな。

 当の昔に、覚悟は出来ていました。
「無茶をしたな、中尉」
 動けないほどの傷ではないのだけれど、やはり職務復帰は不可。
 負傷によるものと言うより、無謀の代償でしょうか。
 対価は得られなかったわけですが。

 ディレクタスの病院に押し込まれたのは予想外でしたけど。

「……シルヴァンス少佐は、どうしてます?」
「訓練に励んでいる、と、言いたい所なんだがね」
 結局私は、引っかき回しただけだった。
「子供達が、まだ?」
「仕込んだのは君だと聞いたが?」
「ヒサメ君は元からでしたが?」
 本来なら、フォルク少尉が離脱した時点でするべき措置だったのでしょうけど。

 幸いだったのは、彼が鬱ぎ込むことは無かった事。
 むしろ吹っ切れたと聞いたときは、複雑だった。
 フォルク少尉の去り際に、叫んだらしい。

 臆病者、と。

 その対象は一人しかあり得ない。
 なのに……何故私の胸が痛むのだろう。
「中尉?」
「私は、どうなります?」
「ジークベルト議員との、会話のネタ」
「それだけですか」
 司令のあっけらかんは、いつものことだったが。
「それだけで、今の君には十分な罰だろう?」

 待っていられなかった私も、臆病者でしょうか?

「それにね、今の君は何をするか解らない。償いとばかりに奮戦してくれるかもしれないし、獅子身中の虫になりに飛び出すかも解らない」
「……その点に関しては、ご安心を」

 どのみち、未だ腕の傷は癒えない。
 シルヴァンス少佐の援護すらできそうも無いですし。

「まあ、嘘がつけないから、黙って飛び出したのだろうけどね」

 くっくっく……いやーあの後はある種の戦場でした。
 ……俺の、せいか?
 他に誰がいるんです? なーんてね。
 でも、あれを戦場と言わずに、何と言うんです?

「手の空いてる奴は西棟に回れ!」
「こっち、瓦礫をどかすから手を貸しほしいっす!!」

 辺り一面に散らばった荷物とその他。
 右半分が欠けた視野。その中を右往左往する人達。
 ベンチに座って、それを眺めている私。

「あ、リョウ君がいない……」
「だーっ!!何処行きやがったあのガキーっ!!」

 その子でしたら、ついさっき私の足の間すり抜けていきました。
 左側からやって来たアデーレさん……珍しくバテてます。
 よく考えたら、殴ると痛いですけど特に強いわけでもないんですよね。
「見て、ないで、手伝い……やがれ……」
 はい。ばったり。
「この目じゃねぇ」
 右眼の眼帯、ぐいー。
「引っ張って、いいぐらいなら、いらねーだろうが……」
「ひーちゃんの跳び膝がまーだ微妙に痛……あれ?」
「気色悪い物言い、すん、な……」
 そう言って……寄りかかられても困……て、膝枕ですか。
「きつい。だるい。疲れた。お前行けや」
「両目に眼帯はご勘弁を」

 肝心の私をボコしてまで留まりたい所を見るとやはり、親には敵わないんでしょうかね。
「つっても、絶対やばいよね、このままは」
「ええ……確かに」
 ヴァレーには置けない。
 かつて見た巨大なハンガーの中身が、未だに見つかっていない。
 それは即ち、現存する「目」をかいくぐる手段があるということ。
 それは即ち、ここが唐突な奇襲を受ける可能性もあるということ。

 この子達だったら、核落ちても生き残れそうですけどね。
 何が嫌かって……もし、目の前で、あんな光景が広がったとしましょう。
 この子達の中に、あの時の私のような部分が生まれないなんて言い切れない。
 それに何より、単純に、見せたくない。

 ……思えば、見たくない物を見たとき、一番側にいたのはこの子達だった。
 一番見たくない物を突き付けてくれたのも、この子達だった。
 この子達と、妖精さんと、そのお陰で、もう私は「ゼロ」じゃない。

 でも、またゼロにならないために、空っぽにならない為に。
 いい加減、自立するために。

 一計を案じる事にしたんです。

 そうだよ。アタシ達は色んなもんを取捨選択してきた。
 それが最終的に、良い方向に行くんだと信じてね。
 アンタは、何のためにアイツを捨てたんだい?
 アンタは報いを受ける。だからアタシは言葉以上の事はしない。

「大きく、なったな」
 ……親父との再会は拘置所でなく、病院だった。
 逃亡中に、脚無くしたんだってオーシアの軍曹さんが教えてくれた。
「白髪、増えたね」
 あのステファンって奴、相当の狸だったよ。
 全部知って、調べてたんだ。シエロもそうだけど、アタシの事も。
「なあ、アグーには会ったか?」
 妹の所在も、実は密かに、本人さえ気付かれぬよう保護されていることも。
 本当に、土産のつもりだったんだろうね。
 ……どっかの馬鹿がのこのこやってこなけりゃよ。
「ホフヌングがどうなったか、知ってんでしょ?」
 事実上焼き払った原因とも言える人間を連れて、擦れ違ってたってだけでもショックなのに。
「……会ってやれ。一人で頑張らせるつもりか?」
「親父は拘置所で、優しい軍曹さんとお茶してるってのに?」

 妹に会わなかったのは、一人で頑張るあの子を見ないため。だってそうでしょ?
 そんなもんを見ちゃったら、次はアイツぶん殴らずにいられなくなるに決まってる。

 恐いことに、親父は親父で、仕事があったりするんだよね。
 ……バルトさん一家の、オーシアでの安全網が確保できるまで守れって。
 片足にはいかんせん酷な任務だと存ずるでありますよと。
「この調子だと、アタシはそのうち鬼神の身辺張ってろとかなるんかねえ」

 まさかね。冗談のつもりで言ったんだよ、アタシ。

「……いっそ、夫婦ぐるみでつきあったらどうだ」
「腕もかたっぽにしたろかオイ」
 アンタは、普通、悪い虫を払う立場だろうが。
「連れては、来なかったんだな」

 口が裂けても言えなかったよ。
 今、精密検査受けてるなんて。

「たりめーだ。エースと下っ端メディックだよ?」
 何でこう、どいつもこいつもくっつけたがるよ。
 第一……アイツにはもうとっくにいるんだよ、女が。

「サンズの奴な、今ルーメンに行ってるそうなんだ」
 ああ……だったら、会いに行こう。
 そのぐらい。軽い気持ちで寄り道の旨を伝えたんだ。

 なんだ、結局うじうじしていたのは俺だけか?
 ま、悪い魔法使いに捕まったままじゃ仕方無いでしょう。
 その後の顛末を見れなかったのは残念だ。
 でも妖精さんが捕まらなかったら、見られなかったんでしょうねえ。

 右眼の調子は、相変わらず安定しません。
 ジウさんの旦那さん……えーっと、何て言いましたっけ。
 とにかくその人も片目が悪いと言うことで色々話を聞いたりしてはいましたが……。
「シエロ……」
 パト君がそんな風に凹むとですよ?
「実はこっそりなんか告知されましたか?」
「い、いやややややややそんなはず無いっす!!」
「……解ってますよ」
 第一教えるような間柄でもありません。
 むしろ問題なのは……。

『……』
「サイファーさん……」
「シエロさん……」

 後部座席から、顔を覗き込んでいるのが約2名。
 フリーダさんへのお見舞いをせっせと折っているのが約3名。
 帰りたくないとひねているのが約1名。この子が一番の難敵でしょうか。
 器用なものです。
 いえ、揺れているとかそんなのでは無くてですね……。
「良くこれだけ詰め込めたっすね……」
「伊達に戦闘機を足にしてませんってことですかねえ?」
 5人一斉に頷くと、気配って結構解るもんなんですね。
 と言うわけで、総勢8名を詰め込んだ車で一路ディレクタス。
 うち1名、12月に入ってから更に輪をかけて厚着になったので、実質9名分。

 さてさて、あの人達は無事に合流してくださいま……

「えーっと……」
 駐車場の前で、特にいざこざがあったわけでもなく、待っていてくれたんです。
 アルトマンさんと、ステファンさん。
「や、やぁ……」
「あははは……」
 そして、その二人を完全に威圧している、松葉杖を付いた赤毛の剛毛。
 最後にこの人の話題が出たのはいつでしたっけ?
 確かソーリスに帰って母さんから聞いてからなので……。
 ステファンさんぐらいは……抵抗していてほしかったなあ……。
 纏めた金髪にグラサン。マフィアの若頭みたいな格好している癖に。
「挨拶ぐらい来やがれやこの、馬鹿息子がーっ!!」

 次の瞬間、私の体は宙を舞ってました。
 この人、名をクヌート=シルヴァンス。
 はい、私の父親です。

「このぐらい避けろよ……」
 いえね、心強いと言えば心強いんですよ。先ほどの松葉杖は効きましたし。
 協力を漕ぎ着けられれば、計画にとってはそりゃね。
 私は子供達総出で受け止めてくれたお陰で、大事には至らなかったんですけど……。
「ったく、ライナーからお前の話が出たと思ったら……ロリコンなんて俺ぁ情け無ぇよぉ」
 忘れていたことが、もう一つ。いえ、これは確か……。
「あの……アルトマンさん……?」
「ごめん。親子と思わなくて」
「幾らなんだって幼児誘拐なんてよぉーおー」
 わざとやってますわな、間っ違いなく。
 アルトマンさんみたいなタイプにはまず御せないのは確かなんですけどね。
 かと言って、ステファンさんはと言いますと……。
「い、良いお父さんだね……」
 ダメです。流石に父親まで粛正してのけた人に、この応援は。

 実に一年ぶりとなる父との再会。
 最初にしたことは、誤解を解く事でした……。
 次にすべきは……すべきは……あー、何でこうなるんでしょうか。
 言わないといけない事なんでしょうかねえ。

「目、やられたのか?」
「まだ決まったわけではないんですけどね」
 脱出の後遺症。爆撃による怪我の後遺症、そうでなくても前から松葉杖。
 そして病院繋がりと言うわけで、私が眼科に行ったのはバレていました。
 さて、約1名除いて計画通りなわけなんですが……。
「所で、ジークベルト議員は何故ここに?」
 とりあえず、体裁は整えておきましょう。とりあえず。
「うん。どうせなら、ちょっと彼女に挨拶しようと思って」
「……殊勝な事で」
「女は恐いよ?」
 ごもっとも。と言うより、私の足下にある種の最強が陣取って居ますけどね。
 もう一人は男の子ですけど、最強同士で火花を散らしているわけですが。

 ……ああ、やっぱり胸が痛みます。
 これは、小狡い、大人のエゴだから。

「じゃあ、ちょっとこの子達預かってもらっていいですか?」
「ああ。こんなにお客さんが来たのは初めてだよ」
 そして、私達はそのまま戻らない。
 その後は、デミトリさんが迎えに来る手筈。
 シグさんとは気が合うみたいですし。

「よーっし!おいちゃんがコイツの恥ずかしい話を……」
「貴様はいら……っ!!」
 突き出した手の平を、途中で掴み上げられました。
「まぁまぁ、親子のじゃれあいもそーのーへーんーでー?」
 ステファンさん、目が笑ってません目が。
 ……元工作員、親子喧嘩はお嫌いの……あれ?
「あのー……手首痛いんですけどー」

「顔、近いんですけどー?」
 それこそグラサンの向こうのオッドアイが見えるぐらい。
「んー……」
 手首、痛いんですけど、その、何かついてますーって、ね……。
「ま……行っておいで」
 その時間、およそ15秒。

「気を付けねーと。ジークベルトっていやあ黒い噂が絶えねえからな」
 父らしからぬ、いえ、さっきの光景に比べればなんですけど……。
「男色がいたっておかしかねえ」

 現役工作員とのツープラトンは、実に華麗に決まりました。

 オッドアイは、視覚障害になりやすい。
 そんな話を知るのは、もっとずっと後のこと。

 さっきの15秒。
 彼は全部気付いたわけです。
 私がこの後告知される事を。

 私に残された、時間を。

 そして、その通りの告知を受けました。

 その後はええ、逃げるようにヴァレーへ向かいましたよ。
 最初からそう言う手筈でしたから。

「パト君、本当に初耳だったんですか?」
「聞いていたら、隠し通せると思います?」
「いーえ全然」
「でも、良かったんすか、聞いてしまって……」
「……端から、覚悟があっての空ですよ」

 ヴァレーまであと少しというあたり。
 彼等が、行動を起こしたと通信が入りました。

「……ま、タイムリミットは気にしなくてもよさそうですね」