ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission13

 振り返るだけ無駄。
 悔やんでも時間は戻らない。
 悩んでるくらいなら突っ込んできゃ良かったのよ。
 ……「彼女」だって、そうしたんだろ。

『特別な奴にはわかんないよ!』

 核が落ちた。
 私が幼少を過ごした街は、その炎に消えた。
 だけど……現実は呆けている事を許してはくれなかった。
「これでよし、と。良く泣かなかった」
 何処から話が漏れたんだろう。ピクシーの奴が、いなくなったって。
 それを聞いて最初に取り乱したのは、長女だった。
 それを止めようとした長男が……。
「……むしろこれなら泣いてもいいと思うんだけど」
 突き飛ばされて、方向が悪かったんだろうね。
 テーブルに腕をぶつけて、折った。
 と、その長男の目に何か映る。
「フリーダさん、長女の方はどう?」
「先ほどシグが寝かしつけた所です。それより、そちらは大丈夫ですか?」
「うん。先輩はちょっと休ませたよ。あれじゃあ……」
 彼氏のことが心配で、こんな長男の姿見せたら縁起でも無いこと考えそうだったから。
 核の影響なんだろう。ガルム隊と連絡がつかない。
 いや、連絡ならさっきついた。それが長女の琴線に触れて、長男がこのざま。
「いえ、そうではなくて……」
「ん?アイツだったら殺しても死なない」
 とうとうアンタまでアイツとくっつけようとしだしたか。
 そう毒突こうと思ってたんだけど……。
「は?」
 こっちが聞き返された。
「違うの?」
「ええ……その……」
 おたおたする中尉も珍しい……流石に、ショック受けてるのかな。
 しかし、先輩でもないシエロでも無いとすると……あー……。
「目の前怪我人が居たらそれどころじゃないよ」
 経歴の書類には馬鹿正直に、ベルカ出身って書いてあったんだっけ。
「……そうですか」
「中尉も、少し休んでく?」
「いえ、私はこれで」
 行ってしまった。本音を言えば、絶対安静を勧めたいような顔色だった……。
 自分は意外なほど落ち着いていた。10年の時間が、なんとも無慈悲だった。
 そんな私の頭の上に、小さな手が乗った。
「うん……大丈夫だよ。大丈夫」
 握り返してやろうと、思ったんだ。
『あ』
 長男が駆け出すのは、ジェットエンジンが聞こえるより少し早かった。

 なあ、相棒……。
 妖精さんが危惧するほど酷かったわけじゃないんですよ。
 ……腕折ってか?
 そう、それでも、ですよ。

 中佐とあの基地の司令を無理に脅し、もとい説き伏せてヴァレーに戻って来れたのは夜も更けた頃。
 出迎えらしい人はたくさん居たけど、それでも静かだった。
 ただ心配なのか、何を言えば良いのか解らないのか……。
 ざわつきが聞こえる。みんながこっちを見ている。
 だけど、誰も動かない。
「サイファー、後が支えてんだよ」
「え?」
 クロウ隊の隊長さんが指さした先。Pちゃんの彼女がいる。
 この中には、彼の友人知人もいたはずだ。
「お前待ちなの」
 背中を押されて……何も避けなくて良いじゃないですかみなさん。
「……」
 静寂。
 息を飲む音が聞こえる。
「ただいま」
 言った。顔が変になってなかったかな。
 声が不自然になってなかったかな。
 だけど……。
「ジェームズ!!」
「ただいま!」
 真っ先に飛び出してきたのはPちゃんの彼女。
 そうして出来た人混みの隙間から出てきたのは、司令。
「帰って来るって連絡、今さっき入って来たぞ」
「え、ああ……すいません」
 司令のおっさんじゃ癒しもなんもありません。
「ったっく散々心配させおって、ほれっ」
「あ……」
 傭兵達の中にほっぽり混まれました。
「片羽の事は聞いたよ、大丈夫か?」
 いや、勝手に殺さないであげましょうよ。
「思ったより顔色いいみたいだな」
 ……数時間前まで酷かったんですが。
「こんなに……人がいたんだ……。」
「おいおい、俺達アウトオブ眼中?」
 一緒に飛ぶ傭兵達。
 翼を支える整備兵達。
 こんなに、こんなに、なのに……私は今まで……。
『サイファー!』
「あ……」
「あー、メインが来ちまった」
「俺らおっさんじゃあれにゃ勝てねーかねえ」
 この子達に、かかりきりだった。
 と言っても、今目の前にいるのはヒサメ君だけなんですが。
 抱きついてきた手は、左だけだった。
『ヒサメ君……その腕どうしたんですか!?』
 右手にはめられていたのは、ギブスだった。
『細雨と喧嘩した』
『何でまた……』
『来て』
 結局、この子達からは逃げられませんって事ですかね。

「あーあ。結局帰結する所は一緒か」
「孤高のエースは、子供好きってな」
「そう言うのは衝撃に案外弱いんだよ……誰か適任はおらんもんか……」
「あっちで人目憚らずにちゅーしてるのとかどうです?」
「……なるほど」

 引きずられてついたのは私の部屋。そこにみんないた。
 ……二人部屋に6人。それでも、少し広く感じた。
「みんな……」
 ササメちゃんは妖精さんのベッドの隅に膝を抱えている。
 シュウちゃんは目の周りを真っ赤に晴らしてスク君に寄りかかっている。
 部屋の入り口で待っていたのはリョウ君だった。
『……サイファー』
 その子が……話たんだ。
「ピクシーは、何処に行っちゃったの?」
 流暢な、ベルカ語を。
『涼……』
 驚いたのは私だけじゃ無かった。
『宿兄、涼、なんて?』
 妖精さん……いいんですか。
『墜ちたんじゃないの!?』
 子供達にまで、死んだ事にされちゃってますよ。
『生きてる……ピクシーが生きてるの』
 みんなが寄ってたかって、部屋の中央に団子が出来てしまいました。
 これじゃリョウ君が竦み上がって半端にしか話せないわけです。
 と、ここは狭苦しい男二人の部屋だったわけで……ああ、こないだ寝込んだ時の羽毛布団がそのまんま……と、いうわけで。
 持ち上げて、羽織って、広げてー……もふっと。
『そんなんじゃ話しようがありませんよー』
 ヒサメ君も捕獲に協力してくれたお陰で、マシュマロ具だくさん。

 シグさんの情報源。最初に拾ってくるのは末っ子のリョウ君だった。
『ホントのおとーさんとおかーさんが、ベルカの人だったの。ワケアリ、だったんだって』
『で、聞いちゃったんですね……』
 ご丁寧に、口に出してしまったらしいんです。
 それをこっそり聞いてしまった。
 解らないと思って気にしなかった。職務怠慢ですよ、司令。
『ねえ……妖精さん、無事なの』
『ええ』
『どうして帰ってこないの』
 涙声だった。
『僕達のこと、嫌いになっちゃったの』
 マシュマロの中は暖かいなんてものじゃなかった。
『違いますよ』
 湿度も手伝って蒸し蒸し。
『自分が、嫌いになってしまったんです……』
 だけど……不思議と心地よかった。
『私が、引き留められなかった……』
 ただ、胸がチクリと痛んだ。
『……サイファー』
『ヒサメ君?』
『腕痛い』
『あ』
 チクリどころじゃないのがいました。
 少し手を緩めたら……。
『ていっ』
『!』
 ……ササメちゃんに蹴り出されました。
 幸い腕をぶつける事はなかったんですが……。
 なんだか相当の修羅場があったみたいです。

『僕は……特別なの?』
 ぬくぬくとした布団の外、毛布にくるまったヒサメ君が、そんなことを呟いた。
 即答での否定はできなかった。確かに、この子は特異だと思う。
『喧嘩の原因ですか?』
 毛布の固まりが微かに動く。
『特別、ですよ』
 丸くなって動かなくなる。
『私にとっては。ササメちゃん含めて全員、シグさんにとっては特別でしょう』
 今日は……疲れた。
『私も……妖精さんも……シグさんも……ブランも……みんな……特……』
 真面目な話をしているのに、ぬくぬくとした微睡みが心地よい。
 髪を撫でる手に助長されたそれが、私の意識をゆっくり沈めていった。

 もう少し派手にいけば良かったんでしょうか。
 そう、もう少し強引に。
 私に何が出来たのか、私は何をすべきだったのか。
 ……それでも、変わりませんでしたか?

 アデーレに休息を勧められ、一度は断ったものの……。
「ん……」
 彼の帰還を聞いて立ち上がった時に……めまいを起こして倒れたらしい。
 上には毛布が掛けられていた。
 差し込んでいるのは月の光。
 時計の針は……12時を過ぎていた。
 核が落ちて、何人かの傭兵がいなくなった。
 墜ちたのでも、死んだのでもなく、ただ、いなくなった。
 どこかに……消えた。

 気付いては居なかったか?
 出来ることはなかったか?
 あの時も……彼に何か声をかけてやるべきではなかったのか?
 何か……私に……。
 その時に、小さく押さえた声が、だけどハッキリ聞こえた。
「中尉ー?まだ寝てるかーい?」
「あ、はい!」
 司令!?……ここ、司令室だった……。
「ありゃ、こりゃまたいいタイミングで」
「あ、あの……彼は……」
「なーんか一皮むけたって感じだったねぇ」
「そう、ですか……」
 ……ほっとした。
 また、ああはならずに済んだのだろうか。
 あの時は……ホフヌングの時同様、コックピットから暫く出て来なかったから。
「様子を見に行ったら子供達とぐっすりしてたよ」
 私には、一体何が出来ただろう……。
「中尉こそ大丈夫かい?」
「え?」
「トゲが抜けてる」
「……は?」
「重傷だな」
「え……」
「拳が鳴ってない」
 蹴りを叩き込んで、自室でゆっくり休む事にした。

(……キレが悪くなってるが、指摘したら殺されるかねえ)

 翌朝になると、いくらか気分も晴れてきた。
 ……奥にある靄まで晴れたわけではなかったのだが。
「ベテランは過ぎるのは避けた方が賢明でしょう」
「クナイ2とかは?」
「論外です。」
 空いたガルム2の穴を埋め合わせを考えられるぐらいに思考が回れば十分だろう。
「何でまた」
「依存症の気があります」
 そして、彼の回復の理由を考えられるぐらいには。
「……その代わり、自身が依存された場合は応えようとする傾向が」
 あの時彼は一人だった。私では依存を与えることも受けることも出来なかった。
「ピクシーはどうなるかねえ」
「依存していたのは、むしろシルヴァンス大尉の方かと」
 今は違う。自分がしくじれば泣く人間が居ることを自覚している。
 戦況も、状況も、全てを抜きに、純粋に感情だけで嘆いてくれる存在を。
「場数を踏んでない人間がいいでしょうね」
「尚かつそれなりの腕……ねえ。難しい注文のはずなんだが」
 私達は都合良く、そんな存在を知っている。
 この絶望的な状況でこそ、ことさら強くなれる存在を。
「だとすると、適任は……」

(夕べは……ずっと震えてたな……)
 PJが目を覚ましたのは日の出から間もない頃。
 だが、それからずっと腕の中で眠る恋人の髪をなで続けていた。
 着任してからの一目惚れで、出撃するたび戦果を上げたらうち明けるんだと思っていた。
 結局は、鬼神の上げた戦果の祝いのドタゴタというのが情けない。
 帰ってきた時、彼女思いっきり喜んでくれた。
 抱きしめる手が暖かかった。
 凄惨な状況を見た後であったが、それは紛う事なき幸せであった。
 静かな朝の一時に、ノックの音が響く。
「!!」
 ……焦り焦ったのも無理はない。
 これでドアの向こうにアデーレがいたならば、間違いなく命がない。
 幸か不幸か、朝の静寂はドアの向こうの来訪者の声を教えてくれた。
『PJ……』
『……』
 幼い子供達の声だった
 在る意味ではアデーレより危険である。
 勿論アデーレの危機を誘発する可能性は十分にあるのだが、今の状況、とても子供達には見せられない。
「寝てますかー?」
「ちょ、ちょっと待ってて!」
 飛び込んできた公用語に思わず声を上げてしまう。
 幸い、彼女はまだ起きて無い。
「あ、ドアの向こうからでいいですよ」
「……」
 勘づかれたのだろうか。いやいや、そんなことを知ってる年では。
 やましいことがあると勘ぐってしまうのは、この脳天気も同じらしい。
「えーっと……何かな?」
 それでも目が醒めた以上タンクトップとトランクスだけ身につけてドアの前、小声で子供達に応対した。
「ベケット少尉って人、知らない?」
「クロウ1に聞いたらPJに聞けってー」
 それは、自分のファミリーネームだった。

 その翌週だった。

「こちらPJ、これより、ガルム2として参加します!!」
「こちらクナイ2、ガルム1の指揮下だからねん」
「こちらクロウ1,2と共にアンタの指揮下だ。よろしく頼む!」
「ぇー。私が指揮とるんですかぁー?」
「文句言うなよ、シルヴァンス少佐」
「ぇー……」
「ちなみに、PJはパトリック・ジェームズの略で……趣味はポロ。あの馬に乗ってやるやつ」

 ほぼ即決でPJがガルムの二番機に抜擢された。
 同時に、クロウ隊と欠員の出ていたクナイ2も一時的に再編成。

「まぁいいや。さァ行くか!」
「クロウ隊、やっちゃって」
「あいよー」
「さっすが隊長話がわっかるー」
「え、あ、ちょ!何で二人ともレーダーロックしてんすかーっ!!」
「俺達差し置いて大出世しといて良く言うぜ!」
「あっはっはっは!パト君妬まれてますよー」

 事実上は終わりを迎えた戦争。
 残存部隊の掃討が、新生ガルム最初の任務だった。