ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission12

 ……相棒、一つ教えてくれ。
 どうしたんです改まっちゃって。
 俺は、お前にとって何だった?
 自分であんなに連呼しといて、何を今更。

 シグ達は、さすがにまだ飛べなかった。
 一緒に飛んでるのは、気付けばいつもの面々になっていたクロウ隊の連中だ。
「こちらクロウ1、前方に城が見えて来たぜ」
「PJ、結婚式はあそこで上げるのか?ん?」
「ま、まだ早いですよ!!」
 前方で、それをからかうようにバレルロールする相棒。
 お前等他にネタ無いのか。あの城は出るって評判なんだぞ。

 与えられた任務は、ホフヌング同様の工業都市侵攻の為の、地上部隊の援護。
 前回の件で思うところあったのか、流石に今回は爆撃機は抜きだと司令が強調していたが。
 それに安堵する相棒とクロウ隊の連中。
 その一方、俺は……これじゃどっちがベテランなんだか。
「ガルム2どうした、遅れているぞ?」
「大丈夫だ、すぐに追いつく」
 ただ……またアイツがああなっちまう事だけは無いかもしれない。
「ガルム2、機器に不調でも?」
「いや、ただ……」
 例えその下で繰り返される事がより凄惨な戦場であっても。
「ただ、哀しいだけだ」
 煙と高さが全てを覆い隠してくれる。

 相棒はそのまま隊の先頭へ躍り出る。今に始まった事じゃない。
 初めから、あいつは二機編隊の体裁なんていらないって言って……。

 やっと俺が街を通り過ぎるあたり、
「連合部作戦本部より緊急入電!」
 そこで思考は中断された。だが、その先が無い。
「どうし……」
 その理由を、すぐ知る事になる。
「核を搭載したベルカ爆撃機部隊が、ウスティオに向けて飛び立った!」
「なっ……!」
 そんな物使われたら、全部、何もかも……!
 そんな光景を、また……あんな……。
「いっそ全部吹き飛ばしてくれたら、戦争なんて終わるのにな……!」
 全部、何もかも、それこそ、しがらみも何もかも……。
「妖精さん?」
「解ってる!」
 畜生……出来るかよ!!

 音速で通り過ぎていく景色。
 レーダーに巨大な赤い光点が揃う。本気かよ……本気で狂いやがった。
「数が多い、管制官、識別できないのか!?」
「時間がない。爆撃機だけでも全機やれ!」
 本っ当に最悪だ!
「……ボマー9、護衛機多数……クロウ隊のバックアップいきます」
「クロウ1了解、責任重大だぞ!」
 地上より空。爆撃機より戦闘機。
 そう、やることは変わらない。
 だが……やらなきゃ何も変わらない!!
「爆撃機目視。全兵装使用。ガルム1、エンゲージ」
 もう、見たくない!

「リラ2より1へ。目標補足、ウスティオ軍機と交戦中の模様」
「こちらリラ4……マジでいきますか?」
「リラ1より全機。ここで阻止出来ねば帰る場所は無いと思え」
「リラ3了解。あの先にあるのは、俺の故郷だ」

「バックアップ頼みます!」
「解った」
 俺の牽制に乗った一機。相変わらず俺達の側にいたPJが撃ち落としやがった。
 止めなければ、ここで止められなければ、俺は……!
 サイファーのすぐ後ろ、黒煙を吐く護衛機がまだ食らいつく。
 その進路上にいる爆撃機。あのでかさだ。
「Pちゃん!」
「了解!!」
 デカブツのあいてはいい。護衛機の連中さえ落とせばどうとでもなる。
 それが俺達のする事。俺達のすべき事。
「どいつも、コイツも……!」
 狂ってやがる、何もかも。
「ガルム2、6時方向!」
 そう……他に何も……。

「警告する、直ちに進路を変更し基地へ引き返せ。さもなくば撃墜も辞さない!」

「妖精さん!!」
「……!」
 真横を通り過ぎていく、紫のエンブレム……ベルカ?
 それが護衛機の一気をそのまま叩き落とした。
「なんだ……」
 呆ける間も無く、泣きそうな叫びが入る。
「何やってるんですかぁ!」
「あ、ああ……」
 仲間割れじゃなかったら……アウト?
 さっきの機体が爆撃機に食いついていたクロウ隊を援護していた。
 レーダーを見る。俺の後ろにいた敵機らしい影が、消えた。
「……死に損なったな」
「妖精……さん?」
 だよな。身贔屓でいい。でなきゃ……あまりに救いが無い!
「行くぞ相棒!!」
「ええ!」

 ったく、こんな時に限ってマルチロックのミサイルが鬱陶しい!
「前任せて尻尾叩きましょう尻尾」
「こちらイーグルアイ、そこのベルカ機、聞こえるか!?……駄目か、IFF調整までもう少し待て!」
「頼むぜ管制官!!」

「鬼神が味方についた。全機、馬鹿共を叩き落とすよ!」

 その馬鹿共に限って妙に出来る……。
「何時以来の大空戦ですか、これ」
「護衛付きは何時以来だ?」
「同感」
 つっても、最後のやけっぱち連中なんぞに落とされるほどじゃねえけどな!
「一気抜けられた!」
「IFF調整が完了した!もう遠慮は不要だぞ!!」
 反転直後にマルチロックをお見舞いしてやる。
 それは過たず、「味方」にトドメを刺そうと迫る「敵機」を撃ち抜いた。
「こちらリラ3感謝する!……て……あー、ごめん」
 無事のベイルアウトを見届ける。残るは一機。
 護衛機を失い、当たりもしないAAGUNをばらまく奴にトドメを刺したのは、相棒だった。

 俺の横についた相棒が、手信号で何かを伝える。
「全機撃墜、やったぞ!」
 クロウ隊の歓声に混じるように、ベルカの追撃組がフォーメーションを組む。
 その先頭にいたのは、いわずもがな。
 はしゃいでるのが目に見えているようだった。
「……ったく」
 二番機の心労なんざおかまいなし、か。
 クロウ隊がその後ろに並ぶ。俺は、二番機のポジションについた。
 ここは、俺の場所だ。

 いつかの空のように、並んで飛んでいた。
 散っていく追撃組。俺達もフォーメーションを解いて、高度を上げていく。
 次に会ったときは……きっと……。
「なあ……相棒……」

 その時、その瞬間、口に出そうとした言葉、伸ばそうとした手は、もう記憶には残っていない。

 目の前が白く、黒く、染まる。
 振動、揺れ、アラート。その全てが誤作動だと知る。
 その全てが収まってなお、その光だけが消えずにそこにある。

 時間がかかった。

 それが、朝日でないと気付くのに。
 それが、ついさっき俺達が通り過ぎた街の方向だと認めるのに。

 それが、俺達に突き付けられた答えだと認めるのに……。

 アラートが消えない。ノイズが五月蠅い。
 ただ解るのは、俺達には、どうしようも無かったと言うこと。

 だから、よく聞こえたよ。
「ラリー、聞こえるか?シンデレラをお迎えに来たぜ」
 最初から、そこで待っていたかのように。
「こんな光景の中、よくそんなことが言えるな」
「今日はお前の誕生日みたいなものだ」
 ……気が付いたら、目の前にいるはずの相棒はいなかった。
 ずっと遠く。クロウ隊の連中と一緒にいた。
 大きく弧を描いて、その様子を見守るように。
 なんだ……もう大丈夫なんだな。
 俺が居なくてもお前は、もう大丈夫なんだな。
「お迎えの馬車引きがお前か……待っているのは地獄か」
 結局、俺は……俺に出来ることは……無かったんだよ。
「相棒、俺は、戦う理由を見つけた」

 そして、生きる理由を見失った。

 すまない……。
 私、おたおたしてれば良かったんですか……?
 そしたら……俺は、墜ちそうになってれば良かったか……?
 馬鹿。馬鹿ですよ……妖精さんも、私も……。

 光が、見えた。

 ……綺麗だった。

 ただ美しかった。
 何が起こった。何人死んだ。
 それが解るまでは、解っていながら。

 視界の右半分から降り注いだ強烈な光。全身を揺さぶられる衝撃。
 その中で機体を制御しようと四苦八苦しながら……まだ冷静な部分が残っていた。
 信じたく無かった。
 目の前で起こった事を、それを冷静に受け止めている自分を。
 街が、人が、大地が、焼けてえぐれた。
 脳裏に浮かべようとした惨状を、もう一つの太陽が掻き消してしまう。
「どうして……」
 呆然としたかった。でも出来なかった。
 ノイズだらけのレーダー。だけど、その後ろに確かにいた。
 大丈夫。ちゃんといる。だから、みんなで帰らなきゃ……みんなを連れて……。
「Pちゃん!……クロウ隊!!」
 遙か上空。煽られたわけでも無いのに、三羽烏はそこにいた。
「こちら……ウ3!ネ……ィブ、状況……不能!!」
 良かった。ただそう思った。横に並んだら……気付いてくれた。
(大丈夫。落ち着いて)
 手信号でそう伝える。
 何故だか後ろにいるクロウ1は彼に任せる。
 前の方で明らかに動揺してるクロウ2には発光信号を……ちょっと可哀想だけど目に直接あたるようにしたら収まった。
「……機、状……告……!」
「電子機器へのダメージ軽微、大丈夫、飛べる!」
 大丈夫、みんな、無事に……
「相棒、俺は、戦う理由を見つけた」
 え……?
「サイファー!!」
「!!」
 機体を捻る。アラートが、鳴りっぱなしで解らなかった。
 あり得ない。あり得ないぐらいスレスレを横切っていくミサイル。
 撃ったのは……もっとあり得ない人。
「妖精……さん……?」
「悪いな、ここでお別れだ」
 何……で?
 行っちゃう。妖精さんが行っちゃう。何で、どうして、何処に……。
「……シー!どうし……応答しろ!!」
 結局、神様なんかなれなかった……て、ことかなあ。
「警……!敵増援を確認……!!」
 ダメ。今は墜ちれない。今は逃げられない。
 ……行かなきゃ。

 まだ先に行く。こっちから迎え撃ちにかかるために飛ぶ。
 そしたら、ノイズが少し軽くなった。同時に、味方機の反応が見えてきた。
「あれさっきの部隊ですよ!!!!」
 レーダーから、一機消えた。
 気に入らない……あれなら、全部やれた位置だったのに、遊んでる、なぶってる……!
「増援……全機叩き落とします!!」
 いい。鬼でいい。こんな事、終わらせる、それまでは鬼でいい。
 かまうもんか。人も、鬼も、何が違う!!
 敵機のキャノピーから、血飛沫が上がる。
 胃の奥からなんかこみ上げてくる。

「隊長……良いんですね?」
「もう、私達は裏切り者だ。それに……」
「それに?」
「援護拒否ってみろ。死ねるぞ?」

 後ろが居てくれたお陰で、随分気は楽だった。
 いつズドンとやられるか解らないのを差し引いても。
 頭が真っ白で、いつの間にか一人なら良かったのに。
 しっかり、冷静に考えている。
 どう飛べばいいのか、どうしたら彼等を守りきれるのか。

−いっそ死ぬまで怒りに身を任せられれば良かったのに−

 結局、あの時と一緒だった。生き延びることしか考えていなかった。
 生きて、帰って、その先に何もなくたって、結局。

「……1、ガルム1!!応答しろ!」
「あ」
 なんだか中佐ものすごい怒ってるんですが……
「どうやら通信は復活したようだな」
 違った。心配されてた。
 ノイズは相変わらず酷かったけけど。
「えーっと……ひょっとして応答してなかったのって……」
「ガルムの二人だけだ」
 やっぱり。

 また空が静かになった。
 クロウ隊がいて、追撃組の人がいて、揃って飛んだら……実に賑やかなはずなのに。

 ……そう言えばこの人達どうしよう?

 このまま返す。核を平気で使うような連中の懐に入れたら悲惨な末路しか思い浮かびません。
 撃ち落とす。論外。
 ベイルアウトしてもらう。捕まったらやっぱアウト。
 ……しょうがない。
「彼等、連れ帰ってもいいですか?」
「保証はできんぞ?」
 伊達にバカスカ落としてるわけじゃないんです。
「鬼神の客人。いけませんか?」
「まったく……みんな狂ってるな」
「裏切り者も含めて、かな?」
「俺達どうなるんすか」
「この状況で皮肉れるなら、十分に、さ」
 まったくですよね、ほんと。

 マスクを外して気付く。ここ、エチケット袋なんて無いじゃないですか。
「……サイファーの……ばーか……」